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小規模校同士をオンラインでつなぎ、新たな学びを生む「学校横断型探究プロジェクト」

vol.203Report

date

category #活動レポート

writer 吉田 愛美

“小規模校”という言葉をご存じですか?

小規模校とは、その名の通り生徒数の少ない学校であり、生徒数と同様に在籍する教員数も少ないことが特徴です。仮に1校あたりの学級数が9以下の学校を小規模校とした場合、小規模校は全日制の公立高校だけでも日本全国に683校※1存在すると言われています。

1990年代の後半から高等学校の再編整備が進められた結果、1989年に5,523校あった公立高校は2016年に5,029校と、約1割(494校)減少※1しました。
そして、統廃合の対象となる学校は、小規模校と呼ばれる学校が多くを占めます。

少子化や過疎化が進む中、このような傾向は今後も続くことが予想され、多くの小規模校が統廃合の危機に立たされています。

しかし、そんな小規模校には「1市町村1高校」のような存在も多く、「地域振興の核」※2とも捉えられています。近年では、生徒と教員の距離が近い、地域にある課題を題材に実践的な学びに取り組めるなど、小規模校ならではの特色を生かして、生徒や保護者、地域から支持を集めている学校もあります。

地域にとって欠かせない存在とも言える小規模校。実践型探究学習プログラム「マイプロジェクト」を全国の高校生に広めていく取り組みをしているカタリバでは、2020年度から小規模校の生徒同士が繋がり合い、ともに学ぶことで多様な興味・関心に応じた探究を実現する「学校横断型探究プロジェクト」をスタートしました。

今回、本プロジェクトを担当している私、吉田が、昨年度の取り組みと、今年度の新たな取り組みについてレポートします。

※1:学校基本調査 / 令和2年度 初等中等教育機関・専修学校・各種学校《報告書掲載集計》 学校調査・学校通信教育調査(高等学校) 高等学校(通信教育を含む) 全日制・定時制
※2:「経済財政運営と改革の基本方針2018 」 内閣府

「人的リソースが足りない」「切磋琢磨が起きにくい」
小規模校が抱える課題を、ICTの力で乗り越える新たな取り組み

小規模校にはこれまでお伝えしたようなメリットがある一方で、抱える教育課題も多くあります。

教員や生徒の多様性を生み出しにくいこと、限られた教員数により教えられる科目が少ないこと、人間関係が固定化しやすいため生徒同士の切磋琢磨が起きにくく、挑戦機会になりにくいこと……これらはいずれも、人的リソースの乏しさから引き起こされている課題とも言えます。

2022年度から、全国の高等学校で、それぞれの生徒の興味・関心に基づいたテーマを探究する「総合的な探究の時間」が必修化されます。そこで求められている「生徒一人一人の興味感心に応じた、個別最適な学び」を実現する上で、上記は克服すべき喫緊の課題です。

そんな小規模校の人的リソースの問題を解消するために活用が期待されるのが、PCやタブレットといったICT端末。「オンラインで生徒同士がつながる仮想の教室をつくることで、人的リソースの乏しさや多様性の生み出しにくさといった課題を解消することができるのではないか。」そんな考えから、ICTの利用で複数の小規模校をつなぎ、探究活動を共に進めることを目指す、「学校横断型探究プロジェクト」が立ち上がりました。

プロジェクト1年目となる2020年度は、岩手県立大槌高等学校(2学年約40名)、山形県立小国高等学校(同約20名)、熊本県立小国高等学校(同約50名)の小規模校3校で合同授業を実施しました。

授業の中では、似たようなテーマを探究する生徒同士が集まってお互いの発表を聞き、フィードバックやアドバイスをし合いました。高校生たちは、自分とは異なる意見を同世代から受け取ることができ、刺激を得ていたようです。

取り組みを終えた3校の先生方が口をそろえて驚いていたのは、高校生たちがお互いを励ましたり、褒めたりする言葉を自然と送り合っていた様子でした。「同じ学校の生徒同士だと、『いいね』、『すごいね』などわざわざ伝えないような点に、他校の生徒たちが気づいてくれた」とある先生は言います。

また、同じテーマに取り組む他校の生徒を見つけたことで、その存在が探究を進める上での支えになっていたケースもあると言います。一方で「負けたくない」といった気持ちや、背伸び感も見られたと振り返っていました。引っ込み思案だと思っていた生徒が楽しそうにしていた」「こんなにコミュニケーションができる生徒だと思わなかった」など、普段とは違う生徒の一面に驚いたという声も多く挙がっています。

