サントリーからNPOへ出向。居場所づくりの伴走支援で得た「社会課題を自分ごとにする」視点/PARTNER
Interview
村岡 真智子 Machiko Muraoka ユースセンター起業塾
山口県岩国市出身。大学卒業後、地元の食品メーカーに勤めるも2年目に東京転勤となり上京。その後、教育業界への転職を経て、2013年よりサントリーホールディングス(株)にて勤務。約11年間、システム部門の採用・研修担当として従事する。2024年に社内初のNPO出向制度(社内公募)にエントリーし、第一希望のカタリバへ出向。ユースセンター起業塾で、立ち上げ初期のNPO団体の伴走支援に携わる。
サントリーのシステム部門の人事担当者として、採用や研修に携わってきた村岡真智子(むらおか・まちこ)さん。自身のキャリアにおける一貫したテーマである「若年層の支援」に関わりたいと、2024年4月、社内公募制度を通じてカタリバへ出向しました。サントリーとカタリバの間の人材交流は、初の取り組みです。
企業人事として培った経験を活かしながら、「10代の居場所」づくりを目指す団体の伴走支援や研修企画に取り組んだ村岡さん。「越境」したからこそ見えたものと、企業×NPOの協働の可能性を聞きました。
「人が前向きに変わっていく」瞬間に関わりたい
——最初に、サントリーからカタリバに出向された経緯を教えてください。
サントリーは2023年に「次世代エンパワメント活動“君は未知数”」という社会貢献活動を立ち上げました。これは、さまざまな困難に直面する子どもたちが、希望や夢を持って成長できる社会を目指す取り組みです。
その一環として2024年、社員がNPOに出向して、現場で社会課題解決に取り組むという試みが始まりました。私はその1期生になります。
以前より「若者の支援」というキーワードと、「NPO」というフィールドに興味を持っていたので、社内公募を知ってすぐに手を挙げました。
出向先説明会の際、カタリバは「文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)」に担当者が出向き、現場の様子とともに具体的に仕事を紹介してくれました。理念だけでなく実際にどのような業務が行われているのかを把握できたことで、大きな安心感になりましたし、現場を大切にし、各事業部に権限移譲をしている組織のあり方にも好感を持ちました。
何より、自分のテーマである「若年層の支援」に一番近かったのがカタリバだと感じ、カタリバへの出向を希望したんです。
——若年層の支援に関心をもつようになったのは、どのようなきっかけからでしょう?
大学時代に富士山の6合目にある山小屋で1か月間、住み込みのアルバイトをしたのですが、そのときの経験から「誰かが前向きに変わっていく瞬間に関わりたい」と思うようになりました。
そのアルバイトは、スタッフみんなで衣食住を共にしながら、毎日多くの登山客と接するという、いい意味でとてもワイルドな環境でした。夏が終わればそれぞれの世界に戻っていくメンバーと濃密な時間を共有する中で、自分自身の変化を実感したんです。
それまでは人の目が気になって自信が持てないタイプでしたが、ひと夏を経て細かいことが気にならなくなり、以前よりありのままの自分でいられるようになりました。自分自身が変わったと感じたからこそ、誰かにとっての「変わるきっかけ」をつくれる存在になりたい、という思いが強くなりました。
就職後、改めて「自分がやりたいことを職業にするなら何だろう」と考え、働きながら週1回学校に通ってキャリアコンサルタントの資格を取りました。その後、大学のキャリアセンターや学習塾で働き、10代や20代の時期に寄り添う「第三者」の存在が、その後の選択を左右することを実感しました。
サントリーでの採用の仕事も、就職活動を通して20代前半の若者の人生の選択を支援できることに大きなやりがいを感じていました。カタリバへの出向も、そうした歩みの延長線上にあるものと考えています。
企業とは異なる「世代をこえて本気でぶつかり合う」文化
——カタリバで担当している「ユースセンター起業塾」での役割、仕事内容を教えてください。
ユースセンター起業塾は、全国で「10代の居場所(ユースセンター)」を立ち上げたいと考えている個人や団体に対し、公募を通じて伴走支援を行う中間支援事業です。「10代の居場所」づくりに挑む起業家を支え、将来的には「全国の中学校区に1か所、全国で1万か所」という規模で広げていくことを目標にしています。
取り組みは大きく3つあり、個人・団体への伴走支援、自治体と連携した立ち上げ支援、そして既存の図書館や公民館を活用した居場所づくりの実証です。私は主に団体支援の領域で、研修や勉強会の企画・運営、コミュニティの形成を担当しています。
——団体支援をしていく中で、印象に残っているエピソードはありますか?
