子どもの不登校から生活困窮に。誰にでも起こりうるから、いま考えたい「防窮」という視点
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カタリバでは2021年から、保護者の子育てに関する不安や悩みの相談を受け付ける「カタリバ相談チャット」というLINE相談窓口を運営しています。開設から5年経った2026年、チャット画面に新しく「支援みつもりヤドカリくん」というサービスのリンクが設置されました。自分が自治体などからどんな支援を受けられるのか、いくつかの簡単な質問に答えるだけで分かるサービスです。
今回は、「支援みつもりヤドカリくん」を運営している防窮研究所代表で拓殖大学准教授の白取耕一郎さんと、カタリバ相談チャット事業責任者の藤井理夫が、連携の背景や、困窮に陥る前に知っておきたい「そなえ」の大切さについて話しました。

藤井 理夫(ふじい・みちお)| 写真左
認定NPO法人カタリバ 相談チャット事業責任者。1987年、福岡県北九州市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、会社勤めの中で起業し、文部科学省委託事業で発達障害者支援に携わる。2021年よりカタリバに参画し、子育てに悩む保護者向けの相談チャット事業を担う。
白取 耕一郎(しらとり・こういちろう)| 写真右
拓殖大学政経学部准教授。防窮研究所代表。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。生活困窮を予防する「防窮」という考え方を提唱し、仲間たちと誰でも自分に合った支援の見積もりを調べられるアプリ「支援みつもりヤドカリくん」を開発した。自治体などと連携を拡大中。
子どもの不登校や病気をきっかけに、誰にでも起こりうる「生活困窮」
藤井: この5年間、さまざまな不安や困難を感じている保護者さんのお話をうかがってきたのですが、ひとつ感じているのは、「困窮は誰にでも起こりうる」ということです。
例えば、それまで家計が順調だったご家庭で、二人目のお子さんに先天性の病気があり、医療費がかさんでしまったケースがありました。育児休業による手当はあったものの、手当は遅れて入金されるため、ある月の収入が9万円ほどになってしまったそうです。
また、不登校をきっかけに困窮するケースも少なくありません。お子さんが学校になかなか足が向かなくなる中で、登校時の付き添いや家庭での見守りが必要になり、お仕事の時間を短縮したりお休みが続いてしまったりして、最終的に仕事を続けられなくなる保護者は多いです。
たとえば夫婦共働きの収入を前提としていた家庭の場合、一人の保護者に収入があるとその家庭は経済的な支援の対象にならず、収入が大きく減った状態でも自分たちだけで家計を維持していかなくてはならない状況に置かれてしまいます。

