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「子どもたちのために大人を元気にしていきたい。圧倒的な現場経験で見つけた自分のやりたいこと。」実践型インターンinterview

vol.124Interview
Profile

和泉 宏 Hiroshi Izumi 元NPOカタリバ実践型インターン

山口県光市出身。中学生の頃から教員になることを目指し、山口大学教育学部に入学。1年の夏に経験したフィリピンでの短期留学で出会った人々から刺激を受け、自分の進むべき道を模索し始める。帰国後、教育の現場での経験を求めてカタリバの実践型インターンシップ(日本が抱える様々な社会課題に対して、「教育」という角度から1年間本気でコミットする、学生向けのプログラム)に参加。大学卒業後は株式会社シェイクに就職し、企業の人材育成に携わる。教員ではなく会社員として、子どもではなく大人に向き合うことを選択したその意図とは?

「教師になること」を初めて疑った
やりたいことを模索し続けた大学時代

和泉さんは現在企業の人材育成をする会社で働かれていますが、もともとは教員志望だったと聞きました。その頃のことを教えて下さい。

中学生のとき、当時の野球部の顧問にすごく憧れて、いつか自分もこんな風になるぞ、と教師になることを決めていました。そのときからずっと、大学生になるまで、自分が将来教師になることを疑ったことがなかったんです。でも、大学に入学してからその考えは大きく変わりました。

きっかけは、大学1年生の夏に語学留学を目的に訪れたフィリピンでのことなんですが…僕と同じように語学留学している日本人が多くいたのですが、そこで出会った社会人は、今まで僕がイメージしていた「大人」と印象が違いました。なんとなく英語を学ぶのではなく、「自分のやりたいこと」や「学ぶ目的」がはっきりしていたんですよね。例えば「俺はフィリピンで英語を勉強してイギリスの大学院に行きたい。放射線医療に関する知見を学び、日本に還元するんだ!」とか。その熱がなんともストレートで、面白そうに語ってくれたんです。

こんなに目を輝かせて語る彼らのように、自分もやりたいことにまっすぐに生きられたらかっこいいなと思ったんです。と同時に、「あれ、自分がやりたいことって本当に教員なんだっけ?」と疑問が生まれました。なんだか自分の人生なのに思考停止していたぞ、と。そのときから自分の進路を本気で模索し始めました。

進路を決めるためにどんなことをされたんですか?

「自分のやりたいこと」を探すために、大学時代は様々な活動をしたのですが、中でも自分の考え方に変化をもたらす印象的だった出来事が2つあるんです。

1つは大学3年生の夏。アルバイトしていた塾で出会った生徒の一人が放った言葉です。夏期講習中、担当だった中学2年生の生徒と面談をしました。その子が口にしたのは「将来何もやりたいことがないし、来年から受験生と言われても勉強のやる気が出ません」という言葉。僕自身も大学卒業後に何をするか模索中だったので、「将来何もやりたいことがない」という言葉にすごく共感しちゃったんですよね。僕のように大学生ですら見つかっていないのに、中学生や高校生でやりたいことを見つけるってすごく難しいなと思って。勉強する目的もそりゃわからないよなぁと。特に中学生は社会と接点を持つ機会や自分のやりたいことを自己内省する機会が少ないのかもしれないと感じました。

もう1つは同年冬から約1年間留学したオーストラリアでの経験です。留学中に現地の学校で日本語授業のアシスタントティーチャーを経験しました。現地の子どもたちと関わっていく中で僕が感じたのは、「子どもの無気力さ」です。学校で過ごす子どもたちは自分に自信を持つことができず、失敗・周りからの非難を恐れて自分の「やりたいこと」を抑え込んでいるように感じました。でも当時の僕は、授業を通して子どもたちの自信や自己肯定感を高めるには、スキルも時間も足りなくてすごく悔しい思いをしました。

塾講師のアルバイト、オーストラリアでの日本語授業のお手伝いをしていく中で、教育に関する課題感を抱くようになっていきました。同時に自分自身が教育現場において子どもたちの力になることができていないという、実力不足からくる無力感も感じていました。

そんなとき、たまたまSNSでカタリバの実践型インターンシップの募集を見かけて。期待したのは圧倒的な現場経験。1年間の活動を通して、自分のやりたいことを明確にしたい。そして子どもたちに貢献できる力を身につけたいと思いプログラムにエントリーしたんです。

結果がついてこなかった
子どもたちから得た大切な学び

それで、実践型インターンシッププログラムに参加し、「コラボ・スクール女川向学館(宮城県)」での活動が始まったわけですね。

子どもたちの印象はどうでしたか?

