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「子どもを強く叱ってしまった……」不登校で親子が直面する問題と、前を向き始めたきっかけとは

vol.392

文部科学省の調査によると、小中学校において2023年度に30日以上欠席した子の数は約49万人(*1)で、10年連続で不登校長期欠席の人数が増加傾向となっています。さまざまな理由で学校に通うことが難しい子たちのために、「オンライン」という新たな選択肢が広がっています。

カタリバでは2021年より、メタバースを活用した不登校支援プログラム「room-K」をスタート。子どもと保護者の双方にオンラインの居場所を提供しています。

room-Kの活動を通して見えてきた実態の1つは、不登校は子どもだけではなく、保護者や家庭全体にもさまざまな影響をもたらす場合が多いという現実。それをどうサポートしていくのか、ある男の子のケースをご紹介します。

*1:令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)

不登校の子どもを1人にはできない。
休職し、自分を責めるようになったお母さん

今春に小学6年生になったヒロさんが、カタリバのメタバースを活用した不登校支援プログラム「room-K」に参加したのは、小学4年の秋のことでした。

小さい頃から、大切に思う友だちと強くつながることを求めるヒロさん。ただ、その気持ちがうまく伝わらなかったり、ときに人間関係のなかで戸惑いを感じたりする場面もありました。そうした経験を重ねるなかで、小学2年の夏頃から、学校に足が向きにくくなっていきました。

ヒロさんのお母さんは薬科大学で薬剤師の資格を取り、卒業後は製薬会社で活躍していた活発な女性でした。ヒロさんが生まれた後も仕事を続けていましたが、彼が不登校になったときに休職しました。

子どもが不登校で日中ずっと家にいる場合、お母さんかお父さんのどちらかが仕事を休まざるを得なくなります。これは、不登校のお子さんをもつ保護者の多くが直面する問題の1つです
そう話すのは、room-Kでヒロさん家族をサポートしている支援計画コーディネーターのナオさんです。

「特に低学年のお子さんがいるご家庭だと、お母さんが会社を辞めたり在宅でできる仕事に切り替えたりして、自身のキャリアや人間関係を手放したお話もよく伺います。そうして、家の中で子どもと2人きりで向き合う状況のなか、『自分の育て方が悪かったのだろうか』など、自分を責める方向へ気持ちが向いてしまう方も少なくありません。それがやがて、家庭全体のトラブルにつながることもよくあります」(ナオさん)

ヒロさんは母子家庭で、祖母と3人暮らし。お母さんは金銭的な不安を抱え、孤独な日々を過ごしていました。まじめで何事にも一生懸命なお母さんだからこそ、「自分がこの子をしっかり見なきゃ」という気持ちが大きくなり、ヒロさんを強く叱ったり、ときには手が出てしまうことも。それによって自己嫌悪になり、また自分を責めるというつらいスパイラルに陥っていたのです。

「子育てがしんどいです……」
お母さんから届いたSOSメッセージ

room-Kのサポートは、子どもに寄り添う伴走者である“メンター”と、ナオさんのように保護者の伴走を行い支援計画を立ててチームをリードする“支援計画コーディネーター”がチームを組んで行います。

メンターも支援計画コーディネーターも研修を受けた方が担い、なかには臨床心理士や社会福祉士などの専門的なバックグラウンドを持つ方もいます。
ナオさんも社会福祉士の資格を持ち、福祉関係の仕事に長年携わっていたため専門的な知識と経験があります。

そんなナオさんには、ヒロさんの家庭のサポートを始めて間もなく、お母さんから長文のメッセージが届くようになりました。そのほとんどが「ヒロと言い合いになってしまいました……」「強く叱ってしまいました……」など自分を責めるSOSの声でした。

「子どもを強く叱ってしまったときって、一緒に住んでいる家族にすらなかなか話せないものです。それを私に伝えるのには、とても勇気が必要だったと思います。
room-Kは子どもはもちろん、保護者ともナナメの関係を築けるところが強みの1つなので、『ヒロさんのことは私たちが様子を見ているから、お母さんはしっかり休んで』など、一歩踏みこんでお母さんのしんどさに寄り添うようにしました」(ナオさん)

同時に、まだ小学生で腹立ちやモヤモヤをうまく言葉にできないヒロさんには、毎日面談しているメンターが声色や表情を見つつ、「いつでも気にかけてるよ」「どんな話でも聞くよ」という姿勢を見せ続けることを意識しました。

