「探究は自分の未来をつくる」高校生が挑んだ“長崎のアオリイカ”プロジェクト[マイプロジェクトアワード受賞者×伴走者インタビュー]

2013年に12プロジェクト・18名の高校生から始まった「全国高校生マイプロジェクトアワード」。10年後の2023年には、約10万人の高校生が地域や身の回りの課題、自分の関心を起点に社会へアクションを起こしました。
2025年3月「全国高校生マイプロジェクトアワード2024 全国Summit」には、日本各地で開催される「地域Summit」から選出された48プロジェクトが集結。互いの実践に刺激を受け、次の一歩を考える場となりました。
今回は、文部科学大臣賞とマイプロジェクトアワード特別賞を受賞した「長崎のアオリイカ」プロジェクトに注目。長崎南山高校2年の赤木 来羽(あかぎ らう)さんと、探究活動に伴走してきた田中 孟(たなか はじめ)先生に、活動を通じて得た学びや成長について伺いました。
小学生から始めた“釣り”が探究の原点に
──赤木さんが取り組む「長崎のアオリイカ」プロジェクトは、長崎でアオリイカの養殖を成功させ、ブランド化によって漁業の活性化と海の環境問題への意識を高めることを目指しています。総合的な探究の時間を中心に、地域のさまざまな人と関わりながら取り組みを進めてきたと思いますが、どのように探究テーマと出会ったのでしょうか。
赤木さん:漁師をしていた祖父の影響で、海に関心を持つようになりました。小学生の頃からイカ釣りを始めたんですが、急に釣れなくなる時期があることに気がついて。調べてみると、地球温暖化や磯焼けといった環境問題が原因であると知りました。そこから、イカの養殖に関心を持つようになったんです。
中学時代から本格的に「イカの養殖」について調べ始め、環境に害を与えずに、持続的に定量のイカを入手するには養殖するしかないと思いました。中学校3年生の時に沖縄の大学が初めてイカの養殖に成功したんですが、コストが高くまだ売る段階には至っていないと知り、高校では「養殖したイカを高値で売る」ことをテーマに探究することにしました。
田中先生:探究のテーマ設定では、まず“生徒が何に関心を持っているのか”を大事にしています。本校では1年生の時にWill(これからやりたいこと)を発掘するために、生徒は自分の原体験を振り返ります。さらに起業家を招いて、チャレンジ精神や社会とのつながりを考える授業も展開しています。
大切なのは、“これから先どう生きていきたいか”を生徒自身が考えること。探究とその先の道が一緒であればいいな、という願いもあります。特に1年次には、放課後や昼休みなど時間を見つけては1対1での対話を繰り返していました。赤木とは本当にたくさん対話をしましたね。
マイプロジェクトの発表をする赤木さん
“とりあえずやってみる”が探究を前に進める一歩に
──プロジェクトはどのように進めたのでしょうか。
赤木さん:探究を進めていく中で、長崎は海産物が豊富ですが、マーケティングに課題があることを知りました。「養殖イカを高値で売る」ためには、ブランド化が必須です。まずはブランド化の勉強のために、磯焼けの原因と言われている“アイゴ”と“松葉貝”を使った「バリうまかよ まつ天」という長崎らしい練製品を開発することにしました。
漁業組合の方や漁師さん、大学の先生や大学院生、かまぼこ屋さん、デザイン会社さんやテレビ局、新聞社、旅館、役所など……。プロジェクトを進めていく上で、数え切れないほどの人にお世話になりました。自分でWebサイトで調べて、片っ端から電話をして会いに行きました。
特に杉永蒲鉾さんは、かまぼこのことを何も知らない中で、おいしいものを作れるまで最後まで協力してくれて。初めてお会いしたときは、高校生が一人で工場に来たことに驚きつつも「やってみようか」と言ってくれたんです。
田中先生:「とりあえず1回地域の人に会いに行ってみる」とか、「途中でも良いからとりあえず1回教員に資料を見せる」とか、生徒たちには“とりあえず”という気持ちを持って欲しいと思っています。小さな一歩から振り返り、また次の行動につなげて……というサイクルを回していくことを意識しています。
生徒たちが興味を持っていることに関して、教員はほぼ素人に近いので、違う視点での見方を提供したり、一緒に悩むことも日常的にしていますね。生徒たちよりも僕の方が日常生活でニュースなどにアンテナを張っているかもしれないです(笑)。
かまぼこ工場の方のお話を聞く赤木さん
──プロジェクトを進める上でぶつかった壁と、その乗り越え方も教えてください。
