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誰一人取り残さない。 ふたば未来学園が学校一丸で取り組んだ、ICTを用いた学びの環境づくり

vol.156Report

date

category #活動レポート

writer 本田 詩織

新型コロナウイルスの拡大は、学校現場にも大きな影響をもたらした。

カタリバの常駐する福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校(以下、ふたば未来学園)でも、3月から春休みまで、そして緊急事態宣言の全国への拡大に伴い4月21日から5月下旬まで再び臨時休校期間が続いた。

教員やカタリバスタッフの多くは、学校があれば本来届けられた学びの機会を届けることができなくなった悔しさを感じる一方で、休校下にあっても生徒が安心して自立的に自宅で過ごすために何ができるだろうかと、3月の休校措置の決定とともに検討を始めた。

「2011年の震災では、また明日も会えると思ってさようならを言った生徒と、再び会えたのは1か月以上も先になってしまった。今度は絶対に学びを止めないという気持ちで、今回の取り組みに向き合っていました」

後述のワーキンググループにおいて全教員向けのICT勉強会の実施など中心的な役割を果たした鈴木貴人先生は、今回の臨時休業に伴うICT化の取り組みについて、このように想いを語る。

ふたば未来学園では生徒一人に一台のタブレットが用意されていたが、ICTを活用した一斉の課題配信や授業配信はこれまでほとんど行われたことがなかった。そのなかで今回、なぜICT化を実現することができたのか?どのような準備があり、外せないポイントは何だったのか?それらについて、本稿では探っていきたい。

突然の休校決定、
生徒の学びを保障するために
取り組み始めたICT化

それは突然のことだった。

2月27日夕方、「全国の小中高に3月2日からの臨時休校要請」との速報。

職員室、カタリバスタッフが常駐する双葉みらいラボでは、動揺が広がった。ニュース速報を知って、「うちも休校になるの?」と尋ねてくる生徒もいたが、教員もカタリバスタッフも速報を知ったタイミングは同じ。その日は、生徒に説明もできないままに終わった。

臨時休校を前に、教員やカタリバスタッフから「休校中、教員が生徒と繋がりを保つためにどのような方法があるだろうか」「なんでもかんでも提供するのではなく、生徒が自立的に家庭学習を行う状態を目指したい」というような声が口々に挙がった。また、突然の環境変化による生徒の心身不調を心配する声もあった。

臨時休校開始まで、職員室では休校期間中の対応について議論が重ねられた。そして、毎朝各クラスの担任中心で実施する「オンライン朝学活」や、教科ごとに実施する適宜の「オンライン課題進捗確認面談会」、カタリバが中心となって毎日運営する「オンライン双葉みらいラボ」などの実施が決定した。全生徒が各自宅から参加するような大規模なICT活用はふたば未来学園で初めてのことであったが、今回のコロナ禍を契機に各先生のICT化をサポートしようとする管理職が、これらの決定を後押しした。

中学でのオンライン朝学活の様子。連絡事項の伝達、生徒一人一人に対する健康観察や課題の進捗確認などを行った。双方向のコミュニケーションにより、生徒からの不安・不明点を拾い、即座に解消していくこともできた。

オンライン双葉みらいラボの様子。1日の中で時間を区切って「①オンライン学習ルーム(生徒が各々の課題を持ち寄り自主学習する時間。適宜スタッフに質問ができる)」、「②オンラインランチ会(お昼を持ち寄りスタッフや友人と交流する場。生徒からは『家だと昼ご飯は一人なので、みんなと一緒でほっとする』という声も聞かれた)」、「③オンライン学習イベント(『探究活動相談会』『感染症の世界史』など、カタリバスタッフや教員による学習イベントを実施した)」などの場を設けた。

休校前最後の登校日となった3月3日は、全学年で休校中の過ごし方に関するアナウンスと、必要なICTツールの導入・使用方法に関するレクチャーが行われた。ここには、担任のみならず、多数の教員・カタリバスタッフがサポートに駆けつけ、生徒の疑問やつまずきを一人ずつ解消していった。

この他オンライン個別進路面談や希望者向けのオンライン課外など、生徒の声を拾いながら、3月の休校期間中に随時新たな取り組みが生まれていった。

生徒のサポートに回る教員・カタリバスタッフ。生徒は休校期間中、学校貸与のタブレット型パソコン、もしくは個人のスマートフォンを使用した。また家庭にネットワーク環境がなかったり、接続状況が不安定で参加できなかったりする生徒に対しては個別に、電話での対応を行ったりインターネット回線付きのタブレットを貸与したりした。

