松田崇弥(ヘラルボニーCo-CEO)×今村久美が語る。 子どもの「才能」は、出会う「場所」で見つかる
Interview
子どもの"いまとこれから"会議 - Dialogue
2026年11月、カタリバは設立から25年を迎えます。 子どもや学校を取り巻く環境が大きく変化していく中で、私たち大人は、どのように子どもたちや教育と向き合っていくことができるのでしょうか。 いま教育に関わっている方々も、教育に関わっていない方々も、みんなで一緒に、子どもたちの「いま」をとらえ直し、「これから」について考えたい。 「子どものいまとこれから会議 - Dialogue」では、カタリバの25年間の活動を通して見えてきたことや国の会議で議論されていることを踏まえながら、カタリバ代表理事今村久美と、様々な業界の第一線で活躍する方々が、教育と子どもたちの未来について対談します。
松田 崇弥 (まつだ・たかや)
株式会社ヘラルボニー代表取締役Co-CEO。岩手県出身。双子の兄・文登と共に、障害のある作家とライセンス契約を結び、福祉を起点に新たな文化を創造する「ヘラルボニー」を2018年に設立。「異彩を、放て。」をミッションに、福祉領域のアップデートに挑む。今村 久美(いまむら・くみ)
NPOカタリバ代表理事。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。東京大学経営協議会学外委員。
「普通」はどこからつくられるのか
行動の原点にある違和感
今村:松田さんのことは以前からずっと気になっていました。「ヘラルボニー」という事業を立ち上げた理由を、ぜひ聞かせてください。世の中全体への大きなビジョンがあったのでしょうか。
松田:正直に言うと、最初から大きな会社を目指していたわけではありません。僕の兄には重度の知的障害があるのですが、家の中ではそれが当たり前で、ごく普通に仲が良い兄弟なんです。でも一歩外に出ると、障害のある人が馬鹿にされたり、冷ややかな視線を向けられたりする場面に何度も出会ってきました。そのたびに、その特有の空気を「気持ち悪いな」と感じていたんです。
ただ同時に、中学生くらいの頃の自分はどこかで周りに合わせてしまっていた。その場をやり過ごすほうが楽だからと、障害のある人を軽く扱う側に、無意識に回っていた瞬間もあったんじゃないかと思うんです。
だからこそ、あの頃に感じた屈辱や違和感、自分自身への引っかかりを、ずっとひっくり返したいと思って生きてきました。社会課題を解決したいというよりも、自分のこの感情の違和感にこだわり続けていて……その延長線上に、いまの事業があります。

今村:その引っかかりが、事業の原点になったのですね。社会起業の動機として、松田さんのように「自分や家族が“普通”と違う」と感じた原体験が、事業を続ける強いエネルギーになっているケースは多いように感じます。
私自身も、地方の高校から東京の大学に出てきたときに感じた強いコンプレックスがカタリバの原点です。環境によって見える世界が大きく変わることを実感しました。どこで育つか、どんな機会に出会うかによって、その後の選択肢が左右されるという構造自体に違和感を覚えたんです。
松田:すごく共通している部分がある気がします。僕は、中学校には不良グループに属した時期があり、その時期はほとんど学校に通わず、遠回りをしてきた感覚があります。でも振り返ると、そのときに感じていたことが、いまもずっと自分の中に残っている。だから仕事というよりも、自分の人生そのものに近い感覚なんです。
今村:自分の体験と切り離せないテーマだからこそ、続いていくものなのかもしれませんね。
松田:そうですね。僕自身、中学の頃に周りの「普通」の空気に流されてしまったあの感覚が、いまもずっと自分の中に残っているんです。実際、障害のある人と日常的に接する機会が少ない環境だと、その存在を身近に知らないまま大人になってしまうことも多い。そうやって、無意識のうちに自分の中の「普通」の捉え方自体がつくり上げられていってしまうんですよね。
だからこそ、どんな環境で育ち、誰と出会うかという前提そのものを、僕たちはもっと問い直していかなければならない。そう強く感じています。
同情ではなく「憧れ」へ
新しい価値の基準を置く
今村:ヘラルボニーが他の福祉系の取り組みと一線を画しているのは、「同情」ではなく「憧れ」を目指した点にあると思っています。その判断は、活動の最初から明確にあったのですか?
