相続とは?知っておきたい税金と対策の基礎知識

1. 相続とは?基本の知識
2. 相続と遺贈の違い
3. 法定相続人とは?範囲と優先順位について
4. 相続税とは?〜相続が発生した時の税金〜
ー相続税の基礎控除額
ー相続税の計算例
5. 相続税対策の基本
ー暦年贈与を活用した税金対策
ー贈与税のかからない特例の贈与
ー生命保険の活用
ー不動産の評価減
ー認定NPO法人や公益法人などへの寄付
6. 相続税申告のサポートと相談窓口
相続とは?基本の知識
相続とは、人が亡くなった際に故人の遺産(財産や負債)が遺族や指定された受取人に移転することを指します。
故人が遺言を残していない場合には、相続が発生すると、まずは相続人を特定し、その後、相続人全員で遺産分割を行う必要があります。
遺産分割がスムーズに行われない場合、相続人同士のトラブルに発展することもあります。そのため、相続の基本を理解し、事前に適切な対策を取ることが重要です。
また、相続が発生すると相続税の申告・納税義務が発生する可能性があります。特に財産の評価や遺産分割の方法によって税額が大きく変わるため、適切な知識を持つことが求められます。
相続と遺贈の違い
相続は法律に基づいて自動的に発生するのに対し、遺贈は遺言に基づき特定の人に財産を譲渡することができます。
例えば、相続では妻や子供など法律上財産を受け取る方(法定相続人といいます)が決まっており、ご自身が亡くなったあと、法定相続人がどの財産を受け取るかを決めるため、ご自身で事前に財産を誰に受け取ってもらうかを決めることはできません。
その一方、遺贈は遺言を通じて自由に財産の受取人を決めることができるため、ご自身の遺志が反映される形で財産を渡すことができます。
遺言がない場合、誰がどの財産を受け取るかを相続人の判断にゆだねるため、後々トラブルになることがあります。
そういったトラブルを防ぐ意味でも、生前に遺言を準備しておくと安心です。
法定相続人とは?範囲と優先順位について
(法定)相続人とは、妻や夫、子供、親、兄弟姉妹など法律上亡くなった方の財産を取得することができる方のことをいいます。
妻や夫(配偶者といいます)が必ず相続人となり、それ以外に、優先順位の高い順に、
①子供
②両親
③兄弟姉妹
が相続人となります。
配偶者以外の相続人は、①がいない場合にはじめて②③が相続人となるように、優先順位の高い方が相続人となり、それ以外は相続人とはなりません。
例えば、配偶者と子どもがいる場合、親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
相続人の範囲を理解しておくことで、不要なトラブルを避け、スムーズな遺産分割が可能になります。
相続の手続きでは、まずは戸籍謄本を用いて相続人を確定し、遺産分割協議書を作成する必要があります。特に、相続人の数が多い場合や相続人間で揉めている、あるいは疎遠であるなど関係が複雑な場合は、専門家に相談することが望ましいでしょう。
相続税とは?〜相続が発生した時の税金〜
相続税とは、故人が残した財産を受け継いだ際に発生する税金のことです。
たとえば、親が亡くなり、その財産として自宅や預貯金、株式などを子どもが受け継いだ場合、その財産の合計額が一定の基準を超えると、相続税が課せられます。
相続税は、相続する財産の総額から「基礎控除額」を差し引いた残りの部分に対して課税されます。
相続税の基礎控除額
相続税の基礎控除額とは、相続税がかかるかどうかを判断するための「非課税枠」のことです。遺産の合計額がこの基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。基礎控除額は、以下の計算式で求められます。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が配偶者と子ども1人(合計2人)の場合、基礎控除額は
3,000万円 +(600万円 × 2)= 4,200万円 となります。
この場合、遺産の総額が4,200万円以下であれば、相続税はかかりません。しかし、4,200万円を超えた分に対して相続税が発生します。
相続税の税率は累進課税となっており、財産の額が大きくなるほど高い税率が適用されます。税率は10%〜55%の範囲で、財産額が高額になるほど税負担も増えます。
相続税の計算例
次に実際に相続税がどのように計算されるかをみていきましょう。
仮に、遺産の総額が6,000万円で、相続人が2人(配偶者と子)だった場合、相続税の課税対象となる金額は、
遺産総額6,000万円 – 基礎控除額4,200万円 = 1,800万円
となります。
相続税の課税対象額を計算したら、いったんそれを法定相続人で法定相続分で分配します。
配偶者:1800万円×1/2=900万円
子:1800万円×1/2=900万円
分配した金額を計算したら、法定相続分で分配した金額にかかる税率をかけて納付する相続税を計算します。
配偶者:900万円×10%=90万円
子:900万円×10%=90万円
合計:180万円
この180万円を受け取った遺産の割合で按分して支払うことになります。
このように、基礎控除額を超えた場合にはじめて相続税を支払う必要がありますが、、その相続税をなるべく安くするためには、どのような方法があるのか、みていきましょう。
相続税対策の基本
相続税対策には、相続発生時までに財産を譲り渡す方法(生前贈与等)や、基礎控除以外の控除を増やす方法(生命保険を活用する、養子縁組をする等)、相続発生までに財産評価を下げる方法(借入を利用して建物を建築する、不動産を他人に賃貸する等)などがあります。
