子どもの貧困に向き合う〜現地リーダーの声 アダチベース/東京都足立区 堀井勇太


カタリバは2016年8月より、東京都足立区より委託を受け、生活困窮世帯の子どもたちの学びと居場所「アダチベース」をスタートさせました。その開設に奔走した職員・堀井勇太は、自身も母子家庭で育ちました。もうすぐ1年が経つアダチベースで、子どもたちにどう向き合っているのかをレポートします。

■「子どもの貧困」と向き合う足立区に生まれた「アダチベース」

2014年「子どもの貧困対策法」が施行され、「日本の子どもの6人に1人は貧困」という話題が注目を浴びています。そのような中、カタリバも東京都足立区で、生活困窮世帯の子どもたちが安らぎと明日への力を得る第3の場所「アダチベース」を開設しました。現在、中学生61人が登録し、週に6日、平日の夕方と休日の日中の時間帯に子どもたちを迎えています。

足立区は2015年度を「子どもの貧困対策元年」と位置づけ、貧困対策を開始しました。背景には、就学援助率が都内で一番高い34.2%(国平均の2倍以上)、児童扶養手当受給者数が20年前(1996年)に比べ1.7倍に増加(1996年:4,087人、2016年:6,836人)などの深刻な状況があります。(出典:足立区/未来へつなぐあだちプロジェクト

カタリバは、「子ども・若者の未来を生き抜く意欲や能力が、生まれ育った環境によって左右されてしまうこと」を課題に感じていました。足立区もまた「生まれ育った環境に左右されることなく、自分の将来に希望を持てる地域社会の実現」「子どもたちが『生き抜く力』を身につけることで、自分の人生を自ら切り開き、貧困の連鎖に陥ることなく社会で自立していくこと」を目指しています。

>>アダチベースを詳しく知りたい 

■「子どもの貧困」を生み出す、3つの資本不足


「子どもの貧困」には2つあると言われています。必要最低限の生活が送れていない「絶対的貧困」と国の貧困線以下の所得で暮らす子どもの「相対的貧困」です。そのうち「子ども6人に1人は貧困」は「相対的貧困」をさしています。

しかし、「お金さえあれば」子どもたちが自立した大人に育つものでもありません。お金のほかに、社会とのつながりや信頼、言葉遣いや規則的な生活習慣、一般教養などが保護者から伝わることで、自立した大人になります。

フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、「文化資本」(教養や習慣、資格など)、「社会関係資本」(人との信頼やつながり)、「経済資本」(お金)の3つの資本があると言っています。

相対的貧困状態の子どもの保護者は、往々にして、これら3つの資本が不足しています。そのため3つの資本は子どもたちにも不足することになります。この繰り返しが「貧困の連鎖」となっていきます。

この貧困の連鎖を断ち切るためには、子どもたちが人との絆や社会を信頼できる経験をし、基本的な生活習慣やコミュニケーション能力などの習得が必要です。「アダチベース」では、多様なスタッフが関わる中で、子どもたちにこうした資本形成をしていきたいと考えています。

■「時間が分かる」、「鍋をみんなで囲む」、その大切さ

アダチベースが始まって、もうすぐ1年が経ちます。子どもたちと関わる中で、前述の「文化資本」や「社会関係資本」の不足について、改めて実感しています。

例えば、約束の時間に集合できない子がいました。最初は「遅刻」だと思っていましたが、その子の行動をよくみていくと、「時間感覚が身に付いていない」ということが分かってきました。”10分”がどれくらいの時間の長さで、約束の時間までにそこに行くためにはどれくらいの時間が必要なのかが感覚として持てていない。その結果、本人の気持ちとは裏腹に「遅刻してしまう」。時間感覚が身に付いていないということは、試験、アルバイト、就職など、あらゆる場面でつまづきの元になります。

また、「鍋って本当にみんなで食べるものなんだ。ドラマとかで見たことあるけど」と言っていた子もいました。アダチベースでは、毎日夕食を一緒に作り、食べることをしています。それはみんなで一緒に食卓を囲むことが、コミュニケーションの経験の場であり、マナーを学ぶことや人とのつながりを深めることができるからです。

