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KATARIBA マガジン

「支えること」で変えていく。NPO経営に伴走するバックオフィスの挑戦。/Spotlight

vol.415Interview

date

category #スタッフ #インタビュー

writer 佐々木 正孝

Profile

田中 健次 Kenji Tanaka 経営管理本部ディレクター

1982年生まれ、東京都調布市出身。大学卒業後、自動車用品販売の会社に7年勤務し、経理担当として内部統制の導入や決算業務などに従事する。会計事務所に転職してからは不動産投資にかかる税務・会計やベンチャー企業の決算などを担当。プロボノをしていたNPOでの経験から、社会人がもっとNPOで働くことをモデルにしたいと思い、2015年5月より経営管理本部で働いている。

度重なる自然災害やコロナ禍など、昨今は社会全体、さらには子どもたちの置かれる環境に大きな影響を与える出来事も少なくない。

すべての10代が意欲と創造性を育める未来の当たり前を目指し、全国各地で活動を行っているカタリバ。
その現場では、状況の変化に合わせて取り組みの内容を柔軟に進化・変化させつつ、目の前の子どもたちに向き合っている。

シリーズ「Spotlight」では、現場最前線で活動するカタリバスタッフの声を通して、各現場のいま、そして描きたい未来に迫る。

大手自動車用品販売会社での経理業務、会計事務所での税務・会計支援など、民間企業で約10年間バックオフィス業務を経験してきた田中健次(たなか・けんじ)。2015年にカタリバへ入職以降、バックオフィスから組織を支えてきた。

現在は経営管理本部ディレクターとして、経理・労務・法務など管理部門全体のマネジメントを担いながら、NPOとしての持続可能な運営と組織ガバナンスの高度化に取り組む。
NPOにおいて経営管理の役割とは何か。民間との違いや難しさ、そしてNPOのバックオフィスの「あるべき姿」を聞いた。

自分の仕事が誰かの挑戦を支える。
その実感が新鮮でうれしかった

 

——大学卒業後、民間企業でキャリアを重ねてこられましたが、カタリバにはどのような思いから入職をされたのでしょう?

大学卒業後は自動車用品販売の会社で経理を7年担当し、その後、会計事務所に転職しました。
会計事務所のクライアントは主に海外の企業で、扱う金額は大きく、やりがいもありました。ただ、その分ハードワークで、帰宅はいつも終電間際。そんな働き方に違和感をもち始めていた頃、家事シェアに関するNPOのセミナーに参加したんです。

内容に強く共感して、プロボノとしてそのNPOの事務面の整備を手伝うことになりました。その経験を通して、社会人がスキルをNPOで活かすことの面白さややりがいを強く感じたんです。
「NPOを応援しまくりたい」と思うようになり、腰を据えて働けるNPOを探す中で出会ったのがカタリバでした。

私は高校時代、課外活動にも打ち込めず、どこかモヤモヤした気持ちで過ごしていたように思います。だから、10代に向き合う取り組みをしているカタリバを知ったとき、「自分も関われたら」と思ったのが応募のきっかけでした。

当時の募集はシステム担当のみだったのですが、「何かできることがあるかもしれない」と思って応募しました。すると「システム担当は決まったけど、経理なら空いているからやってみない?」と声をかけてもらい、入職が決まったんです。

——民間の事業会社からNPOへの転身で、戸惑いはありませんでしたか?

大きなギャップは感じませんでしたが、印象的だったのは、会議の終わりに必ず「たなけん(注:田中の愛称)、どう思う?」と聞かれることでした。

最初の1年くらいは、どんな会議でも「いや……すごいなって思いました」としか答えられなかったんです。話している内容も成果も、それを語る人たち自身も、すべてが本当に「すごい」と思えるものばかりでした。

私は教育現場の経験もなければ、NPOの内部のこともよくわかっていませんでした。わかるのは、企業や経理のことだけ。「自分が発言しても的外れなんじゃないか」とも思っていたんです。

「すごい」から脱却して、自分の意見を言えるようになったのは、2年目くらいだったでしょうか。環境に慣れてきたこともありますが、自分の積み重ねてきたことが力になる――そう感じられたことが大きかった。

あるとき、経理の経験から意見を出してみたら、現場のスタッフが「その見方は参考になります、すごく助かる」と言ってくれたんです。そのひと言が、転機になりました。

——そこで感じた手応えが、今の仕事の原動力にもなっているんですね。

そうですね。バックオフィスから“社会を良くしたい”と本気で取り組む人たちを支えることが、ただただ楽しかった。会計事務所でも、大きなお金を動かすことにやりがいを感じていましたが、それとはまったく違う種類の達成感でした。

数字では測れない“意義のある手触り感”というか――自分の仕事が、誰かの挑戦を支えることにつながっている。その実感が、とても新鮮でうれしかった。

そうして気づけば、入職から10年を超え、これまでで一番長く働く職場になりました。今は「NPOのバックオフィスでも、こんな働き方ができる」ということを、自分の姿を通して伝えていきたい。NPOの世界の楽しさを実感してもらえるような存在を目指しています。

何を価値基準に意思決定をするかが、民間企業との大きな違い

 

——カタリバの経営管理本部のディレクターとはどのような役割を担っているのか、部門の取り組みとあわせて教えてください。

ディレクターは、民間企業でいう部長のようなポジションです。現在、経営管理本部で扱っている業務は、経理、労務、法務、採用、人材戦略、ケアサポート、システム、総務、事業・財務モニタリングなど多岐にわたり、それぞれチームを組んで対応しています。

法務チームは、コロナ禍以降に急増した業務委託者への対応から生まれました。契約書の標準化や電子契約の導入が必要になったんです。
また、職員の心身を支えるために、労務の中に「ケアとサポート」に特化したチームもできました。

人材戦略も重要なパートです。カタリバでは、事業部に人材戦略担当がいて、「このプロジェクトにはこういう人が必要」という現場の声を聞きながら採用を進めていきます。
さらに、予算策定や実績管理、成果の取りまとめなどを担う「事業・財務モニタリング」も、事業部を後方から支える大切な役割です。

私が入職した当初は、経理・システム・労務くらいしかなかった部門ですが、今ではその規模も役割も大きく変わりました。必要に応じて、自然発生的に体制が進化してきたという感覚があります。

——民間で経理や会計に携わってきましたが、NPOのバックオフィスとはどんな違いがあると感じますか?

