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岩本実久(完全ノンカフェイン「まるで抹茶」開発者)×今村久美が語る。探究で問い直した、茶の湯文化の本質

vol.440Interview

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category #インタビュー

writer 編集部

子どもの"いまとこれから"会議 - Dialogue

2026年11月、カタリバは設立から25年を迎えます。 子どもや学校を取り巻く環境が大きく変化していく中で、私たち大人は、どのように子どもたちや教育と向き合っていくことができるのでしょうか。 いま教育に関わっている方々も、教育に関わっていない方々も、みんなで一緒に、子どもたちの「いま」をとらえ直し、「これから」について考えたい。 「子どもの"いまとこれから"会議 - Dialogue」では、カタリバの25年間の活動を通して見えてきたことや国の会議で議論されていることを踏まえながら、カタリバ代表理事今村久美と、様々な業界の第一線で活躍する方々が、教育と子どもたちの未来について対談します。 本対談は、Interfmのラジオ番組としても展開されています。 https://www.interfm.co.jp/kodomo

岩本 実久(いわもと・みく)
島根県立松江北高等学校3年生。全国高校生マイプロジェクトアワード2025 文部科学大臣賞受賞。「ノンカフェイン抹茶で守りたい!松江の茶の湯文化」をテーマにノンカフェイン抹茶風パウダー「まるで抹茶」を開発。

今村 久美(いまむら・くみ)
NPOカタリバ代表理事。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。東京大学経営協議会学外委員。

正解にたどり着くことは「学び」なのか?「好きなのにできない」という違和感から始まった探究

これからの教育について対談する岩本さん(高校生)とカタリバ岩村

今村:いま、AIの発達によって、子どもでも正解にたどり着く力や、もっともらしい答えを導くスピードと質が一気に高まっていますよね。一方で、それって本当に「学び」なのだろうか、という問いも生まれていると感じています。

カタリバでは「子どものいまとこれから会議」と題して、子どもたちの“いま”を捉え直すことで、これからの社会や学びのあり方を考えていく対話を重ねています。だからこそ今日は、「まるで抹茶」というノンカフェインレス抹茶風パウダーの商品開発に取り組んだ岩本さんのプロジェクトを通して「これからの学びとは何か」を一緒に考えていきたいと思っています。岩本さんの取り組みは「正解にたどり着くこと」ではなく「問いを立て続けるプロセス」そのものに価値があると感じたからです。

まずは、このテーマに至ったきっかけを教えてもらえますか。

岩本:私はもともと、松江の気軽な茶の湯文化がすごく好きで、抹茶や和菓子も日常的に楽しんでいました。でも中学3年生のときに、抹茶を飲むと夜眠れなくなることに気づいたんです。

今村:それは結構大きな気づきですよね。

岩本:それまで普通に飲んでいたので、最初は原因が分からなかったんですけど「抹茶を飲んだ日だけ眠れない」と気づいて、カフェインの影響だと分かりました。

今村:好きなものなのに、制限されてしまう。

岩本:高校に入ったら茶道部に入りたいと思っていたんですけど、活動は放課後なので、どうしても抹茶を飲む必要があって。「入りたいけど入れない」という状況になってしまいました

今村:そのとき岩本さんは「自分の体質の問題」から「社会の側の問題かもしれない」に変わった瞬間でもあると伺いました。

岩本:「なんで選択肢がないんだろう」と思いました。
カフェインを理由に抹茶を楽しめない人って、私以外にもいるはずなのに、その人たちが選べるものがない。「カフェインで抹茶を諦めない世界にしたい」と思ったのが、プロジェクトのスタートでした。

一度たどり着いた“正解”を、もう一度疑う

自身のプロジェクトを振り返りながら話す岩本さん(高校生)

今村:最初は低カフェインの抹茶を作ろうとしたんですよね。

岩本:「しまね未来共創チャレンジ」という取り組みに参加して、助成金をいただきながら開発を進めました。野菜や青汁の粉末に、抹茶や煎茶を組み合わせることで、低カフェインの抹茶を作ることができました。

今村:普通に考えると、それってかなりの成果ですよね。

岩本:はい。でも自分で飲んでみたら、低カフェインの抹茶でも眠れなくなってしまって。「これじゃ意味がない」と思いました。私だけでなく、同じようにカフェインに弱い人にとっても同じことが起きるはずだと思ったんです

今村:ここがすごく象徴的だと思っています。今の時代は“それっぽい正解”には比較的簡単にたどり着ける。でも、それを自分の身体感覚や実感で問い直せるかどうかは、全然別の力ですよね。

岩本:そうですね。「誰のためにやっているのか」をもう一度考え直しました。

今村:つまり「できたかどうか」ではなくて「本当に意味があるかどうか」に立ち返ったんですね。

岩本:そのときに「低カフェインではなく、ノンカフェインにしないといけない」と思いました。

「それは本当に抹茶である必要があるのか」という問い

開発した「まるで抹茶」をいただく

岩本:ノンカフェインの抹茶を知るために、松江のお茶屋さんに行って「カフェインレスの抹茶はありますか」と聞いたり、市場調査を行ったりしましたが、気軽に手に取れるものはないと知りました。

