遺言で遺産を寄付する方法は?遺言書の書き方や注意点を解説

「人生の最後に、社会のために何かできること・役立つことがしたい」──そのように考える方々も年々増えてきています。
しかし、せっかくの想いがあっても、
「どのようにすればいいか分からない」
「どこに相談すればいいか分からない」
そんな風に考えてなかなか行動できない方も多いと思います。
せっかくの想いも「カタチ」に遺さなければ達成することはできません。その「カタチ」にする方法が、「遺言」です。
自分では直接何かをすることはできない。でも日々社会問題に取り組むNPO法人などの団体に寄付することによって、たとえ自分が亡くなっても、一生懸命蓄えてきた財産によって、世の中に役立つことがしたい。そう考える方にとって、遺言による寄付(遺贈寄付)は非常に意義深い選択肢です。
この記事では、遺言で遺産を寄付する方法や注意点、遺言書の書き方について、初めての方でもわかりやすく解説します。
1. 遺言による寄付とは何か
ー遺言による寄付とは
ー遺贈寄付のメリット
2. 遺言で遺産を寄付する方法
ーステップ1:寄付先を決める
ーステップ2:遺産の範囲と内容を決める
ーステップ3:遺言執行者を決める
ーステップ4:遺言書を作成する
ーステップ5:相続が開始し、寄付が実行される
3. 遺言書の種類と特徴
ー公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)
ー自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)
ー秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)
ー比較表
4. 遺言書作成のポイント
ー法的要件を満たす
ー遺言執行者を指定する
ー付言事項を活用する
ー遺言書の書き方例
5. 遺贈寄付の手続きと流れ
ー関連する機関や専門家の活用方法
6. まとめ:遺言による寄付という人生の選択
遺言による寄付とは何か
遺言による寄付とは
遺言による寄付(遺贈寄付)とは、「遺言」によって公益法人やNPO法人等に寄付することをいいます。
遺言に「自分が亡くなったら、財産の一部をNPO法人に寄付したい」と遺しておくことによって、その財産は相続人ではなく、指定されたNPO法人に財産が移転することになります。
遺贈寄付のメリット
主なメリットは以下の通りです。
・自分の思いや志を未来に残せる
・相続人がいない場合でも遺産の行き先を自分で決められる
・社会課題の解決に貢献できる
・遺族間での遺産分割トラブルを回避できる場合がある
遺言による寄付をする動機は、「自分が生きてきた証を残したい」「生前に使いきれない資産を社会のために役立てたい」「地元やお世話になった人たちに恩返しがしたい」「相続する家族がいない」「疎遠な親族に遺産を渡したくない」「自分の遺産を国に渡したくない」など人によってさまざまですが、日本では近年、この遺贈寄付を選ぶ人が増えています。*
*参考:遺贈寄付白書
遺言で遺産を寄付する方法
遺贈寄付を行うには、遺言書を正しく作成することが必須です。ここではその具体的なステップを紹介します。
ステップ1:寄付先を決める
まずは、遺産を寄付したい団体を選びましょう。対象となるのは、公益財団法人や認定NPO法人、地方公共団体などです。
選ぶ際は以下のポイントを確認しましょう。
・自分の価値観や関心と活動内容が合っているか
・財務状況や運営の透明性があるか
・寄付金の使い道が明確であるか
※団体によっては遺贈寄付の相談窓口を設けているところもあるため、事前にコンタクトを取るとスムーズです。
ステップ2:遺産の範囲と内容を決める
次に、どの財産をどれだけ寄付するかを決めましょう。寄付の対象となる遺産は、以下のようなものが一般的です。
・現金・預金
・株式や投資信託などの有価証券
・不動産(※寄付自体ができない場合もあるため注意)
また、全財産を寄付することも、一部のみを寄付することも可能です。相続人がいる場合は、「遺留分」にも配慮しましょう。
ステップ3:遺言執行者を決める
遺言に基づいて寄付や諸々の手続きを実行する役割を担う「遺言執行者」を指定しましょう。
遺言執行者はどなたでも構いませんが、信頼できる家族や知人、または弁護士・司法書士などの専門家を選ぶのが一般的です。遺言執行者がいれば、相続手続きや寄付の実行が円滑に進み、遺言の内容を正確に反映させることができます
ステップ4:遺言書を作成する
寄付の意思や内容を正式に反映させるには、法的に有効な遺言書を作成することが不可欠です。遺言書の形式は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかを選びましょう。
特に相続人ではない方に財産をあげることとなる遺贈寄付では、法的に確実性の高い「公正証書遺言」の活用が推奨されます。作成後は、遺言書を適切に保管し、必要に応じて法務局や信頼できる人物などに保管を依頼しましょう。
ステップ5:相続が開始し、寄付が実行される
遺言書は、遺言者が亡くなった時点で効力が発生します。相続人または遺言執行者が遺言の内容を確認し、寄付の手続きを進めます。
この段階で必要となる手続きの例
・金融機関や不動産の名義変更
・寄付先団体への連絡・受領書の取得
・税務手続き(※必要に応じて)
例えば、相続では妻や子供など法律上財産を受け取る方(法定相続人といいます)が決まっており、ご自身が亡くなったあと、法定相続人がどの財産を受け取るかを決めるため、ご自身で事前に財産を誰に受け取ってもらうかを決めることはできません。
その一方、遺贈は遺言を通じて自由に財産の受取人を決めることができるため、ご自身の遺志が反映される形で財産を渡すことができます。
遺言がない場合、誰がどの財産を受け取るかを相続人の判断にゆだねるため、後々トラブルになることがあります。
そういったトラブルを防ぐ意味でも、生前に遺言を準備しておくと安心です。
遺言書の種類と特徴
遺贈寄付を実現するには、法的に有効な遺言書を作成することが必要です。遺言書には主に以下の3つの種類があり、それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なります。
公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)
公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。遺言者が口述し、公証人が文書にまとめ、証人2名の立会いのもとで作成されます。
特徴
・法的ミスがなく、最も確実性が高い
・家庭裁判所の検認が不要
・作成費用がかかる(数万円〜)
自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)
遺言者が全文を自分で書く形式の遺言です。2020年からは法務局での保管制度も利用できるようになりました。
特徴
・費用がかからず、自分一人で作成できる
・法務局での保管制度を利用すれば、家庭裁判所の検認が不要になる
・形式不備や紛失・偽造のリスクがある
秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)
内容を他人に知られたくない場合に有効な遺言書です。遺言者が作成した文書に封をし、公証役場でその封印を証明してもらいます。
特徴
・内容を秘密にできる
・作成には公証役場へ行く必要がある
・家庭裁判所の検認が必要
・法的に不備があると無効となるリスクもある
比較表