相続発生後にできることは限られているため、早めに計画的な対策を取ることが重要です。
暦年贈与を活用した税金対策
暦年贈与とは、毎年一定額まで非課税で財産を贈与できる制度です。この制度を利用することで、長期間にわたって計画的に財産を贈与し、将来的な相続税の負担を軽減することができます。
例えば、年間110万円までの贈与は贈与税がかかりません。
これを利用し、10年間にわたって子どもや孫に贈与すると、合計で1,100万円の財産を無税で移転できます。
結果的に、相続時の財産総額を減らし、相続税の課税対象を減少させることが可能です。
ただし、暦年贈与を行う際は、単に毎年同じ金額を贈るだけではなく、「贈与契約書」を作成するなどして、税務署から「実際には相続財産の分割とみなされる」などの指摘を受けないようにする工夫が必要です。
また、贈与を受ける側が未成年である場合は、親権者が管理するケースが多いため、その管理方法にも注意を払う必要があります。
贈与税のかからない特例の贈与
一度に多額のお金を子や孫に贈与すると、贈与税がかかります。
しかし、次の特例制度を使えば、一定額まで非課税で贈与ができます。
・教育資金贈与の非課税措置(上限1500万円)
・結婚・子育て資金贈与の非課税措置(上限1000万円)
・住宅取得等資金の贈与税の非課税措置(上限1000万円)
特例を使った贈与の注意点は、もらったお金を目的通りに使わないと課税されるので注意が必要ということです。
また、子どもや孫が必要のたびにもらう生活費や教育費はもともと贈与税がかからないので、特例を使って贈与するのであれば、遠い将来に使うであろう教育資金や結婚・子育て資金でないと、あまり意味がありません。
生命保険の活用
生命保険金は相続税の非課税枠が適用されるため、相続税対策として有効です。
例えば、法定相続人1人につき500万円までの生命保険金は非課税となるため、相続税の負担を軽減するのに有効な手段となります。
また、受取人を指定することで、相続時の資金確保がスムーズになります。特に、遺産の多くが不動産の場合、納税資金が不足することがあるため、生命保険に加入し運用する等、納税資金を確保する方法もあります。
不動産の評価減
相続財産の中でも不動産は評価額を抑えることができる有効な節税手段の一つです。
相続税における不動産の評価額は、一般的に市場で販売される価格よりも低く算定されることが多いため、不動産を利用することによって相続税を減らすことができます。
これは、不動産の評価方法が「路線価」や「固定資産税評価額」などを基準に計算されるため、市場価値よりも低い評価額となるためです。
例えば、現金1億円を相続すると、そのまま1億円が相続税の課税対象となります。
しかし、この1億円で不動産を購入することにより財産の評価額を引き下げ、そのまま相続することによって、相続税の課税対象額が7,000万円から8000万円程度に抑えられることもあります。
さらに、賃貸不動産として活用することで、「貸家建付地の評価減」が適用される場合があります。
例えば、空き家になっている不動産を他人に貸し付けることにより、土地の評価額を5割程度に評価することができ、相続税を抑えることができます。
ただし、不動産を相続する際は、流動性の低さ(すぐに売却して現金化できない)や管理の手間が発生するため、相続人の意思や財産状況を考慮したうえで慎重に検討することが大切です。また、不動産の活用方法によっては節税効果が異なるため、事前に専門家と相談し、適切な対策を講じることをおすすめします。
認定NPO法人や公益法人などへの寄付
相続した財産を、相続税の申告期限までに、認定NPO法人や公益法人に寄付した場合、寄付をした分の財産は相続税の対象になりません。
そのため、認定NPO法人や公益法人などに寄付することで相続税を節税し、直接自分の希望する社会貢献活動に役立てる人が増えています。
また、認定NPO法人に寄付を行う場合、相続税の非課税措置に加えて、寄付者の所得税の控除も受けられるため、節税効果がさらに高まります。
なお、相続税の申告期限が迫っている場合は、期限内に適切な手続きを完了できるよう、寄付先の団体が寄付金の領収書を速やかに発行できるかを事前に確認することが大切です。特に、領収書が発行されなければ税制上の優遇措置を受けられないため、注意が必要です。
2025年1月現在、非課税になる認定NPO法人は日本国内でも約1,300団体となっています。寄付による相続税の節税をお考えの方で、全国の認定NPO法人を調べたい場合は、内閣府が公開している「内閣府 NPOホームページ(https://www.npo-homepage.go.jp/)」の所轄庁認定・特例認定NPO法人名簿で確認することができます。
相続税申告のサポートと相談窓口
相続税の申告は複雑なため、税理士などの専門家に相談することが推奨されます。各地の税務署や専門機関が相談窓口を設けており、無料相談会なども開催されていることがあります。
特に相続税の申告期限は、相続発生から10か月以内と決められています。この期限を過ぎると延滞税や加算税が発生するため、早めの準備が必要です。
監修者

司法書士法人あかつき総合法務事務所 代表
司法書士開業当初から相続の専門家として100件以上の相続手続きを支援。遺贈寄付の相談にも積極的に対応し、20件以上の寄付を通じた想いの承継をサポートしてきた。
2008年 立教大学法学部法学科卒業
2011年 行政書士試験合格
2012年 宅地建物取引士試験合格
2016年 司法書士試験合格
2018年 都内司法書士事務所に就職
2019年 独立・開業