「半径5メートルのモヤモヤ」から社会を変える。中高生によるユースカウンシル始動
Report
2015年、文京区に誕生した中高生の秘密基地「b-lab」。カタリバが運営するこの場所では、リビングのようにくつろいだり、友達とわいわい勉強したり、中高生が思い思いの時間を過ごすことができます。そんなb-labでは、2025年度から新たな試みとして「中高生によるユースカウンシル」を開始しました。中高生たちが日常の中で抱くモヤモヤを起点に活動し、最終的には行政へ声を届け、制度や政策に何らかの影響をもたらすことを目指しています。
2026年8月27日には、第0期の活動を締めくくる「アクション報告会」を開催。4プロジェクト・計6人の中高生たちが、文京区長へ自らのアクションの報告と提案を行いました。
本活動レポートでは、一連の取り組みと報告会の様子、そして区との対話から見えてきた次の一歩についてお伝えします。
日常で抱く「モヤモヤ」を起点に。社会と交わる実感を
ユースカウンシル(若者会議)とは、若者が意見を発信し政策に反映させる仕組みのことです。b-labで中高生によるユースカウンシルを始めた背景には、2023年のこども家庭庁発足と、それに伴うこども基本法の制定により、子どもや若者の社会参画・意見表明の機会がより一層重視されるようになったことがありました(*1)。
「10年以上にわたり、b-labには中高生たちの日々の時間が積み重なってきました。スタッフとの会話や月1回のコミュニティカフェでは、身の回りで感じる違和感や『こうなったらいいのに』という思い、いわば『モヤモヤ』がよく話題に上ります。b-labではこれまでも、そうした声を受け止め、中高生が自分の力で動き出すことを応援してきました。こうした関わりを土台に、中高生自身がテーマを決めて調べ、行動し、区へ直接伝えるところまで伴走する仕組みとして、ユースカウンシルを始めました」と、b-lab館長の佐渡は語ります。
「居場所」としてのb-labでは日々、中高生たちによる日常に根差したリアルな声が交わされています。そうした声には、中高生たち自身が半径5メートルで起こることと、そこで感じるモヤモヤがあふれています。今回の活動では、モヤモヤを「問い」に変えてどう行動していくかを決め、スタッフは一緒に考えながら伴走することで、自らの意見や行動によって社会が変わっていく様子を実感することをゴールとしています。
区長への報告・提案を行った四つのプロジェクト
今期は試行段階の「第0期」として、五つのプロジェクトが立ち上がりました。中高生たちは、自分のモヤモヤを問いに変え、調査やヒアリング、実践を重ねながら、それぞれのペースで活動を進めてきました。アクション報告会では、そのうち四つのプロジェクトが、起点となったモヤモヤや課題感、取り組んできたことを報告し、区長への提案を行いました。
① 英語教育プロジェクト

文京区内の同じ高校に通う2年生3人が立ち上げた英語支援ボランティア団体「Larnchat(ラーンチャット)」。当日は、事前に収録した動画で、これまでの取り組みを報告しました。
実用的な英語力や継続的な学習環境、楽しく学べる機会が不足しているという課題意識を起点に、「英語をただ机の上で教科として勉強するものから、コミュニケーションの中で自然に使えるものへと変えていくこと」を目標に活動を始めました。
3人は、より多くの子どもが自然に英語を楽しめる環境づくりを目指し、区内の児童館で英語を使ったゲームを取り入れたイベントを開催。この経験から、イベント開催頻度や企画の質向上、さらには継続的な事業化への構想を報告しました。
② セクシュアルマイノリティ理解促進

テレビや動画で「LGBTQ+」の存在を知った中学2年の生徒は、性別にまつわる偏見交じりだったり、配慮に欠けたりする言葉に強い違和感を抱いてきました。「自分らしく生きていい」というメッセージを本から受け取って救われた自身の経験から、当事者も、自分もそうかもしれないと思う子も、仲間がいることへの安心感を持てるように、コミュニティカフェのような居場所をつくるため、活動を始めました。
今後はb-labでのイベント開催を皮切りに、都内での大規模イベントを計画。また、文京区の区立小中学校の校則の見直し(頭髪規則の見直しや、座席・名簿の男女別の廃止など)や、多様性について考える教育の機会を増やすこと、性別に関わらず誰もが使えるトイレや相談環境の整備を区長へ提案しました。
③ 路上喫煙率・たばこポイ捨て率低下プロジェクト

文京区内で路上喫煙の多さや、煙の臭いに驚いたことがきっかけで活動を始めた高校2年の生徒。自ら条例やポイ捨て件数、喫煙所数の調査や所管課へのヒアリングを実施しました。
結果を受けて、「喫煙所に行きたいと思ってもらえるような取り組みをしたい」として、区内喫煙所の増設や、区内施設の喫煙所にゲーム感覚でポイ捨てを防ぐ「投票型吸い殻入れ(『どっちの映画が見たい?』などの質問への回答を吸い殻で投票する仕組み)」の導入を区長に提案しました。
④ 化学教育普及プロジェクト

