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学校が“意欲と自信を育てる”場所になるために[代表のつぶやき]

vol.388Voice

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category #代表のつぶやき

writer 今村 久美

「何を教えるか」よりも、「何ができるようになるか」よりも、「何がわかりたいと思えるか」。「学校で学ぶ」が、「知りたい」「わかりたい」きっかけと、やってみてわかったことで得られる自信を獲得する場所になってほしい。

本日は、文部科学省の審議会、中央教育審議会 教育課程企画特別部会(学校で、何をどんなふうに何時間教えるかを考える審議会)でした。前回の学習指導要領改訂時は「日本の学校では、子どもたちの探究する日常をつくろう」と、そんな議論をしました。でも、実際にものごとを探究するには、授業としての「探究の時間」だけでは到底足りません。授業で設定された枠を超えて、やってみたい、自らの問いを深めたい、もっと知りたい。授業はその“きっかけ”であるべきです。

今日の場では「余白の創出を通じた教育の質の向上」という提案が出されました。時間をなんとか捻出して、教員の研修や教材研究にも充てられるようにする。教育の質を高めるための大事な一歩だと思い、おおむね賛成です。

世の中ではなにかにつけて「日本の教育が悪いのは学習指導要領のせいだ」と言われがちですが、文科省の担当の方々はこう語ります。「実は指導要領には、シンプルなアジェンダ的な文言しか書いていません。覚えなければいけないことリストをたくさん網羅して並べているわけではないのです」。そんなようなことをおっしゃっています。

確かに、そうなのです。しかしそこから、多数のキーワードを盛り込んだ教科書となり、丁寧な板書案まで明記された教員用指導書(いわば授業マニュアル)となり、先生たちはそれをベースに授業をすることになる。まじめな先生たちは、「教科書を全部やらなきゃ」と思ってしまう。

でも文科省の立場としては、「全部やらなくていい」と。しかし先生方に、「教科書に書いてあることは全部触れなければいけないわけではないから、目の前の子どもたちの実情を踏まえて、その思考・判断・表現の力を身につけられる教育を自分で考えて組み立ててください」と言っても、現場としては戸惑ってしまうのが実際でしょう。

「何が正しいのか」がわからないままでは、結局、教科書を総なめにせざるを得ない構造が続いてしまう。
このコミュニケーションの祖語を、構造的に改革して、学校に卸していくのが今回の挑戦です(とはいえ、今回の改訂の実装は2030年以降の教科書……ずいぶん時代が変わっていそうだというのはカッコに入れておきます)。

今日の議論も(いつもながら)、教育学やカリキュラムの構造に専門性なんてまったくない私にとっては、とても難しいものでした。

あの文字量、ポンチ絵、頭の回転が速い先生方の議論、なかなか落ち込む時間ですが「わからない人がいる」ということも、大事なリアルであると言いわけしながら図々しく参加し続けてみます。

ともかく、「できることを増やす」ことを目的としてきたこれまでの教育から「意欲と自信を育てる学びへ」という原点に立ち返りながら取り組みたいと思います。

 

***

そんな日本の学校教育から少し目を離して、世界に目を向けてみると、いろんなかたちの学校が存在しています。

たとえば、デンマークの子どもたちの多くは、小学校から高校まで公立に通いますが、その途中で少し「寄り道」できる仕組みとして、「エフタスコーレ」という学校があるそう。

中学を卒業した14歳の子どもが希望すれば、1年間、全寮制の私立学校で学ぶことができる制度。フリースクールというよりも、国として推進されている私立の教育の選択肢だそうです。

ここでは、成績や偏差値の基準からはいったん解放され、その代わりに、音楽、演劇、アート、スポーツなど、自分の「やりたいこと」に没頭する仕掛けが多数準備されているそうです。まさに「関心」を育てる場になっています。

日本でも、時間を自由に使いたいと通信制高校、特にネットの高校を選ぶ子も増えていますが、エフタスコーレは、徹底的に「リアルな人間関係」をベースにした寮生活です。

この1年を経て、公立の高校に戻る子もいれば、進学する子、プロの道を志す子もいる。まさに「公的に設計された寄り道」で「社会から応援されたモラトリアム」が保障されているのです。

 

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Writer

今村 久美 代表理事

79年生まれ。岐阜県出身。慶應義塾大学卒。NPOカタリバ代表理事。ここではゆるくつぶやいていきます。

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