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起点は「可能性を信じる」こと。この10年でのユースワークの変化と、変わらずにあるもの/Spotlight

vol.448Interview

date

category #スタッフ #インタビュー

writer 佐々木 正孝

Profile

佐渡 加奈子 Kanako Sado b-lab館長

東京生まれ。学生時代にさまざまな対象(乳幼児~高齢者、障害者)の活動に参加する中でユースワーカーを志し、2008年より東京都内の区役所に入職、ユースワーカーとしての道を歩き始める。2016年よりカタリバへ転職。b-lab、アダチベース、ユースセンター起業塾での勤務を経て、2026年より文京区青少年プラザb-labの館長を務める。2023年度には社会構想大学院大学を修了し、ユースワーカーのリフレクション研究で実務教育学修士(専門職)を取得。国内外での視察や勉強会を通じてユースワークの普及に尽力するほか、都内私立大学2校で非常勤講師も勤めている。

度重なる自然災害やコロナ禍など、昨今は社会全体、さらには子どもたちの置かれる環境に大きな影響を与える出来事も少なくない。

すべての10代が意欲と創造性を育める未来の当たり前を目指し、全国各地で活動を行っているカタリバ。
その現場では、状況の変化に合わせて取り組みの内容を柔軟に進化・変化させつつ、目の前の子どもたちに向き合っている。

シリーズ「Spotlight」では、現場最前線で活動するカタリバスタッフの声を通して、各現場のいま、そして描きたい未来に迫る。

カタリバに入職して10年。b-labやアダチベースなどの現場で中高生と向き合い続けてきた佐渡加奈子(さど・かなこ)は、2026年4月から文京区青少年プラザb-labの館長を務め、ユースワーカーの育成や組織運営にも携わっている。

この10年間で見えてきたものは何か。プレイヤーから館長へと役割が変化する中での気づきと、これからのb-labで実現したいことについて聞いた。

人やチームがどう成長し、変化していくか。
それを見て支えることがやりがいに

 

——カタリバに入職して10年が経ちました。率直な感想をお聞かせください。

気づいたら10年が経っていたというのが正直な感覚で、自分でも驚いています。この4月にb-labの館長という役割を担うようになってからは、改めて自分の視点や役割の変化を意識するようになりました。

前職は東京都内の中高生対象の児童館で働いていました。若者(ユース)に寄り添い、彼らの自立や社会参加、心理的な成長をサポートする専門職を「ユースワーカー」と言いますが、私はその当時からユースワーカーが天職だと思うほど面白かったんです。中高生の変化や成長を間近で見られることに、大きなやりがいを感じていました。

その一方で、「自分1人でできることには限界がある」という感覚もありました。「ユースワーカーが10人いたら、関われる中高生も10倍になる」という思いは、当時から変わりません。

——b-labの館長となり役割が変わる中で、その視点に変化はありましたか?

以前は「私がこの場でどう動くか」を考えることが中心でしたが、今は「b-labとしてこの場をどうつくるか」「b-labとして地域や社会にどう働きかけていくか」を考える機会が増えています。主語が少しずつ大きくなってきた感覚ですね。

また、中高生の可能性を信じる気持ちは変わらないのですが、その対象が、一緒に働くスタッフやボランティアの皆さんに対しても広がってきました。

もちろん、館長という立場なので、何でも本人の主体性だけに任せるというわけにはいきません。でも、その人自身の可能性を信じて関わるという根っこの部分は、中高生に対するときと通じるものがあると思っています。

人がどう成長していくのか、チームがどう変化していくのかを見ることが好きなんです。スタッフやボランティアが少しずつ中高生との関係を築き、自分なりの関わり方を見つけていく。その変化を支えられることにも、大きなやりがいを感じます。

可能性を信じ
中高生の「変化の過程」に伴走していく

 

——この10年でデジタル化の進展など、子どもたちを取り巻く環境は大きく変わりました。現場でどのような変化を感じますか?