遺言書作成のポイント
遺贈寄付を確実に実現するためには、遺言書の書き方にも注意が必要です。
法的要件を満たす
遺言書が有効となるには、法律で定められた形式を満たしていることが重要です。自筆証書遺言の場合、誤字や脱字でもトラブルの原因になることがあります。また、決められた要件を満たしていない場合、遺言書自体が無効になってしまうことも。
自分で作成するのが不安な場合は、専門家に作成を依頼したり、作成後の遺言書をチェックしてもらうと良いでしょう。
遺言執行者を指定する
遺言の内容を実行するための手続きをしてくれる人を「遺言執行者」といいます。
遺言による寄付や手続きをスムーズかつ確実に進めるために、「遺言執行者」をあらかじめ指定しておきましょう。遺言執行者は弁護士や司法書士など、信頼できる専門家を指名するのがスムーズです。遺言の作成を専門家に依頼した場合、依頼した専門家に遺言執行者になってもらうのが一般的です。
付言事項を活用する
遺言には「付言事項」と呼ばれる自由記載欄があり、遺言者本人の想いや伝えたいことを記すことができます。付言事項には法的効力はありませんが、遺言内容の背景を自身の言葉で伝えることができ、付言事項を活用することで関係者の理解を得やすくなったり、相続人同士のトラブルを回避できたりします。
遺言書の書き方例

このように、具体的に財産の内容・寄付先・金額などを明記することがポイントです。
遺贈寄付の手続きと流れ
遺贈寄付が実際に行われるのは、遺言者の死後です。以下はその大まかな流れです。
1. 相続人や遺言執行者による遺言書の開示
2. 遺言書に基づく相続手続きと寄付手続きの実行
3. 寄付先団体からの受領書発行や感謝状の送付
関連する機関や専門家の活用方法
遺贈寄付に詳しい司法書士、弁護士や信託銀行、NPO支援団体などに相談することで、手続きの負担を減らし、確実に意思を実現できます。また、寄付先団体が遺贈寄付の相談窓口を設けている場合もあります。
まとめ:遺言による寄付という人生の選択
「遺言で寄付」は、自分の人生を通じた最終的な社会貢献のかたちです。遺言書の作成には多少の手間がかかりますが、しっかりと準備することで、あなたの思いを未来につなぐことができます。
まずは信頼できる団体や専門家に相談し、自分らしい遺贈寄付のかたちを見つけてみてください。
監修者

司法書士法人あかつき総合法務事務所 代表司法書士開業当初から相続の専門家として100件以上の相続手続きを支援。遺贈寄付の相談にも積極的に対応し、20件以上の寄付を通じた想いの承継をサポートしてきた。2008年 立教大学法学部法学科卒業
2011年 行政書士試験合格
2012年 宅地建物取引士試験合格
2016年 司法書士試験合格
2018年 都内司法書士事務所に就職
2019年 独立・開業