松田:それは最初からはっきりしていました。「障害があってかわいそうだから買ってあげよう」ではなく、「カッコいいから欲しい」という純粋な欲求に訴えたかったんです。だからこそ、あえて百貨店に出店し、高価格帯でハイクオリティな商品を並べることにこだわりました。最初は「なぜ障害者のアートがこんなに高いんだ」という反感もありましたが、それでいいと思っていました。作家に対して正当な対価を払うことこそが、その人への「尊敬」そのものですから。
それに、僕は才能はもともと“あるもの”ではなくて、“見つけられるかどうか”だと思っているんです。
障害のある方が描いた作品は、以前からそこにあった。けれど、それが「価値」として正当に認識されるかどうかは、受けとる社会の側の見方に大きく左右される。だからこそ、「欲しいから買う」という状態をつくることで、世の中の価値の基準そのものを、置き直したかったんです。
今村:ミッションに掲げている「異彩を、放て。」という言葉にも、その思想が凝縮されていますね。
松田:ありがとうございます。あのコピーも、もともとは「知的障害」という言葉をどう捉え直すか、というところから生まれています。どうしても「できないこと」に目が向きがちな対象を、「すごい表現をする人」として紹介することで、彼らへの見え方そのものを変えていきたいと思ったんです。
兄の障害が治るわけではありませんが、周囲の視線が「面白い部分を見ていこう」と変わるようなコミュニケーションをデザインしたい。それが僕たちの挑戦です。
今村:その取り組みは、子どもたちにとっても「自分の表現には価値がある」と感じられるきっかけになりますよね。
松田:そうであれば嬉しいです。僕たちは、障害のある方やそのご家族が社会へ踏み出すための「チケットを売っている」会社なんだと思っているんです。
障害者手帳を所持している方もいますが、実際に公共交通機関を使って外出できている方は決して多くありません。「公共の場所で迷惑をかけてしまうかもしれない」という不安が、ご本人やご家族の側に強くあるからです。
だからこそ、百貨店のような一流の場所にきちんと旗を立てて、社会からの尊敬や尊重の空気をつくる。そうすることで、「自分たちもここに来ていいんだ」と思えるチケットを配りたかった。体験の格差を、物理的にも心理的にも埋めていきたかったんです。
今村:「体験の格差を埋める」という点は、私たちカタリバの活動とも重なります。
親でも先生でもない「ナナメの関係」と呼んでいる第三者の大人と出会うことで、子どもたちの見ている世界が少しずつ広がっていく。私たちは、そうした「きっかけ」を届ける活動を続けてきました。
一方で、私たちが向き合っているのは、地方の公立校や困窮世帯など、いわゆる購買力を前提にできない領域です。そこをビジネスとして成立させようとすると、本来届けたい支援に十分な時間を割けなくなる。そのジレンマと向き合い続けた結果、数年前に「寄付」という形に大きく舵を切る判断をしました。寄付という支えがあるからこそ、私たちが本当にやりたいやりたい支援に対して、100%の時間とエネルギーを使えるようになったという経緯があります。
松田:その意思決定も、非常に大きなものですよね。僕たちは一方で、「マーケットをつくる」というアプローチを選びました。同じように社会のあり方を変えたいと思っていても、その実現の仕方にはいくつものルートがあるんだと思います。
だからこそ、自分たちがどんな手段を選び、どんなお金の流れをつくるのかは、強い意志を持って設計する必要がある。ビジネスである以上、その力をきちんと社会に還元できる形にしていきたいと考えています。
今村:「正しいこと」を言っているだけではなかなか届かない層に、「カッコいい」「面白い」というフックで入り口をつくれる。その可能性をヘラルボニーさんから改めて教えてもらいました。これは私たちNPOにとっても大きなヒントになります。
「うまくいく場所」との出会いで、才能が花開く。
大人の役割は、多様な場づくり
今村:今の日本の教育現場は、相当な「階級社会」のようになっていると感じます。実は、うちの子が来年中学生になるのですが、進路についてすごく悩みました。多様な人に出会える公立か、それとも手厚い環境の私立か。一人の親としての視点に立つと、「手厚い私立の方がいいかもしれない」という気持ちが強くなって。この選択は本当に難しいです。
どうすれば、子どもたちがいろいろなことに興味を持てる社会を、私たち大人が作っていけると思われますか?
松田:僕は「自分が活躍できる場所にいるから、その分野が好きになっていく」のだと思うんです。
僕の場合、学生時代にソフトボールでは2番ファーストでギリギリレギュラーでしたが、卓球だけは運動神経抜群の相手にも勝つことができました。それが自分にとって大きな成功体験になったんです。
つまり、最初から“好き”や“才能”があるというよりも、先に「うまくいく場所」と出会うことで、その分野を好きになっていくこともあると思うんです。
スポーツに限らず、「暗算が半端じゃない」とか「塗り絵がすごい」とか、その子が圧倒的に輝けるニッチな場所を見つけ出し、そこを徹底的に後押ししてあげる。
そうした「活躍できる場所の多様性」をつくることこそが、子どもたちの興味を広げていく、私たち大人の役割ではないでしょうか。
今村:その考え方は、これまでお話しいただいた「価値の見方」や「才能の捉え方」ともつながっていますね。
松田:そうですね。もし組織の中でパフォーマンスが上がらないメンバーがいたとしても、それは本人の能力不足ではなく、単に「今の場所」が合っていないだけだと、僕は思っています。
たとえば、もし僕がこれまで全く関心を持ってこなかった部門に明日から配属されたとしたら、きっと逃げ出したくなってしまう。でも、別の環境や役割に移れば、その人が輝く場所は必ず見つかるはずです。
だからこそ、「可能性を信じ抜く姿勢」だけは、リーダーとして持ち続けていたい。それは絶対に譲れないカルチャーなんです。
今村:「場所の問題」という言葉が、すごくしっくりきました。それは、教育のど真ん中にあるテーマでもあると思います。
本来であれば誰もがどこかで輝けるはずなのに、その場所が見つからないことで、自信を持てなかったり、自分の価値を感じられなくなってしまっている子どもたちもいる。
だからこそ私たち大人が、学校だけでなく社会のあちこちに、「いろいろな場所」をつくって用意しておくことが大切なんだと、あらためて感じました。
松田:ヘラルボニーの作家さんたちが、自分の表現を通じて社会とつながっている姿を見るとき、「この人は本来こういう人だったんだな」と、感じるんです。能力がないわけではなく、ただ、その力が見える場所がなかっただけだった。
それぞれの面白い部分を見ながら、世の中とコミュニケーションが生まれていく。そんな関係性がもっと広がっていくといいなと思っています。
今村:今日お話を伺って、私自身アートの見方が変わりました。ヘラルボニーを通じて、多様な視点や個性に「腹落ち」する感覚を得られた気がします。
こうした一人ひとりの価値観の転換こそが、結果として社会を変える大きな力になっていく。そういう変化が一つひとつ積み重なっていくことで、私たちが無意識に縛られている「普通」という言葉そのものも、新しく更新されていくのだと感じました。今日は本当にありがとうございました。
松田:ありがとうございました。
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