CLOSE

認定NPO法人カタリバ (認定特定非営利活動法人カタリバ)

〒166-0003 東京都杉並区高円寺南3-66-3
高円寺コモンズ2F

お問い合わせ

※「KATARIBA」は 認定NPO法人カタリバの登録商標です(登録5293617)

Copyright © KATARIBA All Rights Reserved.

KATARIBA マガジン

「生き生きした若者が育つ環境をつくりたい」 その思いから自衛官を辞め、地域パートナーに転身。 彼が目指す「日常的な学びの場と未来の形」とは/PARTNER

vol.210Interview

date

category #インタビュー

writer かきの木のりみ

Profile

伊藤 大貴 Masaki Ito 全国高校生マイプロジェクト岐阜県パートナー/一般社団法人ココラボ代表理事/岐阜柳ヶ瀬商店街 教育コーディネーター

島根県出雲市出身。2014年防衛大学校卒業後、海上自衛隊に入隊し、艦艇幹部や教育隊教官などを勤める。教官時代、高校時代の先輩の紹介で出会った「マイプロジェクト」に共感し、この教育手法による「学びの土壌づくり」に尽力するため、自衛隊を退職。2018年妻の出身である岐阜市に移住し、教育NPO等で事業設計や中高生のプロジェクト伴走を経験。2021年岐阜市を拠点に中高生の探究学習支援と地域のサポート体制をコーディネートする団体「一般社団法人ココラボ」を設立。現在は商店街などの地域リソースを活用した教育プログラムの企画開発に取り組む。岐阜の中高生の育成を通じて、岐阜ならではの学びの土壌作りを目指して奮闘中。

2022年度から、高等学校の「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変わります。課題を解決するプロセスを通じて資質能力を付けていくことは大きく変わりはありませんが、「他人ごとの課題ではない、生徒自身にとっても課題と感じられるテーマを設定し、解決していくこと」に重きを置いています。

一方、カタリバが2013年より進めている実践型探究学習「マイプロジェクト」に取り組む高校生の数も、年々拡大しています。探究学習やマイプロジェクトに取り組んできた高校生たちがプレゼンテーションを行う年に一度の学びの祭典「マイプロジェクトアワード」には、2020年に全国から4,800プロジェクト以上、13,600人以上のエントリーがありました。2021年にはさらに増える見込みです。

こうした動きに伴いカタリバでは、全国の高校生にマイプロジェクトを通した学びを届けるため、各地域の「地域パートナー」とパートナーシップを結び、各地域で学びのための持続可能な環境づくりを進めています。

連載「PARTNER」では、「地域パートナー」のように、カタリバのパートナーとして各地で活躍する人物に焦点を当ててご紹介していきます。

「右向け右」で生きるのだけが本当に幸せなのか

地域パートナーになる前は自衛隊にいらしたそうですが、そもそもマイプロジェクトを知ったきっかけは何でしょう?

私は島根県の出身で、東京近郊に住んでいた時に、若者向けの島根県人会のイベントに参加したんです。その時に再会した高校の先輩がカタリバで活動をしていて、「島根県でこんなプログラムをするから来てみろよ」と誘われたのが、マイプロジェクトスタートアップキャンプ(※)だったんです。

(※)生徒がマイプロジェクトで取り組むテーマを決めるワークショップのこと。当時のイベントレポートはこちら

スタートアップキャンプに参加した時の印象は?

高校生たちの表情や言動が、時間が経つほどにどんどんイキイキして変わっていくんですよね。それを目の当たりにして、「マイプロジェクトには人生変えるだけの価値がある」と強く肌で感じました。もっとマイプロジェクトについて知りたいと思い、自衛隊を辞めようと思ったんです。

即断ですか!? 自衛隊から地域パートナーとはかなり大きな転身だと思うのですが、何が決め手だったのでしょう?

当時、私は自衛隊で教育隊の教官をしていました。教育隊とは新入隊員に教育を施す機関で、新入隊員が現場に行った時に、自衛官として最低限の務めを果たせるようにするのが目的です。

自衛隊では、「右向け右」と言ったら全員が右を向く組織づくりをしなければいけません。その意味では、自衛隊は非常に精度の高い教育を施していると言えるでしょう。でも、個人として考えた時、「本当に右向け右で生きることだけが幸せなのか」という疑問を感じていました。

そんな時に出会ったのが、スタートアップキャンプだったんです。そこでは高校生たちが、なんとまあ生き生きしていることか。自分はこういう生き生きした若者が育つ環境をつくりたいんだと、その時強く感じたんです。

自衛官時代の伊藤さん

でも、自衛隊にいれば生活も将来も安定します。迷いはなかったんですか?

