地域と学校の「垣根」をなくす──北海道を訪ねて見えた、不登校支援のヒント
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寺島 智美 Terashima Tomomi 不登校政策ラボ
大学卒業後、金融業を経て、生きづらさへの関心から公共分野を志向。コンサル会社に転じ、14年半にわたり中央省庁の制度改革案件に携わる。しかし、当初の関心領域との乖離から退職し、スクールソーシャルワーカーとして2年間子ども・家庭の困難に向き合った。カタリバ入職後は、不登校政策ラボに所属し、自治体への政策伴走に携わる。社会環境と子どもの精神的健康との関係に関心を持ち、2026年より大学院にも通う。
12年連続で増え続けている、不登校の児童生徒。学校に行くことが難しい中でも、子どもたちが学びや人とのつながりを失わず、自分らしい将来を描いていくにはどうしたらいいのか。子どもたちを支える大人たちは、どのような環境や仕組みをつくっていけばいいのか。そんなことを考えながら、カタリバでは2025年秋から、日本財団と協働して「不登校政策ラボ」をスタートさせました。
▼プレスリリース
https://www.katariba.or.jp/news/2025/10/03/49317/
今年の夏、連携している4つの自治体(青森県三沢市、東京都国分寺市、広島県三次市、鹿児島県大崎町)の方々とともに北海道安平町と東川町を視察のため訪れました。
今回の視察で見えてきたのは、学校だけではなく、地域との境界線をぼやかし、緩やかなつながりを作ることで、不登校の子どもたちを含む、多様な子どもたちが過ごしやすい環境が生まれているということでした。
「学校とは何か?」という対話から始まった学校づくり──安平町
最初に訪れたのは、「日本一の公教育の町」を掲げる北海道安平町。人口減少が進む中で、どのようなまちをつくっていくのかを考え、「子育て・教育」を柱に掲げてきた自治体です。
安平町の学校づくりを考えるうえで大きな転機となったのが、2018年の北海道胆振東部地震でした。早来中学校の校舎が使えなくなり再建にあわせて小中一体の義務教育学校「早来学園」がつくられることとなりました。そこでまず問い直したのは、「そもそも学校とは何なのか」ということでした。
早来学園の外観
安平町の教育長・井内 聖氏はこのように語ります。
「学校を建て直すとなったときに、教育委員会をはじめとする学校関係者だけで作ろうとすると、”最新の古い学校”を作ってしまうことになるんじゃないかと思ったんです。変化する社会の中で変わらないものってなんだろう、子どもたちに届けていきたいことって何だろう、という対話を、地域の方々や外部の方を巻き込んで始めました。それが『自分が“世界”と出会う場所』という学校のコンセプトにつながっています」
■早来学園の空間構想
その考え方は、学校の空間にも表れていました。早来学園は、学校空間、地域の空間、その中間的な空間の3つで構成されています。デジタル活用によって、学校と地域の空間を柔軟に共有できるようになっており、中間的な空間は、時間帯によって学校と地域の場が入れ替わります。
■発達段階に応じた設計
早来学園では、発達段階に応じて空間設計されています。例えば小学校1、2年生では庭と校内を行き来しやすく、グループワーク等で周りの子と関わり動きながら活動できるように。一方、中学生では、クラスの教室をなくして教科別の教室に。登校して荷物を置いた後はソファ等でくつろいで過ごし、授業時間になると教科別の教室に向かいます。学びとは、「自分の足で動いて身に付けるもの」という思いが込められた作りです。
■地域との緩やかなつながり(校内外の接続)
早来学園では、地域の方々と学校とが緩やかにつながっています。
子どもたちが登校して最初に目にするのはガラス越しに見える地域の図書室「まなびお」。地域の多様な年代の方々が来て過ごしています。子どもたちは学校からこの図書室に入り、また戻っていくこともできます。一方、地域の方は学校に入っていくことはできません。顔認証のデジタル活用によって、学校と地域をつなげながらも、子どもの安心・安全を守る境界を設けているのです。
早来学園の下駄箱(奥に「まなびお」が見える)
また、体育館では、アリーナ部分は子どもたちだけですが、2階の回廊部分が地域に開放されて、おじいさんおばあさんがここにきて歩きます。
早来学園の体育館
このような地域との緩やかなつながりは、不登校の子どもにとってどう機能するのでしょうか。
早来学園では、下駄箱のすぐ近くに保健室が配置されています。不登校の子どもが「ちょっと学校に行ってみよう」と思ったときに学校の奥まで入ることが難しくても、入りやすい場をつくるためでした。
しかし、実際には、不登校の子どもたちは、保健室よりも先に、図書室「まなびお」に来ることが多いそうです。学校であって学校ではない場所、そんな空間が、不登校の子にとって居場所として機能しているのかもしれません。
■空間だけでは学びは変わらないー先生たちの学びの機会
空間ができても、それだけで学びが変わるわけではありません。この場を活かして、コンセプトに掲げた学びに向けて先生方の挑戦が続いています。
なお、再建した早来学園だけではなく、追分地区でも地域の方へのヒアリングやワークショップを重ねながら、学校づくりを考える取組が進められています。
学校と地域の「垣根」を緩やかに──東川町
次に訪れたのは東川町です。
東川町では、住みやすさ重視のまちづくりによって、子どもたちを学ばせたいという子育て世帯が増加しています。一方で、環境への変化への対応や、理想と現実のギャップ、育った環境との価値観のギャップや子育てに関するギャップなど、移住・転入が不登校の要因になっているケースもみられます。
