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【被災地最前線レポート】見落とされがちな支援者支援。能登半島地震で被災した先生への3つの応援プロジェクト

vol.326Report

date

category #活動レポート

writer 本田 詩織

令和6年1月1日に発生した能登半島地震。発災から4ヶ月近くが経つ現在も、5,000人以上の方が避難所生活を送っており、約4,570戸で断水が続いています。

カタリバでは1月4日より、被災した子どものための支援活動を開始。自治体や地域団体と連携して子どもの居場所を開設し、これまでにのべ3,000人以上の子どもたちが利用してきました。また、集団避難を行う子どもたち一人ひとりに必要な学用品や衣類等を届けるなどの支援にも取り組んできました。

一方で被災地の教員の中には、自身も被災し避難所生活を送りながらも、避難所運営と学校再開の対応を同時に行ってきた方もおり、子どもたちを支援する立場の方々もまた、大変な状況でサポートを行っていることが明らかになってきました。

「こういう時だからこそ、
いつも通り卒業生を送り出したい」

今回の地震は学校の冬休み期間中に起こりましたが、被災地の教員は発災直後から、被災した教室の片付けや、断水している中での仮設トイレや給食の手配など、学校再開に向けてさまざまな対応に当たってきました。学校再開後も被災した子どもの心のケアや、学童保育が利用できないため放課後に学校に残らざるを得ない子どもを教員が対応するケースも見られました。

このような背景から、連携している石川県教育委員会等からの要請を受け新たに始めたのが「被災地の先生応援プロジェクト」です。3月上旬より、教員の方々が学校運営を円滑に行っていくにあたって不足している設備・物品の確保や教員研修に取り組んでいます。

そのうちの一つとして実施したのが、卒業式・始業式に着用する礼服の提供です。

教員の方々のなかには、自宅の倒壊などの被害によって卒業式に着用する礼服を用意することが難しい方もいました。「こういう時だからこそ、毎年と同様に礼服を着て子どもたちを送り出したい」という教員の想いを受け衣料品メーカーの株式会社コナカ様に相談したところ、卒業式に間に合うよう礼服を準備いただけることに。一人ひとりのサイズに合った礼服を、25名の教員のもとに届けることができました。

礼服を手にした教員からは、「なかなか環境が整わない中ではあったが、用意いただいた礼服のおかげで心も環境も整えて卒業式を迎えることができた」といった声が寄せられました。

教員のための居住スペースを
学校内に設置

2016年に発生した熊本地震では、震災から3年後の時点で2,000人弱の児童生徒が心のケアを必要とする状態であったことが明らかになっています。今回の震災においても、心のケアを必要とする子どもたちが今後多く生じることも想定され、子どもたちにとって学校が安心して過ごせる場所で、教員の方々が子どもたちの抱えるさまざまな気持ちを受け止められる状況であることは重要です。

一方で、石川県教育委員会によると震災から1ヶ月時点で約150名の教員が避難所や学校等で生活しており、現在も継続している方もいます。子どもたちをサポートする教員自身が体を休め、心身ともにリラックスできる居住スペースの確保が喫緊の課題となっていました。

カタリバでは石川県教育委員会より相談を受け、被災した教員への居住環境支援「センセイハウス」の検討を開始。当初は空き教室にテントを張るという案も出ていましたが、周囲が気になってゆっくり休むことが難しいことが想定されるため、木の壁で仕切った個室を準備することにしました。

出来上がった個室にはベッドや机、スタンドライトを設置し、ドアには鍵をかけることもできます。また、個室の隣にある共用スペースにはソファーや調理器具などを用意し、教員が少しでも心身を休めることができるよう設計しました。

個室の様子

3月末に、珠洲・輪島・能登の3市町村の各1校の空き教室に合計23人分のセンセイハウスの設置が完了し、教員の入居が始まっています。入居した教員からは、「車中泊も覚悟していたが、個室や布団を用意してもらえて本当にありがたい」、「子どもたちに良い授業を届けることで、この恩を返していきたい」といった声も聞かれています。