SNSやスマホが日常に浸透して、子ども・若者だけではなく、大人も含めて気にしなければならない世界が増えたと思います。
ただ、そうした環境の変化があっても、子ども・若者がゆらぎを抱えながら変化していく年代であることは変わりません。その意味で、私たちが大切にしている関わり方も、実は10年前から大きくは変わっていないと感じます。

——大切にしている関わり方について、掘り下げてお聞かせください。

「人の可能性を信じる」ことです。
子ども・若者という年代は、周りからの評価に一喜一憂したり、人間関係に悩んだりするなど、心が大きく揺れ動く時期です。本人が頑張りたいと思っていても、いつもまっすぐ前に進んでいくとは限りません。前向きなときもあれば、悩んだり立ち止まったりすることもあるでしょう。

だからこそ、目の前の「好きなことに活発に取り組んでいる」「友人関係に悩んでいる」といった一時的な状態だけで、その子のすべてを判断せず、「今のその子のありのままを見る」ことが大切だと感じています。

私にとって「人の可能性を信じる」とは、その子自身がもっている「伸びゆく力」を信じることです。それは、こちらが伸びる方向を決めたり、変化を期待して強制したりすることとは違います。小さな変化を繰り返しながら、前や後ろ、ときに斜めに行きつ戻りつする揺らぎのプロセスそのものが、その子の成長の過程なのだと思います。

だからこそ私たちにできるのは、その子の進む道を決めることではなく、可能性や選択肢がより広がっていくようにサポートし、伴走することです。

安心して挑戦できる環境を整えたり、伸びようとしている姿を応援したり、必要なきっかけを届けたりする。その子なりのペースで、その子なりの道を進んでいく過程を信じ続けることが、私にとっての「人の可能性を信じる」ということです。

——「可能性を信じる」ことを実感したエピソードを教えてください。

数え切ないくらいたくさんありますが、1つだけ挙げるならアダチベースで出会った中学生でしょうか。その子は小学校低学年の頃から学校に行ったり行かなかったりを繰り返し、学習への自信を失っていました。そのコンプレックスもあってか、かたくなに勉強を避け続けていました。

ところが、あるイベントで一眼レフカメラに触れたことをきっかけに、写真に夢中になりました。日常やさまざまなイベントの様子を撮るようになり、自分なりの楽しみを見つけていったんです。

そしてある日、「写真部のある高校に行きたい」と自分から言い出しました。それまで机に向かうことも難しかった子が、高校進学のために勉強を始めたんです。
たった1つの出会いが、その子の未来の見え方を大きく変えることがある。その姿を通して、人の可能性を信じることの大切さを改めて実感しました。

私は、居場所づくりは「掛け算」だと思っているんです。掛けるのは、人との出会いかもしれないし、本や漫画、空間や出来事かもしれません。何がきっかけでその子の心が動くかは、本当にわからないんですよね。

だからこそ、アダチベースでもb-labでも、いろいろな化学反応が起きる可能性を用意しておきたいと思ってきましたし、これからもそうしたいと考えています。

実践から得た知見を言葉にして
居場所づくりに取り組む人々への発信も

 

——今後、b-labで挑戦していきたいことを教えてください。

これからの大きなテーマの1つに、「中高生と共につくるb-lab」をどう実現していくかがあります。

b-labは12年目となり、これまで日常を積み重ねてきた結果、「利用者」としての感覚が増しているように感じます。だからこそ、開館当時から大事にしてきた「中高生がb-labをつくる担い手であること」を改めて実践していきたいと考えています。

中高生と一緒に場をつくることを通して、彼らが自分自身を受け入れること(自己受容性)や、他者と共に生きること(共生性)、社会の一員として参画していくこと(市民性)を、どう育んでいくのか。その実践を積み重ねていきたいです。

それをb-labの中だけで終わらせたくはありません。b-lab外においても、中高生の気づきから生まれるさまざまな活動を応援し、実践の場をb-lab外の社会にも広げていきたいです。

また、実践知として言葉にし、全国で同じように子ども・若者の居場所づくりに取り組む人たちや、これから場づくりを始める人たちにも届けられる形で社会に発信していきたいと思っています。

——その背景には、どのような思いがあるのでしょう?

