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教員がNPOに出向。オンラインの不登校支援に参画して見えた学校教育の可能性/PARTNER

vol.417Interview

date

category #インタビュー

writer 佐々木 正孝

Profile

吉池 直樹 Naoki Yoshiike room-K事務局

長野県上田市出身。大学卒業後、長野県内の公立小学校に教員として着任し、約20年間にわたり低学年から高学年まで幅広い子どもたちの指導にあたる。学校現場では学級経営や授業づくりに加え、不登校支援にも関心を持ち、外部支援機関との連携を経験してきた。2025年度、長野県教育委員会の長期研修派遣制度を通じてカタリバへ出向。オンラインの不登校支援プログラム「room-K」の事務局でフロアリーダーとして勤務し、メタバース空間での子ども支援や個別伴走の仕組みづくりに携わっている。

20年間にわたり長野県内の小学校で教壇に立ってきた吉池直樹(よしいけ・なおき)さん。学級を担当して授業づくりに励む傍ら、不登校の支援にも関わってきました。

その吉池さんが2025年度、長野県教育委員会の長期研修派遣制度を通じてカタリバへ出向。オンラインの不登校支援プログラム「room-K」で、メタバース空間を活用した学びと居場所づくりに携わっています。

行政とNPOの垣根を越えた新しい協働のかたち。その最前線に立つ教員の視点から、現場で感じた手応えと、これからの教育への思いを聞きました。

出向により、人生で初めて県外生活をすることに

ー現在はカタリバに出向されていますが、教員としてのこれまでの歩みを教えてください。

長野県で生まれ育ち、大学も県内でした。そのまま長野県内で教員として働いてきたので、今回のカタリバへの出向が、人生で初めての県外生活になります。

教員生活は20年間で小学校5校を経験し、低学年から高学年まで幅広く担任してきました。低学年では、生活の基礎を身につけながら、自然の中でのびのびと過ごす姿に成長の喜びを感じました。

一方で高学年では、子どもたちの考え方や感じ方がぐっと深まり、対話を通してこちらも学びが多くあります。修学旅行のような行事では、一緒につくり上げる過程そのものが、子どもにも自分にも忘れられない経験になっています。

そして、今の学校現場では不登校という課題もあります。私自身、教員1年目から不登校になった児童を担当して何度も家庭訪問を重ねた経験がありました。当時は「担任が解決するしかない」という風潮が強く、試行錯誤したことを覚えています。

ーそうした経験を重ねる中で、不登校支援の方法に変化を感じたことはありましたか?

10年ほど経った頃から、少しずつ外部の支援者との連携が始まりました。軽井沢町や小諸市の小学校に赴任したときには、スクールサポーターやスクールソーシャルワーカー(SSW)などの専門職と協働する経験を初めてもちました。

連絡が取りづらくなった保護者に代わって関係をつないでくれたり、フリースクールの先生と情報交換をしてくれたりと、連携がスムーズに取れるようになりました。子どもに新しい居場所ができる一方で、教員側にも心の余裕が生まれたように思います。

room-Kで実感した「居場所とは関係を丁寧に重ねていくこと」

 

ーカタリバへの出向の経緯について、教えてください。

長野県教育委員会の長期研修派遣制度によるものなのですが、実は私自身はこの制度を詳しく把握していなかったので、初めて話を聞いたときは驚きました。
毎年7名ほどの教員が、教育委員会の推薦を受けて外部機関に1年間派遣されるのですが、主には文科省や教育研究機関、他県の学校などが主な派遣先で、NPOへの出向はあまりなかったようです。

東京のNPOで働くなんて想像もしていなかったので、未知の世界に飛び込むようなワクワクがありましたね。
私としては、学校の中でICT活用を比較的得意としていたことが期待されたのかと考えています。

カタリバさんの名前は、以前に関わったフリースクールの関係者から聞いたことがありました。あらためて活動内容を調べたとき、不登校支援だけでなく高校生の探究学習や災害支援など幅広い取り組みを、高い熱量でされていることに圧倒されました。

ーカタリバではどのように子どもたちの支援に携わっているのでしょう?実際に活動して感じたことを教えてください。

オンラインの不登校支援プログラム「room-K」で活動しています。メタバース空間の中に子どもたちが集まり、スタッフと交流したり、一緒に学んだりするのですが、私はその中で「フロアリーダー」として現場運営やスタッフのサポートを担当しています。