カフェインを完全に抜くには特許技術が必要で、価格もかなり高くなってしまうと知りました。

今村:そうなんですね。だからカフェインレスのお茶を一般には見かけないんですね。

岩本:はい。なので、カフェインゼロの抹茶をつくるためには「茶葉」を使わない選択をしないといけないんです。そのときに「じゃあどうするか」と考えていく中で「本当に抹茶である必要があるのか」という問いに変わっていきました

今村:すごく大きな転換ですね。

岩本:お茶を使う限りカフェインは避けられない。でも、私が守りたかったのは茶葉そのものではなくて「誰でも楽しめる」という茶の湯の文化なんじゃないかと思ったんです

カフェインによって参加できない人がいる状態は、茶の湯文化の、おもてなしの文化から遠ざかっているんじゃないかと感じました。だから、お茶を使わないという選択をしました。

今村:物事の本質を見極めて、選び直したんですね。それは相当勇気のいる決断だったと思います。

「お茶を使わない抹茶」をどう実現するか

自身のプロジェクトでの葛藤について語る岩本さん(高校生)

岩本:お茶を使わないと決めたあと、どうやって“抹茶らしさ”を再現するかを考える必要がありました。そこで、松江の老舗のお茶屋さんに改めて相談して、一緒に開発を進めることになりました。

今村:お茶のプロと一緒に、“お茶を使わない抹茶”をつくるというのは、かなり挑戦的ですね。

岩本:はい。最初は本当にできるのか分からなかったです。でも「誰でも楽しめる形にしたい」という思いを伝えたら、協力していただけることになりました。

30種類以上の素材で試作を重ねる中で、色味や風味、口当たりをどう再現するかをずっと試していきました。その結果、最終的にたどり着いたのが、ほうれん草とバニラを使った配合でした。

ほうれん草で抹茶の色や自然な青みを出して、バニラの華やかな香りでほうれん草の青みを消し抹茶のおおい香を再現する、そうすることで「抹茶に近い体験」をつくることができました。

今村:それが「まるで抹茶」なんですね!ほうれん草とバニラで抹茶の風味になるとは、想像がつかないです。

岩本:お茶を使っていないけれど、見た目も味わいも抹茶のように楽しめる、ノンカフェインのパウダーとして商品化しました。

今村:すごく象徴的だと思います。「抹茶ではないけれど、抹茶の文化体験を守る」という選択ですよね。でも「それは抹茶じゃない」と言われる可能性も高いですよね。

岩本:実際に言われました。「苦みがない」「これは抹茶じゃない」というフィードバックもありました。

今村:その声とどう向き合ったんですか。

岩本:もちろん悩みましたが、でも「誰でも参加できること」「楽しめる状態をつくりたい」という思いの方が大きかったです。なので「これは新しい選択肢なんだ」と捉えることにしました。

今村:文化を守るために、形を変えるという決断。お茶だけでなく、地域のお祭りや行事、様々な物事にも大切な考え方ですね。

学びは「人と関わることで更新される」

岩本さん(高校生)の話にうなずくカタリバ今村

今村:今回のプロジェクトで印象的だったのは、地域の大人たちとの関係性です。「まるで抹茶」を一緒に開発したお茶屋さんをはじめ、いわゆる教育が専門ではない人たちが関わっていますよね

岩本:最初はすごく緊張しましたが、自分の思いを伝えたら「面白いね」と言って協力してくださる方が増えていきました。

今村:そのプロセス自体が学びですよね。一人で考えていたものが、共感や応援されるものになり、人との対話の中で変わっていったり、ブラッシュアップされていく。教育って「教える側」と「教えられる側」に分かれがちですが、このプロジェクトではその境界がなくなっていますね。お互いに学び合いながらやっている感じがします。

岩本:そうですね。アドバイスをいただいて私も学んでいましたし「そんな発想はなかった」と言っていただいたりして、お互いに学んでいた関係だったと思います。「まるで抹茶」を起点に色んな地域の大人が関わってくれました。

今村:どうしてそんなに沢山の大人が関わってくれたのだと思いますか?

岩本:皆さんに直接聞いたことはなかったですが、私は自分の思いを伝えることを意識していました。その思いに共感してくれて「応援するよ」と言ってもらえました。

これからの学びは「個人の違和感と問い、誰と、どのように学ぶか」

対談を終えたお二人の写真―「まるで抹茶」パウダーとお菓子とともに

岩本:私にとって最大の学びは、自分の小さな悩みでも、社会を変えるきっかけになるかもしれないと感じたことです。最初は本当に自分の悩みでした。でも、それを話していく中で、共感してくれる人がいて、形になっていきました。

今村:違和感を言語化し、人に伝え、共感を得て、形にしていく。その一連のプロセスは、AIでは代替できない部分ですよね。

岩本:そう思います。自分一人ではここまで考えられなかったと思います。

今村:子どもたちの「いま」の中には、すでにその兆しがある。それをどう広げていくのかが、これからの大人の役割なのかもしれませんね。

これからの学びは「正解にたどり着くこと」ではなくて、個人の違和感を問い、問いを持ち続けて、更新し続けるプロセスそのものなんだと思いました。岩本さんの取り組みを見ていると、それは一人ではなく、人と関わる中で生まれていくものだと感じます。

AIによって答えにたどり着くことが容易になったからこそ「誰と、どのように学ぶのか」がより重要になっていく。そう考えると、教育は学校の中だけで完結するものではなく、地域や社会の中で、さまざまな人と関わることで深まっていくのだと、岩本さんのお話を伺って改めて感じました。

今日はありがとうございました。

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