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KATARIBA マガジン

現役官僚として日本の教育を支える野崎の原点。カタリバ実践型インターンとしての1年間。

vol.076Interview
Profile

野崎 光寿 Nozaki Mitsutoshi NPOカタリバ 実践型インターン

東京大学での学部時代はラクロスで日本一を目指しながら、教育関係の活動にも熱心に取り組み、自身の教育観を磨いてきた。大学院に進学し、なんとなく文科省をキャリアとして考えていた矢先、3週間の泊まり込みの教育実習で、自身の想像を超える背景をもつ生徒と出会う。目の前の子どもに対する想像力の弱さを痛感した野崎は、現場での実践経験を積みたいと考え、カタリバの実践型インターンシッププログラム(日本が抱える様々な社会課題に対して、「教育」という角度から1年間本気でコミットする、学生向けのプログラム)に参加。復興・創生に挑戦する福島で1年間走り続けた野崎が得たものとは?

このままでは文科省に行けない。
理論で教育を理解した気になっていた野崎が
現場に出る決断をした、カタリバとの出会い。

2018年に文部科学省に入省し、いま度々ニュースでも取り上げられ、社会的に注目を集める「教員の働き方改革」の推進を担当している野崎さん。東京大学の大学院をわざわざ1年休学して実践型インターンシッププログラムに参加していますね。野崎さんをそこまで動かした理由はなんだったんですか?

大学院1年生の夏、卒業したら文部科学省に行こうかなーと軽い気持ちで考えていました。ところが、3週間の教育実習に参加したときに、実際にいろいろな背景をもった「生の」生徒と接して、自分の足りなさというか、目の前の子どもが抱えるものや過ごしてきた背景を想像する力の弱さに気づく出来事があったんです。

もしかして自分は教育現場のことを何もわかっちゃいないのではないか。このままの自分が文科省に行っても、本当に必要なことを何も実現できない「頭でっかち」になってしまうのではないか。学部でも、大学院でも教育を勉強し、ある程度理論も実践もかじって自信がつきはじめていた頃だったので、なおさら自分のおごりや足りていない部分に気づき、このままでは文科省に行けない、と強く思いました。

自分の中にモヤモヤしたものがたくさん残った教育実習だったんですけど、そんな時参加したある教育シンポジウムで、カタリバの代表理事の今村久美さんと出会いました。今村さんは、「マイプロジェクト」(中高生が自分の関心を軸にテーマを設定し、地域や社会の課題解決に向けて実行していく実践型探究学習)に取り組んだ高校生たちを連れてきていて、僕は彼らが取り組んだプロジェクトの発表を聞いたんです。

そしたらそれがすごかった。それまでの僕は、教科に閉じた教育にしかアンテナがなかったんですけど、そのプレゼンを聞いて、教科横断的に深い学びを体験している彼らに驚きました。こんなに地域にどっぷり浸かって、教科にとらわれず自分でテーマを見つけて、やりたいプランを立てて取り組んでいる。失敗したり成功したりして、たくさん学んでいる。その学びをこんなにイキイキと語る高校生がいるんだって衝撃を受けました。こんな取り組みをしているカタリバって何だ?!と思い、調べ始めました。

カタリバの「実践型教育インターンシッププログラム」という、学生でも現場での実践経験を積める取り組みがあると知り、すぐに説明会に参加しました。説明会が終わった後、人生で初めて体がしびれるような感覚になって、自分が今まで教育の中で感じていたモヤモヤをことごとく言葉にしてもらったような充実感と「次の1年はここに人生かけてみたい」という直感でぞくぞくしました。

現場での経験が積める。当時、自分は勉強はできるかもしれないけど何をやりたいかわからない、教育に対して突き動かされるような原体験がつめていないということにも焦っていました。だから、このカタリバのプログラムは今の自分に足りないものや弱い部分を真正面から成長させてくれる「最適なまわり道」なんじゃないかと思ったんです。そこで、1年間休学してプログラムに参加することを決めました。

 

2017年4月から福島での実践型教育インターンシッププログラムが始まりましたね。はじめはどんな気持ちでしたか?