そこで、昨年度、東川町では、町独自の不登校支援ガイドラインを策定し、転入者向けの対応や、起立性調節障害に関わる対応など、特に配慮すべき事柄を含めて整理しています。
また、教育支援センター「はあとるうむ」では、気楽に楽しめることをコンセプトとして、一人ひとりの子どものニーズに合わせた支援を重視しています。そのほか、不登校の子どもが通う場として、学校内に設けられた放課後の居場所と共生プラザ内に設けられた居場所があります。
■学校内の放課後居場所
地域ぐるみで子どもを育てるというコンセプトのもと、東川小学校は、コミュニティ機能や学童保育を含む「地域交流センター」と複合した建物になっています。
東川小学校の外観
学校内は、教室の壁や扉をなくし、棚などで緩やかに区切られています。机に向かったり、広い廊下に出てグループワークをしたりと、柔軟に学べる空間です。休み時間にはクラスや学年が違っても行き来しやすくい空間設計となっています。
2023年、東川小学校では、発達障害の子どもたちが増加したことを受けて、校内のランチルームを活用して、放課後に学ぶことのできる居場所を作りました。「子ども第三の居場所」として開始しましたが、不登校の子も利用することもあるそうです。
■地域共生プラザ内の居場所
「東川町共生プラザそらいろ」は、「誰もが居場所と役割を持ち、生き生きと暮らす空間」をコンセプトとして整備された施設です。
「共生プラザそらいろ」の館内の様子
施設内の一角に、不登校の子どもたちが過ごすことのできる居場所(相談室)が設置されています。不登校の子どもたちは、相談室で安心して過ごしたり、その時の状態に応じて部屋の外に出て、地域の大人や他の子どもたちと関わったり、共生プラザ内の思い思いの場所でくつろいだりして過ごします。
「不登校の子どものための場所」として明確に分けるのではなく、安心できる空間を確保しながら、そのすぐ隣に社会との接点がある。この「行き来できる環境」は、不登校支援を考えるうえでも、とても重要な視点だと感じました。
■HUCによる子どもの居場所の把握
東川町では、地域通貨システム(HUC)の機能を活用して、地域の居場所等を利用した際に子どもが「見守りカード」をタッチすると、保護者に通知が届く仕組みを構築しています。子どもがどこにいるのか分からないことを不安に感じる保護者にとって、子どもの行動を管理するのではなく、安心して地域に出ていける環境づくりにつながっていました。
HUCを活用した見守りシステム
■先生たちの学びの場
東川町では、有志での「不登校を考える先生の会」を開催しています。参加要請するのではなく、不登校支援に関心のある先生方が任意に集まる形式で、毎回40~50人程度が集まって学んでいるそうです。
参加自治体の方々の学び
今回の視察を通じて、参加した自治体からは、ビジョンや、「学び」とは何か等を自分たちの言葉で持ち、地域全体に浸透させることの重要さについて、気づきが挙げられました。
「どういう大人/市民を育てたいかというビジョンをしっかりと持ち、言語化し、地域全体に浸透させることの大切さを感じました。不登校支援も、不登校政策の枠組み内だけで考えると、そうした視点を見失いかねない」
また、「教育」の捉え方そのものが変わったという声も聞かれました。
「学校教育を中心に据えて、その周りに社会教育や生涯学習があるという構造で教育を捉えがちでした。しかし今回の視察を通じて、むしろ、生涯学習という大きな枠組みの中に社会教育、学校教育があると見ることもできる。すると不登校支援も『学校の中でどう支えるか』だけの問題ではなくなります。地域の中に安心して過ごせる居場所があるかということも、不登校支援を考えるうえで重要な視点になってきます」
そして、不登校の子どもの支援においても、地域の人々と緩やかに接続できる仕組みをつくること。そうすることで、学校に来るか来ないかだけではなく、子どもたちが地域の中に居場所を見つけ、頼れる人をつくったり、新たな視点を得たりすることができるのではないかという声もありました。
「不登校」に留まらず、子どもたち一人ひとりの学びや育ちを支えていくために
私たち「不登校政策ラボ」は、自治体が直面している「不登校の子どもたちの支援」に関する課題を自治体の方々と一緒に紐解き、解決への道を探していく取り組みをしています。
今回の視察で私たちにとって印象的だったのは、地域と学校が緩やかにつながり、地域全体で子どもを支える仕組みでした。
こうしたつながりは、不登校の子どもに限らず、すべての子どもにとって、学校だけでは出会えない人や世界とつながり、地域の中に自分の居場所を見つける機会になります。
そして大切なのは、大人が「地域の方と交流する時間ですよ」と指し示して子どもをつなげようとするのではなく、地域と学校が日頃から緩やかなつながりを持つことで、子ども自身がそれぞれの子どものタイミングで、地域とのつながり方を自分で選びやすくなるということ。そして、そうしたつながりが、義務教育を終えた後も、居場所や、困ったときに頼れる人・つながりとして続いていく可能性があるということです。
また、安平町・東川町のいずれにおいても、場や環境を整えるだけでなく、子どもを支える「人」も、学びや試行錯誤を重ねながら、その時々の子どもや地域の変化に応じて支援のあり方を変えていました。決まった答えや知識を当てはめるのではなく、支える側も学び、変わり続けることのできる柔軟な仕組みに、これからの地域での子ども支援の可能性を感じました。
不登校政策ラボでは、この視察で得た気づきを、連携する4つの自治体それぞれの実証にどう落とし込んでいけるか、これから対話を重ねていきます。地域の数だけ、正解のかたちは違う。だからこそ一つひとつの地域の言葉でそれを語れるように、私たちも伴走していきたいと思います。