私自身に迷いはなかったのですが、当時すでに結婚していましたから、家族や周りの仲間からは反対されました。自衛隊の上司からも「手立ては惜しまない。残ったらどうか」という、ありがたい言葉をかけていただきました。でも私は、もっと広い世界に飛び出していきたいという強い思いがありました。

自衛隊は官僚組織なので、自分の将来がだいたい見えるんです。こういうキャリアを積んで、いずれこのくらいになるんだろうというのが、20代でもほぼわかります。その中で、自分のやりがいは何だろうとずっと問いかけていた時期でもありました。

そのタイミングで、自分の故郷である島根でマイプロジェクトに出会ったことが、決断の大きな後押しになったと感じています。

教育現場とより深く向き合うため団体を設立

伊藤さんは2019年よりマイプロジェクトの地域パートナーとして、岐阜県を拠点に活動をされています。現在は主にどのような活動をされているのでしょう?

岐阜、愛知、三重の東海三県において、主に高校の教育関係者向けと、高校生向けの両軸で様々な教育プログラムの企画運営をしています。具体的には、高校における「総合的な探究の時間」の授業サポートや、探究に関する高校教員向け勉強会を主催したり、地元の企業や大学と連携しながら高校生にプログラムを提供したりしています。

高校生の探究テーマ決めをサポートするマイプロジェクトのスタートアッププログラムの他に、地元の商店街組合などと協力して、高校生を対象とした街歩き探究ツアーなども企画しています。

街歩き探究ツアーの様子

―20215月に一般社団法人ココラボを設立されましたが、これもマイプロジェクトと関係がありますか?

はい。個人でできることにはどうしても限界があるので、ココラボという法人をリソースの1つにして、教育現場とよりしっかり関わっていきたいという思いで立ち上げました。ココラボには私以外に理事が2名いるのですが、2人ともマイプロジェクトの活動を通して繋がった仲間です。ココラボのミッションとして、岐阜エリアの中高生の探究活動やそのチャレンジを支援していくことを目指しており、ココラボを通して、マイプロジェクトを日常の継続的な学びへと結びつけていきたいと考えています。

日常の継続的な学びに結びつけるためには、何が必要なのでしょう?

 第1に、継続的な学びの場を作ることです。企業や商店街組合の方々の中には、学校現場に繋がりたいと思っていても、本業があるためなかなかできない方が少なくありません。一方、学校にも外部の方々と繋がりたいニーズがあるのですが、うまく成立できずにいます。

そこにココラボが入ることで、その2つをスムーズに橋渡しして、両方にメリットがある形でプログラム化していければと考えています。岐阜エリアの特性を活かしつつ、多くの大人が教育に向き合うきっかけとなる仕組みを作りたいと思っています。

誰かの役に立てている実感が、大きな幸せに

自衛隊を辞めた後、奥様の地元である岐阜で地域パートナーになられました。伊藤さんにとっては初めての地でもあり、大変だったのでは?

妻の地元とはいえ、私個人の関係性はほぼなかったので、最初は本当に難しかったです。でも、知り合った先生方と何度もお話をさせていただく中で、12人と共感してくださったり応援してくったりする方が増え、徐々に勉強会やプログラム提供ができるようになっていきました。

今、地域パートナーになって3年目なのですが、最近少しずつ、私が展開したかった教育プログラムに寄せられつつあるかなと感じています。もちろん、これは私1人の力でできたことではありません。たくさんの方と繋がらせていただき、多くの力をお借りしてきて、ようやく見えてきた感じです。

マイプロジェクトに対する周囲の反応も、最初の頃と変わりましたか?

以前はプログラムや勉強会に懐疑的だった先生方が少なからずいたんですが、マイプロジェクトに関わっていただくことで「中高生たちがこんなに変わるんだったら、こういうプログラムは大切だよね」と言っていただけることが増えてきました。

さらに「これを学校に持ち帰るにはどうすればいいんだろう」など、前向きな議論ができるようになってきたのは大きな変化です。少しずつですが、共感の輪が地域に広がってきた実感がありますね。

教員の働き方改革の流れもある中でも、よりよい生徒の学びを目指して現場で奮闘されている先生方を、微力ですがサポートできる状況になってきていることは、本当にうれしいです。

 継続することで着実に状況が変わってきているのですね。そんな中で、伊藤さんが最も手応えや喜びを感じるのはどういう時でしょう?