4月に赴任した時は、僕の配属先は立ち上げ期で、名前も「福島コラボ・スクール(仮)」という状態。自分の仕事内容や生活もよくわからない。でも、不思議と不安はなく、新しいチャレンジをして自分の何が変わるだろう、というわくわくに満ちていました。

実際に始まってみると、まずはプレハブの校舎を建てる予定の土地の測量(笑)をしました。それから2トントラックを運転して物品を運ぶとか、自分にできることはなんでもやりました。最初は本当に探り探りで、構想も簡単なものしかなくて、みらいラボ(学校併設の放課後施設)の設計図は、学習スペースと探究スペースがある、以上、という感じで。

そんな中で、みらいラボをどんな学びの場所と居場所にするか考え、設計するチャンスをもらいました。どうしたら、子どもたちが安心できる居場所としての機能と、自立して学んでいけるような学びのスペースが共存できるか。すでにカタリバが運営しているいろいろな拠点の放課後施設から学び、それぞれのエッセンスを全部取り込んだ場所にしたいなと思ったんです。

まだ実際に自分の目で見たことのなかったカタリバの拠点、b-lab(文京区)に行きたかったので、「絶対見てきたことを活かしますから!」と当時の上長に交渉して、福島から東京へ見に行きました。こんな風に、考えたことややってみたいことを、実践型インターンという立場関係なく承認してもらえたことはとても嬉しかったです。活動の面白さに、どんどんのめりこんでいきました。

立ち上げ後のみらいラボで高校生と向き合う、インターン当時の野崎

自分の仕事に決まった形はない。
いかに創造し、オーナーシップを持ち続けられるかが鍵。

活動のおもしろさにどんどんのめり込んでいった様子が伝わってきました。逆に、1年間を振り返って、失敗や後悔していることはありますか?

そうですね…。失敗というか、後悔というか、自分の人生をかけて考えていきたいできごとがありました。

僕が活動している間に学校を退学した生徒がいました。理由は家庭の事情など色々あったようなんですけど、当然、学校を辞めたらその子には会えなくなってしまった。学校を辞めてしまうと、どうしても僕らのような立場の人間は関われなくなってしまうんですよね。

学校に来る子どもたちの課題解決にはスポットが当たりやすいけど、学校に来ない子どもたちにはスポットが当たりにくいし、当てにくい。でもそこに手をいれていかないと救えない子どもたちがいる。

じゃあどうしたらいいか。「学校」を狭く考えるのではなくて、社会や地域全体で子どもたちを応援するべきなんじゃないか、みんなで支えあえる学校を目指すべきなんじゃないかという視点を強く意識し始めました。それを実現するためには、社会全体の仕組みを変える必要がある。大きいところから変えていきたい。

このことをきっかけに、「なんとなく」ではなく「本気で」文科省の道に進みたいと思いました。実践型インターンに参加して現場に出ていなかったら、理論で自分のキャリアを語ることはできたとしても、こんなふうに自分の熱をもって決めていくことはできなかったと思います。

 

将来やりたいことを見つけながら、活動に取り組んでいた野崎さん。実践型インターンでのやりがいはなんでしたか?

ゼロからつくること、ですかね。何しろ新しい拠点の立ち上げだったので、すべてが創造的。自分がオーナーシップをもって提案して、取り組んで、実際に生徒が成長したり変わったな、と思える瞬間はとてもやりがいでした。

例えば、僕も設計に携わった、みらいラボ内の「地域協働スペース」は、高校生にとって児童館と公民館を足して2で割ってさらにイケてるスペースにしたい、という僕なりのイメージがありました。大学生や留学生がたまにふらっと遊びにきて、多様性にあふれているような。そのイメージを上長に話したら、どんどん具体化していいと許可をもらいました。

大学生や留学生をいつまでに何人呼ぶ、と自分で目標設定をして、コンセプトや実施までの道のりを考えたり。自由に遣えるお金は少ない条件の中だったので、来てくれる大学生や留学生に交通費は出せない。代わりに、地方の高校生と関われるとか、高校生が語りながら紹介する双葉郡ツアーに参加できるというようなオプションをつけてみたり。いろいろな案を考えて実践していきました。こんな風に自分がやってみたいことを率直に提案できて、やらせてもらえる環境はありがたかったですし、考えるばかりだった大学院時代の自分を大きく成長させてくれました。

一緒に働く職員さんたちも、いろいろな分野からカタリバに転職してきた人たちが多かったので、それぞれの考えが違って、だけど同じ目標を持つチームとしての一体感もあって。時には喧嘩のような議論もしましたが、議論する中で言葉もどんどん洗練されていって、新しい拠点ならではの共通語や概念ができていきました。そんな人たちからもらう、日々のフィードバックはすごく勉強になりました。

一緒に乗り越えてきたヨコの繋がりと
自分が進みたいタテの道が、
次のステージを照らしてくれた。

野崎さん自ら次期実践型インターンの募集活動を行っていたようですが、それほどこのプログラムに参加して良かったいうことですね。これから参加しようとしている後輩へのおすすめポイントは何ですか?

