ひとり身のまま最期を迎えたら、遺産はどうなる?相続人がいない場合の行方と備え方

年齢を重ねるにつれ、「自分が亡くなったあとの財産は、いったい誰が受け取るのだろう?」と気になる方も多いのではないでしょうか。特に独身で子どももおらず、頼れる親族もいない場合、死後の財産の行き先は明確にしておかないと、思わぬ形で処理されてしまうことがあります。
この記事では、いわゆる「おひとりさま」の相続に関する基本的な仕組みや、相続人がいない場合の財産の行方、そして「自分の想いを託すために今からできること」についてわかりやすく解説します。将来に備える第一歩として、ぜひ参考にしてください。
1. 「おひとりさま」の遺産の相続人は誰になる?
ー1. 親・祖父母(直系尊属)
ー2. 兄弟姉妹
ー該当する相続人がいない場合
2. 相続人がいない場合の遺産の行方
ー1.相続財産清算人が財産を処分する
ー2.特別縁故者への財産分与
ー3.国庫に帰属する
3. 相続人のいない遺産が増えている
4. 法定相続人以外の人に財産を遺す方法
ー遺言書を作成する
ー生前贈与の活用
5. 相続人がいない人におすすめの終活方法
ーエンディングノートの作成
ー非営利団体への寄付
ー財産管理・任意後見サポートサービスの活用
6. まとめ:相続人がいなくても財産の行き先は決められる
「おひとりさま」の遺産の相続人は誰になる?
日本の法律では、一定の順序に基づいて遺産を受け取る法定相続人が決められていて、子どもがいる場合には子ども(養子を含む)が法定相続人として最も優先されます。
では、独身で子どもがいない、いわゆる「おひとりさま」の場合、法定相続人は誰になるのでしょうか。優先される順番に紹介していきます。
1. 親・祖父母(直系尊属)
子どもがいない「おひとりさま」の場合、最も優先度が高いのは父母です。両親がすでに亡くなっている場合は、祖父母へと相続権が移ります。
2. 兄弟姉妹
親や祖父母がすでに他界している場合は、兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が亡くなっている場合には、その子ども(甥・姪)までが相続する権利があります。
該当する相続人がいない場合
上記で紹介した関係者が存在しない場合は、法定相続人がいない状態になります。
この場合、遺産はどうなるのでしょうか。
相続人がいない場合の遺産の行方
相続人がいない場合でも、財産は適切に管理・処分される制度があります。主に次の3パターンのいずれかによって処理されます。
1.相続財産清算人が財産を処分する
1つめは、家庭裁判所によって選任された「相続財産清算人」が、遺産の管理・清算を行うパターンです。
相続財産清算人とは、相続人がいない場合に亡くなった人の相続財産の調査や管理を行う人のことで、亡くなった人との利害関係などを考慮して、家庭裁判所によって選任されます。この場合、借金などを清算したあとで残った財産は国庫に帰属することになります。
2.特別縁故者への財産分与
故人と特別な関係にあった、いわゆる「特別縁故者」がいた場合、その人が申し立てを行うことで、財産の一部または全部を受け取ることができます。例えば、生前に介護を担っていた知人や、生計を一つにしていた内縁の配偶者などが該当します。
3.国庫に帰属する
特別縁故者もおらず、相続人がまったくいない場合、また、相続人が放棄をした場合、遺産は最終的に国庫に帰属します。国庫に帰属した遺産の用途は特に限定されておらず、社会保障費や国防費、公共事業、災害復興支援など、国の活動全般における支出に充てられます。
※「土地」についても、不要と判断された場合は売却され、売却代金は国の歳入になります。
相続人のいない遺産が増えている
国庫に帰属する財産は年々増え続けており、2025年2月9日付けの日本経済新聞には以下のように書かれています。
相続人が不在で国庫に入る財産が2023年度に1015億円となったことが最高裁への取材で分かった。10年で3倍に増え、初めて1000億円を超えた。配偶者や子どものいない単身高齢者は増加しており、今後も増え続ける可能性が高い。
引用元:日本経済新聞