やはり中高生の生徒の姿を見ている時ですね。生徒たちが変わる瞬間を見たり、誰かの人生の何かのきっかけになれているということを感じたりするタイミングが多くあって、それを目の当たりにした時、「やっぱりこれをやっててよかった!」と素直に思います。

また、ココラボをはじめ、仲間が少しずつ増えているのも大きな喜びの1つです。以前、マイプロジェクトで高校生の伴走をしてくれた大学生が、マイプロジェクトの運営をサポートしたいと言ってきてくれたことも。人の還流が少しずつ起きている手ごたえも感じていて、これからがとても楽しみです。

運営に関わるスタッフたちと

地域パートナーとして活動してきて、伊藤さんご自身が変化したことはありますか?

自衛官をやっていたころよりも等身大の幸せというか、当たり前の幸せみたいなものには気づけるようになったかな。

自衛官の時は、階級で敬われることが少なからずありました。当時は若かったので、それが気持ち良い部分もあったんですが、今はそれが、私自身が何かを提供できていたからではなく、役職の力だったとはっきりわかります。

でも今は、プログラムや勉強会を提供したり相談に乗ったりすることで、誰かの役に立てている実感があり、それを幸せだと感じます。1歳になる息子と結婚5年目を迎える妻がいるんですが、彼女たちに対しても愛おしさや有難さを、より強く感じるようになった気がします。

岐阜県の中高生の教育に携わりつつ、次の運営者の育成も

今後について教えてください。計画していることや、やってみたいことはありますか?

岐阜エリアの中高生たちが、もっと楽しくもっと自由に探究や挑戦をして、マイプロジェクトに関われるような環境を整えてあげたい、というのが大きな思いとしてあります。

これまでの活動を通して関係性が深まった方もいますし、マイプロジェクトへの理解やサポートを得られることも増えてきました。まずはそういう方々に向けて、自分たちがやってきた探究活動やマイプロジェクトを共有する会を設け、より深く理解してもらいたいと思っています。

生徒に向けては、実際に挑戦してもらったことを年末に発表してもらい、それによって振り返り、学びとして昇華してもらうような企画も考えています。

また、来年度以降に「全国高校生マイプロジェクトアワード」の地域大会として「岐阜県Summit」も実現したいんです。県という単位で開催をすることによって岐阜エリアの生徒たちが繋がり、学び合うような環境が実現できると思っているので、まずは3年くらいかけてこうした環境を整えていきたいと考えています。

大きなプロジェクトですね。それにはやはり一緒に活動される仲間の存在も大切ですね。

そうなんです。先ほどお話ししたように、若い世代でマイプロジェクトの運営に興味を持ってくれる人も出てきています。大人の仲間と協力しつつ、同時に次の世代の運営者を育てていくことも、5年後までに実現したいことの1つです。

中高生の教育に携わりながら、教育の場を運営する人をも一緒に育てていく。それによってマイプロジェクトと日常的な学びの場を結びつけ、シームレスに連続性を持って学びが深まっていく環境を実現していく。そういう事業を、岐阜というエリアにこだわって、しっかり展開して行きたいと思っています。

 

■伊藤さんのSNSアカウント
-Facebook「一般社団法人ココラボ」
https://www.facebook.com/一般社団法人ココラボ-103051801969005/

-写真:伊藤さん提供


 

全国高校生マイプロジェクトでは、本記事でご紹介した「一般社団法人ココラボ」をはじめとする全国の17団体/個人の皆様と「地域パートナー」としてパートナーシップを結び、マイプロジェクトの学びを全国に広げる活動を行なっています。

地域パートナーとの協働や現場視察を希望される方は、下記のフォームからご相談ください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdaxjAeUO6Jf0TLlDYh1_i5p-Xo_GmjZGr4npXSkSH6czwm0A/viewform

Writer

かきの木のりみ 編集者/ライター

東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、編集プロダクション3社にて各種紙媒体の編集を担当。風讃社にて育児雑誌「ひよこクラブ」の副編集長を4年間担当後、ベネッセコーポレーションにてWebタイアップや通販サイトなどの企画、制作、運営に携わる。2011年より独立。

このライターが書いた記事をもっと読む