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「コロナ禍の不安に寄り添い、新しい風を送り込みたい」不登校支援に取り組むおんせんキャンパスの挑戦

vol.151Report

date

category #活動レポート

writer 長濱 彩

子どもだけでなく
保護者へのサポートが必要

先の緊急事態宣言解除に伴い、全国で学校再開や分散での登校が始まった。子どもや保護者を取り巻く環境もまた大きく動き始めた。カタリバの拠点がある島根県雲南市でも、5月18日から学校が再開。市内の校舎には子どもたちの明るい声が戻ってきた。その一方で、コロナ禍以前から「不登校」だった子どもたちの多くは学校が再開しても引き続き学校に行っていない。この休校や外出自粛は不登校の子どもたちやその保護者にどのような影響を与え、またその状況にカタリバはどのように寄り添ってきたのだろうか。

「学校が休校になって、正直ほっとしている」と漏らしたのは、カタリバが2015年から運営している雲南市の不登校の子どもたちを支援する「おんせんキャンパス」に通う子どもの一人だ。「自分だけ学校に行っていない」という心理的圧迫から一時的に解放され、出た一言かもしれない。

おんせんキャンパスは廃校となった小学校を活用し、学校に行きにくい子どもたちが集い、安心できる環境の中で学習したり体験活動をしたりしながら自信をつけ、学校復帰に向けてステップアップしていけるような支援を行っている。コロナウィルスの影響でそのキャンパスにすら集まれなくなってからは、オンラインでの学習支援や体験活動に切り替えた支援を行っている。

オンラインで行われる朝の会にはいつもより多くの子どもが参加するようになり、子どもたちにとっては外に出ることよりオンラインの方がハードルが低いことが伺える。おんせんキャンパスのスタッフ、石飛は子どもたちの様子をこう語る。

石飛:「おんせんキャンパスは市街地から車で30分くらい離れた山奥にあるので、子どもたちはまず朝起きておんせんに行くというハードルを超えなければなりませんでした。でもオンラインでの支援が始まってからは色々参加するのは億劫だけど、朝の会だけなら参加できるという子が顔を出すように。対面で会うことのよさももちろんありますが、オンラインだから可能になったこともあるかなと思います」

おんせんキャンパススタッフ 石飛紫明 東京都出身。結婚と同時に島根県に移住し、長男の進学を機に雲南市教育委員会職員として地元小学校に勤務。2015年にNPOカタリバに転職、おんせんキャンパスの立ち上げから携わり、雲南市のキャリア教育事業を経て現在不登校支援に至る。3人の子育ての経験を生かし、子どもたちや保護者のサポートを行っている。

石飛:「もともと学校に行っていない子達にとっては”休校”の影響はそんなにないのかな‥と思いきや、『学校が休校になってほっとしている』という子どもの率直な心境を聞くと、やはり普段から自分だけ学校に行っていないとか出席日数に対する不安があるんだろうなと思いました。でもほっとしている子どもたちの一方で、保護者さんたちは仕事や生活に変化があり、今まで以上に不安を抱えているだろうなぁと想像しました。これまでもほぼ毎日行っていた電話やメール連絡の中で、感染のリスク回避のため職場への勤務日数が減った、収入が減った、幼い妹や弟も自宅での生活となりきょうだい同士の喧嘩が増え仲裁に疲れた、でも息抜きするための外出もしにくいなど、今までよりも家庭内のトラブルが増えたという声が聞こえてきました」

保護者の「いつもと違う日常」への不安を少しでも解消し、子どもへのサポートにつなげたいと考えたおんせんキャンパスのスタッフは、このコロナ禍でも保護者とのつながりを保ち、不安に寄り添う方法を検討した。

オンライン保護者会で見えた可能性

おんせんキャンパスで保護者支援を担当する石飛は、自身も思春期まっさかりの子どもを育てる保護者の一人だ。そんな当事者の立場から、おんせんキャンパスに通う子どもたちだけでなく、保護者の日常にも伴走している。

石飛:「コロナ禍以前のおんせんキャンパスでは、保護者のみなさんが安心して困りごとや心配なことを吐き出し、心持ちが楽になれるような『保護者会』を月に1度開催していました。普段は電話やメール、個人面談を通して保護者さんやお子さんの様子をキャッチしていますが、保護者会では子どものことだけでなく、保護者さん自身の話が出てくるのでいつもとは違う視点で話ができたりもします。保護者さん同士のつながりは回を重ねるごとに少しずつ強くなっていき、今では卒業生の保護者さんが小中学生の子どもをもつ保護者さんに経験談を話したりアドバイスしたりして支えてくれています」

