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「他の人のためでもあるけど、自分のためでもある」withコロナ世代のマイプロジェクト #02

vol.153Interview

date

category #インタビュー

writer 和田 果樹

数ヶ月前までは、誰も予想していなかった新年度が始まった。高校生という多感な世代が、当たり前の日常を突然奪われたショックは、大人の立場からでは想像しきれない。学校や教育を取り巻く状況が一変し、高校生を最前線で支える教職員たちも急ピッチで対応を迫られた。学校は再開したが、第二波はいつくるか分からない。見通しのつかない日々に大きな不安を感じている教育関係者は多い。そんな中、全国各地で高校生たちが立ち上がり始めた。環境のせいにせず、あるときはむしろそれを逆手にとって、出会いや知識の枝を伸ばし、各々の「マイプロジェクト」を発展させていく高校生たち。また同時に、高校生の可能性を信じ、背中を押すために動き出した教職員たちの姿もある。この状況をむしろ日本の教育をよりよく変化させるチャンスと捉え、積極的に新しいことにチャレンジをしていく人々。また、改めて学校の意味や価値を問い直し、内部から組織を変えようと奮闘している人々もいる。

コロナ禍に新しい学びに挑戦するいろいろな人々にスポットを当て、彼ら彼女らへのインタビューから、全国各地で生まれ育ちつつある、多様な未来の学びの形を探っていくwithコロナシリーズ。

石川県内の学校に通う高校3年生、坂口さん。彼女は、髪を自身で抜いてしまう「抜毛症」であることを公表し、様々な理由で髪を失った人々との交流機会を自ら作っている。先日開催されたマイプロジェクトアワード2019では「ベスト・オーナーシップアワード」「ベスト・ラーニングアワード」をW受賞。滅多にない快挙だが、プロジェクトについて語る彼女はいたって等身大で、「自分は当事者だから」という気負いに囚われていないようにも見える。

そんな坂口さんに、自身のプロジェクトやこれからのことについて、話を聞いてみた。

コロナ禍での取り組みで
気づいたこと

マイプロジェクトに取り組み始めた背景について教えてください。

プロジェクトを始めようと思ったのは、もともと自分がある団体の当事者交流会に行って、そこですごく元気をもらえたことがきっかけでした。自分自身も普段ウィッグをつけて生活しているんですが、病気で髪を失った人は意外と多いということは社会にまだ知られていません。生きづらさを抱える仲間が少しでも前向きになれる場所を作りたくて、自分の住んでいる北陸を中心に、髪を失った方々のコミュニティを作ろうと動き始めました。

今まで当事者の方に10名ほどお会いしたのですが、集まった時は、いろいろな話をします。例えば、「どんな風になくなった部分を隠してる?」などのリアルな悩みとか。やっていく中で気づいたのは、みんないろいろなペースとか段階があることですね。いろいろなことを乗り越えて今は前向きに生きてる人もいれば、現在進行形ですごく悩んでる人もいる。私はカミングアウトをして楽になったけど、みんながそうってわけじゃなかったり。だけど、その人に合わせて進んでいけたら良いんじゃないかと私は思っていて、そういう場を作ることだけでも価値があるんだな、とやってみてわかりました。小さくてもいいから、いつも身近にあって、それぞれが自分を好きになれるような場所をこれからも作っていきたいです。

コロナ禍でも活動を続けているんですよね。

はい。もともとはずっと対面型の交流イベントをやってきたのですが、オンラインでもやってみることにしました。すると、この状況下でオンラインの良さに気づけたんです。例えば、私が住んでいる石川県だけじゃなく富山県の人とも繋がることができました。それに、画面越しだといい感じに目も合わないから話しやすい、ていう人も参加者の中にはいらっしゃいます。対面じゃないからこそ考えなきゃいけないこともあるけど、やってみたらメリットもたくさんあるんだなってことがわかったのはすごく良かった。対面にこだわっていたけど、オンラインでもいい、むしろオンラインがいい、とも思えました。あとは最近、自分の活動以外にもいろんなイベントにオンラインで参加して、自分から運営にも入ってみたりしています。そこで初めて出会える人もいて、たくさん刺激をもらっています。

自己内省は
苦しいけれどした方がいい

休校期間は、どんな風に過ごしていたんですか?

