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「教員にとって絶好の探究機会」withコロナ時代の教員像 #01

vol.151Interview

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category #インタビュー

writer 和田 果樹

数ヶ月前までは、誰も予想していなかった新年度が始まった。高校生という多感な世代が、当たり前の日常を突然奪われたショックは、大人の立場からでは想像しきれない。学校や教育を取り巻く状況が一変し、高校生を最前線で支える教職員たちも急ピッチで対応を迫られた。学校は再開したが、第二波はいつくるか分からない。見通しのつかない日々に大きな不安を感じている教育関係者は多い。そんな中、全国各地で高校生たちが立ち上がり始めた。環境のせいにせず、あるときはむしろそれを逆手にとって、出会いや知識の枝を伸ばし、各々の「マイプロジェクト」を発展させていく高校生たち。また同時に、高校生の可能性を信じ、背中を押すために動き出した教職員たちの姿もある。この状況をむしろ日本の教育をよりよく変化させるチャンスと捉え、積極的に新しいことにチャレンジをしていく人々。また、改めて学校の意味や価値を問い直し、内部から組織を変えようと奮闘している人々もいる。

コロナ禍に新しい学びに挑戦するいろいろな人々にスポットを当て、彼ら彼女らへのインタビューから、全国各地で生まれ育ちつつある、多様な未来の学びの形を探っていくwithコロナシリーズ。

withコロナ時代の教員像 #01

キャリア教育と探究をカリキュラムの柱とし、これからの社会を生きていく「コア」となる力の育成に向け先進的な実践を重ねてきた立命館宇治中学校・高校。その中で、数学科の教諭として働くのみならず、2013年から自校のキャリア教育の取り組みを先導し、コア科目として探究活動を積極的に進めてきたのが酒井淳平先生だ。

コロナ禍による教育現場の混乱をどのように乗り越えてきたのか、制約の中でどんな取り組みを行ったか、また、教員としてこれからのwithコロナの時代をどのように捉えているか、お話を伺った。

今回お話を伺った立命館宇治中学校・高校の酒井淳平先生

一斉休校で立ち返った原点

酒井先生、よろしくお願いします。
まずは、一斉休校になった時のことについて聞かせてください。

2月末に一斉休校となってから、zoomで出欠をとったり授業動画を配信したりと、本校でもICTの活用は進み始めました。最初は驚きと混乱でいっぱいいっぱいでしたが、教員みんなで一緒に試行錯誤できたことは財産ですし、オンラインの可能性を感じた期間でもありました。

一方で、カリキュラムを進める上で授業をしたり知識を伝える点では、プロによって配信されているオンライン授業など、既に優秀なコンテンツが沢山あることにも気づき始めたのです。

教師の身としては、やはり「自分が教えたい」という気持ちがどうしても先行するのですが、果たして今、本当にそれが求められているのか。その問いが改めて突きつけられ、各教員が「教員に求められている役割は何か」、改めて自問する機会になったと思います。

考えていく中で行きついたのは「普段生徒と長く接しているからこそ、誰よりも個々の生徒のことを知っている。」という原点。優れた教育コンテンツの作り手は他にもいるけれど、一人ひとりの生徒の特性を知り、関わって伴走するということは自分たちだからこそ出来ると、改めて立ち返ることが出来たんです。

例えば私が担当する数学科では、教員が授業動画をとって流すのではなく、あらかじめ生徒に教科書を読んで来てもらい、生徒がつまずきそうな箇所をあらかじめ予測して解説する、という流れで進めています。それも、日々の生徒への見取りを行っていたからこそできていることです。

校内を巻き込んだ、
学びを止めないための取り組み

授業の実施以外にも、休校期間中に新しく始めた取組みがあると聞きました。

長く続く休校期間中、「学びを止めないための取り組み」として校内で始めたのが、「時間の使い方コンテスト」です。休校期間 で自由な時間が多くある中、それぞれがどう自分自身の興味のあることに取り組んでいるかを募集し、意欲的に活動している子には表彰をするというものです。

この取り組みを始めようと考えたきっかけが、高校生みらいラボの場などで、事前に繋がっていた地域の大人と活動している生徒の存在です。そういった、「この状況でもアクションしている意欲的な生徒」の後押しをしたいという思いで始めました。例えば、ある生徒は仲間とテレワーク演奏した様子を多くの人に届けたくて、学校のHP上に掲載できないかと相談してくれたのですが、特定の生徒だけにそれを認めるのは組織的に難しい部分もありますよね。そこで、学校ぐるみで自由な時間の取り組みを後押しするというコンテストを企画することで、そうした活動を公にサポートすることも可能になりました。

他にも、オープンスクールの案内担当をしていた生徒が、オンラインで対応が出来ないかと取り組んでくれたり、こうした時期でも学校のことを考えてくれている生徒もいて嬉しかったです。そうやって自分から手を上げ始める生徒が出てくるのは、いい兆しだな、と感じましたね。