オンライン不登校支援プログラム「room-K」のメタバース空間

実際に関わってみると、メタバースでの集団支援もさることながら、「個別伴走」こそが子どもたちにとっての大きな支えだと感じました。
複数の子が集う場に出てこられない子どもたちは、週1回、30分ほどメンターさんと1対1でオンライン面談をしています。その時間の中で少しずつ心を開き、好きな話題で笑顔を見せてくれるんです。

その様子を見ていると、「居場所をつくる」とは単に空間を用意することではなく、関係を丁寧に重ねていくことなのだと実感しています。

また、子どもたちの可能性の豊かさにも驚かされます。プログラミングが得意で自作ゲームを披露してくれる子、IT資格に挑戦する子、表現力豊かな文章を書く子――学校に行けていないからといって、学んでいないわけではない。むしろ、自分の興味を深く掘り下げて学ぶ姿をたくさん見てきました。

不登校という言葉には、一般的にネガティブな印象があるかもしれませんが、支える側は「不登校=かわいそう」「なんとか登校させなきゃ」といった固定観念にとらわれないことが大切だと感じます。

オンラインを学校教育に活かせる余地はまだまだ大きい

ー教壇に立っての授業とはまた別の向き合い方になりますが、戸惑いはありましたか?

オンラインの現場では声を出さないまま過ごす子や、チャットだけで関わる子もいます。リアルの学校のように表情や雰囲気から読み取ることが難しい分、スタッフ同士で「この子、今日はどんな様子だった?」と丁寧に共有することが欠かせません。

そうした「見立てをチームで考える」というやり方にも、すごく学びがあります。学校では担任が1人でクラスを見ていくのが基本ですが、カタリバではチームで支える。その違いには大きな刺激を受けました。

ーチームで支える仕組みや情報共有については、学校とどのような違いを感じましたか?

学校でも記録を残す意識はありますが、授業や対応に追われる中で、教員同士が細かい情報を共有するのはどうしても難しいことがあります。
一方、room-Kではスタッフ全員が記録を残し、翌日の支援につなげていく。「仕組み」として支援を支える体制があります。

小学校でもICT活用は広がっていますが、カタリバに来て、「オンラインをチーム運営の基盤として活かす」余地はまだ大きいと感じています。共有フォーマットやカレンダー連携など、情報が自然に蓄積・共有される仕組みを整えることで、先生たちの負担を和らげつつ、支援の連続性も高められるのでは……そんな感触もあります。

ー出向期間の学びや気づきを、どう学校現場にフィードバックしていきますか?

カタリバでの経験を通して、教育を捉える視野が広がりました。対話を重ねながら新しい仕組みを生み出す姿勢や、チームで動くフットワークの軽さには多くの学びがあります。学校教育を知る立場として、両方の良さをフラットに見ていけるのが自分の強みだと思っています。room-Kで経験したことは、どんな立場に戻っても必ず生きると思います。

今年の夏休みに、room-Kと私が昨年度まで勤務していた小学校の教員をオンラインでつなぎ、研修の機会を持ったのですが、参加した先生たちからは「学校や家庭のほかにも安心できる居場所がある」と実感したという声が多く寄せられました。
この経験も踏まえて、学校現場とNPOのコミュニケーションには大きな可能性を感じています。

ーでは最後に、学校とNPOが連携する意義、そして今後への期待をお聞かせください。

room-Kでの日々は刺激的で、あっという間に過ぎています。温かく迎えてくれたスタッフや、前向きに挑戦する子どもたちの姿から、本当に多くを学びました。この経験を単発で終わらせず、これからもカタリバや全国の先生方とつながりながら、子どもたちの学びと居場所を広げていきたいと思っています。


 

カタリバは、人材育成や社会貢献活動を目的とした企業、自治体等からの人材の受け入れを行っています。詳しくは下記までお問い合わせください。

経営管理本部 人材戦略チーム:saiyo@katariba.net


 

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Writer

佐々木 正孝 ライター

秋田県出身。児童マンガ誌などでライターとして活動を開始し、学年誌で取材、マンガ原作を手がける。2012年に編集プロダクションのキッズファクトリーを設立。サステナビリティ経営やネイチャーポジティブ、リジェネラティブについて取材・執筆を続けている。

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