青木俊介(ユカイ工学CEO)× 今村久美が語る。 子どもの「やってみたい」を引き出す余白
Interview
子どもの"いまとこれから"会議 - Dialogue
2026年11月、カタリバは設立から25年を迎えます。 子どもや学校を取り巻く環境が大きく変化していく中で、私たち大人は、どのように子どもたちや教育と向き合っていくことができるのでしょうか。 いま教育に関わっている方々も、教育に関わっていない方々も、みんなで一緒に、子どもたちの「いま」をとらえ直し、「これから」について考えたい。 「子どものいまとこれから会議 - Dialogue」では、カタリバの25年間の活動を通して見えてきたことや国の会議で議論されていることを踏まえながら、カタリバ代表理事今村久美と、様々な業界の第一線で活躍する方々が、教育と子どもたちの未来について対談します。
青木 俊介 (あおき・しゅんすけ)
ユカイ工学株式会社代表取締役CEO。東京大学工学部卒業後、2007年にユカイ工学を設立。しっぽのあるクッション型ロボット「Qoobo」、甘噛みを体験できる「甘噛みハムハム」など、『ロボティクスで、世界をユカイに。』というビジョンのもと、ユニークなロボット製品を手がける。2021年より武蔵野美術大学教授(特任)。今村 久美(いまむら・くみ)
NPOカタリバ代表理事。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。東京大学経営協議会学外委員。
「課題解決」から始めない。
自分の“妄想”を形にするものづくり
今村:青木さんとは以前、ある会合でお会いしたことがあるのですが、その時にものすごく面白いものを持ってこられていて、「この人は何者だろう!? 」と衝撃を受けたのを覚えています。今日はユカイ工学の製品も見せていただいているんですが、改めて、これは何ですか?
青木:これは、撫で方によってしっぽの振り方が変わる「Qoobo(クーボ)」というクッション型ロボットです。こちらは、口に指を入れると甘噛みをしてくれる「甘噛みハムハム」、そしてこれは、熱い料理や飲み物にそっと息を吹きかけてくれる「猫舌ふーふー」です。
今村:初めてお会いした時、私はその場で3時間ずっとこの「Qoobo」を撫で続けてしまいました。何の役に立つかわからないけれど、どれも理屈抜きに欲しくなる。こうした製品が生み出される背景には、どのような考え方があるのでしょうか?
青木:僕たちは「ユカイ工学」という社名なのですが、製品を使ってくださるユーザーさんを愉快にしたい、そして自分たちも愉快なものづくりをしたいという、2つの思いがあります。それを形にするべく、毎年社内でコンペを行って製品を生み出すようにしているんです。
そのアイデア出しにはルールがあって、それは「課題解決から始めない」こと。ふとした瞬間に嬉しいと思ったことなど、ごく個人的な体験の中から「どうしてもこれが欲しい」というものを見つけ出す。僕たちの製品のアイデアのコアになる部分は、そうした自分の妄想から生まれているものがほとんどですね。
今村:ロボットというと社会を便利にしていく使われ方をするイメージが強いのですが、 あえて愉快にすることに目的を置いているのはどういう思いがあるんですか?
青木:便利さだけを追求していくと、恐らく家電の形になると思うんです。家電も賢く判断ができるようなものがたくさん出てきていて、技術的にはロボットと呼んで全く差し支えない。
でもロボットというと、ドラえもんのような相棒を皆さん想像しますよね。やっぱり人間が求めているのは、感情的な繋がりを感じられる友達のような存在ではないかと思いました。なので僕たちは、そういう人の心を動かすものをロボットと定義付けようとしたんです。
今村:感情を揺さぶるからこそ、理屈抜きに心に届くのですね。
カタリバでは、子どもたちが「やってみたい」という自発的な動機で動くことを大切にしていますが、青木さんの「面白さを自分の心の中から発電する」という姿勢に非常に共感します。
いま、日本の学校教育では「探究」というカリキュラムが始まっていますが、「好きなことをやっていいよ」と言われても、これをやってみたい!と思うことができなかったり、自分で問いを立てられない子どもが多いと感じるんです。
青木:子どもが自分で問いを立てるというのは、非常に難しいことだと思います。子どもたちは与えられた問題を解く経験は積んでいますが、自分で問題を設定する経験はあまりありません。 常にどこかに正解があって、その正解を探すという思考になりがちですよね。
何を作っても応援してもらえる。
自発的な「次は何作る?」を引き出す環境
今村:青木さんご自身は、どのようにして作り出す側になられたのですか?