他校とともに探究学習に取り組むことで、お互いに刺激し合ながらより一人一人の探究テーマを深めることができたり、生徒がこれまでと異なる一面を見せたりと、2回だけの合同授業の機会だけでも、変化が垣間見えた取り組みとなりました。

他校の生徒に、自分の探究活動を発表する生徒。教員からは、「他校と共同で行う発表機会が、1年間に渡る探究学習の一つのマイルストーンにもなり、メリハリを生むことができた」と1年間の取り組みを評価する声も聞かれた。

「先生」という教育資源を複数の学校間で共有。
多様な専門性が、生徒の興味関心を深める

プロジェクト2年目となる今年度は、「教員」という教育資源を学校間で共有し、小規模校における多様な専門性やバックグラウンドを持った教員の不足を補う試みを計画しています。

夏から秋にかけて、生徒の興味・関心に応じたテーマ別ゼミを開講予定。ゼミの担当を担うのは、ゼミのテーマに専門性が生かせる各校の教員です。

例えば地理の教員が「観光」、家庭科の教員が「食」、保健体育の教員が「スポーツ」といったテーマを担当するイメージです。

生徒数、教員数が少ない小規模校では、生徒の興味・関心に応じたゼミを担当できる教員がいないことや、逆に教員が専門性を持つ分野に生徒の興味・関心が集まらない、といったアンマッチが生まれがちです。小規模校同士が連携することで、より多くの生徒や教員の興味・関心や専門性を活かしたシナジーを生むことを目指しています。

今年度の年間授業イメージ

生徒自身が授業の運営に関わることで、
先生・生徒・学校に変化も

先日、大槌高校、山形・小国高校、熊本・小国高校の3校が今年度第一回目の合同授業を行いました。授業でとりわけ目立ったのは、全体の場での役割を買って出た熊本・小国高校の生徒たちの活躍です。4名の代表生徒が担ったのは、その大半の顔も知らない100名以上の高校生たちを前にした「全体司会」そして「アイスブレイクの進行」という大役でした。

1年前に取り組みを始めた当初は、熊本・小国高校の生徒が全体の場に出ることは考えられないことでした。「うちの生徒はできるのだろうか」「ちゃんとコミュニケーションを取れるのだろうか」。熊本・小国高校でこのプロジェクトを担当をされている先生方は当初、3校の先生方の中で、取り組みに対する不安が最も大きかったと言っても過言ではなく、不安の声を口にされていました。

しかし今回、代表生徒4名を送り出してくれたのはその先生方でした。先生方の背中を押したのは、昨年度の合同授業で司会やアイスブレイクを担当した他校の生徒の様子。そして、グループワークの中で必死にコミュニケーションを取ろうとする自校の生徒たちの様子でした。

「うちの生徒もできるかもしれない。」
先生方からのサポートもありながら、笑顔で大役を終えた代表生徒の高校生たち。先生からの話によれば、後日、地域で交流のある中学校とのオンラインイベントの企画も生徒たちが自ら取り組み始めたそうです。今回のことが本人たちにとっても自信になったようだと、先生も嬉しそうです。

全体司会の様子

先生の変容が学校の空気を変え、学校の空気は生徒を変容させる。生徒の変容によって、さらに先生が、学校が変容していく……ある学校の中に「異質」でありながらも「同質」性を備えた学校が入り込むことで、そんな循環が生まれる可能性があるのかもしれません。

今年度は上記の3校に加え、新たに公募した3校がプロジェクトに参画することになっています。

小規模校ならではの教育課題を学びの魅力に変えながら、探究における学校連携の可能性を探る。2021年度も1年間のプロジェクトに取り組んでいきます。

Writer

吉田 愛美 ユースセンター起業塾

1991年福島県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。地元の力になりたいと、転職を経て地元選出の国会議員秘書を勤めた後、2016年1月より現職。コラボ・スクール大槌臨学舎で広報・事務・教務(中学校)を担当した後に、全国高校生マイプロジェクト事務局にて学校支援や広報を担当。現在は、「ユースセンター起業塾」事業責任者として、10代のための居場所を立ち上げたいという団体や個人を支援している。

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