「化学が嫌いな人が多すぎる」という問題意識が出発点の高校3年の生徒。原因は、「初めて出合う化学が、単語の暗記や計算など『勉強』としての化学」という点にあると考えました。そこで、子どもたち向けに実験キットなどを活用したイベントを開き、「勉強としての化学」を「楽しい化学」に置き換え、子どもたちが化学の道へと進む原点づくりを最終目標に学生団体「Clip(クリップ)」を立ち上げました。
今年度はb-labや児童館で実験教室を開催。すでに独自のWebサイトやSNSアカウントを作成し、一般公開に向けて準備を進めています。持続可能な運営体制を課題に挙げ、文京区立の小中学校での出張実験教室の実施や、「Clip」をはじめとした学生団体への資金援助の仕組みを区長へ提案しました。
提案を受けて、区長と交わした対話
区長は一つひとつの提案に耳を傾け、行政の立場から見た現状や論点を率直に共有してくださいました。そのうえで、提案をどう前に進められるか、中高生と区長がその場で意見を交わす場面も多く見られました。こうした双方向の対話は、ユースカウンシルが何より大切にしたいものです。

英語教育プロジェクトに対しては、前回の報告会から軸がぶれずに活動を続けてきた点に触れました。その上で、「きれいにまとまった内容に聞こえるが、英語が本当に苦手な子にアプローチするには、もう一歩工夫を」と、方法論に関するさらなるブラッシュアップを促しました。
セクシュアルマイノリティ理解促進に関する提案に対しては、法律改正の働きかけを行っていくのか、地域での理解促進に軸足を置くのか、論点を整理することの大切さを伝えました。また「どちらの活動を主軸にするかによって、進み具合は変わると思う」と、先を見据えた助言とともに「いずれにしても、あまり急いで結果を求めず、粘り強く活動を続けていこう」とエールを送りました。
路上喫煙率・たばこポイ捨て率低下プロジェクトの提案には、行政視点から捉えた現状と課題を冷静に伝えつつ、政策実現へのプロセスも伝えました。そして対話の中で「自ら分かりやすい区内の喫煙所マップを作り、各所に掲載をお願いするのはどうか」と、具体的な取り組みを提案しました。
化学教育普及プロジェクトに対しては、プロジェクトの完成度の高さとプレゼン力を絶賛しつつ、資金調達の道として文京区の地域連携ステーションの公募事業を紹介。また「教育センターや地域の青少年健全育成会のイベントなどで実績を積みつつ、仲間を増やすのが確実な近道」と、活動を続けていくための組織づくりについても考えを伝えました。

「自分も次こそは」。成長実感と新たな原動力に
報告した中高生からは、「噛みまくったし、本番でミスもしてしまったけれど、前に出て、区長に対して発表できたことだけでも、成長できたと思えた」と、自ら一歩踏み出してこの場にチャレンジしたことの価値を実感する言葉が聞かれました。
他にも「区長と直接やりとりできる、またとない機会を得られたのがとてもよかった。自分の選んだ道が正しいと言ってもらえたことが、これからも続けていく原動力になる」と、試行錯誤しながら進めてきた活動に対して他者から認められた経験が自信につながっている様子もうかがえました。

傍聴していた中高生たちからは、次のような声が聞かれました。
「いつもb-labにいる同年代のみんなが、想像もできないくらい強い意志を持って、自分らしい道にしっかり進んでいるのを見て圧倒された。自分も次こそは発表者側に立って、区長に自分のアクションを報告したい」
「みんなの姿を見て、本当に心が動かされた。今日傍聴したこのみんなと一緒に、何か新しいプロジェクトを始めてみたい。対話して、何かを起こしてみたい」

報告会の場にいた中高生それぞれに、新たなアクションの種と行動のエネルギーが生まれていました。その根底には、今まで直接意見を交わす機会がほとんどなかった「区長」という存在との出会いや、やり取りから見えてきた対話の可能性を通じて、中高生たちの間に「自分の意見を言っていい安心感」と「文京区への信頼」が芽生えていたように感じます。
半径5メートルから始まる。第1期ユースカウンシルの展望
アクション報告会の最後、区長から子どもたちに向けて、冷たい南極の海へ最初に飛び込む「ファーストペンギン」の話が送られました。「誰もやったことがないはじめの一歩を踏み出すのは、本当に勇気がいる。だけど、その一歩こそが最も大切。ぜひ自分自身のその勇気を信じて、これからも活動を充実させていってほしい」
今回の「b-labユースカウンシル第0期」を踏まえ、2026年10月から、文京区内の中高生を広く募集し「第1期ユースカウンシル」を始動します。
10月のキックオフから始まり、各自がテーマを決めて地域でのリサーチとアクションを積み重ね、2月には中間相談会、そして2027年8月には再び区長へのアクション報告会が予定されています。
カタリバでは、これからも子どもたちの「日常の居場所」を守りながら「半径5メートルのモヤモヤ」を拾い上げ、社会を自分たちの手で変えていく社会参画への挑戦に伴走し続けていきます。
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北森 悦 ライター
2015年からインタビューライターとしての活動を始め、これまでに500名以上のインタビュー記事に携わってきた。現在はライターチームを束ね、Webメディアのインタビュー記事や、企業・団体のテキストコンテンツ制作など、聴くこと・書くことを軸に幅広く活動している。カタリバ内では、カタリバマガジンのインタビュー記事を担当。
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