ある支援先の現場で、20代と70代のスタッフが意見をぶつけ合い、議論していた光景が心に残っています。
その団体では年齢に関係なくフラットに意見を出し合い、真剣な対話を重ねていました。居場所づくりに真剣に取り組む姿勢や文化を肌で感じた瞬間でした。
私が担当しているのは団体支援なので、仕事を始めた当初は「子どもと直接関わらない中でやりがいを見出せるだろうか」という不安がありました。でも、地域に居場所を根付かせようと奮闘する方々の熱量に触れるうち、関わりの形態にこだわる必要はないと思えるようになりました。
——自身の考え方、スタンスも変化していったんですね。
そうですね。より良い場づくりのための真摯なプロセスは、カタリバでもよく見ました。たとえば、カタリバのあるスタッフが言った「自己責任論を社会からなくしたい」という言葉には、価値観を大きく揺さぶられました。
自己責任論は「自分の行動や決定から生じた結果は、良くも悪くもすべて自己が引き受けるべき」という考え方で、格差が広がる社会の中で、貧困や失敗も「努力不足」という自業自得として捉えられがちです。
しかし、2年間現場に触れてきて、「課題は個人の責任ではなく社会の構造によって生み出されている」と考えるようになりました。
企業も、私たち一人ひとりもまた、その社会を構成する一員です。社会課題を他人事ではなく「自分事」として捉え、何ができるのかを自ら問い直していきたいと思います。
人材交流とはお金以上のものを還元できる「人の寄付」
——2026年4月には出向期間を終えて帰任されます。この2年間を振り返って最も大きな気づきは何でしょう?
組織文化の違いと、そこで働く人たちの姿勢。この2つですね。まず、全職員が集まる「全社会議」でのあり方が非常に新鮮でした。
企業でも大人数で集まって議論をする場面がありますが、その目的は多くの場合、「結論を出すこと」や「次のアクションを決めること」に置かれます。
しかし、カタリバの全社会議では、必ずしも明確な結論を出すことがゴールではなく、「みんなで対話・議論をすること」そのものに価値が置かれているように感じました。
何時間もかけて対話を重ねるプロセスを大切にしていく。「話すことにも価値がある」という考え方に触れたことは、企業で長く働いてきた私にとって印象深い経験でした。
もう1つの「働く人たちの姿勢」とは、「与えられた仕事をこなす」だけではなく、自分で動いてつくっていく姿です。会社員として25年働いてきた私にとって、団体を設立したり、他の仕事と兼業しながら活動する人たちの「自分で立ち上げる」という姿を間近で見られたことは、大きな刺激になりました。
彼らは熱量だけでなく、「社会のために何が必要か」を考えて動いています。その姿を見て、私自身も「仕事とは社会課題を解決するための手段なんだ」という捉え方を意識するようになりました。これまでには得られなかった視座です。
——NPOでの経験を、今後どのように企業の現場へ還元していきたいですか?
人材交流は、お金以上のものを還元できる可能性がある「人の寄付」だと思っています。外に出てみたことで、企業にはない価値や企業に足りていない部分が見え、同時に企業の良さにも改めて気づきました。研修制度が整っている環境など、当たり前だと思っていた企業のありがたさを再認識したのです。
新たに得た視点をなくさず、子どもたちが抱える課題を、背景を含めて広く多くの人に共有し、一緒に解決していければと思います。
企業が子ども支援に関わることは、社会貢献という側面だけではなく、企業自身の未来にもつながります。その子どもたちがイキイキと育ち、社会に出て、もしかしたらその企業に入社したり、何らかの形で関わってきたりする可能性もあります。
そう考えると「10代の居場所」づくりなどの取り組みを支援することは、社会のためであり、同時に企業の未来への投資でもあると考えています。
——最後に、これからの働き方を考えている方や、NPOへの出向に興味を持っている方へメッセージをお願いします。
カタリバで2年間働いてきて感じたのは、これまでの業務経験(私の場合は、採用・研修業務だけでなく、新卒時に経験した営業職やキャリアコンサルタントの資格など)のすべてが自分の血となり肉となり、今の私を形作っているんだということです。
越境するにあたって、「自分にできるか?」「自分の経験は活かせるか?」と不安をもつ方もいらっしゃると思いますが、大丈夫です。自分の経験を社会に還元することで、多くの人が喜んでくれて、誰かのためになっていると感じられる、そんな経験をする企業人が社会にどんどん増えていくといいなと思っています。
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佐々木 正孝 ライター
秋田県出身。児童マンガ誌などでライターとして活動を開始し、学年誌で取材、マンガ原作を手がける。2012年に編集プロダクションのキッズファクトリーを設立。サステナビリティ経営やネイチャーポジティブ、リジェネラティブについて取材・執筆を続けている。
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