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不登校の児童生徒が過去最多に。コロナ禍から生まれた「オンラインフリースクール」の可能性

vol.188Report

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category #活動レポート

writer 本田 詩織

コロナ禍で加速した、ICTを活用したコミュニケーション。

政府は2020年度末までに全国の小中学校の全児童・生徒に対してタブレットを配布することを決定しており、これまで対面で行うことが当たり前と考えられていた教育の現場でも、遠隔授業の実施やタブレット教材の活用など、その動きが加速しようとしています。

一方で学校を別の側面から見てみると、なんらかの理由から、学校が合わない・行けないことで「不登校」となってしまう子どもたちは近年増加傾向にあり、その数は小学生で約5万人、中学生で約13万人。令和元年度に過去最多の人数となっています。(※)

 

新型コロナウィルスの感染拡大発生以降の不登校児童生徒数に関する全国的な調査データはまだ発表されていませんが、「一斉休校によって登校リズムを崩し、休校措置が終わっても学校に通わなくなっている」など保護者から相談を受ける機会も多く、不登校の子どもたちはさらに増加傾向にあることが予想されています。

「親の送迎がないと通えない」地方の不登校の子どもたち。
ICTの力を借りて、居場所へのアクセスをもっと簡単に

カタリバが島根県雲南市で運営している教育支援センター、「おんせんキャンパス」。不登校の子どもたちが集い、安心できる環境の中で学習したり体験活動をしたりしながら自信をつけ、学校復帰に向けてステップアップしていけるような支援を行っています。

東京23区よりやや狭い面積である雲南市のなかに、教育支援センターはおんせんキャンパス一つ。おんせんキャンパスまでは、市役所などがある町の中心部から車でおよそ30分かかります。

子どもたちがおんせんキャンパスを利用するためには家族の送迎が不可欠ですが、毎日送迎するとなると家族の負担も大きく、「通いたくても通えない」、「通えても週に数日」という現状がありました。

これは雲南市に限ったことではありません。学校内外の施設や機関で相談をしたり指導を受けることができていない不登校の小中学生は、不登校の子どもたちのうち約30%、数にして5万人以上にのぼり(※)、学びや社会との繋がりから取り残された状態にあります。

特に雲南市のような地方部では公共交通機関が発達していない地域も多く、子どもたちだけで通うことが難しい実態もあります。

 

おんせんキャンパスでICT活用を促進する契機となったのは、2020年3月の新型コロナウイルス感染拡大による全国一斉休校。子どもたちがおんせんキャンパスに通い、スタッフが直接子どもたちに関わってきた日常が大きく変わりました。

統括責任者の池田はこう語ります。

池田:「全国一斉休校を受けおんせんキャンパスも休館を決定しましたが、子どもたちとの繋がりを完全に絶つのではなく、自宅にいる子どもたちに対してオンラインビデオ会議ツールを使い、遠隔で面談や学習サポートを行いました。ICTを活用してみたことで『むしろ、子どもたちとの接点回数が増えた』といったスタッフの声も聞かれましたね。」

ICT活用に手ごたえを得たおんせんキャンパスでは、一斉休校終了後、現在の教育支援センターの機能をアップデートする「オンラインフリースクール」の構築に取り組み始めました。

約半年間で、学年の履修範囲を終えた子も。
個別最適な学びの環境が、子どもたちの意欲を引き出す

おんせんキャンパスの「オンラインフリースクール」では現在、算数・数学の学習支援にAI型タブレット教材「Qubena(キュビナ)」を導入しています。キュビナでは、子どもの苦手やつまずきに合わせてAIが最適な問題を出題してくれます。

この教材の活用した学習支援では、「ラーニングコーチ」という存在が生徒の学びに伴走しています。

オンラインフリースクールの取り組みを開始して以来、ラーニングコーチの役割を担ってきた元インターン生の野々村。地元雲南市出身の彼は、大学で数学の教職免許を取得し、この4月から島根県の教員となります。

野々村:「おんせんキャンパスを利用する子どもたちのなかには、授業進度に遅れを取ってしまい教科学習に苦手意識を持っている子が少なくありません。一人一人のつまずきに応じた学習内容を提示することでその子のペースで学習に取り組めることは、AIドリルならではのメリットだと感じています。」

ラーニングコーチとして生徒からの質問に対応する野々村。ラーニングコーチ自身もPCとネットワーク環境があればどこからでも対応することがでるため、「特定教科の専門性を持ったスタッフが教育支援センターに常駐していなくても、遠隔で子どもの学びに寄り添うことができる」と語る。