再びの休校
ワーキンググループを立ち上げ、
学校全体の取り組みとして深化

4月8日、福島県内の学校では登校が可能となったが、全国各地で新型コロナウイルス感染拡大が続いている状況から、再びの休校開始の可能性が濃厚になっていた。その状況を受け、校内に「家庭学習ICT活用支援ワーキンググループ」を設置。3月の休校期間中に各教員やカタリバスタッフのもとで実践されてきた知見を集約し、再びの休校に向けICT活用法や課題を整理した。そのうえで学校全体で組織的に取り組んでいくための環境整備に取り組んでいった。

こうして準備を進めていくなか、ワーキンググループ発足から1週間後、ふたば未来学園でも再びの臨時休校が始まった。

4月の臨時休校を前に開かれた教員向けICT講習会の資料の一部。教員・生徒、誰にとっても初めての試みである。一筋縄ではいかないことを念頭に置きつつ、生徒の学びを保障するために組織として取り組んでいこうというメッセージが、管理職やワーキンググループの担当教員から全教員へ発信された。

3月の臨時休校との大きな違いは、45分授業×4校時からなる特別時間割を組み、全学年で遠隔授業を実施したことだ。3月以降、断続的な休校措置が取られるなか、既存の履修内容の復習に留まらず、各教科の年間指導計画を踏まえた新たな内容の学習に取り組んでいくこととした。遠隔授業の手法は教員間で議論を重ね、「同時双方向(リアルタイム)型」での遠隔授業に限らず、事前に動画や教材を配信する「オンデマンド型」、プリントや問題集による「課題提示型」など、その手法は各教科会や担当教員が授業の特性に合わせて選択する形とした。

中学1年生でのリアルタイム型の遠隔授業の様子。入学直後に臨時休校に入ったため、中1の英語で最初に学ぶアルファベットの読み書きも、遠隔授業で学んだ。

この他にも、全学年でのzoomを活用した朝学活の実施、3月から引き続きのオンライン双葉みらいラボの開館など、休校中の生徒の学びを1日を通して保障する環境を設計した。

ふたば未来学園では4月21日以降、本来であれば登校するはずであった18日が臨時休校となったが、この期間に結果として、72校時分の授業時間を確保することができた。また3月の臨時休校から実施した「オンライン双葉みらいラボ」には、のべ429人の生徒が来館した。

取り組みの振り返りと
これから

福島県では、5月25日に休校期間が明けた。休校期間終了後ふたば未来学園では、今回の休校期間中におけるICT活用の取り組みに関して、全教員・生徒を対象にアンケートを実施し分析を進めている。

家庭のネットワーク環境の有無などに起因する通信環境の制約や、画面越しでの生徒の理解度把握の難しさなど、実施したことによって見えてきた課題もある。一方で、下記のようなメリットを挙げるコメントもある。

教員の声:
「事前に授業中の指導内容を精選することで、遠隔であっても授業進度が確保できた」
「ICTツールを活用した追加資料の事後配信や個別の質問対応など、授業後のフォローもしやすい」

生徒の声:
「自分のペースで進められる」
「わからないところをチャット機能で先生にすぐ質問できる」
「時間的な余裕が生まれた」

遠隔授業に参加する生徒の様子。遠隔授業における授業設計のノウハウも、各教員の工夫により蓄積されている。写真は高1生の授業の1コマ。45分の授業の冒頭、チームアップとアイスブレイクを兼ねて行った「オンライン借りもの競争」の集合写真。お題は「家の中にある赤い丸いもの」。

今回、学校をあげてICT化に取り組むことができた要因について、ふたば未来学園学園の南郷市兵副校長に話を聞いた。

南郷副校長:「今回の臨時休校中にICT活用を通した家庭学習を実現できた要因はいくつかありますが、偶然は1つもなかったと思うんです。

『教員個々のマインドセット』、『3月のプレ実践』、そして『一部の教員の取り組みとせず、組織的な取り組みとして進めたこと』、要因はこの3点だと考えています。

1点目について、今回の一連の取り組みでは、教員個々人が誰かからの指示を待つのではなく、状況を見極め主体的に行動する姿が目立ちました。ICT活用経験のある教員がzoom等のツールや機器を使いこなすために自作マニュアルを共有したり、お互いの遠隔授業のサポートに入ったりするなどの行動が、随所で起こりました。また、生徒だけでなく教員間でも『誰一人取り残さない』、その精神がチームワークを生んでいたように感じます。これはクロスカリキュラム(教科を横断した授業づくり)など、昨年度までに行ってきた取り組みも効いていたのかもしれません」

