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大戸屋と高校生が本気で向き合った1年間~学校と企業が本気で協働するPBLの現場から~[活動レポート]

vol.046Report

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category #活動レポート

writer 編集部

「高校生が考えました」では売れない。数字で結果を突きつけられる学び。

全国に定食チェーン「大戸屋ごはん処」を展開している『株式会社大戸屋』が、福島県立ふたば未来学園高校の生徒と、実際に店舗で販売するメニューを開発するという《子どもの学び応援プロジェクト》の活動をご紹介します。

ふたば未来学園高校は、3.11の震災と原発事故の影響で、双葉郡内にあった5つの高校が全て休校となることから、2015年4月に新たに設立された学校です。今後の探究型の学校教育のモデルとして注目を集めています。一方、実際に入学してくる生徒たちは各々が厳しい避難体験を抱えています。思うように勉強や部活に向き合えずに苦しむ生徒たちの心を支えながら、「探究学習」という新しい取り組みも開発する。この2つを両立する必要がありました。

そこで、被災地などで学習が困難な子どもたちに「ナナメの関係」で伴走し、子どもたちの意欲を引きだす活動を続けてきたNPOカタリバが2017年からサポートに入り、先生たちと共に「探究学習」の授業作りに取り組んできました。

大戸屋では2013年から、カタリバが宮城・岩手で先駆けて取り組んできた被災地支援事業への寄付付きメニューを販売して頂いています。そして2018年、もう一歩進んだ形で子どもたちをサポートしたいと《子どもの学び応援プロジェクト》が始動しました。

カタリバが協力しつくる探究授業の様子

始めてみると…「これは思ったよりも大変だ」と頭を抱えた。

実際に授業を担当した大戸屋商品開発部長の金澤さんをはじめ、社員のみなさんにお話を聞いてみました。金澤さんたちは隔週で福島に通い、ふたば未来学園高校の生徒たちとメニュー開発に取り組みました。

プロジェクトの始まった4月、金澤さんが「どんな定食を作りたい?」と聞くと、生徒たちは「僕は中華が好きだから、辛い中華っぽい味のものがいいな」「僕はお肉が食べたい」と自分たちの食べたいもの、好きなものを提案してきました。

今回の取り組みに参加した生徒は、「参加したい!」とこの企画に自ら手を挙げたわけではありません。ごく普通の高校生が、はじめは”日常の授業の延長”のような感覚で参加していました。当たり前と言えば当たり前なのですが、主体性あふれる提案をどんどんしてくるという姿勢はみられませんでした。「これは……思ったよりも大変だ。時間がかかるぞ」社員のみなさんは頭を抱えました。

それまで生徒たちは、地元での小規模な商品開発の経験はありました。しかし全国で販売される可能性があるような商品の開発は、もちろん初めての体験です。「なんとなく大戸屋っぽいから」と凍り豆腐の煮物を鍋いっぱい作って提案してきたこともありました。「これ、食べたい?」と聞くと「食べたくない。こういうものを求められているのかと思って」と答えました。大人が持っている「正解」を探しさなくてはいけないと思ったようです。

コラボメニューの販売は、夏と冬の2回行うことになりました。商品を世に出せば、どんな結果でも数字が評価として返ってきます。「『福島の高校生が考えました』だけでは、商品は売れません。大事なのは、きちんと市場に受け入れられたかどうか、たとえ厳しいものであっても数字で評価されるという経験です。これが商品開発という体験を、子どもたちの本当の学びにするためのポイントです」(金澤さん)

授業のなかで、メニューについて話し合う高校生と大戸屋社員

あえて”悪役”に。生徒の目が変わった瞬間。

第一弾ではなかなか生徒の提案が進まず、煮詰まってしまったことがありました。「そもそもやりきれるのだろうか」と、大戸屋の社員・教科担任の先生・カタリバのスタッフの三者で話し合いの場を設けました。どうしても生徒の「授業だから、先生に言われたから、やらされている感」が拭えない。そこで、一度伝えるべきことを厳しく伝え、向き合うことに決めました。

