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「知る」ことで道が拓けた。マイプロがそのまま自分の仕事になった社会人1年目の19歳。[マイプロ高校生のいま#03]

vol.056Column

地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。高校生自身の主体性と、実践を両立しながら探究するプロジェクト型学習だ。マイプロジェクトに取り組む高校生が、少しずつ増えている。しかしその経験がどんな効果や影響があるのか、数字などでは簡単に語ることはできない。人の成長には様々な経験、出会いが複雑に影響し合うからだ。

それならば、一人ひとりの経験と“いま”から、マイプロジェクト経験がもたらすものは何なのかを考えてみたい。

マイプロ高校生だった、彼らへのインタビュー第三弾。

マイプロを始めたときは、自分が住んでいる町のことが好きでも嫌いでもなかった。
興味がなかったし、考えたこともなかった。

東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町に住むひかるさんは、高校2年生の時、地元の小学生を対象に「大槌一日修学旅行」を企画した。地元の民家に1泊し、町の遊びや郷土料理を体験しながらおじいさんおばあさんの話を聞いて、「大槌をもっと知ってもらおう」というプロジェクトだ。しかし、マイプロを始めたばかりの彼は、自分の町について“無関心”だった。

マイプロジェクトを始めたときに、サポートしてくれていた大人から「大槌の好きなところは?」と聞かれて、答えられなかったんですよね。ありふれたことしか答えられない。なんで自分、答えられないのかなと思ったときに、大槌に興味がないというか、そもそも大槌について考えたことがなかったなって。

意外にそういう人多いんじゃないかなと思ったんです。それが理由で町を嫌って出ていくのはもったいなって思って。どうしたら大槌にいようって考えられるかなと思ったときに、じゃあまず大槌を好きになってもらうことから始めようと思って、そのためにはまず大槌を知ってもらうところからだなって思ったんです。

ただそれは一人でできるレベルではなかったので、いろいろな人に協力してもらいました。

 

大槌町で放課後の学習支援を行う「コラボ・スクール大槌臨学舎」で説明会を開催。小学生5人が集まった。

最初は参加者が集まらないと思ってたんですけど、やってみたいと思ってくれた小学生が5人もいて。それから宿の交渉をしたり遊びを考えたり、郷土料理は何を作るとか誰にお願いするとか・・・準備することがたくさんあってすごく大変でした。

動き始めたら、地元の文化を町民に伝える活動をしている「大槌陣屋」さんを紹介してもらったり、地元の猟師さんが獲ったシカ肉を提供してもらって、コロッケや餃子を作ることになったり…自分では思ってもみなかったつながりができて、想像以上に充実したイベントになっていきました。

 

弓矢づくりや郷土料理「ひっつみ」を体験し、おじいさんおばあさんの話をじっくり聞いた小学生たち。ゲームやスマホがなくても自分たちで遊ぶ空間を創り出した。

正直、彼らにとって楽しかったのかなぁと不安でした。でも後から聞いた話で、ある子は帰ってから一日中おばあちゃんに修学旅行の話をしていたと聞いて、やってよかったと思いました。修学旅行中は、ゲーム持ち込み禁止にしていたんですけど、弓矢作りとか、あるもので遊びを作っていくことを体験したからか、小学生たちがお手玉とかどんどん予定にないものを作りだしてきて(笑)

僕らは安全にやれるかだけ見守ったんですが、昔の遊びは今の小学生にも十分おもしろくって、そういうのに触れる機会が少なかっただけなんだなって思いました。大槌のことをもっと知ったら、もっと好きになってくれるかなとちょっと期待しました。

手づくりの弓矢に夢中な小学生、右から4人目がひかるさん

 

自分の活動が認められたことで、「もっとやりたい」気持ちに火がついた。

終わった後に、「またやってほしい」と参加した小学生に言われたり、大槌町で開催されたマイプロジェクトアワードで発表した後には、「自分の子どもも参加させたい」という保護者の声をもらったりして、本当にびっくりしたし、正直かなり嬉しかったです。

役場の人や地域の人たちからも賛同してもらえて、自分の活動が認められている実感がありました。

またやりたいと思ったのですが、高3という進路の壁に阻まれてあきらめました・・・でも、時間があったらもう一度高3の夏に(修学旅行を)やりたかったというのが本音です。

こんな風に「やりたい」と思ったことって今まであんまりなかったので、高校卒業してからも、これを仕事にできたら最高だなと思って、町のことをもっと好きになってもらえるような仕事に就きたいと考え始めました。

「町のために」何かやりたい。でも今は、修行のとき。

 

そんな“マイプロ高校生のいま”。今年の春、ひかるさんは大槌町役場に就職した。

自分が役場に就職するとは思ってもみなかったです。マイプロジェクトをやる前までは適当に就職できればいいかなと思っていたんですが、やってみて、町のためにもっとやれることはないかなぁと考えるようになって。直接的に関われるのは町役場だなと。

