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KATARIBA マガジン

「青春は、密である。」withコロナ時代のユースセンター

vol.155Report

新型コロナウイルス感染症の拡大が日本で広がり始めてから、およそ4ヶ月がたちました。今なお最前線でウイルスと戦う医療従事者の皆様には、感謝の言葉しかありません。コロナとともに生きていく私たちにできることは、「密閉空間・密集場所・密接場所の3密を避けて、新しい生活様式を実践すること」。当たり前のようにマスクをして外出したり、手洗いうがいの頻度が増えたり、自然にソーシャルディスタンスを取りながら歩いたり‥大人にとっての日常は、割と自然に変わってきているようにも感じます。

しかし、青春真っ只中を過ごす思春期世代にとって、新しい生活様式を実践するというのは、どういうことなのでしょうか。

例えば一生に一度の卒業式。友だちと顔を寄せ合ってたくさんの写真を撮り、クラスのみんなでカラオケで盛り上がり、最後は抱き合い泣きながら別れを惜しんだ、あの日。

3年間毎日コツコツ努力し、集大成として挑んだ最後の部活の大会。負けてしまって悔しくて、涙は止まらなかったけれど、チームの仲間と全力を尽くしたと胸をはれる、引退の日。

流行りのミュージシャンのコピーバンドやダンスパフォーマンスで、体育館がライブハウスになった文化祭。

毎日放課後は大勢で友だちの家に集まって、ゲームをしたり漫画を読んで過ごした日常。

私たち大人が思い出す青春の1ページは、いつだって密なシーンの積み重ねです。同じ空間や経験を共有しながら、語り合い、圧倒的な一体感の中で過ごした思い出。

「青春は、密である」。

これは、中高生の年間利用者のべ2万6,000人を超えるユースセンター「文京区青少年プラザb-lab」新館長米田の言葉です。密を奪われた青春。当事者たちはどんな想いでいるのでしょうか。また中高生の挑戦を支えるユースセンターはコロナ禍での開館に、どう取り組んでいけばいいのでしょうか。

withコロナ時代のユースセンター像を取材しました。

一生に一度の
思い出が奪われた

NPOカタリバが2015年から運営を受託する、文京区青少年プラザb-lab。中高生の心に火を灯し、意欲と創造性を育むための教育意図をもった仕掛けを行いつつも、その日常は青春への伴走です。泣いたり笑ったり、ケンカしたり、踊ったり、ゲームをしたり、ライブをしたり・・開館以来ずっと、密な青春空間を届けながら、中高生の小さな変化も見逃さず、いつでもそこにあるナナメの関係を届けてきました。

しかし、コロナによって、2020年3月2日(月)からb-labは臨時休館に。その後も休館を延長し続け、休館中は、オンラインで語り合ったり、自習したり、音楽イベントを開いたり、b-labオンラインを届けようと奮闘してきました。

b-labオンラインを運営するスタッフの様子

最初は「どうせすぐに日常が戻ってくる」という空気が漂っていたものの、b-labの中で開催予定だった大きなイベントの中止が決まると、次第に事態の深刻さが中高生の中にも広がっていったと言います。

春は出会いと別れの季節。b-labでは100名以上が集う大きなイベント『春フェス』が予定されていました。中高生スタッフも、参加する中高生も、この日のために何度も議論を重ねて、ハンドやダンスも懸命に練習して、ずっと準備をしてきたイベント。b-labは中高生向けの施設なので、高校3年生にとっては最後の晴れ舞台。フェスとともに卒業式も行う予定でした。

米田:「中止が決まった時の動揺はやっぱり大きかったです。ビジネスやアーティストの世界ではたくさんのイベントが中止になって、大変な状況の事業者さんがたくさんいて、もちろんそれと比べると、中高生はイベントが中止になったからといって、苦境に立たされるわけではありません。そんな呑気なことを・・と思われるとおもうんですけど、彼らにとっては、『圧倒的な一生に一度の機会』だったんです。来年また集まろうでは成立しない、今その時じゃないとだめなんだというのがあって・・一生に一度の思い出が消えてしまうというのは、やっぱりとても辛い経験だったと思います。準備してきた中高生の中でどうしてもやりたい・やらないほうがいいと、両方の意見がありました。中止が決まった時は、まさに涙ながらという状況でした」

文京区青少年プラザb-lab 館長 米田 瑠美 1984年生まれ。大学卒業後、人材系企業にて6年半勤務し、首都圏エリア中小企業の求人・採用に携わる。同社内CSRの一環で「キャリア教育プロジェクト」のメンバーに選ばれたことから、教育への道を考えるようになり、カタリバに転職。カタリバでは、出張授業「カタリ場」という一期一会の場づくりから、中高生の放課後施設運営という日常の居場所づくりに至るまで事業を経験。その他、ボランティア育成、行政との協働事業にも携わる。気持ちは「10代の応援団長」。トレードマークはメガネ。最近の趣味は中高生のおかげで始めたウクレレで歌うこと。

