井村良英(NPO育て上げネット)×今村久美が語る。子どもを支える大人は、どのように変わっていけるのか
Interview
子どもの"いまとこれから"会議 - Dialogue
2026年11月、カタリバは設立から25年を迎えます。 子どもや学校を取り巻く環境が大きく変化していく中で、私たち大人は、どのように子どもたちや教育と向き合っていくことができるのでしょうか。 いま教育に関わっている方々も、教育に関わっていない方々も、みんなで一緒に、子どもたちの「いま」をとらえ直し、「これから」について考えたい。 「子どもの"いまとこれから"会議 - Dialogue」では、カタリバの25年間の活動を通して見えてきたことや国の会議で議論されていることを踏まえながら、カタリバ代表理事今村久美と、様々な業界の第一線で活躍する方々が、教育と子どもたちの未来について対談します。 本対談は、Interfmのラジオ番組としても展開されています。 https://www.interfm.co.jp/kodomo
井村 良英(いむら・よしひで)
1975年兵庫県生まれ。不登校・ひきこもりの自立支援施設「淡路プラッツ」、財団法人大阪生涯職業教育振興協会を経て、現在、認定NPO法人育て上げネットおよびたちかわ若者サポートステーションなどで20年以上若者支援の活動を行っている。今村 久美(いまむら・くみ)
NPOカタリバ代表理事。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。東京大学経営協議会学外委員。
「加害者になる前に、被害者だった」—少年院で出会ったピュアな子どもたち
今村: 井村さんは18年間、少年院や少年鑑別所を訪問されています。まずは、それらの違いから教えていただけますか?
井村: 分かりやすく言うと、少年院は「教育施設」です。犯罪を犯してしまった人だけでなく、「虞犯(ぐはん)」といって、犯罪はしていないけれども、これ以上今の環境にいたら犯罪を犯す側になってしまうかもしれない子どもも保護の目的で入っています。指導してくださる先生がいらっしゃり、教育を受ける機会が得られるため「最後の学校」と呼ばれることもありますね。
一方で少年鑑別所は、4週間程度の期間で、その子が社会でやり直せるのか、少年院での教育が必要かをアセスメント(評価・見立て)する場所です。心理士や法務省に所属する専門技術職員(法務技官)という国家公務員の専門家が、子どもから話を聞いたり生活の様子を観察するなどして判断します。
今村: 少年院というと、昔のドラマのイメージから先生が暴力を振るっていたり、鋭い目つきでいかにも悪そうな子たちが入っている場所との印象を持っている方も多いかもしれません。ところが私が見学して驚いたのは、子どもたちを見守る先生たちの眼差しの温かさでした。また、そこにいる子どもたちは、とてもピュアな印象を受けました。少年院で過ごしている子どもたちは、実際にはどんな子たちなのでしょうか?
井村: 少年院は最高の先生たちがいらっしゃる教育機関の1つだと感じています。子どもたちのことも、今村さんと同じような印象を受けています。私たちの話を誰よりも丁寧に聞いてくれて、自ら学び成長しようとしている。ただ、彼らの身の上話を聞いていると、加害者になる前に多くのしんどい思いをしてきて「被害者」だった子たちが多い印象です。
実際、法務省が出している「犯罪白書」でも、多くの子どもたちが虐待経験があると申告しています。また、あくまで自分が関わった子どもたちという前提ではありますが、話を聞いた子の多くは「大人からひどい目にあった」「学校でいじめられた」といった経験をしています。だからといって加害をしていいとは決して思いませんが、彼らへの理解を深めれば深めるほど、多くの人で応援していくべき子どもなのではないかと思っています。
今村: ある少年院の運動会を見学したことがあります。コロナ禍以降で久しぶりに保護者が参加できる運動会だったのですが、保護者の方の姿はあまり多くはなくて。保護者側にもさまざまな事情があると思います。それでも、ガラス越しではなく直接会える機会に多くの子の保護者が来られなかったという現実は、その背景にある家族を取り巻く環境について考えさせるものでした。
井村: この仕事を続けていて思うのは、親子だからといって必ずしも相性が合うわけではないということです。ご家族が何度注意しても万引きや暴力を繰り返してしまう子どもをどうしていいか分からずに悩み続け、「もうこれ以上関われない」と限界を感じておられる方もきっといらっしゃると思います。
先日フランスへ児童保護の取り組みを学びに行ったのですが、フランスでは「親をすることを支援する」という考え方がありました。「親をすること」は大変だから、子どもの支援だけでなく家族の支援もみんなでやりましょう、という考え方です。子どもに対してはもちろんですが、そのご家族に対しても理解を示し、「みんなで一緒に生きていこうよ」と何かできるといいのかなと思いますね。
何度も失敗してしまう。「学習マップ」を持てなかった子どもが、社会で直面すること
今村: 法務省の統計によると、少年院にいる子どもたちの60%が高校中退、もしくは中卒です(*1)。99.8%の子どもが高校に進学し(*2)、大学進学が当たり前になりつつあるこの時代に、中卒のまま少年院で過ごしたのちに社会に出ていったら、この子たちはどうなるんだろうと不安に思います。
井村: 私たちは少年院へ定期的に学習支援に伺っているのですが、驚いたのが「今日何の勉強しようか?」と聞くと、「掛け算と二次関数の勉強がしたいです」「足し算と三角比の勉強がしたいです」と言うような子どもが大勢いたことでした。少し考えてみると、これらを同時に学ぶことは難しいということに多くの人は気づくと思います。
つまり、教育を受けてきた私たちからすると当たり前な「学習マップ(学んでいく順序)」が、頭の中にできていない子どもが多いんです。先ほど「加害者の前に被害者だった」と言った理由は、実はここにもあります。
事情はそれぞれですが、少年院にいる子どもたちは、学習の機会を奪われてしまっている子が多い。すると、学習の中で自然と経験するはずの「目標を立てる」という機会すら持てずに、結果、失敗を繰り返してしまう。失敗して自分自身が傷つき、そして他人を傷つけてしまう、そんな順番を辿っているように思えるんです。
今村: 本人の特性なのか、学校教育の枠組みに入ることが難しかったのか、学ぶ時間が圧倒的に足りなかったのか、事情は複雑だと思いますが、失敗を繰り返してしまうことは、本人たちにとってとてもつらいことですよね。
井村: ある子どもは、原付の免許が必要な仕事に就きたくて、17回も試験を受けてすべて落ちてしまい、お金がなくなってしまったことがありました。また別の子は、少年院に入っていたことを知られたくないと希望していたのに、住所を書く場面で何度も少年院の住所を書いてしまうんです。一度伝えれば修正できる子どもには、その都度確認するだけで十分です。でも何度も同じ壁にぶつかってしまう子どもにこそ、丁寧に寄り添う関わりや支援が必要だと感じます。
「3人わかってくれる人がいれば大丈夫」。大人たちにできることは?
