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「子どもたちに豊かな食事体験を」大戸屋とのコラボレーションで実現した新しい仕組み

vol.127Report

date

category #活動レポート

writer 長濱 彩

「子どもたちに温かな家庭の味を」
想いとは裏腹に苦悩する現場

「こ食」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「“孤”食」や「“個”食」など6~9種の同音漢字が充てられ、欧米化した現代の「食事」の課題を表現している。パンやパスタ、ピザなど粉でつくられたものを好んで食べる「粉食」、加工食品など味付けの濃いものを食べる「濃食」・・といった具合だ。その中でも最も問題とされているのが、1人で食事をとる「孤食」だと言われている。「孤食」は他の「こ食」を加速させる原因になるからだ。

令和元年6月に農林水産省が公表した「食育白書」によると、誰かと一緒に食事をとる「共食」が多い中学生に比べ、「孤食」が多い中学生は心の健康状態がよくないと報告されている。自分以外の誰かと食卓を囲み、一緒に温かな食事をとることや食事をきっかけとして生活リズムを整えることは、子どもたちの健やかな成長を促す重要な役割を果たしているといえる。

誰かと食卓を囲む「共食」が子どもたちの心身の健康を増進する

一方で、平成27年の「国勢調査」によると、1990年から2015年の間にひとり親世帯の数は1.7倍に増加。ひとり親家庭の現状を見てみると、生活費を稼ぐために親がダブルワークせざるを得ず、日夜問わず外で仕事。家では子どもが1人で食事をしたり、毎晩コンビニ弁当で済ませたりするなど、孤食せざるを得ない10代は珍しくない。

心の栄養どころか、食塩の摂取過多や添加物の摂取など、健康への影響も問題となっている。1970年代には全体の5%以下だった日本の子どもたちの肥満児の人数が、今では10%を超えている。

カタリバが足立区からの委託を受けて運営する困難を抱える中高生のための居場所「アダチベース」でも、食事支援は最も重要な支援活動の1つだ。

アダチベースでは、平日の夕方、休日の昼食を含め、一週間で7回子どもたちに食事を提供している。その時間にいる子どもたちは、無料でできたての料理を食べることができる。つくるのは、地域の調理ボランティアさんやアダチベースのスタッフだ。立ち上げ当初は十分な調理道具やスペースもなかったが、寄付をはじめとした多くの方々の支援や、スタッフが積み重ねた改善により、1度に20名ほどの食事を提供できるキッチンや調理器具、食器類が整備された。

大人数でテーブルを囲むことが日常のアダチベースの食卓

ハード面の課題は解消されたが、運営上の課題にはずっと悩んできた。調理ボランティアさんの都合がつかないときはスタッフが調理を担当することになるが、日常の学習支援や運営業務に加え、バランスのとれた献立の考案、食材の買い出し、大人数分の料理…調理の専門スキルがあるわけではないスタッフが、簡単にできることではない。限られた予算の中で買える食材には限りもあり、食卓には同じような食材で作った同じようなメニューが並んでしまうことが続くこともあった。

そんなアダチベースの抱える課題が、ある企業の支援によってお互いにwin-winな形で改善しているという。

その企業とは、全国に定食チェーン「大戸屋ごはん処」を展開している株式会社大戸屋だ。大戸屋は昨年9月からアダチベースへの継続的で安定的な食材支援を開始。一体どのような支援なのか。

既存の流通システムを活用した
新しい食事支援のスキーム

大戸屋は全国に350店舗を展開する定食チェーン。すべての店舗に食材を安定的に供給する流通システムが確立されており、一括仕入れによって安定した価格で多種多様な食材を保持している。その流通システムの中に、アダチベース2拠点を加えてくれた。これによって大戸屋の通常店舗と同じように、必要量を発注するとその食材が週2回、アダチベースの玄関へ届くという仕組みを構築してくれたのだ。

発注するとアダチベースに届く食材

この仕組みを実現してくれた大戸屋コーポレートブランド室の高田知典さんに話を聞いた。

高田さん:「大戸屋は『子どもの学びを応援する』という目的をもって、これまでもカタリバさんの活動を応援してきました。カタリバさんの活動をより良い形で応援するためには何をしたらいいのか、という話し合いを重ね、今回アダチベースさんへの食材支援をすることになりました。」

大戸屋コーポレートブランド室の高田知典さん

高田さん:「アダチベースにも足を運び、現場のスタッフの方々と直接お話して、現在の食事作りのお悩みや課題も聞かせていただきました。こういったカタリバの拠点で子どもたちが食事を必要としていることを実感できましたし、弊社の通常のオペレーションやリソースを活かした形でご支援できるので大変取り組みやすいです。」

2019年9月から本格稼働した大戸屋の食材支援。アダチベースの食卓や抱えていた課題に一体どんな変化があったのだろうか。アダチベースで食事支援の担当をしているスタッフ、原久美子に聞いた。

原:「大戸屋さんの食材支援ということで、スタッフも子どももドキドキしていました。初めて食材の入ったダンボールが届いた日。開けてみると、大戸屋さんのお店でつかわれるような食材や調味料が入っていて、一同『お~!』と声を上げていました。大人数の食事なため、10kgのお米も1週間ほどで消費されてしまうんです。調味料やお米の買い出しにほとんど行かずに済むようになり、本当にありがたいです」

