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【被災地・福島より】「取り柄がない人なんていない」双葉みらいラボ 初めての卒業式

コラボ・スクール

認定NPO法人カタリバは、2017年6月より福島県双葉郡広野町にある福島県立ふたば未来学園高等学校の生徒を対象に、被災地の子どもたちを支援する「コラボ・スクール 双葉みらいラボ」を運営しています。

そして今月初め、ふたば未来学園高校で初めての卒業式が行われました。それは同時に、双葉みらいラボにとっても初めての卒業生です。

今回は、双葉みらいラボの創設に先んじて、ふたば未来学園高校で3年前から大学生ボランティアとしても活動し、現在は双葉みらいラボのスタッフでもある、カタリバ職員・佐々木啓治が、これまでの思い出を綴りました。

【被災地・福島より】「取り柄がない人なんていない」 双葉みらいラボ 初めての卒業式

(ふたば未来学園高校の卒業式の様子)

「一人ひとりが復興を実感できるまで歩んでいかなければならない」

しんと静まり返った体育館に、卒業生代表の声が響きました。
2018年3月1日、福島県双葉郡広野町にある福島県立ふたば未来学園高等学校で初めての卒業式が行われました。

 ふたば未来学園の創設は3年前。
 震災で双葉郡の多くの地域が帰還困難区域となり、郡内に5校あった県立高校は休校を余儀なくされました。そこで、区域外の広野町に地域の未来を託した新たな学校が生まれました。

 一期生は約140人。0から学校の先生や地域と共に学校の歴史を築いてきました。彼らは世界の「課題先進地域」ともいえる福島で、まだ誰も見つけていない答えを探し続けるための力を得るために「未来創造探究」という新しい学びに取り組んできました。

 また、ふたば未来学園に来るまでに彼らの多くは避難のために様々な地域を転々としたという厳しい経験もしてきています。親元を離れて寮生活を送ってきた生徒もとても多くいます。この3年間、いくつもの壁を乗り越えてきた彼ら。この晴れの場に、カタリバの職員として私も立てることが本当に誇らしく、感極まる思いでいっぱいになりました。

■私の3年間の関わり

 彼らが1年生だったとき、私は福島大学の学生でした。彼らの多くは避難生活の影響で小・中学校時代を厳しい学習環境で過ごしてきている上に、高校には勉強を教えてくれる先輩もいなければ、学校の近くに塾もない環境です。そこで福島大学の学生がふたば未来学園へ出向き、進級がかかっている “定期考査”に向けて、放課後の時間を使った学習のサポートをしています。

(学習ボランティアをする佐々木)

 私は数学などを教えていました。行くたびに少しずつ「わかった!」「解けると楽しい!」という生徒が増えていきました。その声に私もやりがいを感じて学習ボランティアへの参加を続けました。
 また、生徒とは勉強を教えるだけでなく、悩みごとの相談相手にもなりました。友人のこと、部活のこと、将来のこと。寮生活を送っている彼らにとって、悩みを素直に話せる相手は限られています。だからこそ、外から来た年上の先輩は話しやすいのでしょう。私は彼らのつぶやきに全力で耳を傾け、時にはアドバイスもしました。

 会うたびにちょっとずつ成長していく彼ら。もう少し彼らを支え続けたいと思い、私は福島大学を卒業後、カタリバが運営する「双葉みらいラボ」のスタッフになりました。

(学習会の様子)

■驚くほどに変わった、生徒との出会い

 たくさんの生徒と関わりましたが、中でもMさんとの出会いは大切な思い出です。

 出会ったころの彼女は勉強に興味が持てず、学校生活に身が入っていませんでした。定期考査のための学習会の場でも、ペンがほとんど進みません。そんなMさんに勇気を出して話しかけてみました。ちょっとずつ会話を交わす中で、「数学とか、勉強が苦手なんだ」と打ち明けてくれました。けれど試験から逃れることはできません。

 「一緒に、1つずつ解けるものを増やしていこう」。

 そう励まし、一緒に学習に取り組むことにしました。

 じっくり学習を進めていくと基礎の公式や計算はしっかり身についていることが分かってきました。けれど、勉強に対する苦手意識から「できない」と決めつけて、逃げがちになっていました。そこで、できないことよりもできたことに目を向け、新たにできるようになったことを一緒に喜びながら勉強を進めていきました。

 すると半年後にはMさんは授業にも前向きに取り組むようになり、成績も上がりました。さらにMさんは、学校の文化祭で自分から立候補して、文化祭の目玉となる全校生徒で制作する「モザイクアート」作りのリーダーの一人となりました。完成した作品は本当に素晴らしいもので、全校生徒を驚かせました。

(校長先生と校旗の柄の、モザイクアート)

出会ったころは勉強だけでなく、色々なことに自信が持てていなかったMさん。そんな彼女が全校の注目を浴びるような偉業を成し遂げました。

文化祭を振り返って彼女は、次のように教えてくれました。

「人前に立つようなことは今までやりたくても自信がなくてできなかった。でも、友達の力を借りながらやってみたこととか、みんなに喜ばれるようなものが完成できて本当にうれしかった。やっと少しだけ自分に対して自信を持つことができたんじゃないかな。」

■どんな子でも自分に自信が持てるように応援したい

 私はふたば未来学園の生徒たちと、親のようなタテの関係や友達のようなヨコの関係でもない、少し年上の先輩のようなナナメの関係で関わってきたことで、ここでは紹介できないほどたくさんの生徒たちの成長やそれの裏にあるような苦労・悩みを感じてきました。また、自分に対して自信が持てないような子が多くいることも身をもって痛感しました。

(卒業式後に撮影した、生徒と佐々木の写真)

 “取り柄がない人なんていない”ナナメの関係の立ち場で、その子の良い部分を認めてくれたり、存在を承認してくれる言葉をかけてくれたりする人がもっと必要なのではないでしょうか。Mさんも苦手だった勉強を、“できた”という経験を通して自信をつけ、文化祭で大きなことを成し遂げました。

私は、先生や保護者と共に、生徒を身近で支えてくれるナナメの関係の存在がいる、そんな社会が当たり前になってほしいと思っています。そんな場を、まずはふたば未来学園と共に協働しながら創り続けています。先生と共に、そんな社会を、学校を作る一員として、出会ってきた子どもたちに少しでも自分に自信を持ってもらうようにこれからも関わっていきたいと思います。

 (カタリバ職員 佐々木啓治)