井村: 実は少年院を出るとき、約2割の子どもが「少年院にいたい」と言うそうです。少年院には住む家もご飯も寄り添ってくれる先生もいる。ここで頑張ってきたけれど、外に出たら自分の力で自立し社会復帰しなければならない。もし自分が彼らの立場だったら、当然不安になると思います。
少年院ではそれなりに自由を奪われるのですが、そんな環境であっても「またここにいたい」という子どもたちの声は、社会にいる私たちが真剣に受け止めなければならないと思っています。
以前の私自身もそうでしたが、少年院に関わる子どもたちをどう受け止めていいか分からず、戸惑う方も多いと思います。しかし、そうした子どもたちに優しい眼差しで寄り添って関われる人が増えれば困っている子どもが減り、ひいては犯罪も減るのではないかと思っています。
私の好きな言葉に「3人分かってくれる人がいれば大丈夫」という言葉があります。子どもたちの話を聞いていると、小学校時代の話がたまに出てくるんです。勉強が分からなかったときや家庭にいづらかったとき、いじめられたときに、ちょっと教えてくれたりかばってくれたりした人がいた、と話してくれることがあります。
自分のことを分かってくれる人が3人いる状態は簡単にはつくれませんが、1人でも2人でもいるだけで、その子にとっては大きな違いになるのではないかと思いますし、私たちはその1人目になりたいと思いながら活動しています。
今村: 犯罪を犯すずっと前の段階で、私たちにできることがもっとあるのではないかということですね。最近、井村さんが始められた緑のエプロン活動も、その1つなのでしょうか?
井村: 昨年5月から、出勤前にボランティアとして、小学校の校門前で登校してくる小学生たちに挨拶をしています。最初はジャケットを着て立っていたら警察に通報されてしまって(笑)。エプロンなら子どもたちの生活の中にもあり、先生ではないボランティアだと分かってもらえるかなと思い、家にあった緑のエプロンを着て立つようになりました。
3カ月も毎日立っていると認知されてきて、今では子どもたちから声をかけてくれますし、保護者や先生も挨拶してくださり、つながりが生まれてきていると感じます。呼び名はないですが、彼らの理解者であり、応援者だと思っていただけている気がします。
今村: 校門前で子どもたちや保護者とのつながりが生まれているんですね。
井村: 毎日立っていることで気づいたことがあります。校門が閉まったあと、足取りの重い子どもが出勤前のお父さんやお母さんと一緒に来るんです。そこで、そういう親子がいらっしゃったら、閉まっている重い校門を開ける係を始めました。
もし自分が保護者の立場で、出勤前の余裕のない時間に登校渋りの子どもを学校まで連れてきたとしたら、あの門は重量以上に重く感じると思うんです。門を開けることは特別なことではないかもしれませんが、隣にいる、応援している、という気持ちが伝わればと思っています。
今村: 社会全体で人と人とが関わらなくなり、冷たい方向に進んでいると感じることもあり、無力さを覚えることもあります。そんな社会の中で、私たちはどんなふうに変わっていけると思いますか?
井村: NPOや個人のボランティアは、思い立った次の日にできることがあります。私たち市民は、大きなものは動かせないかもしれませんが、朝、子どもたちに挨拶をすることや、校庭の草むしりぐらいだったらできるかもしれない。今目の前でできる小さな活動が、困っている子どもたちのためにできることかなと思いますし、大きなものを動かそうとしている人たちにとっての勇気にもつながるのかなと考えています。
今村: 私も井村さんの緑のエプロン活動を知ったときに感動し、学校の前に立つ勇気はまだないですが、自転車で通勤するとき、子どもたちに挨拶するおばさんになってみました。「おはよう」「今日も寒そうだね」と声をかけると、「暖かいよ」と返してくれたりして。
そんな半径5メートルでできることを思いついたらやってみる。その動きの延長線上に、困っている子どもに寄り添い、支え、理解する人が、一人また一人と増えていく世の中にしていけたらいいなと強く思いました。
今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。
*1 : 法務省「少年院在院者に対する高等学校教育機会の提供について」:https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei03_highschool.html
*2 : 文部科学省「高等学校を取り巻く現状」:https://www.mext.go.jp/content/20211207-mxt_koukou02-000019354_01.pdf
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北森 悦 ライター
2015年からインタビューライターとしての活動を始め、これまでに500名以上のインタビュー記事に携わってきた。現在はライターチームを束ね、Webメディアのインタビュー記事や、企業・団体のテキストコンテンツ制作など、聴くこと・書くことを軸に幅広く活動している。カタリバ内では、カタリバマガジンのインタビュー記事を担当。
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