私には、中高生自身が「自分がいる場に参画し、その場(≒社会)をつくる1人の存在である」ことを感じられるようになってほしいという思いがあります。

こども基本法や子どもの権利条約でもうたわれているように、子ども・若者には、自分の意見を表明し、社会に参画する権利があります。大切なのは、社会がその権利を理解し保障していくだけでなく、中高生自身も「自分には声をあげる力がある」「自分の声によって周りや社会は変わり得る」ということを実感できることだと考えています。

それには、社会も中高生を支援の対象としてだけ見るのではなく、地域や社会をつくる1人の市民としてとらえていくことが大切です。

中高生が自分の声をあげ、周囲にいるスタッフ(ユースワーカー)のサポートを受けながら行動に移し、その結果としてb-labや社会が少しずつ変わっていく。そんな日常の小さな経験を積み重ねることで、自分自身が社会に参画し、変化を生み出す存在であることを実感してほしいと思っています。

小さな自分の一歩が場を変え、社会を変えていく。そんな実感を持てるたくさんの場面を、b-labの日常の中で実現していきます

——大学院に通ったのも、そうした課題意識からだったのでしょうか。

というより、ユースワークを改めて学び考える時間を取りたいと思いました。

ユースワーカーという仕事はまだ社会的な認知度が高くなく、キャリアパスや専門性が見えにくい職業です。私自身も「この経験にどんな意味が見出せるのだろう」と考えたことがありました。

だからこそ、ユースワークの価値や、そこに携わるユースワーカーの専門性やキャリア形成について少しでも言葉にしたいと思い、大学院で研究に取り組みました。

研究テーマは、過去の経験や行動、思考パターンを客観的に見つめ直し、そこから得た気づきを未来の行動や自己成長につなげるプロセスである「リフレクション」です。

ユースワーカーが何を振り返り、どう学び続ければより良い実践につながるのか。「正解のない関わり」であるユースワークについて、現場で感覚的に大事だと思っていたことを言葉にできたのは大きな収穫でした

学びや研究によって得た知見を現場に戻し、また実践から学ぶ。その往還をこれからも続けていきたいと思っています。

——最後に、佐渡さん個人がカタリバで目指しているものを教えてください。

カタリバには、学び続ける人が多く、お互いの挑戦を応援する文化があります。私自身も、その環境にたくさん刺激を受けてきました。どの部署にいても、「社会を変えていきたい」という思いを持ちながら仕事ができることは、カタリバの大きな魅力です。

理想だけを語るのではなく、目の前の子どもたちと向き合いながら、社会にも働きかけていく。その両方に関われることに、大きなやりがいを感じます。

館長になった今も、私自身が学び続けるユースワーカーでありたいと思っています。そして、中高生と共につくるb-labの実践を社会に開きながら、子どもたちを取り巻く環境に少しずつ働きかけていきたいです。

 


 

「人の可能性を信じる」
取材を通して印象的だったのは、佐渡がその言葉を中高生だけでなく、一緒に働くスタッフやボランティアにも向けていることだ。

目の前の「人間」と向き合いながら、人間がもつさまざまな面を丸ごと受け入れ、応援し、それを面白がる。そんな彼女による「ユースワークの価値を社会に伝える取り組み」に大きく期待したい。


 

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Writer

佐々木 正孝 ライター

秋田県出身。児童マンガ誌などでライターとして活動を開始し、学年誌で取材、マンガ原作を手がける。2012年に編集プロダクションのキッズファクトリーを設立。サステナビリティ経営やネイチャーポジティブ、リジェネラティブについて取材・執筆を続けている。

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