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映画「あなたの瞳に話せたら」に寄せて[代表のつぶやき]

vol.280Voice

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category #代表のつぶやき

writer 今村 久美

「『おはよう』と言われたのに、機嫌が悪くて無視をした。それが妹を見た最後だった」。東日本大震災後をテーマにした映画「あなたの瞳に話せたら」の監督、佐藤そのみさんの言葉

震災直後の宮城県石巻市。当時私は、子ども支援活動のために月の半分以上を現地で生活していた中で、彼女と出会った。そのみさんは、石巻市の大川小学校に通っていた妹を亡くしていた。全校児童の7割が死亡、行方不明になった小学校だ。当時、中学生だったそのみさんは、いつか自分の回すカメラで、大川地区で起きたことを作品に残したいと話していた。

あれから10年となった2021年、映画ができたと聞いて、小さな映画館で開かれた学生映画の上映会に足を運んだ。

登場するのは、ずっとその地に住み続ける人、遠く離れた人。大切な人を失った記憶を語れる人、語らない人。同じ体験をし、いまそれぞれの人生を生きる人々と対話しながら、妹に手紙をつづるという内容だった。

被災地となった地元を離れ、都会で暮らすそのみさんの心の移り変わり。そして、確かに大川地区で育った記憶。その対比もえがかれていた。

私はこの作品を多くの人に観てほしいと思った。鑑賞後、そのみさんに伝えたら、「広く多くの人に観せたくて作ったものではないので……」。それが一言目だった。しかし彼女時間をかけて考えを巡らせ、私とも対話した。そして2021年3月に単独上映会を開くことが決まった。席は一瞬で埋まり、オンラインでも同時上映。1,000人以上の人が観賞し、大反響を呼んだ。

しかし、それからしばらくの間、上映会の依頼を断っていたらしい。

「もてはやされるのも自分らしくない。つらいのにがんばったねとか、語り継いでいかなきゃねとか、そういうのもなんか違う。否定はしないけど、少し重い」。そのみさんはそう話した。

自分の意思でやってるはずなのに、封印すればするほど苦しくなる気持ちもあったそうだ。自分の過去を否定するような感覚もあり、もやもやと、考えていたという。本人納得の上での上映会だったとはいえ、主催者の私も、どこかのどに骨が刺さったまま時間が過ぎた。

2022年12月11日、石巻市大川地区、つまり地元で、はじめて上映会を開催したと連絡をもらった。なんでも、震災後新しくできた、大ホールがある地域のコミュニティセンターの管理人さんが、ここで上映しないかと提案してくれたらしい。上映設備もないし、音響もないけど、みんなで手伝うから、と。

そのみさんは内心、映画を大川の人がどう受け取るか、不安もあった。そもそもこんなに大きなホールに人が集まるのかなとも。だが、200人もの人が集まりホールは満員になった。「観てもらう怖さよりも、本当は地元の人にこそ観てほしかったんだなと気づいた」という。

震災後、遺族による裁判に参加した人、しなかった人の間でも、見えない亀裂があった。原告の人の中には、地域で少し生きづらくなった人もいるように見えていた。しかし「震災の後、大川の人たちとこの上映会づくりを一緒に取り組めたこと自体がうれしい」。そんなことを伝えてくれる人もいた。

「去年のあの頃よりも、いろんな人に観てもらいたいと思うようになった。いや、私が思うというよりも、作品がいろんなところで待っていてくれる人のところに行きたいと言っているように思えている。だんだんと、誰がどう思っているか、それも観てくれた人に委ねればいいと思えるようにもなった」。

撮影の開始からもう4年。完成してから2年。最近は、全国からの上映の問い合わせにも、応じるようになったという。

3月12日には、岐阜県の高山市民文化会館小ホールで東海地方ではじめての上映会が開催される。問い合わせは、fwkg3388@yahoo.co.jp(高山市上映会担当:野中)まで。

また、映画の上映会開催のご相談は、 aruharufilm@gmail.com (「ある春のための上映会」窓口)まで。

Writer

今村 久美 代表理事

79年生まれ。岐阜県出身。慶應義塾大学卒。NPOカタリバ代表理事。ここではゆるくつぶやいていきます。

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