ラーニングコーチとしての野々村の主な役割は、子どもたち一人一人に寄り添いながら学習計画づくりをサポートしたりアドバイスしたりすること。子どもたちが教材に取り組む様子を見守りつつ、必要に応じて解説なども行います。

野々村:「私が見ていたある中学生は、昨年の夏から数学のAIドリルに取り組み始めたのですが、今年の1月にはもう今の学年の履修範囲を終えてしまいました。自分のペースで、自分に合った難易度の問題に取り組めることで、目に見えて成果が出ることに驚きました。」

オンラインフリースクールでは、教科学習以外にも、子ども一人一人の興味関心に基づいた探究学習プログラムを行っています。

ある女子児童は、学校への別室登校と並行しておんせんキャンパスを利用しています。おんせんキャンパスでは彼女が興味を持つイラストやデザインの活動に、以前は常駐するスタッフがサポートする形で取り組んでいましたが、現在はオンライン学習プログラムとして別の場所にいる講師と繋ぎながら学んでいます。

オンライン学習プログラムで、音楽の講座を提供するボランティア

前出の池田は、「何か一つでも、学びたい・やってみたいということが見つかることで、子どもたちは少しずつ前に進んでいくことができます。」と語ります。

池田:「こういった体験学習プログラムがあることは子どもたちを自宅の外に誘い出すことにも有効。『○○があるからオンラインフリースクールに参加してみよう』『今日はおんせんキャンパスに行ってみよう』という行動に繋がります」

 

おんせんキャンパスのスタッフの日常的な役割は、利用する子どもたちの支援だけでなく、家庭訪問をして子どもたちと信頼関係を築きながら場に誘い出したり、家族や学校と子どもの支援方針を協議したりするなど多岐にわたります。

これらに加え子どもたちには、発達特性や学習進度、コミュニケーション力や家庭環境など、多様な背景があります。彼らに寄り添うために、現場のスタッフにだけ頼る状態ではリソースに限界があることは、おんせんキャンパス内でも課題として上がっていました。

オンラインフリースクールの試行により、「遠隔で行えるサポート」や、タブレット教材のように「機械の方が得意とするサポート」は、遠隔で関わることができるスタッフや機械に役割を移管することができるようになり、スタッフが「対面で直接行うべきサポート」に集中できる体制が作られつつあります。

不登校の子どもたちが
ひとり残らず学びの機会に繋がるために

コロナ禍を機に、カタリバでは「オンラインフリースクール」の他にも、自宅で過ごす子どもたちのためのオンラインの居場所「カタリバオンライン」や、経済的な事情を持つ家庭にPCやWi-Fiの貸与と学びをサポートする「キッカケプログラム」を開始しました。

それらの取り組みの中で出会った子どもや保護者の声を通して改めて、様々な理由から学校に通いづらいと感じている子どもたちが、全国に数多くいることに気づかされました。

個別最適な学習内容の提示や、遠く離れた人と繋がって学びを深めることができる「ICT活用の良いところ」と、子どもや家族への寄り添いや、その子に最適な学びの機会づくりなど「対面で人が行うべきこと」を組み合わせることで、より多くの子どもたちに学びを届けられるのではないか。

カタリバでは今、プロジェクトチームを立ち上げ「カタリバ オンラインフリースクール プラットフォーム」の設計に着手しています。

構想中の段階ではありますが、生活習慣を整えるために毎日決まった時間に行う「朝と夕方のホームルーム」や、ゲーム制作やデザインなどを数ヶ月に渡って深めていく探究学習、様々な国の人たちと出会いながら巡るオンライン世界旅行、職場体験、AIドリルでの教科学習など、多様なオンライン学習プログラムを配信する場(プラットフォーム)の開発を検討しています。

このような場をカタリバ内に留まらず、希望する全国の自治体や教育団体がともに活用できるようなプラットフォームとしていくことで、より多くの子どもたちに学びを届けていきたいと考えています。

 

(※)出典|文部科学省「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

Writer

本田 詩織 編集担当

1990年生まれ。 地方で育った経験から、学生時代より地域の魅力や課題を教育に繋げる取り組みに関心を持つ。民間企業2社を経て、2018年よりカタリバに参画。福島県立ふたば未来学園高等学校併設の「コラボスクール・双葉みらいラボ」において学校支援コーディネーターとしての勤務した後、2020年10月に福岡へ移住。現在は広報チームに所属し、カタリバマガジンの編集を担当する。

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