共用部の様子。ドアの向こう側が個室になっている

仮設住宅への入居が決まるまで家族と離れ、単身でセンセイハウスに入居している教員もいます。教員のニーズも踏まえつつ、仮設住宅への入居が完了するまでの間、この居住スペースが利用される予定です。

※センセイハウスの設置にあたり複数の企業にご協力いただきました。詳細は記事の末尾をご覧ください。

教員の“心の棚卸し”も必要。
3.11を経験した元教員による研修会

今回の震災で大きな被害を受けた地域の一つである七尾市では、1月中旬より小中学校でオンライン授業を開始しました。1月下旬からは学校での授業が再開されましたが、体育館は避難所になっておりグラウンドの状態も悪く、体育の授業が行えないなどの制約もありました。また、断水が続く中では給食が作れないため、簡易給食としておにぎりやパンを手配することで2月上旬から午後の授業を再開するなど、平常時とは異なる環境の中で教員の方々が一つひとつの問題に対処しながら3学期を過ごしてきました。

このような背景から、「学校再開のために奔走してきた教員のために、この3ヶ月間を振り返るとともに、新年度をどのように迎えるとよいかヒントを得る機会を設けたい」との相談を七尾市教育委員会より受け、3月末にオンラインでの教員研修会を実施しました。

講師には東日本大震災での被災経験を持つ元教員の佐藤敏郎さんを迎え、被災した子どもたちにどのように接するべきか佐藤さん自身が悩んだ経験や、授業や部活の再開にあたって苦労したことなどを話していただきました。

参加した教員からは、同じような被災経験を持つ佐藤さんの話を受けて「生徒に対してこういう関わり方もあるんだと気づくことができた」といった声が聞かれました。また、発災直後からの3ヶ月を振り返って涙する教員や、お互いのこれまでの取り組みを労う声も聞かれました。

学校が再開した後も、「様々な制約がある中でどのように授業や学校行事を行っていくのか」「被災した子どもたちにどのように寄り添っていくのか」など検討すべきことはたくさんあり、平常に戻るまでに長い時間がかかることが想定されます。

今回は七尾市の小中学校教員に対して研修会を実施しましたが、子どもたちをケアする立場にある教員の方々が心の棚卸しをできる機会を、他の被災地域でも設けていきたいと考えています。

最後に、今回の震災でも迅速に緊急支援を行うことができたのは、日頃よりカタリバを応援してくださっている支援者のみなさまのおかげです。改めまして、みなさまのサポートや緊急募金へのご協力に、心より御礼申し上げます。

カタリバでは引き続き、今回の震災で被害を受けた地域の子どもたちや、教員・現地の子ども支援団体など子どもたちに寄り添う方々へのサポートを行っていきます。

■センセイハウスについて

《プロジェクト概要》
・協働:石川県・県PTA連合会・認定NPO法人カタリバ
・名称:被災地の先生応援プロジェクト センセイハウス
・支援対象:能登半島地震により自宅が被災した教員のうち希望者
・入居数:計23人(珠洲市12人、輪島市5人、能登町6人)
・入居期間:2024年3月30日〜仮設住宅入居決定まで

《協力企業(*五十音順)》
・株式会社エアウィーヴ
・株式会社クラス
・セイノーホールディングス株式会社
・株式会社ビットキー
・株式会社Yogibo

Writer

本田 詩織 カタリバマガジン編集担当

1990年生まれ。 地方で育った経験から、学生時代より地域の魅力や課題を教育に繋げる取り組みに関心を持つ。民間企業2社を経て、2018年よりカタリバに参画。福島県立ふたば未来学園高等学校併設の「コラボスクール・双葉みらいラボ」で学校支援コーディネーターとして勤務したのち、現在は広報部でオウンドメディアの運営を担当する。

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