親子支援からの気づきを、地域へとつなげたい。ヤングケアラーの支援ツールに込めた思い
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和田 果樹 Miki Wada キッカケプログラム
1990年生まれ、兵庫県出身。大学院で教育心理学を学んだ後、新卒でNPOカタリバに入職。コラボ・スクール大槌臨学舎に配属となる。その後実母が難病ALSを発症。地元に帰り半年ほど休職し、ケアラーとして介護をしながらテレワークで働くことを選択した。現在、「キッカケプログラム」でヤングケアラー支援と自治体連携を担当。
先日、カタリバがヤングケアラーコーディネーター・アドバイザーを拝命している東京都板橋区にて、「ヤングケアラー支援ガイドライン」が区内の関係機関に発布されました。
▼板橋区「ヤングケアラー支援ガイドライン」
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/kosodate/1046301/1063834.html
私はNPOカタリバの「キッカケプログラム」事業部で、ヤングケアラー支援における地域連携を主に担当しています。今回、この板橋区のガイドライン制作にも関わらせていただく中で、キッカケプログラムの実践から生まれた「ヤングケアラーの支援ツール(アセスメント・支援プランシート)」が、ガイドライン内に掲載されることになりました。
目の前の子どもたちと向き合い続けてきたカタリバが、なぜこうした「ツール」を作成するに至ったのか。今回は、ツール作成までの歩みと、そこに込めた私たちの思いをお話しできたらと思います。
事業の立ち上げと、ヤングケアラー親子との出会い
キッカケプログラムは、2020年、コロナ禍において経済的な事情から学びや人とのつながりが断ち切られてしまったご家庭へ、家の中からつながれるオンラインの支援としてスタートしました。
▼活動紹介ページ
https://www.katariba.or.jp/activity/project/kikkake/
事業の立ち上げから6年。これまで延べ1500以上の家庭へ伴走支援を届けてきた中で、経済的困難だけではない、さまざまな複合的な課題を抱える親子がいることも見えてきました。その1つの例が、家事や介護、経済的・精神的なサポートも含め、家族を日常的にケアする子ども「ヤングケアラー」(*1)の存在です。
「おじいちゃんの介護があるので、メンターさんとの面談に遅れます」
「うちで健康なのは、自分だけだから….」
「俺、高校に行かないで、家で家事をしてた方がいいのかな」
これらは、子どもたちが実際に私たちにこぼした声。また、同じく伴走している保護者の方からも、「私の体調が悪くて、子どもに家のことで無理をさせてしまっている」という話を伺うこともあります。その都度、それぞれの声や背景、状況に耳を傾けながら、関わりのあり方を模索し続けてきました。
「ヤングケアラー」という言葉はここ数年大きく認知が広がり、2024年改正の「子ども・若者育成支援推進法」にも支援の対象として明記され自治体の努力義務となるなど、子どもたちを取り巻く状況は変化してきています。一方で、公的に「支援の対象」と言われると、「じゃあ、子どもの生活からケアをなくせば良いということ?」というふうに感じる人もいるかもしれません。
確かに、過度なケアを担うことによる子どもへのネガティブな影響は、重くとらえるべきです。しかし、これまでたくさんの親子に伴走してきた中で強く感じてきたのは、「ケアの有無だけで、その子や家庭をジャッジすることはできない」ということ。家族の状況やその子自身の願いは千差万別で、100人いれば100通りの状況があります。
もちろん、「もう家族のケアや家事はやりたくない」と思う子もいます。一方で、「親がわりになってくれたおばあちゃんのケアを全うしたい」という子、「やりがいはあるけど、しんどい時もある」という葛藤を抱えている子、家事に一生懸命取り組むことを通じ、その年代では得がたい生きる力を獲得していく子どもたちもいます。また、周りから見ればヤングケアラー状況であっても、「家族のことよりも、学業や友人関係で深く悩んでる」という子も。家の中の”ケア”そのものは多面的で、他者が一律によい・悪いを決めることはできません。
大切なのは「ケアがあるかないか」ではなく、子ども達がどんな環境でも、自分の人生を大切に思い、未来へと歩んでいけること。
私たち大人がすべきことは、「この子はヤングケアラー」「この子は違う」と白黒つけることでも、彼らから「ケア」を取り上げることでもなく、「その子の声をまん中に、その子の将来や家庭状況などを多面的に見ながら、地道に必要な手立てや声かけを考え続ける」ことなのだと思います。