赤木さん:プロジェクトの中で最も苦労したのは、かまぼこの材料集めとスケジュール管理です。アイゴも松葉貝も市場に出回らないため入手が困難で、商品化のためには一定の量も必要でした。自分で海に潜ったりもしましたが、なかなか捕獲ができず、一軒一軒漁港に電話をしてなんとか手に入れることができました。
スケジュール管理は、協力していただいたかまぼこ工場が使える日が限られていたことと、新鮮でないと臭くなってしまうアイゴを加工するタイミングを合わせることに苦労しました。かまぼこ工場や加工所の方に助けていただき、なんとか逆算して日程を組むことができたんです。
田中先生:赤木がうまくいった理由としては、本人が「別に断られてもいいや」とどんどん電話をかけるなどの行動をしたことが大きいと思います。
赤木さん:材料集めのために何回も電話をかけて、断られて……を繰り返している時に、田中先生に「数打って当たればいいやん」と励ましてもらった一言が、一番心に残っています。
田中先生の存在は“神”ですね(笑)。
赤木さんと田中先生のツーショット
高校時代の探究活動が、未来の可能性を広げる
──プロジェクトを通しての学びや成長について教えてください。
赤木さん:行動力が上がったと思います。
以前は「断られたらどうしよう」「相手にされなかったらどうしよう」と考えて行動に移せなかったのですが、とりあえずやってみて、断られたら次に行こうと考え、飛び込めるようになりました。
このプロジェクトとは関係ないのですが、高校1年生の時に校外のプログラムに参加して、かなり悔しい思いをしました。あのとき、自分にできることがあったのに、それができなかった……という反省があって。今でもその悔しさは鮮明に覚えています。その原因は、自分の中にある“めんどくさい”という気持ちだと気づいたので、このプロジェクトでは、めんどくさいと思ったことでも頑張ろうと意識しました。
田中先生:赤木は、悔しさのような“逆境”から火がついて行動が加速するところがありますね。断られても「悔しい、見返したい」と言っていましたから。
成長という点では、人前で話をするのがすごく上手になったと思います。言葉数は少ないですけれど、自分の意見を自信を持って話せるようになりました。
全国高校生マイプロジェクトアワード全国Summitで堂々と発表する赤木さん
──今後の進路に活かしたいことがあれば教えてください。
赤木さん:全てを活かしたいと思っています。
私は将来社長になって、長崎で養殖したイカを新鮮なまま国内や海外に販売すること、そして長崎のイカをブランド化することで長崎の経済発展に貢献できたらなと思っています。
探究活動と将来やりたいことが完全に一致しているので、今回学んだ全てのことを活かして、夢のために頑張っていきます。
──これから探究活動・マイプロジェクトに取り組む高校生・先生方へのメッセージをお願いします。
赤木さん:高校時代の探究活動は自分の可能性を広げ、成長させてくれるものだと思います。
自分が学びたいことを見つけ、深められるし、違和感を覚えれば別の分野に移ってまたチャレンジすればいい。高校卒業後やその先をイメージしながら、生き生きと学ぶことができるのが探究です。自分を信じて、自分を愛して、コツコツ頑張ってください。
田中先生:探究活動は確かに大変ではあるんですが、教員も楽しみながら関わることが一番ですよね。探究の魅力の一つは、生徒の成長が見えるところ。偏差値では測れない、一人の人間としての成長が見られることが魅力です。もう一つは、自分も知らない世界を開いてくれるところ。生徒のおかげで、知的好奇心がくすぐられる経験を何度もしています。
探究活動はカリキュラムに組み込まれていて、否応なくやらなきゃいけない。だったら、先生方にも楽しんでもらえたらなと思います。
サポーターにコメントをもらう赤木さん
何度も笑い合いながら、ときに軽やかにツッコミを交わしてインタビューに答えてくれた赤木さんと田中先生。そのやりとりからは、日々の対話からくる深い信頼関係が伝わってきました。
「探究活動と将来やりたいことが完全に一致している」という赤木さんの言葉は、探究の意義そのもの。全国の高校生や先生が、自らの問いと未来を信じ、歩んでいく姿を応援したくなる取材となりました。
-文:宮木慧美
■全国高校生マイプロジェクトアワード2024全国Summit アーカイブ動画公開中
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