青木:僕は教育熱心な家庭で、たくさん塾に通うような受験戦争の中にいたのですが、今でも楽しかった記憶として残っているのは、幼少期から通っていた美術教室の存在です。
工作でもお絵描きでも自由にやっていい場所で、先生にいつも「次は何作るの?」と聞かれるんです。そこには正解もないし、何を作っても先生に応援してもらえる。だからこそ、「次こんなの作ったら面白いかな」と普段から考えるきっかけになりました。
今村:「何を作ってもいい」という安心感があったのですね。
青木:その後、中学生の時に観た映画『ターミネーター2』に衝撃を受けて。ロボットそのものより、パソコンを叩いてプログラミングを書いている人がかっこいいと思って、同時に「この仕事がやりたい!」と思ったんです。それから、親にパソコンが欲しいとプレゼンして、1年くらいかけてやっと買ってもらいました。
今村:1年間の交渉は、すごい熱意です。
青木:ただ、当時は進学校だったので、パソコンを持っているなんて周囲には言えませんでした。当時はまだ今ほどITやプログラミングが一般的ではなく、スポーツなどに打ち込んでいる方が標準的に見える時代でしたから、変わったやつだと思われたくない意識がありました。
でも、心のどこかで「いつかロボットを作りたい」という思いは消えずに残っていました。大学でWebの世界に身を置いたり、チームラボの創業に参加した後、愛知万博で様々なロボットベンチャーが立ち上がるのを見て、「そろそろやった方がいいんじゃないか」と独立を決意しました。
パッと検索すれば答えが出る。
便利な道具の裏で、子どもの「リセットできる時間」をどう守るか
今村:青木さんは現在、親としてお子さんとも向き合っていらっしゃいますが、ご自身が中学生でパソコンを手にした時と対比して、今の子どもたちの環境をどう見ていますか。
青木:実は自分の子どもには、高校生になるまでスマホを持たせませんでした。親としては、スマホにあまり時間を奪われず、自分なりに面白いことを見つけてほしいという思いがあったんです。
何より、コンテンツの消費者になってほしくなかった。僕が中学生の時に手に入れたパソコンは、暇さえあれば中をバラして仕組みを知ろうとしたり、コードを書いて動かしたりできる、「つくるための道具」でした。でも、今のスマホは中身に触れられないブラックボックスのようで、どうしても受け身の消費側に回ってしまいがちです。
今村:私にもそう見えています。スマホはパッと検索すれば答えが出てくるし、無限に流れてくるコンテンツを消費できてしまう。便利になった反面、自分で調べたり考えたりする時間が減っているようにも感じます。
その環境を何歳から与えるべきなのか。家庭ごとに事情はありますが、依存性やメンタルへの影響も含め、日本社会としての選択を問い直す時期に来ていると感じます。
青木:24時間繋がり続けてしまう環境も、今の子どもたちにとっては相当な負担かもしれませんね。
今村:そうなんです。私たちの頃は、学校から帰れば家庭があり、塾に行けばまた別の友達がいるというように、時間も空間もきちんと区切られていました。そうやってリセットできたはずの人間関係を、今はスマホでずっと持ち歩かなければならない。
「いつメン(いつものメンバー)」の中で、自分がいない間に何が交わされたのかが怖くて、翌日学校に行けなくなる子もいます。 友人関係が世界のすべてのように思えている中高生にとって、友達の小さな言葉が、それほど大きな衝撃として伝わってしまうんです。
この「人間関係を24時間持ち歩く」という状況が、子どもたちを精神的に追い込んでしまっている。その現状は、もう見過ごせない段階に来ているのではないかと強く危惧しています。
子どもは「失敗」から学ぶ。
大人が環境を整えすぎないことで生まれる「余白」の力
今村:こうした閉塞感の中で、子どもたちが「自分はこれを作ってみたい」「これが面白い」という感覚を取り戻していくには、どうすればいいのでしょうか。
青木:僕は、今、自分が高校生のときにやりたかったロボコン(ロボットコンテスト)の普及に力を入れています。
僕が支援してきた高校生チームが参加したロボコンは、「FIRST」というアメリカがメインの大会なんですが、それがすごく面白くて。ロボットの性能を競うだけでなく、外部に発信してまずスポンサーを集めたり、ロボットを作るための準備の段階からお金を集めたり、金属加工が得意な方にメンターになってもらうようお願いしたりと、プロジェクトの全部をチームのメンバーでやるんです。
今村:それはすごいですね。プロジェクトとして作り上げる中にはいろんな役割の人が必要で、その役割の中で、ロボットを作るような技術に向かう人もいれば、周りの人とのコミュニケーションに向かう人もいるってことですよね。
青木:はい。だから理系の子たちだけでなく、いろんな子が活躍できます。
そして何より重要なのは、大抵失敗するということです。やってみて失敗したことからの学び以上の学びはないと思います。失敗してもいいという体験を、たくさん作ってあげたいですね。
今村:失敗してもいい体験、本当にそう思います。今の学校は、子どもが試行錯誤したり、失敗してやり直したりするような余白が少ないように感じます。先生も10分単位の指導案に沿って授業を進めたりと、大人自身の心にも余裕がなくなっている。
青木さんがおっしゃるロボコンのように、正解のないプロジェクトに挑戦し、あえて失敗できる余白を教育の中にどう作っていくかが問われていますね。
青木:ただ、そうした機会にアクセスできるのが、経済的に恵まれた家庭の子に偏りがちなのも事実です。美大で教えていても、やはりそう感じることがあります。
今村:私たちカタリバの居場所に来る子の中には、「こういうことをやれるならやってみたい」という意欲があっても、家庭の経済的な事情でアルバイトに追われ、学びの機会を失ってしまう子もいます。
だからこそ、誰もがアクセスできる公教育の中で、作り出す楽しさを知る機会が必要です。困難な背景を持つ子だからこそ生み出せるアイデアが、きっとあるはずですから。
青木: そうですね。そんなプロジェクトとしての学びを、僕はロボコンを通じて一つでも多く増やしていけたらと思っています。
今村:ロボコンという形で表現されたものは、まさにこれからの私たちが子どもたちに届けたい教育のあり方そのものかもしれません。大人に余白があれば、子どもたちも何をするのか自分で考える余白が生まれる。設定がなされる前にある関わりしろにも、子どもたちの学びがあると感じました。
今日はありがとうございました。
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