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「困難があっても諦めなくていい」。給付×伴走という新たな奨学金のかたち

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昨今の若者の大学や専門学校などの高等教育機関への進学率は85.4%に上り(*1)、大学学部(昼間部)の学生の半数以上が給付型や貸与型の奨学金を利用しています(*2)。奨学金は今や、多くの学生にとって進学を支える重要な制度です。一方で、家庭の経済状況や奨学金に対する考え方、情報へのアクセスのしづらさ、申請上の難しさから、進学を諦めざるを得ない高校生も少なくありません。

カタリバはコーチ財団と協働し、2024年から社会や個人の背景によるさまざまな障壁に直面している高校生の大学進学を支える奨学金事業を展開しています。給付型の金銭支援にとどまらず、在学期間全体を見通した「ファイナンシャル・プランニング」による伴走を組み合わせた、新しい形の奨学金です。

2026年3月、活動内容を広く社会に発信し、支援を必要とする子どもたちへ情報を届けるため、初めてオンラインイベントを開催しました。当日は現場で生徒たちと向き合うスタッフや研究者が登壇し、奨学金を取り巻く現状や教育現場における課題などについて発表し、意見を交換しました。

今回の記事では、イベントの様子をレポートしながら、2年間の事業運営の中でみえてきた課題や展望についてお伝えします。

*1 文部科学省 「学校基本調査-令和7年度 結果の概要-」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/816b811a-0bb4-4d2a-a3b4-783445c6cca3/9dade72e/20231201_policies_ibasho_09.pdf

*2 日本学生支援機構(JASSO) 「令和6年度学生生活調査等」
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/__icsFiles/afieldfile/2026/03/24/transition24.pdf

就学意欲はあっても・・・・・・
進学を阻む「三つの壁」とは

奨学金を取り巻く状況についてカタリバでは、ガクシー株式会社の調査(*3)や日本学生支援機構の調査に基づき、「印象の壁」「知識の壁」「情報の壁」という「三つの壁」で整理しています。奨学金に対する偏った印象、制度に対する知識の不足、情報が届きにくい環境、これらが複合的に絡み合い、支援が届きにくい状況が生じていると考えています。

学校現場を取り巻く構造的な課題も、支援を届ける上での難しさにつながっています。多忙な教員が生徒一人ひとりの複雑な手続きに伴走し続けることは現実的に難しく、家庭の経済的事情という繊細な領域に、学校としてどこまで踏み込むべきか苦慮されている現状もあります。 

こうした課題意識を背景に、カタリバ奨学金はスタートしました。事務局を務める渡邉は「進学率が上がり、奨学金の利用者が増えても、まだまだ必要な人に届けられていない現状があります。どんな子でも、どんなタイミングでも、進学という選択肢を最初から外さなくていい、諦めなくていい、そういう応援をしたい」と事業への思いを語ります。

奨学金を取り巻く課題や事業への思いを語る渡邉

*3 株式会社ガクシー 「奨学金に関する実態調査2023年」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000051780.html

何にいくらかかる?
収支の可視化に伴走することで進学が実現

カタリバ奨学金の特徴は、給付の仕組みと伴走支援の両輪にあります。

まず、給付の仕組みについて、国や民間の奨学金の多くは入学後にしか受け取れない仕組みのため、入学前の金銭的支援の「空白」を埋める目的で2つの段階で構成しています。第1段階では、受験料や受験にかかる交通費などを支援。第2段階では、入学金や一人暮らしの初期費用などを給付します。どちらも、返済不要です。

さらに、事業の核心ともいえるのが、社会人メンター(伴走者)による半年間の伴走です。

メンターは、それぞれ月1回ずつのオンライン個別面談とグループワークショップを通じて、進路相談や受験へのモチベーションを保つための話し相手となるだけでなく、経済的事情というデリケートな内容も相談できるような関係構築を図ります。そのうえで、入学金・授業料などの準備計画や活用できる制度、相談窓口について助言し、数字を入力するだけで大学生活の収支が可視化される「マイシート」を用いて、入学に必要なお金や学費を捻出するための資金計画づくりに伴走します。

マイシートの例

「マイシート」は、ファイナンシャルプランナーが本プログラムのために作成した専用シートで、奨学金やアルバイト代といった収入と、学費や生活費、家賃などの支出を項目ごとに入力し、在学期間中の収支を丸ごと試算できるツールです。数字を可視化することで、高校生が自分の状況を具体的にイメージできるようになると言います。

実際にマイシートを使用した奨学生からは、こんな声がありました。

「家族と話し合って、奨学金が出なかったら入学を辞退して就職しようと決めていました。でもこのプログラムのおかげで、お金の準備の仕方を自分で知ることができて、保護者とも相談して進学できました」

高校生がお金について「知る」ことが、選択肢を広げる第一歩になっています。

「給付だけでは解決しない」
伴走することで、生徒の意識と行動の変化を実感

登壇したメンターの大沼博文(元福島県立高校教員・元教育長)は、高校教員だった時のエピソードを話してくれました。

「先生、入学金が払えません。進学諦めます」

大沼のもとに、入学手続きの締め切り直前、泣きながら駆け込んできた生徒がいました。高等看護専門学校に合格したMさんが、家庭の事情で入学費用を用意できなかったのです。学年主任と相談して先生たちがカンパをして、Mさんはなんとか進学。現在も看護師として働いているといいます。