少子高齢化や非婚化が進む中で、相続人のいない単身高齢者は年々増加しています。内閣府の調査によると、65歳以上で一人暮らしをする人の数は2020年時点で600万世帯を超えており、今後も増加が予想されています。
法定相続人以外の人に財産を遺す方法
法定相続人に該当しなくても自分にとって大切な人がいる場合、「その人たちに財産を遺したい」と考える人もいるでしょう。そういった場合には、生前に明確な意思表示をしておくことで、財産を特定の人や団体へ遺す方法があります。
遺言書を作成する
法的に有効な遺言書を作成することで、血縁関係のない人でも遺産を受け取れるようになります。公正証書遺言にすることで、安全性と確実性を高めることができます。
👇遺言書の種類や書き方については以下の記事で詳しく解説しています。
遺言で遺産を寄付するには?遺言書の書き方や注意点を解説
生前贈与の活用
生きている間に財産を無償で譲り渡すことができる、生前贈与を活用する方法もあります。独身者が希望する人に確実に財産を遺したい場合、とても有効な方法です。
大きな金額を一度に生前贈与してしまうと、贈与税の対象となるため注意が必要ですが、年間110万円までの贈与であれば非課税となるので、これをうまく活用し、暦年贈与(毎年贈与)することによってして、計画的に贈与を進めることもできます。
相続人がいない人におすすめの終活方法
人生の最期を見据えて、財産の整理や、遺産の使い道の希望を整理しておくことは、心の安心にもつながります。
エンディングノートの作成
エンディングノートは、自分の基本的な情報のほか、医療や財産についての自分の意志、周りの人へのメッセージなどをまとめておく文書のことです。遺言書のように法的効力はないものの、自身の人生の最期についての希望や思いを伝える手段として近年注目されている方法です。財産の使い道、葬儀の形式、連絡してほしい人など、書き留めることで自分の意思を整理することができます。
非営利団体への寄付
社会貢献を望む方には、NPO法人などへの遺贈寄付も選択肢のひとつです。自分が大切だと感じる理念や活動のために財産を使ってもらえるという喜びがあります。
認定NPO法人カタリバでは、子どもたちの可能性を広げる活動に遺贈寄付を活用しています。人生の最期を「誰かの未来」につなげる選択として、遺贈寄付の意思を記した遺言書を作成される方も増えています。
財産管理・任意後見サポートサービスの活用
高齢の方向けの財産管理サポート・任意後見サポートのサービスを活用する方法もあります。金融機関などを含め、財産の管理をしてもらえるサービスで、さまざまな団体や法人が提供しているため、自分の希望に合ったサービスを選ぶことが重要です。元気なうちに相談しておくことで、安心して過ごせるでしょう。
まとめ:相続人がいなくても財産の行き先は決められる
相続人がいない場合、亡くなったあとの財産は、法律に従って親族へと受け継がれます。しかし、血縁者がいない、あるいは相続人がすべて相続放棄した場合には、残された財産は一定の手続きを経て、最終的に国庫に帰属します。これは、個人の財産が公共の資産として社会に役立てられるという意味でもあります。
一方で、「せっかくなら自分の想いや価値観に沿ったかたちで、未来の誰かの役に立ててほしい」と考える方にとっては、遺言書の作成や生前贈与といった手段を選ぶことで、自ら遺産の行き先を決めることも可能です。
たとえば、信頼する知人や団体に遺産を託したり、社会貢献を望む方であれば、非営利団体への遺贈寄付という選択もあります。NPO法人カタリバでは、子どもたちの学びや未来を支える活動に、こうした遺贈寄付を活用しています。
あなたの想いが、誰かの未来を支える力になる。そんな終活を、今から始めてみませんか?
監修者

司法書士法人あかつき総合法務事務所 代表司法書士開業当初から相続の専門家として100件以上の相続手続きを支援。遺贈寄付の相談にも積極的に対応し、20件以上の寄付を通じた想いの承継をサポートしてきた。2008年 立教大学法学部法学科卒業
2011年 行政書士試験合格
2012年 宅地建物取引士試験合格
2016年 司法書士試験合格
2018年 都内司法書士事務所に就職
2019年 独立・開業