業務そのものは、実は民間とそれほど変わりません。会計ソフトへの入力、支払い処理、給与計算、勤怠管理など、どこでも共通している作業です。

ただ、根本的に異なるのは「何を価値基準に意思決定するか」です。民間では利益が最大の評価軸になりますが、NPOでは「たとえ赤字でも、社会的に意義があるなら続けるべきでは」という議論になります。利益よりも“意義”が重視されます。

ただ、その意義というのは、関わる人や立場によって解釈が異なります。「カタリバとして何を大事にするのか?」という問いに立ち返りながら、その都度考え続ける必要がある。そこに、この仕事ならではの面白さと難しさがあると感じています

そうした経験を重ねるうちに、民間で培ってきた“仕組みで支える”という発想が、実はNPOでも生きると実感しました。「これはルールとして整理した方がいい」「仕組みとして整えた方が回るな」と感じる場面が増えてきたんです。

数字を扱うだけではなく、組織そのものを健全に動かすための基盤づくり――そこに、自分の役割を見出すようになっていきました

——実際にはどのような整備に取り組まれているのでしょう?

最近の取り組みの1つが、「決裁権限」の整理と、それを支えるワークフローツールの導入です。
日々の稟議や申請、承認といった意思決定の流れを可視化し、記録として残すための仕組みで、まだ道半ばではありますが、将来的に組織の規模が今の倍になったとき、「この制度があってよかった」と思えるようなインフラになると感じています。

こうした制度整備は、外部監査や認定更新といった第三者によるチェックの際にも効果を発揮します。意思決定の流れが体系的に残ることで、組織としての透明性や説明責任をより確かなものにできるからです。

今後は、誰が・いつ・どんな意思決定を行ったのかがひと目でわかるようになり、より持続的な経営基盤が築かれていくはずです。少しずつではありますが、カタリバという組織の「骨組み」が強固になっていく――そんな手応えを感じています。

仕組みの先に「コミュニケーションを生む文化」をつくっていきたい

 

——ディレクターとして、今後経営管理部門で取り組んでいきたいことを教えてください。

今、経営管理本部では「ルール(制度)」「ツール(仕組み)」「ロール(役割)」の3つを柱に整備を進めています。その中で、まだ整いきっていないのが“ロール”です。

せっかくワークフローツールを導入しても、それがただの“押印システム”になってしまっては意味がない。私は、ワークフローは上司と部下が想いや判断を共有するための対話の場でもあると思っています。
だからこそ、仕組みの先に「コミュニケーションを生む文化」をつくっていきたいんです。

そしてもう1つが、スペシャリストとして入ってきてくれた人たちの“その先”をどう描けるかということです。
近年、専門性の高いメンバーがカタリバに来てくれることが増えています。その人たちが「ここでの経験をどう次につなげるのか」「どんなキャリアを描けるのか」という点で、道筋を示すことができたら

私自身は「NPOの運営を極めたい」と考えていますが、全員がそうである必要はありません。1つの専門に加えて別の領域にも深さをもつ、そんな複線的なキャリアのつくり方があってもいい。他のNPOを支援する側に回るようなキャリアも、とても面白いと思います。

そうした人材の循環を通じて、NPOセクター全体がもっと豊かになっていく。カタリバの経営管理部門がそのハブのような存在になれたら、と思っています。
ただ、現状ではスペシャリストとしてNPOに転職してくる人自体がまだ少ない。そういう人材がもっと増えて、NPOで働くという選択肢が“当たり前”になる社会になってほしいですね。

——その思いを踏まえて、カタリバのバックオフィスに興味を持っている方へ、メッセージをお願いします。

カタリバに関心を持ってくださった方には、ぜひ一度NPOの現場に触れてみてほしいと思っています。関わり方はさまざまです。本格的な転職でなくても、私のようにプロボノというかたちもあるでしょうし、本業の合間に“ちょっと関わってみる”だけでも、得られるものは大きいかもしれません。

関わってみて「自分に合っている」と思ったら、そのときに本格的に考えればいい。社会課題に本気で向き合う現場に触れるだけでも、きっと何かが変わるはずです。カタリバは、そんな“最初の一歩”を心から歓迎しています。気軽に、扉をたたいてみてください。


 

「今、個人的に一番気になっているテーマはAIなんです」と田中は語る。
「子どもとAIがどう関わっていくのか、どう住み分けていくのか、どう教育していくのか。これはきっと、まだ誰も正解を持っていない領域なんですよね」

正解のない問いを自ら立て、考え、試行錯誤を重ねていく。その姿勢は、カタリバの経営管理を担う彼の仕事にも通じていた。変化の時代に、自分たちの答えをつくり続ける。そこに、田中らしい挑戦がある。


 

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Writer

佐々木 正孝 ライター

秋田県出身。児童マンガ誌などでライターとして活動を開始し、学年誌で取材、マンガ原作を手がける。2012年に編集プロダクションのキッズファクトリーを設立。サステナビリティ経営やネイチャーポジティブ、リジェネラティブについて取材・執筆を続けている。

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