ひとつは、実践型インターンの同期の存在だと思います。僕の同期は6人で、全国の拠点に散らばって、それぞれの地域の現状も課題も業務内容も違う中で活動していました。それぞれが学んできたことをお互いにシェアする勉強会を2週間に1回、オンラインで開催していたのですが、そこで同期の目から見たいろいろな気づきを率直に返してもらっていました。

その繰り返しがあったから、自分は1年間とは思えないスピードで成長できた。実践型インターン同期の存在は、お互い利害関係が全くないので気楽に悩みや想いを共有できる仲間でした。それぞれ次のステージに進んだ今でも定期的に集まれる、この同期のヨコのつながりは、僕の一生の財産です。

 

実践型インターンでの経験を通して、野崎さん自身はこれからどうしていきたいと考えていますか?

福島での活動を終える時、大学院の中退を決め、現在は文部科学省で働いているのですが、将来的には文科省と福島とカタリバの架け橋的な存在になりたいですね。

この実践型インターンの1年間で実際に現場に関わってきたことで、普通に生活していたら教育に興味関心を持たないような人たちを教育界に巻き込める力をつけたいと思うようになりました。

教育って、本来教育界隈の人だけに閉じるべき話ではなくて、むしろ多様な人が関われば関わるほど、子どもにとって最適な環境になっていくと思います。今まで子どもに触れる機会、学校に関わる機会がほとんどなかった人にこそ関わってほしいと思います。

地域や社会で子どもを育てる、そんな環境や仕組みを作っていくためにも、僕自身は、多様な人たちを巻き込んでいく対話力を磨きながら、自分のミッションを実現するための力も備えた上で、現場と行政をつないでいける人間になりたいです。カタリバのミッションとも重なりますが、未来はつくれると子どもたちが信じられる、そんな公教育をつくっていきたいと思います。

 

これから実践型インターンに挑戦するか迷っている人たちに何を伝えたいですか?

何よりも、一歩踏み出してみてほしいと思います。

僕の場合は、このプログラムに参加するまで、「何も語るものがない」というのがコンプレックスでした。でもあの時一歩踏み出したから、福島での一年をすごい速さで走れたと思うし、一年経ってみたら悩みとか結局解決しないなという課題も全部含めて質・量ともにあふれるほどの経験をさせてもらいました。見える景色がガラリと変わり、自分にしか語れない経験が自信にもなりました。

自分が進みたい道も見つかったし、実践型インターンの同期という心強い仲間もできました。さらには、一緒に働いていた職員さんや学校の先生たちとのつながりもこれからの僕の人生を後押ししてくれると思います。活動中に出会った生徒たちから学んだこともかけがえのないものです。

あれこれ考えるのもいいですけど、とりあえず踏み出してみるのがいいんじゃないかなと思います。そのあとのことは踏み出した人にしか経験できない。一人ひとり、それぞれ自分のストーリーをつかんでほしいなと思います。

野崎が経験した実践型インターンシップの概要

[活動期間]
2017年4月〜2018年3月

[活動場所]
双葉みらいラボ(福島県立ふたば未来学園高校内)

[担当ミッション]

1/ふたば未来学園の先生と協働しながら探究授業「未来創造探究」の実施
(授業メンター、授業設計支援、教材作成、外部人材のコーディネート)

2/学内ユースセンター「双葉みらいラボ」の立ち上げ、企画・運営

3/マイプロジェクトの支援体制開発・高校生プロジェクトの伴走

4/次期実践型インターン生の募集・説明会の実施

5/国際交流プログラムの実施など、拠点のその時々のニーズに応じたミッション

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Writer

長濱 彩 パートナー

神奈川県横浜市出身。横浜国立大学卒業後、JICA青年海外協力隊でベナン共和国に赴任。理数科教師として2年間活動。帰国後、2014年4月カタリバに就職。岩手県大槌町のコラボ・スクール、島根県雲南市のおんせんキャンパスでの勤務を経て、沖縄県那覇市へ移住。元カタリバmagazine編集担当。現在はパートナーとしてオンラインによる保護者支援や不登校支援の開発を担う。

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