白取: 病気、不登校、介護、離婚など、さまざまな背景で誰でもいつのまにか困窮に陥ってしまうことがあると思っています。私自身は、大学院生のときに研究で行き詰まり、長い無職期間を経験しました。誰かに助けてもらおうという予備知識がほとんどなく、社会から孤立してしまったのです。
「防災」や「防犯」は多くの人が普段から意識しているのに、生活困窮に関しては、当事者意識を持っている人はほとんどいません。逆に、家庭やその人の問題として、あまり触れてはいけない話題 ――「タブー」のように扱われているようにも感じます。
藤井: 「自分で何とかしなければ」という思いを持つ方がとても多いですよね。実際、「お金のことで困っている」と伝えることの恥ずかしさや、「断られたらどうしよう」という不安もあるのだと思います。
困窮を未然に防ぐ―「防窮」という考え方を、もっと身近にしていくために
藤井: カタリバの相談チャットには、オンラインの手軽さもあってか、子どもの学費や食費など、金銭的な支援を求める相談が一定数寄せられています。
そのやりとりの中で、自治体や国が用意している支援制度や社会福祉協議会の緊急貸付などをご案内することもあるのですが、手続きの複雑さからか、途中で離脱してしまう方も多くて。なので、いくつかの簡単な質問に答えるだけで自分の自治体や近隣自治体にどんな制度があるのか、おおよそいくらくらいの額の支援を受けられる可能性があるのかが分かる「ヤドカリくん」の仕組みに魅力を感じました。
誰にでもわかりやすいシンプルなデザインで作られた「支援みつもりヤドカリくん」
白取: 私は自分が困窮を経験した時に、誰もが生活困窮に陥るリスクがあると身をもって感じたことから、そなえを学べる環境をつくりたいと考え、「防窮」という考え方にいきつきました。手続きの複雑さで離脱してしまう方々の気持ちにも、とても共感します。そうして開発したのが、「支援みつもりヤドカリくん」です。できるだけ簡単なつくりにして、視覚的にも分かりやすい画面で、誰でも利用できるようなサービスにすることを目指しました。
藤井: 相談にのるスタッフ側もこのサービスを使うことで、アセスメント(評価・見立て)の品質を揃えられるという意味でも、価値を感じています。相談を受けるスタッフのアセスメントの話は、もしかしたら自治体の窓口対応などでも同じような課題を抱えているかもしれませんね。
白取: 当事者側はもちろんですが、支援者側にも「ヤドカリくん」を届けられたらいいと思います。
私たちが連携協定を結んでいる埼玉県のある自治体では、自治体の福祉担当課の職員が講師となって、市内の中学校で社会保障や市の窓口や「ヤドカリくん」の使い方に関する授業を実施しました。「もし将来お金に困ったときには、市役所に行けば何とかしてくれるかもしれない」という声が生徒から返ってきたそうです。
子どものうちから、相談できる場所や人のイメージを持てることには、大きな意味があると感じています。その子自身、もしくはその子の家庭や、大切な人が困窮に陥った時に、いち早く自分たちに合った制度にたどり着けるかもしれません。

自己責任ではなく、ヘルプを言える社会へ
白取: 生活困窮に陥ったとき、お金がない、困窮しているという状態を、つい「失敗」だと捉えてしまいがちです。けれど、それは失敗ではなく、ただの状態の変化にすぎません。たまたま今置かれている環境の中で、お金があったりなかったりするということだと思うのです。
かつての私もそうでしたが、うまくいっていない時期に現状を誰にも話さず、人から距離を置いてしまうと、余計に孤立してしまいます。自分を卑下したり、攻撃したりしてしまうと、状況はさらに良くない方向に向かってしまいます。今はこういう状態だけれども、打てる手はあるかもしれないと考えられる方が、きっと楽になれるはずです。

藤井: そうですね。カタリバでは保護者向けの「相談チャット」のほかに子どもたちの不安や悩みに寄り添う子ども向けの「チャット相談ブリッジ」という窓口も運営しているのですが、子どもたちの声を聞いていると、子どもたちは保護者の様子を本当によく見ているんだなと感じます。
自分が不登校になったことで親や先生に迷惑をかけていると感じ、「自分はだめだ」という思いを蓄積させてしまう子も多いです。そこに、保護者が仕事を辞めなければならない状況が重なると…… 子どもにとってもきっと耐え難いことだと思います。
そんな状況であっても、打てる手があると信じられる、「大変だ」と言えるような社会にしていきたいですね。相談チャットとヤドカリくんでしっかりと支えながら、次につながる形をつくっていきたいです。
白取: 節約や貯金、健康に気をつけることも、広い意味では防窮です。中でもお金のことは、本当にその人の自己肯定感に直結しやすいと思っていて、だからこそ、いざという時にも自分を責めずにいられるように、普段から様々な制度や支援の情報に触れておける環境づくりが大切だと思います。
藤井: そのためには、私たちのような団体や企業、自治体がそれぞれの立場から手を取り合って連携していくことが本当に大事ですよね。そうした一つひとつの動きが、困っている子どもや保護者が安心して助けを求められる社会につながっていくのだと感じています。
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