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KATARIBA マガジン

伝えなきゃ変わらない!「行動」で成長できた高校生のマイプロジェクト

vol.049Mail Magazine

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category #メルマガ

writer 上村 彰子

こんにちは。NPOカタリバの船本 彰子です。いつも温かく見守っていただき、ありがとうございます。

カタリバは、震災や貧困などの困難さを抱える子どもたちをはじめ、あらゆる環境にある10代に教育支援を届ける活動を行っていますが、東日本大震災をきっかけにスタートした事業がいくつかあります。その1つが「マイプロジェクト」です。

東北・被災地の高校生から「支援されるだけじゃなくて、自分たちも地域のために何かしたい」という声があがりました。そこで、彼らが身の回りの課題に取り組むプロジェクトを「マイプロジェクト」と名付け、サポートを始めました。現在では東北に限らず、全国の高校生たちがそれぞれの地域で課題を発見し、様々な取り組みを展開しています。

毎年3月には、「マイプロジェクト」に取り組む高校生が全国から集まる「マイプロジェクトアワード」が開かれます。ファイナリストに選ばれた高校生は発表を行い、その中から各賞が選出されます。今回は、今年「ベストオーナーシップ賞」に選ばれた、としきさん(当時高校3年生)の取り組みをご紹介します。

 

2019.4.25-2.jpg (マイプロジェクトアワード2018での発表会の様子)

 

としきさんが取り組んだ「マイプロジェクト」は、「全国に防災意識を広める」こと。彼は東日本大震災前、福島県双葉郡の大熊町に住んでいました。こちらは福島第一原子力発電所事故の影響を受け、避難区域に指定された町です。

「東日本大震災前には、学校で避難訓練などがあると面倒くさかった。ところが実際に震災を体験して、避難訓練の大切さを実感しました。震災直後、避難を促す放送が流れ外に出たものの、どこにどうやって避難したらよいかわからなかった。近所の住民と共に右往左往し、不安が募りました。普段は10分程度で着く避難所にたどり着くのに30分以上かかり、とても怖い思いをしました」

そんな経験からとしきさんは、「避難経路」は平常時から把握しておく必要があるのではないかという問題意識を持ちました。このまま何もしなければ、また災害が起こった時に同じように犠牲者が出てしまうのではないか。しかし、ただ避難訓練を促しても人々の心に響かない、多くの人の防災意識を高めるためには、まったく別のものと組み合わせてはどうかと考えました。

としきさんの高校は福島県立ふたば未来学園高校。こちらにカタリバは2017年6月より、高校生たちが放課後、様々な学びにチャレンジできる「双葉みらいラボ」を開設しています。双葉みらいラボの活動は、放課後の居場所作りだけではありません。学校の授業の中に入り、先生たちと共に「未来創造探究」というプロジェクト型授業の実施を行っています。

 

2019.4.25-3.jpg

(ふたば未来学園高校での「未来創造探究」授業の様子))

 

この授業では、高校1年生でフィールドワークを行って地域の課題探しなどを行い、高校2・3年生時にプロジェクトを立ち上げ、設定したテーマの課題解決に取り組んでいきます。としきさんは、先輩たちが取り組んでいた「震災で中止されていた地域のお祭りの復活」と、自身のプロジェクトを組み合わせることを思いつきました。

祭りで歩くルートを避難経路に変えてみたらどうかと思ったんです。祭りを復活させるため、地域の団体である『広野わいわいプロジェクト』『マツリズム』とも初めて関わりました。紹介いただいた『あすびと福島』さんにはとても感謝しています。2018年4月に復活した祭りには運営側として参加しました」

けれども、復活した祭りの神輿ルートでは、当初予定していた「避難経路」の半分しか歩くことができませんでした。何が足りなかったのかを振り返った時に、「いくら自分が良いと思ったことでも、一方的に伝えるだけでは多くの人々を動かしていくことはできない」ことを実感したとしきさん。高校3年生の夏、「未来創造探究」の総括的な発表会でも、「このプロジェクトはこのまま終わらせていいのか」と悔いが残りました。

受験や部活の野球もある中、さらにプロジェクトを進めていくことに迷いもありました。そんな時思い出したのが、8年前に経験した避難途中の恐怖。経験した自分だから実感している防災の大切さを全国に伝えたいという、最初の思いでした。

「大変かもしれないけれど、見守ってくれる先生やスタッフもいる。授業でもここまで探究を深めてこれた。全国に『伝える』ということを、最後まで諦めちゃいけない!」

そんな中、双葉みらいラボのスタッフから、よりアクションを深めてマイプロジェクトアワードに参加してみたら?と声をかけられました。そこで、2019年2月のマイプロジェクトアワードの地方大会への参加を目標に、プロジェクトを進めてみることにしました。

祭りの復活プロジェクトの時には、自分よりひと回り以上年上の大人との慣れないコミュニケーションで、躊躇してしまうこともあったとしきさん。双葉みらいラボのスタッフは、少しだけ年上の大学生や20代が中心。話しやすい彼らに、悩んでいることをすべて打ち明けることができました。今までのアクションで良かったことやできなかったことをスタッフと整理し、次の一歩に踏み出す準備をしていきました。

 

2019.4.25-4.jpg(地域の幼稚園生と避難経路を歩く)

 

まずは地域で、「小学校の遠足経路」「幼稚園のお散歩ルート」に避難経路を組み合わせる提案をしていきました。マイプロジェクトアワード全国大会出場が決まってからは更に範囲を広げて高齢者施設で、「避難バスまでの経路の動画紹介」も行いました。こうして、「防災意識」の向上のために、各種イベントとのコラボレーションや、各世代に合せた施策を考えて、次々に実行していきました。自身のプロジェクトを振り返ったとしきさんはこう語ります。

 

2019.4.25-5.jpg(老人ホームでの避難経路動画上映)

 

「今思えば、『あの時、ああ言っていれば伝わったのに』と思うことはたくさんあります。それらも、探究の授業で取り組み、マイプロジェクトアワードにまで挑戦しなければわかりませんでした。自分が伝えたいことがあったらまず人の要望や思いを聞くという、コミュニケーションが何よりも大事だと学びました」

先生やスタッフ、地域の大人たちがみんな助けてくれた。壁にぶつかった時のアドバイスがなければ途中であきらめていた、「ひとりじゃできなかった」ととしきさん。今春から大学生になった彼は、今後自分のいた町だけでなく全国規模で「防災意識を伝える」アクションをするにはどうしたらいいか、じっくり考えていくそう。これからも「探究」に取り組む彼の挑戦は、まだ始まったばかりです。

今後もカタリバは、震災に限らず、あらゆる環境にある子どもたちが「自分がやってみたい」と思ったことにチャレンジし、未来を思い描けるよう支援を続けていきます。

あらゆる環境にある子どもたちに学びの場を届け続けられるよう、あなたの力を貸してください。毎月1,000円で継続的に寄付してくださる「サポーター」を募集しています。「1日33円で子どもたちにチャンスを」。

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Writer

上村 彰子 ライター

東京都出身。2006年よりフリーランスでライター・翻訳業。人物インタビューや企業マーケティング・コピーライティング、音楽・映画関連の翻訳業務に携わる。現在、カタリバ発行のメルマガや各種コンテンツライティングを担当。

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