アダチベーススタッフ 原久美子 東京都出身。学生時代にカタリ場事業部でインターンとして活動。2016年に教育コンサルティング会社へ新卒入社し、学校や教育委員会の裏方を支えるソリューション提供で活躍。2018年7月、NPOカタリバへ転職。アダチベースでは、ユースワーカーとして、中高生の日常に伴走しながら、ジュニアユースワーカー(学生スタッフ)の育成と食事プログラムの運営を担当している。

大戸屋から届く野菜は、鮮度を保ったまま冷凍されいてるものも多く、スタッフや調理ボランティアさんの負担が軽減されたと言う。下ごしらえが面倒な料理も提供しやすくなったことで、作るメニューの種類も増えた。大戸屋の食材でつくった料理が食卓に並ぶと、子どもたちからは様々な反応が。

「この野菜、初めて食べる!」「この味、なんだろう・・」など、料理についての話題が飛び交う。子どもたちの食事への関心も以前より増したと原は言う。子どもたちの反応を受け、作り手もモチベーションがあがる。今度は何を作ろう、と試行錯誤を始めた。

子どもたちとのコミュニケーションを楽しみながら調理するスタッフ

原:「子どもたちは、レンコンやかぼちゃを『あまり食べたことない』と言って喜んで食べていました。先日はかぼちゃを使って、ボランティアの方がほうとうを作ってくださいました。色々な食材に初めて出会えることや、季節の食材を味わえることは子どもたちの食事体験にとってとても良いことです。『温かな食事』を『みんなで囲む』ことを大切にしているアダチベースの食事支援。これからも色々な味つけや食材で『家庭の味』を体験をしていってほしいです。大戸屋さんのおかげで、一過性ではなく、日常の中で継続的にその試みができるので、とてもありがたい支援です」

進化するコラボレーションが
子どもたちの可能性を広げる

支援が始まってから、食事にかかっていた運営コストは3~4割が削減された。スタッフが抱えていた課題解決も子どもたちに豊かな食卓を届けたいというスタッフの想いも同時に実現されたこの取り組み。大戸屋のメリットは何なのか。

高田さん:「私たちとしては、寄付活動は、継続していかないと意味がないと考えています。この形であれば今後もできるだけ長く続けていけるのではと考えています。我々からのサポートが少しでも役に立てば嬉しいです。」

大戸屋がカタリバへの支援活動をしていることは、ホームページや店頭での寄付報告によりお客様にもお知らせしており、事実を知ったお客様からは「大戸屋さんの取り組みいいね」と賛同いただけることが多い。

実は大戸屋とカタリバの関係が始まったのは2011年の東日本大震災がきっかけだった。

大戸屋は震災後、2012年から東北にゆかりのある食材をつかった期間限定メニューを開発・販売。“復興支援メニュー”として提供を始め、1食あたり20円を東日本大震災で被災した子どもたちへ寄付してきた。

2014年からは、カタリバが運営する被災した子どもたちの放課後の居場所「コラボ・スクール」の活動に共感。以降「コラボ・スクール」を寄付先に選び、毎年、期間限定特別メニューとして寄付つきメニューを販売、寄付を通して子どもたちの学びを応援してくれている。

大戸屋による寄付つき期間限定メニュー。今年は「ハンバーグ定食」3種が販売され、1食あたり20円がカタリバに寄付される(※2020年2月末まで)

さらに、2018年には、もう一歩進んだ形で子どもたちをサポートしたいという考えから、カタリバが活動する福島県立ふたば未来学園高校で、食品加工を学ぶ生徒と新しいメニュー開発にチャレンジしてくれた。「大好きなふるさとに伝わる料理を日本中へ届け、興味を持ってもらいたい」そんな生徒たちの思いを形にしたメニューは全国で販売。大戸屋と生徒が本気で協働し、実践的な学びを子どもたちに届けることができた。寄付だけでなく、生徒の「意欲」と「創造性」を直接刺激できるような取り組みとなった。
※大戸屋とのメニュー開発の記事はこちら

そして、今回のアダチベースの食材支援だ。常に「本当に必要なことは何か・根本的な課題は何か」を考え、踏み込んだ支援をしようとしてくれる大戸屋は、私たちが前例や既存の枠組みにとらわれずにお互いの強みを活かし合う新しいコラボレーションを実現することで、10代の可能性はまだまだ広げていけるということを教えてくれる。

あらゆる社会の構成員を教育の担い手にー。

その1歩1歩が、今日も1人で夜ご飯を食べるかもしれないあの子の日常を変える、未来につながると信じて。

Writer

長濱 彩 編集担当

1988年生まれ。神奈川県横浜市出身。横浜国立大学卒業後、JICA青年海外協力隊でベナン共和国に赴任。理数科教師として2年間活動。帰国後、2014年4月カタリバに就職。岩手県大槌町のコラボ・スクールで数学を担当。小学部、適応指導教室の立ち上げにも携わる。第一子出産を機に島根県雲南市のおんせんキャンパスへ異動。不登校支援を行う。第二子出産と夫の転職を機に、沖縄県那覇市へ移住。2019年5月~復職し、在宅でカタリバmagazineの編集を行う。

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