第一印象は、人懐っこい子どもたち、でした。ところが、授業を覗いてみると、「できない」「やりたくない」と口にする子どもがちらほら。オーストラリアで出会った子どもたちと少し似ているように感じました。それが震災の影響によるものなのか、それとももっと違うところにあるのかははっきりわかりませんでしたが、ここに通う子どもたちに自分ができることをとにかくやってみたいと強く思いました。

ご自身の課題感と現場の状況が合致した和泉さん。具体的にはどんなミッションを任されていたんですか?

メインとなったのは、女川向学館での授業設計や運営、近くの小中学校に赴いて学習支援をしたり長期休みの特別講座を設計したりしました。僕が1年間の活動で目指したものは、子どもたちの自分に対する自信を高めることです。その目標を達成するために、向学館での小中学生を対象とした授業の設計を工夫することに注力していました。

授業の設計の工夫というのは?

中学生が英単語を覚えるときの「仕組みづくり」を例にとると、ただひたすら暗記するのは、得意な子もいるけど苦手な子が多い。そこに、「ゲーム性」と「可視化」という2点をポイントに仕組みをつくりました。まず、プリントを2種類作成。1つは英単語を書く練習プリント。もう1つは問題番号だけが書かれているプリント。これは進捗表のようなものです。生徒はある程度単語を覚えたあと、練習プリントに取り組みます。自身で丸付けを行い、正解した問題の進捗表にシールを貼ることができる。

例えば、問題が10問あるプリントで「問題①」「問題⑤」「問題⑥」を正解したときに、生徒は進捗表ににシールを3枚貼ることができます。10問中3問しか正解していなくても、生徒はシールを貼り可視化することにより、間違えてしまった7問ではなく、自分の力で正解した3問に意識が向くと考えました。

毎回10問中3問程度しか正解できない生徒でも、繰り返し練習プリントに取り組むことで、1問でも多く、と一生懸命取り組んでいきました。さっきはできなかったけど今回はできたという、ポイントゲームのような感覚でシールを集めていきます。努力の結果10枚のシールが貼れるとやっぱり嬉しいようで、モチベーションを維持することができました。授業中にいつも騒いでいた生徒が、黙々と英単語の練習に取り組む姿を見たときには思わず感動してしまいましたね。このような感じで、授業設計の各所で「できた」を実感できる仕組みを考え、実践していきました。

子どもたちが飽きずに学習を続けられる仕組みを考えていったのですね。逆にうまくいかなかったことはありましたか?

活動期間が終了する1か月前くらいに、授業を担当していた生徒を対象に、自分に自信を持つことができたか、アンケートを通じて調査したんですよ。そうしたら、アンケート結果で自分に自信を持てると回答した生徒はクラスの半分以下でした。結構ショックでしたね。悔しかったです。

自分なりに考えて思ったことは、僕は限られた授業時間だけで生徒の自己肯定感を高めようとしていました。でも生徒の1週間の生活において、女川向学館で実施する授業はたった1時間半。生徒が過ごす膨大な時間の中で、微々たる1点からあの子たちの自己肯定感を高めようとしていました。もっと生徒のことを様々な観点から捉えなくてはいけなかったと思います。

また授業の仕組みやツールの工夫だけで、生徒の自己肯定感を育もうとしていました。「できる」を積み上げる授業プログラムの設計しか考えておらず、生徒との対話や僕の姿を通じて生徒の学びをつくる視点が少し欠けていたんじゃないかなと。もっと授業以外の場で交流することで、違ってきたかもしれません。

僕がフィリピン留学で出会った大人たちのように、子どもたちにも目標となるような大人との出会いや生き方自体に刺激を与えるような機会との遭遇があれば、学ぶモチベーションに繋がり、自信を育む良い循環を起こすきっかけになるかもしれない。日常の中にある人との交流から学びを生み出すこと、それがまさにカタリバの大切にしている「対話」や「ナナメの関係」なのだと学びました。

アンケート結果は、僕としては確かにとても悔しかったのですが、同時に「自分のやりたいこと」を明確にする大きなきっかけにもなりました。

子どものために大人と関わりたい
明確になった自分のやりたいこと

和泉さんは現在、株式会社シェイクで、企業の人材育成に携わっていると伺いました。実践型インターンシップ後の進路として教育以外の道を選んだのはなぜですか?

