山崎エマ(映画監督)×今村久美が語る。わたしたちが想う教育のミライ[子どものいまとこれから会議]
Interview
子どもの"いまとこれから"会議 - Dialogue
2026年11月、カタリバは設立から25年を迎えます。 子どもや学校を取り巻く環境が大きく変化していく中で、私たち大人は、どのように子どもたちや教育と向き合っていくことができるのでしょうか。 いま教育に関わっている方々も、教育に関わっていない方々も、みんなで一緒に、子どもたちの「いま」をとらえ直し、「これから」について考えたい。 「子どものいまとこれから会議 - Dialogue」では、カタリバの25年間の活動を通して見えてきたことや国の会議で議論されていることを踏まえながら、カタリバ代表理事今村久美と、様々な業界の第一線で活躍する方々が、教育と子どもたちの未来について対談します。
山崎 エマ(やまざき・えま)
ドキュメンタリー監督。高校野球や小学校教育といった題材を通じ、独自の視点でドキュメンタリー制作を行う。短編作品『Instruments of a Beating Heart』は第97回米アカデミー賞の短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされ、国際的にも高い評価を得た。今村 久美(いまむら・くみ)
NPOカタリバ代表理事。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。東京大学経営協議会学外委員。朝日新聞パブリックエディター。
掃除や行事を通して「協力する」ことを学ぶ。
これは日本の教育ならではの良い部分
今村: 2024年12月に公開されたエマさんの監督作品『小学校〜それは小さな社会〜』を拝見し、日本独特ともいえる学校のシステムや教育について、改めて考えさせられました。教育現場をドキュメンタリーとして追いかけてきたエマさんと、教育のミライに関してぜひお話をしたいと思い、声を掛けさせていただきました。
山崎:ありがとうございます。私自身、大阪の公立小学校に6年間通い、その後、中・高校は神戸のインターナショナルスクール(以下、インター)に、大学からはアメリカに渡りました。
いろいろな文化やシステムに触れる中で、自分の強みみたいな部分は公立小学校時代に学んだ「責任感」や「勤勉さ」などに由来していることに気づいたんです。日本人としてのベースは小学校でつくられていると感じ、それをドキュメンタリー映画にしたいと思いました。
今村:エマさんのこれまでの活動や経歴を通して、日本の教育の大切にするべき点はどういう部分だと感じていらっしゃいますか?
山崎:私は大学進学で日本を出たくらい日本が嫌いだった時期もあるのですが、海外に出て改めて日本を見たとき、良いところもたくさんあると思いました。
日本の小学校では掃除や給食の配膳、行事などの特別活動(以下、特活)(※)を、係などを決めて子どもたちが自分でやる習慣を身につけさせられます。生活が教育の対象になっている点は、海外と比べるととてもユニークなシステムです。
今村:逆に言うと、海外ではお掃除の時間はないということですか?
山崎:ないところが多いです。この映画をフィンランドで公開したときも、「コミュニティの一員としてどうあるべきかを考えることが強調されている」という意見が多く寄せられました。欧米ではこれとは真逆で、「あなたは誰なの?」「何が得意で、何ができるの?」と、小さい頃から「個」を問われ続けますから。
どちらにもメリット・デメリットがありますが、全世界がコロナを経験し、自分だけ大丈夫でも生きていけないということを皆が実感したと思うんです。そんな中で、日本ではさまざまなタイプの先生や友だちと「皆で協力していく」ことを体験から学びます。これは日本の学校のとても良い部分だと思います。
今村:たしかに私も含めて日本人は、日本の教育しか受けていないので、比較ができないままに日本の教育は悪いと思っているところがあります。海外の視点は新たな気づきになりますし、私も映画を観て改めて共感した部分でもありました。
特活は折り合いを学ぶ機会であると同時に
連帯責任や同調圧力を生んでもいる
今村:現在、私は文部科学省が設置している中央教育審議会で、教育現場の課題や残すべきものなどについて議論しているのですが、前回の審議会では初めて、特別活動が取り上げられたんです。私も、特活こそが学校教育で子どもたちに残す価値のある部分ではないかと思っていたところです。
ただ、特活は規律を重んじつつ折り合うことを学ぶ大事な機会であると同時に、連帯責任や同調圧力を生んでいる側面もあります。そこがもっと改善されれば、多くの子どもが不登校になるような学校生活ではなくなると思うのですが、その点についてエマさんはどう思われますか?
