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中高生の居場所での小さな一歩の積み重ねが、「薬局×ユースセンター」という新たな夢へつながった[あのとき、居場所があったから。]

vol.414Interview

date

category #インタビュー

writer 北森 悦

2015年、文京区に誕生した中高生の秘密基地「b-lab」。ここではリビングのようにくつろいだり、友達とわいわい勉強したり、やりたいことに思い切り打ち込んだり、中高生が思い思いの時間を過ごすことができます。この連載では、かつてb-labで青春を過ごした中高生たちの「その後」をたどります。

今回登場するのは、現在、薬学部の3年生として学びながら、東京都国立市で中高生の居場所づくりに取り組む鈴木憲子(すずきのりこ)さん(以下、憲子さん)。高校生時代にb-labで何を見て、何を感じたのか。そしてその経験がどのようにして今の活動につながっているのかを伺いました。

想像していた “秘密基地” とは違う
中高生がキラキラして見えた居場所

——中学高校時代は、どのような学校生活を送り、将来の進路はどう思い描いていましたか?

ともにバスケットボール部に所属していて、放課後はほとんど部活でした。塾にも通っていたので、基本的に学校・塾・家を行き来する生活でしたね。

将来については、母が薬剤師だったこともあり、小学生の頃から「私も将来薬剤師になるんだろうなあ」と思っていたんです。高校生になってもその気持ちが続き、薬学部に進学することを決めました。

——憲子さんは、どのようなきっかけでb-labを知ったのですか?

初めて知ったのは、中学2年か3年のときです。突然友人から「 “中高生の秘密基地” って知ってる?」と聞かれたのが最初でした。「知らない」と答えると、友人は「そう」とだけ言って、どこかに行ってしまったんです(笑)。その場ではどんなところか聞き返すことができず、モヤモヤしたまま中学校を卒業してしまいました。

b-labを初めて訪れたのは、高校2年生になったときです。中学時代のバスケ部の友人と久々に会うことになり、何をするか検討する中で「中高生の秘密基地って知ってる?」と聞いたら「知ってるよ」と言ってくれて。一緒に行ってくれることになり、初めてb-labに足を踏み入れました。

——初めて訪れたとき、どのような印象を持ちましたか?

正直、想像と全く違っていました。「秘密基地」と聞いていたので、暗くて狭くて、男の子が勝手に作ったような大人のいない場所を想像していたんです。でも実際は、明るくきれいで、人もたくさんいて、大人もいる。「ここが秘密基地?」と、良い意味で期待を裏切られました。

——最初はどのような目的で通っていたのですか?

b-labでは勉強だけでなくゲームもできるし漫画も読めますが、自習する以外に何をしたらいいかわからなかったので、勉強目的で行くことが多かったですね。

b-labに来ている他の中高生たちが、スタッフとおしゃべりしていたり、一人で集中して漫画を読んでいたり――場に溶け込んでいる姿がキラキラして見えました。

私も勉強しているときにスタッフの方が話しかけてくれて、少しずつ馴染んでいけました。徐々にですが、自分からスタッフにわからない問題を聞きに行ったりするようにもなりましたね。

一歩のハードルが小さいから、
安心してチャレンジできた

——冬フェスや春フェスの実行委員も担当されていたんですよね?

高校2年生の冬に「本気で受験勉強しなきゃ」と思い、一度b-labに通わなくなったのですが、高校3年生の夏には推薦で大学が決まったので、再び足を運ぶようになったんです。そこからb-labでの過ごし方はかなり変わりました。

「b-labに通えるのは残り半年あまりだから、やりたいと思ったことはすべてやろう」と、少しでも興味のあるイベントに参加したり、積極的にスタッフと話したりしました。その流れで、冬フェスや春フェスの実行委員も担当しましたね。

——イベントの企画運営にも携わったことで、気づきや学びはありましたか?

携わる前から感じていましたが、b-labは「一歩のハードルが小さい場所」。それがとても良いと思います。

例えば、学校で文化祭実行委員になると、当たり前ですが責任」がつきまとい、なかなかチャレンジはしづらいように感じていました。でもb-labでは「やってみたい」と言えば「じゃあやってみる?」と、サラッと言ってもらえる。一方で、上手くいかないときは「少し休んでいいよ」と言ってくれる。一度言い出したら失敗できないというプレッシャーがなく、安心してチャレンジできました

それに「憲子ちゃんだから任せたい」と、私自身を信頼して任せてくれているのが伝わってきたのがとても嬉しかったですし、本当に良い経験になりました。

——小さな一歩を積み重ねたことで、今につながっていると思うことはありますか?