さらに、ナオさんからヒロさんに「お母さんに言いたいことや伝えたいことがあるなら、私が伝えられるよ」「ヒロさんがやりたいことがあるなら、私からお母さんに交渉してみようか?」と声をかけるなど、2人の橋渡しとなるよう心がけたと言います。

私はお母さんに寄り添うのと同時に、支援計画コーディネーターとして『ヒロさんの成長のためにどうするのが一番いいか』を一緒に考えることを、常に軸として意識しています
気持ちに寄り添うだけでは解決しないことが現実にはたくさんあるので、ときには地域の相談機関や施設と連携したり、私がヒロさんの学校側と連絡をとったりするなど、リアルのネットワークとも連携しながらサポートを行います」(ナオさん)

ヒロさんに変化をもたらしたのは1つの“創作活動”。
そしてお母さんにも変化が

ナオさんたちがサポートを始めて10ヶ月、ヒロさんに変化が生まれました。
それは、room-Kのスタッフが企画したイベント「みんなで1つの大きな絵を描こう」にヒロさんが参加したのがきっかけでした。

「自分も貢献したいと言って、下書きを描き始めたんです。自分が書いた絵をみんなに見せて意見をもらったり、逆にみんなにアドバイスをしたり。とにかく夢中でやっていました」(ナオさん)

制作にハマったのは創作活動が好きだったことに加え、完成した作品をお母さんに見せて認めてもらいたいという気持ちもあったようだとナオさんは言います。

「作品が完成すると私に『この絵、お母さんに見せて』って連絡してくるんです。その様子がほほえましくて(笑)。
勉強が苦手だった彼にとって、絵での表現の仕方を考えることは学習の一歩になったと思いますし、何より他のお子さんとのコミュニケーションが以前よりも増えたことで、自分の気持ちを伝えることが上手になったと感じました」(ナオさん)

さらに、お母さんに怒られたときの様子も変わりました。以前は気持ちを言葉にできずイライラするだけだったのが、自分からroom-Kのメタバース空間に来て、「もうムカついてさぁ!」と気持ちを話すようになったのです。

「ここは安心して不満を吐き出してもいい場所だと思ってくれたことがうれしかったです。お母さんとの関係でも、『これは理不尽だと思うんだ』など年相応の反抗期も現れてきて、悩みながらもしっかり成長してくれていると思いました」(ナオさん)

創作活動を通して心が成長し、作品をお母さんやおばあちゃんに褒められることで少しずつ自信も生まれてきたヒロさん。昨年の夏から、なんと週1回の別室登校を頑張るようになりました。
さらに今年4月に6年生になってからは、朝1〜2時間だけ授業に出ることもできるように。

そんな彼を見てお母さんも前向きになり、今年5月から仕事に復帰。今は「忙しくて大変」と言いながらも楽しそうに笑うことが増えたそうです。

「オンラインによる不登校支援はまだスタートしたばかりですが、『地方か都会かといった地域性にかかわらず同じ支援が受けられる』『外出が難しい状況にあっても人とのかかわりを持つことができる』など、オンラインだからこそできることはたくさんあると実感しています。みんなが気づいていない可能性も多くあると思うので、room-Kで仲間と共に模索し続けたいと思っています」(ナオさん)


 

子どもが不登校になったとき、ほとんどの保護者はそれを誰に、どこに相談すればいいのかわからずに悩みます。でも、あきらめずに誰かに相談してほしいとナオさんは言います。

「相談できる先はroom-Kや学校だけでなく、地域それぞれにいろいろな役割の人や施設があります。
誰かに家族のデリケートな部分を話して『どうしたらいいのでしょう』と相談するというのはハードルが高いかもしれないですが、勇気を出して話していただけたら、キャッチして一緒に考えたいと思っている人は絶対にいます。そのことを、保護者の方々にぜひ心に止めておいていただけるとうれしいです」(ナオさん)

※個人の特定を避けるため、一部フィクションが含まれています

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Writer

かきの木のりみ 編集者/ライター

東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、編集プロダクション3社にて各種紙媒体の編集を担当。風讃社にて育児雑誌「ひよこクラブ」の副編集長を4年間担当後、ベネッセコーポレーションにてWebタイアップや通販サイトなどの企画、制作、運営に携わる。2011年より独立。

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