アダチベースでは、学習支援に限らず、様々な体験や食事の提供を通して、”当たり前だけど大切なこと”を子どもたちに伝えています。

■自分も母子家庭だった

私は母子家庭で育ちました。思い返せば、経済的に恵まれているとは言い難い状況でした。例えば、友だちが自分用の自転車を持っていても、自分は家に1台だけあるママチャリでした。新しい洋服を買ってもらえませんでしたし、友だちみんなが加入している地元のサッカークラブに自分だけは入れないという経験もしました。

そうした経験があるので、アダチベースにやって来る子どもたちの状況は想像がつきます。

一方で、経済的に困窮していた自分が、どうして社会人として普通の生活を送れているのか。その要因を考えると、母や親戚、近所の人など様々な生き方をする大人との関わりがあり、そこから得たものが多かったように思います。ただし、それらは自分から意識的に求めていったものではなく、たまたまラッキーな環境だっただけ。子どもたちの中には、家庭内の信頼関係さえ危うい子もいます。だからこそ周囲が目を配り、子どもたちをみんなでサポートしていくことが大切だと思います。

■「生き抜く」ためのチャレンジを応援

アダチベースは、安心・安全な居場所であると同時にチャレンジを応援する場所でもありたいと思っています。

この3月、初めて中学の卒業生を送り出しました。

出会ったころは、不登校がちだったり、中学卒業後のことは考えられないといった子たちがいました。けれど、アダチベースのスタッフが明るく話しかけ、彼らの話に耳を傾けるうちに、高校進学への意欲を持った子もいます。

受験勉強は効率的に勉強することをイメージすると思いますが、アダチベースの場合は、「机に向かうこと」「コツコツ続けること」からがスタートです。「正負の計算ができるようになった」「試験の時間の長さが分かるようになった」というような小さな「できた」を一緒に作り、共に喜び合い、次の「できた」を目指しています。

▲アダチベースで子どもたちを見守る仲間たち

■貧困の連鎖を断ち切るために

子どもたち一人ひとりのチャレンジに伴走し、貧困の連鎖を断ち切る大きな目標に向かって私たち自身も恐れずにチャレンジを続けたいと思います。

しかしながら、現在、中学生までの支援しかできていません。けれど、高校生のサポートが必要だと感じています。例えば、自立するための一歩としてアルバイトが必要ですが、アルバイトに採用されるための、基本的なマナーを誰かが事前に伝えなければなりません。基本的な生活習慣や文化を背景に持っていない子どもたちには、「なぜアルバイト面接に落ちてしまうのか」「なぜアルバイトをクビになったのか」理由が分かりません。そのまま放置すれば、自信をなくしチャレンジする気力を失ってしまいます。

きちんと彼らが生き抜く力を持てるように、サポート対象の幅を広げる必要があると感じています。それには資金も必要です。

現在、2018年2月25日開催の東京マラソンで、アダチベースの子どもたちのために走って下さるチャリティランナーを募集しています。(受付は7月1日~31日、先着順)

1人でも多くの大人が応援してくださることが、子どもたちの社会への信頼となり将来への希望をつなぎます。

>>「東京マラソン」で子どもたちを応援しませんか?チャリティーランナー募集中

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堀井 勇太(ほりい ゆうた)
1982年東京生まれ。飲食業界を経て、デザイン、インテリア関連のクリエイティブ業界など異色業種から2009年にNPOカタリバへ転職する。
対話から生まれる創発の可能性を信じ、高校への出張授業「カタリ場」のディレクションを務める。自身の母子家庭の経験から「アダチベース」の開設に奔走し、2016年7月から「アダチベース」拠点長を務める。得意な料理は白飯が進むおつまみ系おかずで、アダチベースの子どもたちにも大好評。昨年の東京マラソンにチャリティーランナーとして出場し、6時間00分で完走。

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