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「被災した子どもたちにも、できることがある」秋田豪雨災害での支援で見つけたもの

vol.305Report

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category #活動レポート

writer 編集部

令和5年7月14日から発生した、秋田県各地での記録的な豪雨。秋田市では4500世帯以上が床上浸水、隣接する五城目町(ごじょうめまち)でも500世帯近くで床上への住宅浸水が確認され、車への浸水により犠牲になった方もいるなど、深刻な被害を受けました。

豪雨の影響で水の供給も止まり、県内の様々なエリアで断水が発生。特に五城目町では、町内の約9割の家屋や学校・保育園が1週間以上断水し、暮らしへの影響が続きました。

断水が解消されたあとも、浸水した家屋や職場の清掃作業で保護者が忙しかったり、自宅の1階が浸水してしまったため2階で過ごさざるを得なかったりと、いつもと少し違う夏休みを送る子どもたちの姿がありました。

秋田市と五城目町、2つの自治体で居場所をオープン

カタリバの災害時子ども支援 「sonaeru(ソナエル)」プロジェクトチーム(以下sonaeruチーム)は、発災後の7月18日より2名のスタッフが現地入りして、子ども支援におけるニーズ調査を開始。

7月21日より秋田市内で「みんなの遊び場・カタリバ ばーす千秋」を開設、7月24日からは五城目町で被災した子どもをサポートする「五城目豪雨災害・子ども支援プロジェクト」を開始し居場所を開設するとともに、緊急募金を募りました。

発災から2カ月が過ぎて日常が戻りつつある中、sonaeruチームの今回の取り組みについてご紹介します。

7月18日より秋田へ現地入りしてリサーチを行ったsonaeruチームですが、秋田県内の被害は広範囲にわたっており、被害状況の把握は自治体でも難しい状況。カタリバはこれまで各地で豪雨災害の支援にあたってきた経験から、「浸水している家屋や店舗が多く、住宅の修理や復旧作業の間に子どもたちを見てくれる人がいないという問題が発生するのではないか」と予測しました。

居場所支援の必要性を感じていた中で、一緒に立ち上がってくれたのは、地元の経営者の方たちでした。秋田市ではこれまでも学童保育を運営してきた合同会社石岡と協働。五城目町では、地元の経営者や住民たちが立ち上げた五城目コモンズと協働して、子どもの居場所づくりを行っていきました。

秋田市のカタリバばーす千秋では、0歳2ヶ月~12歳までの子どもを受け入れ、日曜や祝日も開所するなど、平日に仕事があって休日に家屋の普及作業を行わざるを得ない保護者も利用しやすいように工夫。また、冠水して車を失った方が多く、居場所への移動が難しい家庭もあると考え、地域にもともとあったファミサポ(ファミリーサポートセンター)への利用料助成も8月から実施しました。

五城目町では、高台にあったため浸水を免れた廃校オフィス・ババメベース(五城目町地域活性化支援センター)を子どもたちの居場所として活用。幼児〜中学生の子どもたちの預かりや学習支援、また食事支援を行いました。8月末時点での延べ利用者数は、235人となりました。

被災した子どもたちも支援に参加できた、ごはんづくり

カタリバはこれまでも、災害が起こるたびに現地ニーズを調査し、必要に応じた緊急支援に取り組んできました。その中でも今回はじめて取り組めたのは、子どもたちが支援を受ける側となるだけでなく、災害支援に参加できる仕組みです。

五城目町で実施していた食事支援は、全国各地から寄付いただいた食材等を子どもたちと料理人が一緒に調理し、なかなか居場所まで来れない被災した家庭へ一緒に届けに行くというもの。これまであまり料理をしたことがなかった子どもも、みんなで調理を楽しみながら、「おいしい、助かったと言ってもらえた」という経験をすることができました。

災害が起きると子どもたちは平時と比べて抑圧された生活を送ることが多くなり、その結果として、子どもたちの自己効力感(「自分なら目標を達成できる」という自信)が失われることがあります。被災した子どもたちが抱える心理的な問題も、自己効力感を感じられる環境の中で自然に解決していくことが多いと言われており、災害支援において大切なものです。

とはいえ、被災した地域の限られたリソースの中で、子どもたちの成功体験や社会とのかかわりをつくることは、簡単なことではありません。今回は調理を手伝う子どもたちのいきいきした様子から、「自分たちも何かできるんだ」という環境をつくることの大切さを改めて感じました。

こどもを真ん中において、地域内外の大人たちが力を合わせる

今回の支援において、居場所を開設した当初は、「人に頼っては申し訳ない、自分たちで頑張らないと」「うちくらいの被害でお世話になってはいけない」と考える保護者の方もいました。利用した家庭の子どもから誘われたり、他の子どもたちが楽しそうにしていたりする姿を見る中で、徐々に信頼して利用してくれるようになったご家庭もあります。

ある保護者の方からは「このような居場所の支援がなければ、心が病んでいたと思います」「復旧作業ばかりで、あまり遊びにも連れていけず申し訳なく思う気持ちもありましたが、居場所での日々が楽しくて仕方ないようで、みなさんと過ごしたことが夏休みの最高の思い出になっているようです」という声もいただきました。

保護者の方たちだけでなく、一緒にこども支援に取り組む現地の経営者や教育関係者も、実は自宅や畑が浸水するなど自身も被災しており、「このまま自分たちだけで支援活動をしていては、倒れるかもしれなかった」と漏らす方もいました。

外から来た人にサポートを求めるのは難しいことかもしれませんが、地域の方だからこそできる支援、外部の手があるからこそできる支援の両方があります。子どもを真ん中に考えながら、それらを組み合わせていくことに、カタリバではこれからも取り組んでいければと思います。

緊急支援を終え、現地体制でのゆるやかな見守りへ

現在は、無事に2学期が始まり、居場所に来ていた子どもたちも学校に通いはじめました。自治体による住宅の被害認定や補償に対する確認はこれからではあるものの、少しずつ日常が戻ってきている段階です。とはいえ、家屋や職場はどうにか片付けが進んでも、畑や田んぼのがれきの片付けはまだこれからというエリアもあり、被災前の環境にすぐに戻るわけではありません。

子どもたちも元気そうに見えても、実は心身にストレスを抱えていることもあり、しばらくした後に表面化することもあります。緊急的な支援が落ち着いた後も、子どもたちの様子を継続的に見て行くことが、被災した地域では望まれます。

カタリバも緊急的な居場所支援としての役割は終え、現地団体も9月からは平時の状態へと戻りつつも、子どもたちが顔をふらりと出せる居場所になれるよう工夫を続け、地域でゆるやかな見守りを行っていきます。

最後に、今回の災害でも迅速に緊急支援を行うことができたのは、日頃よりカタリバを応援してくださっている支援者のみなさまのおかげです。改めまして、みなさまのサポートや緊急募金へのご協力に、心より御礼申し上げます。

これからも活動を継続していくためにも、ぜひカタリバを引き続き応援いただけると幸いです。

-文:田村 真菜

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KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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