山崎:たしかに不登校の子どもが増えている現実を考えると、日本の学校、とくに中・高校は「こうあるべき」という圧力がまだまだ強い面があると思います。ただその一方で、学校も変わってきているとも感じています。
今の学校では子どもたちの自主性や希望が尊重され、先生方はそれをサポートするシステムに変わってきています。私の小学校時代は、運動会の組体操の練習を、先生に怒鳴られながら汗と涙を流してやっていた感じでしたが、今は皆で揃えることが大事なのではなく、スタート地点よりも成長できたかという成績のつけ方になっています。
運動会の実行委員も生徒の立候補で決まったり、子ども同士のフィードバックの時間があったりするなど、小さな変化ですが進化だと思います。
今村:教育論を語り始めると、つい個の尊重と自由を重んじる教育か、集団の中で規律を重んじる教育かという二項対立が生まれがちですが、アウフヘーベン(矛盾や対立を否定しつつも保存し、次の段階へと昇華・発展させること)を考えなければいけない時期が来ているのかもしれません。それをどう進めて行くかは、私たち大人が考えるべき課題の1つですね。
学校と異なるルールや価値観もあることを
子どもたちに示すことはとても大切
今村:カタリバでは数年前から、校則をみんなで捉え直していく「ルールメイキング」という授業を進めています。コミュニティの中でのルールの前提になっているものを知り、対話を重ね、折り合うプロセスをみんなで経験していくというものです。
校則などのルールもまた、ある意味同調圧力や連帯責任につながりやすいものです。これまでの学校の「当たり前」を見直す経験をしてくださる先生方を増やす応援も、していきたいと思っています。
山崎: 私は小学校を卒業したとき、小学校でのルールが世界のルールだと思っていました。だから、インターに入学した日に掃除の時間がなくて、業者の方が放課後に掃除をしてくださっているのを見たとき、大きな衝撃を受けました。
下敷きがないと授業は受けられないと思っていたのに、インターでは下敷きを使わない子もたくさんいました。そのとき「小学校のルールが人生のすべてではない」と気づいたんです。
子どもは「学校が世界のすべて」と思いがちですが、それだと学校に行くのが辛くなったとき、すぐ追い詰められてしまいます。学校と異なるルールや価値観、やり方もあるということを子どもたちに示すのは、とても大切なことだと思います。
今村:学校のルールを実行するのは子どもたちですが、だからといって子どもの希望や主張通りのルールに変えるのは、やはり違います。それを、子どもだけでなく教育者も学ぶ必要があり、その点が難しい部分でもあるのですが、より良い方向に向かうお手伝いをこれからもしていきたいと思っています。
山崎:私の3歳の息子は現在日本の保育園に通っていて、小学校も日本の公立小学校に入れたいと考えています。そこで彼に一番学んでほしいと思っているのは「人と関わること」です。しかも、なるべく多くの、いろいろなタイプの人たちと関わること。
そこではいろいろなルール、意見に出会うでしょう。自分と意見が違う人も出てくるでしょうし、苦手な先生や大好きな先生もできるはずです。そういう中で体験的に学んでいけるところは、学校の良い部分であり、大切にしたいところだと感じます。
学校を再び「人と良い関わり方を学べる場所」にしていくために
今村:今は防犯カメラやSNSなどにより、学校での先生たちの言動が可視化されやすくなりました。それが現場の改善につながっている一方で、先生に完璧なものを求める風潮を強めているようにも思います。この状況に対してはどう思われますか?
山崎:私も親になって、我が子のこととなると今までにない感情が生まれることを知りましたが、それでも現代は先生に求め過ぎていると感じています。
学校や先生方は、限られた時間とリソースの中で精一杯やっています。その中で取りこぼしがあったとき、ただ学校や先生を責めるのではなく、子どもの帰宅後や夏休みなどに足りない部分を埋めたり、学校とは異なる体験をさせたりして、「家庭が補う」というスタンスが必要だと思います。
我が子を教える先生方には、ある程度自信と余裕をもってほしいですし、「子どもに触れ合ってほしい大人」でいてほしい。そのために親や社会ができることを考えるのは、大人の責任だと思うんです。
今村:詩人で童話作家の宮沢賢治は教師としても活躍した人で、彼の時代は、先生が宿直しているところに地域の保護者の方々が煮物やお酒を持って訪れ、夜遅くまで一緒に語り合ったそうです。しかし最近は、先生方が保護者からの訴訟に備えなければいけないような関係性が増えてきています。
学校というところは、新卒者に担任をさせながら、一人前の先生に育てていきます。同時に親も、子どもと一緒に親1年生から始め、だんだん親へと成長していきます。本来は一緒にワイワイしながら子どもを育てていくコミュニティであるはずです。それが失われてきている今だからこそ、もう一度コミュニティと言える人間関係に立ち戻ることが必要かもしれません。
山崎:今は人を信じることが難しくなってる時代ですが、次世代を担う子どもたちがそれを見て学んでいくということを考えると、学校や先生と親が敵対することが良いはずありません。子どもたちのため、彼らの未来のために、人間同士としての対話が大事だと感じます。
今村:先生たちが保護者の方々から信用してもらえている、信じ合えていると感じられることは、先生や学校に余裕と余白を生むことにつながります。それが結果的に、学校が子どもたちにとって「コミュニティの一員として人とどう関わるかの良い学びができる場所」に、もう一度戻れることにつながるのかもしれません。
今日はお話できて本当にうれしかったです。ありがとうございました。
山崎:ありがとうございました。
※特別活動とは、学級活動、児童会・生徒会活動、クラブ活動 および学校行事の4つを指し、集団生活や体験活動を通して社会性、自主性、協調性などを育み、望ましい人間関係形成や自己実現を促す教育活動
かきの木のりみ 編集者/ライター
東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、編集プロダクション3社にて各種紙媒体の編集を担当。風讃社にて育児雑誌「ひよこクラブ」の副編集長を4年間担当後、ベネッセコーポレーションにてWebタイアップや通販サイトなどの企画、制作、運営に携わる。2011年より独立。
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