「本当に食べてもらいたいと思っているのか。君たちが本気でやらないなら、もう販売しない。心から良いと思ったものを提案してほしい。僕らが全力で商品にするから」(金澤さん)

どこか「高校生が相手」という遠慮もあったと思います。生徒に伴走するという初めての挑戦に、とことん子どもに寄り添って取り組まれた金澤さん。企業人として働く日常のなかでは、身内でもない高校生に叱咤するという機会もなかなかありません。教育を仕事にする人にとっては”当たり前”のことが、異なる業界で働く人にとっては初めての体験になります。しかし、社会の厳しさや生徒たちの考えの甘さを、彼らに本気で伝え続けたことで、生徒たちの目の色が変わりました。金澤さんも手応えを感じました。

「だめって言われると思ったから、言わなかったけど…こういうものを作りたいと思っていた」と、生徒たちの主体的な提案も少しずつ出てきました。「地元の郷土料理を知ってほしい」とメニューを形にし、昨年10月に第一弾コラボメニューをなんとか販売しました。

しかし、第一弾の結果として出てきた数字は厳しいものでした。消費者ニーズは、『高校生とのコラボメニューだから』という理由だけで、簡単に通常以上のヒット商品になるようなことはなかったという当然の結果。現実は甘くありません。経済合理性だけを考えれば、昨今の厳しいビジネス環境にさらされる大戸屋にとっても、これ以上のコストをかけてこのプロジェクトに取り組む理由はありません。

ところが大戸屋は、「第一弾の経験をもとに、ここから子どもたちの本当の学びが始まる」と、第二弾の続行を決定されました。

第二弾メニューでは、考案が始まった時点から生徒の様子は変わっていました。”やらされている感”で動くのではなく、取り組む姿勢と主体性がありました。ビジネスの基本である『需要』を意識しはじめた生徒たちは、ターゲットについて議論し、購買層である大人たちにアンケートを取りはじめました。

こうして生まれた第二弾のメニュー「牛肉と里芋のみそ煮定食」は、忙しい冬から初春にかけての時期にぴったりな、心も体もホッとする優しい味に仕上がりました。試食した大人たちも「おいしい」と顔がほころびました。

大戸屋本社で、定食のターゲットやコンセプトをプレゼンしました

「子どもが主導の体験」を生むには

PBLや「探究学習」には、「子どもの参画の梯子(はしご)」という考え方があります(※下図参照)。はしごの低い段階では、「大人にやらされている」状態。中段になると、「大人が主導だけれど、子どもの意見も反映される」状態。そして上段が「子どもが主導で行う」状態です。この「子ども主導」の体験になって初めて、「自分がやりたいからやった。だから過程も結果もすべて自分のものとして受け止められる」体験になります。

参画のはしご (ロジャー・ハート1997 木下他訳 2000 p42 より作図)

今回の大戸屋の《子どもの学び応援プロジェクト》では、徹底的に子どもたちの主体性を大切にした大戸屋の皆さんのスタンスが、生徒を変えました。もちろん、ゴールやプロセスを大人が用意して、「こうすれば良いんだよ」と見せてしまったほうが楽だったでしょう。でも、それでは「主体的・対話的で深い学び」にはなりません。子どもを先導するのではなく、伴走するのは大変なことです。時間も忍耐力も必要とされます。そうした大人の姿勢があったからこそ、一年間を通してはしごの上段にまで到達できた取り組みでした。

これから日本中でPBLや「探究学習」の機会が増えていくでしょう。私達大人は、どのように”本当の”子ども主導の体験を作っていけるのか、その学びにもなるプロジェクトだったと思います。

大戸屋とカタリバがそれぞれの得意なことを生かし、共同で子どもの学びを応援する取り組みは、まだまだ続いていきます。

今後は新たな形に発展していく予定です。ご注目ください。

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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