女川町に1年間関わり続ける中で、震災直後の話も色々と聞く機会がありました。中でも印象的だったのが、被災した当時小学校6年生だった子どもたちが中学生になり、津波の教訓を伝えるために石碑を立てていこうという「いのちの石碑プロジェクト」でした。「大人たちも頑張ってるし、自分たちも何かしたい」と自分たちの意思で動いたのは間違いないと思うんですけど、もしかしたら大人の「何とか町を、家族の生活を立て直そう」という姿に感化され、生まれた行動だったのかもしれないとも思いました。

そう思って、自分が今まで育ってきた環境にいた大人のことも考えました。親からの影響はもちろんですが、学校の先生や地域の人たち、大学時代に出会った大人たちから受けた影響もすごく大きいなと。僕自身、イキイキしていた大人には憧れを抱いたし、元気をもらっていた気がしました。だとすると、自分の人生をイキイキと生きている大人と出会うことは、子どもにとってすごく価値あることなんじゃないかと思うようになったんです。

それで、大学卒業後の仕事として、子どもを支える「大人側」に興味が湧いてきたことを当時の上長に相談すると、人材育成を行う企業で働いていた職員さんとの交流の場を設けてくれました。職員さんのお話が後押しとなり、僕は社会人の研修や育成に携わる企業への就職を決めました。

最初は深く考えずに「学校の先生になる」と思っていた時では考えられない進路を選びましたが、今はこの選択に自信をもっています。僕は僕なりのやり方で、子どもたちの自己肯定感ややる気を引き出したい。直接子どもと関わっているわけではないけれど、いつか元気でやる気に満ちた大人が増えて、それが子どもたちに伝播してみんながわくわく、イキイキしている社会をつくっていきたい。

ゆくゆくは、地元の山口でもそんな社会をつくっていけたらいいなと思っています。それが今考えている、僕のやりたいことです。

1年間の活動を通じて自分の生きる軸ともいえる信念を見つけた和泉さん。最後に、この実践型インターンシッププログラム、どんな人にすすめたいと思いますか?

そうですね…応募する前の自分に言葉をかけるとしたら「自分の願いや想いを、原体験を元に話せるようになるよ」なんです。僕は現場での体験を通じて自分のこだわりや信念を見つけることができました。実践型インターンシップは自分自身の大切にしたいモノは何なのか見つかる時間だと捉えています。女川町に来る前は、自分が「将来大人に関わる」なんて絶対に考えていなかったですから。

自分の大切にしたいものとか、信念とか、何かぼやっとしてるとか、なんとなく教育に関わりたいと考えているけどまだよくわかんないなーとか。モヤモヤしているものを少しでも明らかにしていきたい。自分が大事にしていくものを見つけたいと思ったら、この1年間飛び込んでみることをおすすめします!

和泉が経験した実践型インターンシップの概要

[活動期間]
2017年4月〜2018年3月

[活動場所]
コラボ・スクール女川向学館(宮城県女川町)

[担当ミッション]
1/小中高生を対象とした授業の設計・運営

2/小中学校での学習支援(チームティーチング・放課後講座・長期休み特別講座)

3/施設運営の管理シフト作成

4/中高生の居場所ルームでのイベント企画・運営

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Writer

長濱 彩 パートナー

神奈川県横浜市出身。横浜国立大学卒業後、JICA青年海外協力隊でベナン共和国に赴任。理数科教師として2年間活動。帰国後、2014年4月カタリバに就職。岩手県大槌町のコラボ・スクール、島根県雲南市のおんせんキャンパスでの勤務を経て、沖縄県那覇市へ移住。元カタリバmagazine編集担当。現在はパートナーとしてオンラインによる保護者支援や不登校支援の開発を担う。

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