結局b-labでは、オンラインで卒業式を開催することに。当日までの間に、何度も気持ちの整理やリフレクションにスタッフが伴走し、迎えたオンライン卒業式では「オンラインだけどできた」という感動がうまれ、高校生の気持ちに一区切りをつけることができました。

そして休館が続くと、中高生たちもたくましく、次第にオンラインを使って自分たちのやりたい企画を開催するなど、休校期間を有効活用し始めるようになっていきます。

臨時休館から開館に向けて

米田:「例えば中止になった学校の文化祭で表現しようと考えていた企画を発信するWebサイトを立ち上げる高校生が出てきたり。リアルで集まってダンスができないかわりに、YouTubeにダンス動画をあげて発信したり。やりたかったことができなくなってしまったこの状況で何ができるかを考えて、アクションを起こす子たちもたくさん出てきました。

一方で、オンライン授業と課題に追われて大変だという声もあって。学校によっては、オンライン授業も出席をしっかり取るし、加えて100枚くらいの課題プリントが送られて来ているケースもありました。家から出られず、友だちとも会えず、オンライン授業に出て、課題に取り組んで・・中高生の日常からすっかり余白がなくなってしまったように感じることもありました。

あとは進路の不安も大きくなっていましたね。AO入試に向けて色々挑戦したい時期なのにこういうことになってしまって、自分の成績はどうなるんだろうとか。受験に間に合うだろうかとか。進級して初めましてがオンラインで全然友だちができない、仲良くなれない、という声も多かったです。

多くの中高生は、あまりにも変わってしまった自分たちの日常に戸惑っている印象でした。そういう気持ちを吐き出す場として、b-labオンラインは機能していたと思います」

しかし期間が長引くにつれて、オンラインの限界も感じるようになります。オンラインでの交流やイベントを楽しんできた中高生たちも「オンラインもいいよね!オンラインだとむしろ可能性が広がることもあるよね!」という段階をへて、「やっぱり集まりたい・会いたい」という声が大きくなっていきました。

そんな中、緊急事態宣言解除をうけて、6月1日(月)から開館に。b-labでは、全ての前提が密だったユースセンターの良さを、どう失わないようにルール設計をしていったのでしょうか。

感染防止対策は、文京区と打合せを何度も行う中で設計されていきました。決まったルールとしては、b-labのお知らせページに掲載されている通り、①開館時間の短縮、②整理券を使った利用人数制限、③時間ごとの完全入れ替え制による換気と消毒、④利用者のマスク・手洗い必須、⑤検温の実施、⑥館内での飲食禁止、の6つです。当然3密を避けなければいけないことが大前提なので、そのためにできることを最大限反映した形になりました。

米田:「悩んだのは、感染防止策をとりながらも、ユースセンターの価値というか、果たすべき役割を毀損しない運営をどうしていくのか、ということでした。

例えば、受付の簡略化はしませんでした。検温があるからというのもありますが、スタッフもしっかり配置し、いつも以上に受付のコミュニケーションを重視した運営をすることにしています。受付で見せる挨拶の声色とか、まとっている雰囲気で、どういう状態かなんとなく分かるんです。気になる状態の子がいたら、過ごし方をずっと目で追って、一人になった時にさりげなく話しかける。これはオンラインではできなかったことなので、久々に会うからこそ、優先度高く取り組もうと考えました。

あとは細かいことで言うと、スタッフが身につけるのは、フェイスガードではなくマスクにしました。どちらも試してみたのですが、フェイスガードはこれまでの日常にはなかったものなので、中高生を身構えさせてしまうかなと。フェイスガードのほうが表情はよく見えるんですけどね。スタッフの最も重要な役割は中高生とのコミュニケーションなので、壁のない自然な関係をと思うと、お互いにマスクをしている方がいいなと判断しました。

そういう細かいことも、一つひとつユースセンターの価値やb-labのミッションと照らし合わせてどうするか決めていきました」

場づくりは細部が重要です。b-labでは、スタッフの人数や配置、コミュニケーション導線など、これまで大切にしてきたことをベースに改めて振り返り、コロナ禍の運営スタイルを確立していきました。

今後はリアルとオンラインの
ハイブリッド運営へ

リアルにはリアルの役割が、オンラインにはオンラインの良さがある。きっとこれからは、両方を組合せて、コロナ前よりも進化したユースセンターを創り上げるのがテーマになっていくはずです。

米田:「思春期って、繊細なので、心にちょっとだけ蓋がある気がするんです。心の声に素直になれない時期というか。初対面でオンライン上に集まって、そこが安心安全な場になるかというと、少し難しさを感じています。

また目的利用になりがちなことも、オンラインの特徴です。リアルだと目的なくフラっと来て、そこでの出会いや声かけの中で偶然見つかる意欲や興味関心のタネがあるんです。何気なくウクレレを手に取ったことにスタッフが気付いて、『ウクレレ好きなの?』と声をかけたことをきっかけに、ウクレレ部に入るとか・・いつも本を読んでいる子に、『そんなに本が好きなら図書委員になってみない?』と声をかけるとか。