この前のマイプロジェクトアワードが終わった後から、ちょうど休校も延長になって。その間、これからどういう形にしていけばいいのか悩み続けていました。正直、最初マイプロアワードは自分がやっていることを告知する手段、くらいに思っていたのに、いつの間にか周囲の「評価」を求めていた自分に気づいてしまったんです。そこで、まずフラットに、自分自身についてもう1回考えてみることにしました。「自分とはなんだろう?」「一体何がしたいんだろう?」って。

そういう自己内省は、苦しいけれどしたほうがいいと思ってます。1年前の自分は、病気のこともあって、すごく暗かった。生きてる意味とかをずっと考えるような毎日でした。でもその日々のおかげで、自分を客観視できるようになったとも感じます。自分が一体どんな人間で、どんな時嬉しいと感じて、これから何をしていきたいのか。いろんな視点からじっくり考えてみると、明確な答えは出なくても、少し自分に自信を持てるようになる気がする。私たちはいつも何かのフィルタをかけて物事を見ていて、それは自分に対してもそう。それを思いきって一旦外してみる、というのも重要だと思います。

それから、今後の活動についても、すごく考えました。最初は「自分と同じように髪を失った人たちのために」何かしたい、と思ってプロジェクトを始めた。そんな風に「誰かのために」とずっと思ってたけど、それだけではやっぱり苦しくなって、続いていかないんですよね。

私は絵が好きで、中学生の時からずっと美大に行きたいと思っていたんですが、こうして髪に関する活動を始めて、もともとの夢と分離したような気持ちになって辛かったんです。だから、今は自分が「好き」と思うことを存分に取り入れて活動を続けていくことができるように、グラフィックファシリテーションの勉強をしたりしています。

「違っていること」が
笑って受け入れられる社会へ

これからやってみたいことや実現したい未来についてはどう考えていますか?

10代限定の当事者交流会は、オンラインでやりたいです!やっぱり自分もそうだけど、10代が一番見た目に敏感で、悩んでる時期だから。あとはイベントに美容師の方を呼んだり、当事者だけに閉じないコミュニティをつくることも考えています。もっと先の将来はデザインとか、自分の好きなこともやっていきたいです。

あとは自分の経験から、「マイノリティ」と呼ばれる人たちに関心が向くようになりました。なので、そういったマイノリティに関する発信を、自分の好きなデザインを使っていけたら良いと思ってます。この活動は、他の人のためでもあるけど、なにより自分のためでもあります。いつか多様性がもっと受け入れられる、違っていることを「おもろいやん!」と言えるような社会にしていけたら、私もみんなも生きやすくなるはずだから。

最後に、同世代へのメッセージや伝えたいことがあれば教えてください!

自分は何がやりたいんだろう?て悩んでいる子が、私の周りにもたくさんいます。でも、そこでちゃんと向き合って考えるのは大事。「社会のため」とか、「周りの人のため」に囚われていると苦しくなってくる。やらなきゃ!と思っていると自分のやりたいことからずれていったり、終わったあと、何のためにやってたんだろう?と虚しくなってしまったりします。だからやっぱり、自分の「好き」とか「やりたい」をしっかり考えておく、てことが大切なんだと思います。何もわからなければ、とりあえず何かの運営に飛び込んでみたりすると、学べることも多いし、興味ないと思ってたテーマでも面白く感じれたりするし。小さくてもいいから、動いてみるときっと楽しいよ、てみんなに伝えたいです。

今はこういう社会だから、あんまり自由に動けなくてもどかしいですよね。だけど、だからこそ自分をじっくり振り返る時間にしてもいい。良い部分や悪い部分を受け入れて、リスタートする良い機会にしていきましょう!


 

一歩アクションをしてみると、自分の中に葛藤が生まれる。目的がわからなくなったり、今の自分とのズレを感じたり、理想だと思っていたものがそうでないことに気づいたりする。坂口さんは、そうした一つ一つの葛藤から逃げることなく、時に悩み苦しみながらも、地道にプロジェクトを進めてきた。

「他の人のためでもあるけど、自分のためでもある」という彼女の言葉からは、どんな時も自分自身の思いと丁寧に向き合ってきた思考の跡が感じられた。自らが髪を失った当事者であるということは一つのきっかけだったのかもしれないが、自身の中に生まれた問いや疑問、悩みや葛藤とどう向き合い、それを未来に繋げていくのか、彼女の姿勢から学ぶ部分は多い。

決して派手な活動をしているわけではなくとも、同じ悩みを持つ仲間や、同世代の高校生たちに対する彼女のメッセージには、他者に対する豊かな想像力が感じられた。自分自身を理解しようと努めることが、他者との関わりの中にも活きていくのだろう。ただがむしゃらに動き続けるだけではなく、時に内省を深め自分自身を見つめ直すことも、その人をかたち作る立派な「学び」になっていく。坂口さんの話を聞いて、そう強く感じることができた。

オンラインでプロジェクトを始めよう。1ヶ月でプロジェクト立ち上げ・アクション・発表までチャレンジできる「Mypro room」を開催!たくさんの高校生の参加をお待ちしております。エントリーはこちらから!

Writer

和田 果樹 全国高校生マイプロジェクト事務局

1990年10月8日生まれ。兵庫県出身。小樽商科大学卒。大学院で教育心理学を学んだ後、新卒でカタリバ入社し、コラボ・スクール大槌臨学舎に配属。現在は全国高校生マイプロジェクト事務局を担当。座右の銘は「中道は大道」

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