役場に就職したら、町のいろいろな政策に対して関わって、イベントがあればそっちに飛び・・というイメージだったんですが、まだ事務作業も多いのでいずれはもっと町の人と関わりたいなと思っています。今は町のことを知る修行の時期だととらえて、ゆくゆくは、総務課で町民の信頼を得ながら町のために政策を考えて、働いていきたいです。

 

自分の気持ちをひとつひとつ丁寧に語るひかるさんに頼もしさを感じながら、「大槌町をどんな町にしていきたいですか?」と聞いてみた。

大槌町に住んでいただいている方に、「住んでてよかったな」と思ってもらえるようにしたいですね。仕方ないから住んでいるのではなく、ここに住んでいたいな思ってもらえるといいなと思います。自ら選んで住んでいると胸を張って言えるような。僕がこんな風に思えるようになったのも、マイプロを通して町についてたくさん考えたからだと思います。

 

知ること、やってみることで世界が一変するかもしれない。

 

嫌いだから、苦手だから、はもったいない。マイプロからの“学び”をこう語るひかるさん。

大槌町は震災があって、町から出ていく人がいっぱいいて。このままだと数十年後には町がなくなるかもという話も聞いて。でももし町のことをよく知らないうちに出て行っている人が多いんだとしたら、それはもったいないと思ってマイプロジェクトを始めました。

やっていくうちに、自分の中にも知らないことはたくさんあるし、「なんとなく」嫌いとか苦手って思っているものが結構あるなって思ったんですよね。それってすごくもったいないなと今は思います。知ったら好きになれたり、やってみたら、いいところをたくさん発見できたりするかもしれないです。実際にマイプロをやってみて、そういうことがたくさんありました。

 

初対面の人と話すことが苦手だったひかるさん。しかし、マイプロを通して、いつの間にか克服していた。

マイプロジェクトを考えるきっかけになったイベントや全国高校生マイプロジェクトアワードに参加したんですけど、そこに行くとたくさんの高校生や大人がいるんですよね。自分が今まで会ったことないような。

もともと知らない人と話すのが得意じゃないんですけど、そういう人たちと進めていかなきゃいけなかったので、ある意味無理やり(笑)初めて会う人とも話ができるようになって、今では知らない人に普通に話しかけられるようになりました。

話してみたらこんなこと考えてるんだとか発見があって。それは今の役場での仕事にも活きているし、あのとき逃げなくてよかったなと思います。

 

今のひかるさんだったら、マイプロに挑戦するか迷っている高校生に、なんと声をかけるだろうか。

自分は、マイプロを通してやれることが増えたり、いろんな人と知り合えたりしました。自分のなりたい職業が見つかって、今自分が働く理由も見つけられました。だからやってよかったと思う。

やってみると、誰かから反対されたり「あなたがやる必要あるの?」と言われたり賛同してもらえないこともあるかもしれないです。でも、やってみないとわからないし、自分はやってみたから変われた。自分を見つめなおすことができるし、成長できると思うので、やって損はないと思います。

ただ、人それぞれ興味の深さやおもしろいと思うものが違うから、高校3年間のいつか1回でもいいから、自分のタイミングで挑戦してみてほしい。やってみたら、自分の世界が一変するかもしれません。

 

マイプロを通してやれること、やりたいことが増え、仕事も見つけたひかるさん。もし、もう一度高校生をやり直せるとしたら、どうするかと聞いてみた。

高校1年生からマイプロをやりたいです。実際1年長くやることで何が変わるかはわからないですけど、それでも1年生からやっていれば、もう少しいろんな企画や交流もできてたと思うし、今まで自分ができなかったことがさらにできるようになってたんじゃないかなと思います。そんな自分も見てみたかったです。

どんな大人が増えたらマイプロをする高校生がもっと増えると思うか?と聞くと、「もっとどんな活動をしているか知ろうという意識を持ってほしい」という。「興味を持ってもらわないと他人事で終わってしまう。」ーーー自身の町へのスタンスの変化と重なってみえた。

ひかるさんへのインタビューを通して、“やりたいことがわからない”若者が増えているのではなく、“やりたいことについてじっくり考える機会”が減ったのかもしれない、と考えさせられた。

地域の課題をジブンゴト化できる高校生が生まれるかどうかは、私たち大人が高校生に届けられる機会や問いによって変わるのかもしれない。

写真 = 荷川取佑太

この連載の記事
#01/人に言われたからじゃない。自分の意志でやりたいことに全力で取り組む。
#02/たくさん立ち止まってもいい。自分の生き方を見つけるのが今のマイプロジェクト。

Writer

長濱 彩 編集部

1988年生まれ。神奈川県横浜市出身。横浜国立大学卒業後、JICA青年海外協力隊でベナン共和国に赴任。理数科教師として2年間活動。帰国後、2014年4月カタリバに就職。岩手県大槌町のコラボ・スクールで数学を担当。小学部、適応指導教室の立ち上げにも携わる。第一子出産を機に島根県雲南市のおんせんキャンパスへ異動。不登校支援を行う。第二子出産と夫の転職を機に、沖縄県那覇市へ移住。2019年5月~復職し、在宅でカタリバmagazineの編集を行う。

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