そしてそれには、ヤングケアラーとその家族に関わる多様な人々が手を結び、子どもたちの声を聞いていくことが大切です。そのような思いから、私たちはプログラムの中で「ヤングケアラーの支援のためのツール」を作成することにしました。
(*1)ヤングケアラーとは、「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」とされています。(子ども家庭庁より)
https://www.cfa.go.jp/policies/young-carer
「個人」から「地域」へ。オンラインの親子支援から見えた、地域支援の視点
私たちがヤングケアラーに関わる上で大切にしている観点は下記の3つです。
1.「子どもの意欲」:子どもが今を充実して過ごせているか、これからも過ごしていけるか
2.「親子・家族関係」:親子はお互いに応援しあえているか、何を期待しあっているか
3.「ケアの状況」:ケアが必要な家族の状況や、子どもが担っているケア、それによる影響など
「ヤングケアラー」と言われれば、ともすると③の観点ばかりに着目してしまうかもしれません。しかし、上記の3つはお互いに複雑に影響を与えあっています。
私たちが特に大切だと考えているのは1つめの、「子どもたちが今を意欲的に過ごし、自身の将来に希望を持てているかどうか」ということです。キッカケプログラムの支援においては、家庭やケアの状況がどうあれ、まずその観点を1番に大切にしています。そして上記の3つの観点の影響関係を見立てながら支援をしていくことを、実際に親子に伴走しているメンター含むチームの中で共有してきました。
そんな中、1つの転機がありました。カタリバがヤングケアラー支援を開始した頃よりアドバイザーとして関わってくださっており、ご自身でも長年精神疾患を持つ方々やヤングケアラーの支援に取り組まれているソーシャルワーカーの勝呂 ちひろさんから、こんな言葉をかけていただきました。
「この観点、カタリバだけじゃなくて、地域で活動する私たち(ソーシャルワーカー)含めてみんなが大事にできるようになった方が絶対いい。そしてこれを地域で実装していくためには、私たちが普段支援の中で使っているような”アセスメントシート”の形式にすれば、多様な専門職が使えるようになるはず」。
ヤングケアラーの支援は、教育・福祉・地域などの領域を横断した様々な関係者が存在する
ちょうどそんなお声をいただいていたタイミングで、2024年度よりカタリバがヤングケアラーコーディネーター・アドバイザーを拝命している東京都板橋区にて、ヤングケアラーを取り巻く多様な支援職に向けた「ヤングケアラー支援ガイドライン」が作成されることに。
区の担当者の方と話し合い、専門家の監修によって地域で実際に使用しやすいように改善を重ねながら完成した「ヤングケアラーの支援ツール(アセスメント・支援プランシート)」を、今回のガイドラインにも掲載いただく運びとなりました。
「ママがつくった唐揚げ、また食べたい」 子どもの声をどう聞き、支援につなげていくか
板橋区のヤングケアラーアドバイザーとして、今回の「アセスメント・支援プランシート」の作成を主導したカタリバスタッフの五味は、前職で児童相談所の職員だった経験から、作成までのプロセスに人一倍こだわったと語ります。
「自分自身が児相職員だった頃は、困難を抱えた子どもや保護者から話を聞いて、”その家の課題が何なのかをまとめる”ということが仕事でした。でも、「課題」が先にくるような聞き方をすることで、無意識に「できていないこと探し」のようなスタンスになり、その親子が本来持っている力さえ奪ってしまってるんじゃないかという葛藤がありました。
また現在、アドバイザーとして区内のケース相談にのっていく中で、家庭状況はわかっていても「子どものリアルな声」がなかなか聞けていないという現状や、関係機関で連携していくことの難しさを痛感することも。これまでの福祉のアプローチではうまく届けられない親子がいることを、身をもって感じていたのです。
そのため今回作成したアセスメント・支援プランシートは、子どもの前向きな未来や、家庭が本来持っている力を信じてきたカタリバの視点をきちんと取り入れることにこだわりました。それらを周囲の支援職も”みんな”で共有し、共通言語を持ちながら支援できるようになるにはどうすれば良いかということを考えながら作っていきました」