教育現場は
これまで生徒に与えすぎていた

コロナ禍で酒井先生が教育や教員の役割について感じたことについて教えてください。

コロナの影響を踏まえて強く感じるのは、「教育現場はこれまで生徒に与えすぎていたのでは」ということ。

休校期間の間、誰に指示されたわけでもなく、この状況下でも自ら動いていける生徒たち。その姿を改めて目の当たりにしたことで、生徒への課題の出し方や関わり方については、大いに考え直す余地ができたように感じます。

教員の性としては生徒にあれもこれもと与えたくなるものですが、そんなことをしなくたっていい。100を与えて生徒を縛り付けるのではなく、自走を促す存在へと、教員の役割がシフトしていくのではないかと思っています。先に述べたような取り組みもその一つです。自走する生徒が応援される空気を作ることで、自ら行動を起こしやすくなる生徒もいるはずですから。

とはいえ、ただ生徒をそのままにしておけば、積極的な子とそうでない子の差は開いていく。なので、生徒に応じて、ヒントやきっかけを与えたり、やってない子に促しをしたりするというバランスが大事で、そのさじ加減を考えるのも教員の仕事だと思います。

本校はカリキュラムの中で「探究」を核に置いていますが、本来「探究が出来ている状態」とは、こうした時期においても何も言われなくても学んでいる状態。

もちろん学校として探究はこの制約の中でも進めていますし、生徒にはその時間も大事にはして欲しい。ですが、それよりも今は自ら学べる余白の多いこの時間を何に使うのか、しっかり考える時間にしてもらいたいですね。

withコロナで生まれた変化の中で
改めて「探究」をどう捉えるか

コロナ禍の経験が探究のあり方や進め方に与える影響はどうでしょうか。

これまで教員として取り組んできた探究活動では、「探究のための探究」ではなく、あくまでキャリア教育を一つの軸とし、「社会の変動に適応し、自ら学ぶ」学習者を育むことをゴールに据えてきました。

生徒たちに対しても、何度も「君たちはこれから予測不能な社会を生きていくんだ」などと言ってきましたが、実際にこれだけ短い間に、私たちが生きる社会は一変してしまった。

教員も含め、そういう社会に自分たちは生きているんだ、ということを痛感させられました。誰もが肌で感じたこの大きな揺らぎこそが、なにより「社会の変動に適応し、自ら学ぶ」力を育むフィールドになると感じます。

コロナによって生じた経済・社会・環境などの変化や様々な社会課題は、もちろんそれ自体が探究テーマそのものになり得るものです。ですが、それがあくまで自分の人生と関係がない、外側にあるままなのでは学ぶ意味がない。

探究とキャリアは不可分です。探究活動を通し、社会の大きな変動と自身の生き方・あり方を結びつけて、生徒自身が「こんな時代だからこそ、自分はどう生きるのか」を問い続けられることが最も重要なのではないでしょうか。

教員としてこの状況下でどんなサポートをしていくか、私たちも改めて探究していきたいと思っています。


 

コロナ禍という逆境を機に改めて教員の役割を捉えなおし、教員と生徒との関わりの重要性を再認識する。混乱の中でも、立命館宇治で生徒の学びを後押しする新たな取り組みが可能になったのは、この『捉えなおし』という前提があったからであろう。

生徒の自走を促すこと、社会と自身の結びつきの中で探究を深めさせること。これまで以上に個別性の求められる、高度な関わりであることには違いないが、日常を共にし、個々の生徒をよく知る教員だからこそ、そんな役割が求められてくるのかもしれない。

いずれにせよ、教員の力のかけどころはこれまでと変わってくるに違いない、と酒井先生は言う。

なにより、予期せぬ事態に即して自身の役割や意義を臆せず問いなおし、新たな課題に向かって探究していく教師の背中を、生徒たちはきっと見ているに違いない。酒井先生のお話を聞いて、筆者はそう感じずにはいられなかった。

最後に、全国の先生方へのメッセージを伺ってみたところ、酒井先生はこう答えてくれた。

「大きな変化はチャンス!と言いたいところですが、今後どんな状況になるか、全く分からない。先の見えない状況では、その時々の最適解を探していくしかありません。でも、私たち教員には長い学校生活の多くの時間を生徒と共有し、生徒の思いに寄り添える立場であるという強みがあります。今こそ生徒や、彼らを取り巻く社会に改めて目を向けられる、教員にとって絶好の探究の機会ではないでしょうか」

取材・文=馬場 千寿
編集=和田 果樹

若新雄純×苫野一徳×神野元基×今村久美
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withコロナの中で生じた、様々な教育現場の変化。これまでの教育で当たり前とされてきた固定観念を「ゆる」めながら、今だからこそ創っていける学びのあり方について、みんなで考えたい。そんな思いから、オンラインゼミ「ゆるいエデュケーションラボ」を立ち上げました。ぜひこの機会にご参加ください。申込みはこちらから

Writer

和田 果樹 全国高校生マイプロジェクト事務局

1990年10月8日生まれ。兵庫県出身。小樽商科大学卒。大学院で教育心理学を学んだ後、新卒でカタリバ入社し、コラボ・スクール大槌臨学舎に配属。現在は全国高校生マイプロジェクト事務局を担当。座右の銘は「中道は大道」

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