リアルだと、“本人がまだ無自覚な部分に踏み込んだおせっかいな関わり”をすることができる。そういう背中の押し方は、オンラインではなかなかできません。

一方で、やりたいことや興味関心が見つかっている子は、オンラインでどこまでも可能性を広げていけます。最近はb-labオンライン部活がすごく活気があって。オンラインご飯部は、自宅で同じメニューをつくってみんなで食べたりとか。クイズ部とか弦楽器部とか、学校の枠を越えて、同じ『好き』を持った中高生同士が活動しています。

リアルとオンラインを融合させて、安心して自分を表現できる場所と、『好き』で始めたことが実は誰かのためになっていることを人間関係の中で気付いて、もっと『好き』を極めていけるつながりをつくっていきたいと思っています」

b-labオンライン部活「ウクレレ部」の様子

中高生にとっていい場をつくるという観点だけでなく、保護者にも色々な考えの方がいます。例えばある高校生は、感染リスクを心配する親からb-labへの来館を止められているからと、開館後もb-labオンラインに参加していました。逆に、感染対策として利用停止中のスタジオを「子どもがバンド練習ができないから使わせてほしい」と連絡をくれる親御さんもいます。

多様化する価値観と選択肢にこたえる意味でも、リアルとオンラインの両立は求められ続け、当たり前になっていくはずです。

大切なことは、
コロナがあっても
なくても変わらない

コロナ禍の4ヶ月間、中高生の様子を見守り続けてきた米田が思う、withコロナ時代にユースセンターが大切にすべきことは何なのでしょうか。

米田:「コロナで失われてしまうであろう思い出を、別の形でやりきる経験をさせてあげることだ大事だと思っています。例えばb-labでも、100名以上が集まるフェスは開催できなくても、自分の好きなことを表現できるステージをオンラインでしっかりつくっていきたいと思っています。喪失感だけを中高生の心に残してはいけない。思っていた形とは違ったとしても、好きなことを見つけて思いっきり表現する場をつくっていくのが重要です。

そして、挑戦ステージとしてオンラインを活用する一方で、改めて、『居場所としてのユースセンター』を大切にする時ではないかと思っています。

例えば分散登校で、出席番号の奇数と偶数で登校日が分かれる。そうすると、仲良しグループの中で、自分一人だけが登校日が違って友だちに会えない、ということが起こっていたりします。これって思春期世代にとっては大問題で。みんな会えないよりも、自分だけが会えないほうが辛いはずです。そういう時でも、b-labに来ると友だちに会えるとか、弱音をはける相手がいたりとか。中高生の心の拠り所がいま必要だし、コロナが長引くほど、重要になってくると感じています」

6月から開館したb-lab

確かに、大人が感じている以上に中高生はたくさんの我慢を強いられています。そこでたまった鬱憤や、果たせなかった想いが、彼らの中に積み重なっていっているはずです。でも、課題に追われて忙しく、本音を吐き出す機会もない毎日。

そんな中高生がほっと一息つけるというか肩の力を抜くことができる「居場所としての役割」を、今はこれまで以上に大切にしたほうがいいタイミングなのかもしれません。

これからの青春は、ユースセンターのあり方は、変わっていくのでしょうか?

米田:「私たちとしては、どんな形であっても、青春を謳歌してほしいという想いがあります。青春といっても、キラキラした楽しい思い出だけではなくて、本気で取り組むからこそ大変なことも苦労することも挫折もある。でも涙が出るほど笑えたり感動することもある。そういう喜怒哀楽を、例え制限された中であっても、最大限叶えるサポートをしていきたいと思っていますし、できる方法があると思っています。

『どんな世代も経験できなかった、コロナ世代だからこそできた青春の過ごし方』があると思うんです。なんで自分の高校時代はコロナなんだよじゃなくて、唯一無二の、人生で一度の彼らにしかできない青春を謳歌して、『あの時だけしかできなかった、自分たちだけの青春の形があったよね』と語り合えるように・・

そのために私たちがやるべきことはコロナ前と変わりません。中高生の心を動かすきっかけを、どう仕掛けていくのか?それは模索し続けてきたし、どんなに環境要因が変わっても、変わらずに追求していくことだと思っています。

そしてそのこたえを持っているのも、コロナ前と変わらず、中高生自身です。これから思いもしなかった問題が起きたり、ポジティブな変化が生まれたりすることがあると思います。彼らの声を聞いて、彼らがつくりあげる居場所や挑戦を、私たちはしっかり支えていく。

コロナ対応でバタバタしていた時は、正直状況に振り回されていたところもあったんですけど、今はぶれていません。大切なことは、コロナがあってもなくても変わっていないんですから」


 

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Writer

青柳 望美 パートナー

1983年生まれ。群馬県前橋市出身。大学時代は英語ができないバックパッカー。人材系企業数社で営業・営業企画・Webマーケティング・Webデザインを担当。非営利セクターで働いてみたいと考え2014年4月にカタリバに転職。全国高校生マイプロジェクトの全国展開・雲南市プロジェクト・アダチベースなどの立上げを担当。現在は新規プロジェクトの企画や団体のブランディングなどを担当。カタリバmagazine初代編集長、現在はパートナー。

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