作成にあたって大切にしたのは、ツールを作っておしまいではなく、地域の人々が実際に使っていけるように具体的なイメージを持つこと。そこで私たちは、実際にツールを使って親子の声を聞くため、関東近郊に住む中学生のゆりあさん(仮名)ご家族に協力を依頼し、ご家庭を訪問させていただきました。
ゆりあさんは、精神疾患やさまざまな生きづらさを抱えたご家族に代わって日々の家事をこなし、家には福祉サービスとして家事支援も入っているという状況でした。ゆりあさんのリアルな声に触れるべく、ツールを用いながら、趣味や好きなこと、目の前の進路のこと、ふだんの親子関係も含めた色々な話を聞いていきます。
私たちとの会話の中で、ゆりあさんはポツリと言いました。
「ママにして欲しいことは、よくわかんない。ただ、そこに落ちてるペットボトルとか、自分の出したゴミは、自分で片付けて欲しいかな…」
「今は料理全然しないけど、ママのつくった唐揚げ、おいしいんだ。高校合格したら、またつくって欲しい」
何気ない一言のようですが、これまでゆりあさん親子が積み上げてきた歴史の中で、この具体的な「声」はとても大事だと感じました。その声は、その場に同席していた支援者の方にも伝わり、「ゆりあちゃんが今話してくれたこと、こんな風に(家事支援の)ヘルパーさんに伝えたら、叶えられると思う。言ってみてもいい?」といった具合に、具体的な福祉サービスの運用の提案にもつながっていきます。ゆりあさんは、少しほっとした表情で頷きました。
そして、一連の話を一緒に聞いていたゆりあさんのお母さんがこのように語っていたことも、印象的でした。
「支援者の方に言われるより、我が子から直接「片付けなよ」と言われた方が「がんばろう」って思えた。ゆりあが、言いたいことを言える子に育ってくれていてよかった」
子どもの声を真ん中に。「自分たちでがんばる」から「みんなで変えていく」フェーズへ
子どもたちが日々感じていることは、「ケアをしたくない」「家事を減らしたい」といった大きな粒感ではなく、今回のゆりあさんのように、もう少しその子の日常や文脈に根差した具体的なシーンや関係性に目を向けることで見えてくるのだと思います。
また今回、ゆりあさんの声を通して「精神疾患を抱えて大変」なだけではなく「子どもにおいしい唐揚げを作れるお母さん」の姿が見えたり、「誰かに部屋を綺麗にして欲しいというより、ママ自身が自分で少しでもできるようになってほしい」というゆりあさん自身の思いも読み取れました。これらは、今後親子それぞれの支援をしていく上で重要なポイントになっていきます。
今回、カタリバとして子どもの声をどう聞いていくかを考え、さまざまな観点をシートとしてまとめました。しかし、上記のような立体的な声や見立ては、キッカケプログラムがオンラインだけで支援をしていてもおそらく見えてこなかったことです。また、彼ら彼女らの生活に直接入り込んで、具体的に何かを変えていくことも、私たちにはできません。やはり、地域で実際に家庭に関わっている方々と観点を共有しながら、一緒に支援していくことはとても大切だと改めて実感しました。
「支援をする上で大切なのは、仕組みをつくることだけでなく、その仕組みを運用し、継続していくこと。今回カタリバさんと作成したシートは、ケアの度合いを評価するためだけのものではありません。一人ひとりを知り、暮らしを知り、本人との対話の入り口となり、具体的な支援につなげるためのツールです。このシートが現場で活用され、地域全体で子どもを支える体制が育っていくことを楽しみにしています。」(アセスメント・支援プランシートを監修くださったソーシャルワーカー勝呂ちひろさんより)
「アセスメント・支援プランシート」に関心をお寄せくださった方へ
もちろん、ツールを作って終わりではありません。それらをどう使えると良いか、現場での課題は何か、ツールを通してさまざまな方々と対話していきたいと考えています。もし、「ツールを見てみたい」「実際に使ってみたい」と感じる方がいらっしゃれば、下記のリンクからお気軽にお問い合わせいただけると嬉しいです。
▼アセスメント・支援プランシートに関するお問い合わせ
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc5qtKjBsMqsHrSKWrbAw_NkUS9iEEHUFRl76KJdRO3SiLchQ/viewform?usp=dialog
これからも、一人でも多くの子どもたちが「話せてよかった」「聞いてもらえてよかった」と感じられる瞬間を作っていくべく、試行錯誤を続けていきたいと思います。
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