大沼は「担任として家の大変さをある程度知っていたのに、入学手続きや奨学金のことまで事前にフォローできていなかった」と振り返ります。

カタリバ奨学金の取り組みを知り、メンターとして手を挙げた大沼は、半年間にわたって4人の高校3年生に伴走しました。学校での指導経験は豊富でも、家計の情報に踏み込み、収支計画を立てるなどの金銭的な見通しを立てるサポートには最初戸惑いがあったといいます。そこで大きな役割を果たしたのが、「マイシート」でした。

「このシートを見ながら面談を重ねることで、生徒が保護者と相談するきっかけができました。ある生徒は、当初一人暮らしを希望していましたが、試算の結果を見て自宅通学に切り替える判断をしました。数字が見えることで、意識と行動に変化が生まれたようです」

一方で、お金の問題をめぐって生徒と保護者の間に意見の相違があるなどの場合に、メンターとしてどこまで、どのタイミングで介入すべきかの判断は悩ましかったといいます。

また、受験結果に落ち込む生徒のフォローでは、子どもの進路に関する指導で齟齬が生まれないためにも学校の先生方との連携が重要と感じたといい、関係各所とコミュニケーションをとる重要性を指摘しました。「給付するだけでは解決しない。伴走があってこそ、支援は本当の意味で機能する」と語ります。

伴走の意義を語るメンターの大沼

「家庭の問題」から「教育機会の損失」へ―
経済的な困難の捉え直しを。

「経済的な困難が、単に進学を諦めさせるだけでなく、その前の段階で、見通しや意欲そのものを狭めてしまう」

移民の子ども、若者の教育や就労における障壁について研究している東京大学大学院准教授の高橋史子氏は、こう言いました。

高橋氏が示した都立高校の調査(*5)では、全日制・定時制ともに「家計が厳しく進学することが難しい」ことと「生徒が将来展望を描けない」ことが、進路指導上の重要な課題として挙げられていました。この2つは独立したものではなく、相関した課題だといいます。外国にルーツを持つ生徒では、在留資格によって奨学金への応募自体ができないケースもあります。

そこに、奨学金に関する情報不足などが絡み、将来展望を描くのがより難しくなる状況も。高橋氏によると、家庭の経済状況や在留資格による壁といった「構造的・環境的な要因」に、情報やネットワークの不足・手続きの煩雑さが重なることで、進学意欲自体を持ちにくくなってしまう構造があるといいます。

そのうえで、カタリバ奨学金の役割については、単に足りないお金を埋めることではなく、進学を現実的な選択肢として捉え直すきっかけを作り、安心できる環境で将来を考えるための余白を作り出す点にあると話します。

「単に『家庭の問題』ではなく、広い視点で『教育機会の損失』として捉えていく必要がある。1人で抱え込まなくて良いと思える関係を作り、経済的困難の中で奨学金の機会を必要としている家庭に積極的に情報を届けにいくことが、壁をなくすためにも重要な意義だと考えています」(高橋氏)

進学意欲や将来展望を低める構造について語る高橋氏

*5 東京⼤学⼤学院教育学研究科 「外国につながる生徒の学習と進路状況に関する調査報告書―都立高校アンケート調査の分析結果―」
https://www.schoolexcellence.p.u-tokyo.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/814b57be63b6900240169bbea35787f1.pdf

空白期における給付と、資金計画の伴走
継続した関わりで、高校生が選択肢を持てるように

「困難があっても諦めなくていい」という言葉を子どもたちに届けるためには何が必要なのか―。このイベントを通じて、その問いに向き合い続けている人たちからのリアルな声が届けられました。

従来の奨学金とは異なる入学前段階の給付と、経済状況というデリケートな要素に踏み込んだ伴走支援を通じて、継続的に対話を重ねることで、高校生自身が自分の状況を見つめ、周りの大人たちにも希望や想いを伝えられるようになる。そうした変化が、高校生たちが将来に向かって一歩を踏み出すきっかけにつながるのではないでしょうか。

イベントは、カタリバ奨学金プロジェクトの事業責任者である石井の言葉で締めくくられました。「私たちが届けられることと、皆さんが届けられることを合わせながら、一緒に子どもたちの力になっていきたいです」

カタリバ奨学金は3年目を迎えたばかりです。本当に必要としている一人ひとりの手元へ届けていくためには、日頃から最も近くで高校生を支えている先生方や地域の皆様との連携が欠かせません。カタリバでは、これからも皆様と力を合わせながら、高校生が選択肢を諦めずに未来を歩んでいける環境をつくるための取り組みを続けていきます。

カタリバ奨学金では、2026年度の奨学生募集および奨学金メンターの募集を予定しています。詳細は決定次第、カタリバ公式サイトにてご案内します。

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編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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