一つひとつのステップは小さいのですが、気づけばとても大きなことにつながっていて、自分に自信がつきました。例をあげると、文京区の「バリアフリーパートナー」に登録し、小学校の特別支援学級で発達障害のある子の見守りや支援をしていることです。

スタッフに「発達障害のある子に関わるボランティアをしてみたい」と話したところ、バリアフリーパートナーへの登録について紹介してもらえました。今までの私にとってはいきなり登録をするのはハードルが高かったですが、b-labで小さな挑戦を重ねていくうちに、「意外と大丈夫」「やってみたらどうにかなる」と思えるようになったからこそ、b-labの枠を超えて挑戦できたと思っています。

また大学生になってから、「クレヨン」という居場所づくりの団体を仲間と立ち上げることもできました。東京都国立市で月2回レンタルスペースを借り、中高生が自由に過ごせる居場所を開いています。

「薬局×ユースセンター」を。
背中を押してくれた居場所やスタッフの存在

——ご自身でも中高生の居場所づくりをされているんですね。

「クレヨン」の始まりも、b-labスタッフからの一言がきっかけでした。

受験が終わり再びb-labに通っていた時期に、b-labのような居場所づくりや教育分野へ強い興味が湧き始めて……「でも薬学部への進学は決まっているし、どうしよう……」とスタッフにぼそっとこぼしたら、「ユースセンターと薬局を掛け合わせて、どっちもやったらいいじゃん」と言われたんです。「その考え方があったか!」とハッとさせられました。

そして今、居場所づくりと「薬育(やくいく)」を掛け合わせた活動を進めているところです。近年、中高生のオーバードーズ(薬の過剰摂取)が問題になっています。薬学を学ぶ立場からするとやはり見逃せない課題で、正しい薬の服用方法などを教えていきたいと思っているので、将来的には「薬局×ユースセンター」という形を目指しています。

——b-labに通う中で、ユースセンターの意義を感じるようになったのですか?

それもありますが、大学生になってボランティアとしてb-labに戻ってきて、スタッフと同じ立場で中高生と関わるようになってから強く再認識したんです。卒業から1年半後に戻ってみると、私が利用者として通っていたときに同じように来ていたけれどまだ卒業していない子たちが、当時と比べて「すごく変わった」と感じる場面があったのです。

中高生たちからすると「遊ぶために来る」「楽しいから来る」場所だと思います。私自身もそうでした。しかし同時に知らず知らずのうちに何かしらの新たな視点や価値観に気づかされ、いつの間にか変化している。そんなb-labのような居場所には大きな価値があると思いました。

小さな挑戦を重ねた結果、大きな挑戦につながったお話はしましたが、他にも新たに気づかされたことがありました。

私があるときスタッフと何気なく会話しているときに「ダンスやりたいけど勇気ないなあ」とぽろっと言ったことを拾って、ダンスが好きな子を紹介してくれたんです。彼女とはとても馬が合い、毎日のように一緒に楽しく遊んでいました。1〜2カ月過ぎた頃、彼女が「実は私、不登校なんだ」と打ち明けてくれたんです。私はそれまで「不登校=暗い、家に引きこもっている」というイメージがありましたが、「不登校にもいろんな形があるんだ」と初めて気づかされました。

年齢や相手の背景がわからない状態で知り合うので、先入観なく人と接することができるのはb-labの価値だと思いますし、学校では学べないこと、経験できないことがユースセンターにはあると思います。そういった居場所がもっと増えることを願い、私自身も「クレヨン」の活動を進めていきたいと思います。


     

    薬学部の授業に部活と、忙しい大学生活を送られている中で、自らも中高生のための居場所づくりを進めている憲子さんの行動力に驚かされました。憲子さんが話されていたように、一歩目で「クレヨン」はできなかったかもしれません。ですが、b-labで小さな挑戦を積み重ねていたからこそ、大きな挑戦を「大きく」感じずできたのかもしれない。ユースセンターは中高生の自信を育み、可能性の芽を広げる場だと感じました。


     

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    Writer

    北森 悦 ライター

    2015年からインタビューライターとしての活動を始め、これまでに500名以上のインタビュー記事に携わってきた。現在はライターチームを束ね、Webメディアのインタビュー記事や、企業・団体のテキストコンテンツ制作など、聴くこと・書くことを軸に幅広く活動している。カタリバ内では、カタリバマガジンのインタビュー記事を担当。

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