休校延長が決定した後、ゴールデンウイーク明けに実施した第2回教員向けICT講習会。3月・4月のICT活用を通して見えた課題出しとその対処に向けたアイデア出しなど教員間で活発に議論され、これ以降の遠隔授業の実施に活かされた。この他にも、臨時休校の延長に伴い新たにICTを活用した遠隔授業に取り組もうとする教員向けの講習コースも、すでに実践している教員が講師役となり実施された。

南郷副校長:2点目の『3月のプレ実践』について、3月はICTを活用しあらゆることに挑戦した1か月でした。zoomを活用した朝学活や遠隔授業、オンライン双葉みらいラボなど、3月に挑戦してみたこと1つ1つが、4月の臨時休校期間の取り組みに繋がりました。プレ実践の実績があったことで、想像ではなく取り組んできた事実をベースに建設的な議論を重ねることができたと感じています。

3点目について、今回のコロナ禍に際して本校では『コロナ対策を万全に講ずることと、生徒の学びを保障することの両立を図る』というテーマを置き、早い時期から組織的に取り組んできました。例えば3月、臨時休校が決まった直後の生徒登校日に、即座に家庭のネットワーク環境に関するアンケートを行いました。これは、ICTを活用した家庭学習の実施可能性を念頭に置き、管理職からの提案で実施したものでした。

この事例には続きがあります。その後、4月に入り入学式を控えたある日、中学の教員が入学式当日に新入生にも同様のアンケートを実施しようと準備を進めていることを私は知りました。これは、管理職の誰かから提案したものではなく、その教員は『この状況下で当然実施すべきものだ』というマインドセットを持ち、自主的に準備を進めていたものでした。

このように、3点目の組織的な取り組みだけでなく、1点目の教員個々のマインドセットとの両輪が回ったことにより、一連の取り組みは加速しました。さらに、3月でのプレ実践という挑戦があったことで、より確度の高い取り組みにしていけたのだと考えています」

臨時休校が明けた今も、ICT活用は各所で続いている。

探究学習などでこれまで学校に直接呼んでいた県内外からのゲストについては、現在は直接呼ぶことができないが、遠隔授業のノウハウを活かしながら、オンライン会議ツールを活用して6月だけでも既に10回以上実施している。オンラインで繋ぐための技術的なサポートは必要となるが、直接ゲストを招く場合に比べ、移動に伴う時間的・金銭的制約も少なく、生徒とゲストを繋ぐ頻度をこれまで以上に高めていく契機にもなりそうだ。また休校前に比べ、ClassiやGoogle classroomなど、生徒と教員のコミュニケーションツールの活用頻度も大きく伸びた。

休校明けに実施された「オンライン考査学習支援」。これまでは県内・県外の大学生がふたば未来学園に来て直接学習支援を行っていたが、今回初めてzoomで繋ぎ実施した。質問のある生徒と学生を、手元のタブレットで1対1で繋ぐ。このプログラムの実施に当たったカタリバスタッフの内海博介は「学生が直接来て学習支援を行っていた頃と、生徒の姿勢に変化があったように感じます。以前は、学生から声をかけられるのを待つ生徒が多かったのですが、この手法に変わってからは、『○○が分からないので、先輩に教えてもらいたい』生徒自身から声を上げることが増えました」と言う。今回の学習支援には、ふたば未来学園の卒業生も5名が参加した。

今回の臨時休校によって失われた、学びの機会や経験は少なからずある。一方で、一連の取り組みで得た経験やノウハウは、休校が終わったからといって無くなるものでもなければ、再び休校前の形に戻すものでもない。オフラインとオンラインの双方良いところを活かした学びの環境設計に向け、ふたば未来学園では次の一歩を踏み出し始めている。

Writer

本田 詩織 ふたば未来学園高校支援

1990年生まれ。2013年九州大学理学部卒業。 地方で育った経験から、学生時代より地域の魅力や課題を教育に繋げる取り組みに関心を持つ。(株)ベネッセコーポレーション、(株)リクルートコミュニケーションズを経て、2018年よりカタリバに参画。福島県立ふたば未来学園高等学校併設の「コラボスクール・双葉みらいラボ」に勤務する。施設運営や、同高校の探究型学習にコーディネーターとして携わっている。

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