コロナ禍以前に行っていた対面の保護者会の様子

おんせんキャンパスの保護者会は子どもの状況や学年を問わず、おんせんキャンパスで関わりがある保護者と、雲南市内で子育てに困っている保護者の方が対象。参加した保護者からは、「悩んでいるのは自分だけじゃなかった」「先輩保護者の体験談を聞いて勇気をもらった」「月1回、集まれる場所があって嬉しい」という感想が寄せられている。子どもが学校に行かなくなったことで感じる孤立感や、子どもに対しどう接していいかわからないと不安になっている保護者にとって保護者会は大切な機会だ。

しかし、この保護者会も緊急事態宣言の全国拡大を受け、リアルの場での開催が難しくなった。4月、新年度最初の保護者会ということもあり、例年であれば多くの保護者への出席を促す月。ひとまず、開催日の1週間前にオンラインで実施した場合の参加希望者を募り、急ピッチで準備を進めた。

石飛:「最初は誰も参加しないだろうと思っていました。パソコンやオンラインへの抵抗って子どもたちより保護者さんの方が持っている感覚はありましたし、自宅からの参加では、当事者である子どもたちも同じ空間にいる可能性は高く、気を使って話せないこともあるよな・・と。まぁでもダメ元で誘ってみました。そうしたら、今までリアルの保護者会に参加したことのない保護者さんから即座に反応が返ってきたんです」

石飛:シングルマザーで家計を支えているお母さんなどは、お忙しいことや子どもを自宅に残して自分だけ外出することに引け目を感じていて、リアルの場に参加しにくい方もいらっしゃいます。でも、オンラインなら自宅から参加できる、と連絡をくださいました

結局、参加した保護者は5名だったが、普段参加できない層の保護者にアプローチできたという収穫があった。主催した石飛は実際に運営してみて、リアルの保護者会にはないメリットがいくつか見えたと言う。

石飛:「どこからでも参加できるのはやっぱりいいですよね。おんせんキャンパスは山の中にあるので、みなさんの家もあちこち遠くて。ここに来るために往復1時間かかるという保護者さんが多いので、忙しい保護者さんにとっては時間の節約になりますよね。さらに、それぞれご自身のリラックスできるところから参加していたのも良かったです。散歩しながらだったり、車の中からだったり、子どもがいる隣で自宅から参加していた方もいました。それからオンラインの画面にみなさん平等に顔が映るから距離感が同じで、入りづらいという雰囲気もなくって。これならお父さん達も抵抗少なく参加できるのではないかと思いました」

実際に参加した保護者からは、先行きの見えないコロナ禍の不安も聞かれた。つい、話題がネガティブな方向に行きがちだが、明るい話題で盛り上がることもあり、参加者のアンケートからはまた参加したいという声も。

初の試みだったオンライン保護者会を終えた石飛は、この全国一斉休校を機に「子どもが家にいる」という状況をどの保護者も体験した価値は大きいのではないかと言う。

石飛:「今まで学校に行っていた子どもの保護者も、急に子どもが学校に行かなくなるという状況になり、例えば、『お昼ごはんどうしよう』とか『この子何時まで寝てるのかしら』とか『1日何やってるのかしら』、『こんな生活でいいのかしら』という不登校の子たちの保護者さんたちが当初感じていたことと似たようなことを感じる機会になっているのではないかと思います。学校に行かない理由は根本的には違うかもしれないけど、『子どもが家にいる』という状況が保護者にとってどれだけしんどいか、ということをいろんな人が感じることになって、もしかしたら学校に行きにくい子どもの保護者さんの気持ちに近いものを感じるようになっているかなと感じています」

オンラインとオフラインの
ミックス保護者会開催

オンライン保護者会の新たな可能性を感じたスタッフは、5月の保護者会の検討に入った。島根県の緊急事態宣言は解除されていたことから、保護者へのアンケートをとったところ、やはりリアルの場で会って話がしたいという希望が多数だった。そこで、三密を避け感染予防の対策を施しながらオフラインの場を開催することにした。一方で、オンライン参加希望も数名あったことから、オンラインとオフラインを掛け合わせた新しい形の保護者会に挑戦したのだ。

おんせんキャンパスに集まった保護者の中で、オンライン参加OKの保護者にはタブレットを一人一台配布。話すときはタブレットに向かって話してもらう。こうすることで、オンラインで参加している少数派が取り残されているような感覚を取り除くことができる。

緊急事態宣言解除後の5月23日に開催したオンラインとオフラインどちらでも参加できる保護者会

さらに、「どこからでも参加できる」オンラインの利点を活かし、東京で勤務するカタリバスタッフも保護者会に招いた。このスタッフも、中学生の子どもをもち、子育てで悩みを持っている保護者だ。自身の経験談を織り交ぜつつ、参加した保護者への質問やアドバイスなどを行った。今回の取り組みに挑戦した石飛は、こう語る。

石飛:「今回のような、オンラインでいわゆる外の人、雲南市の外の人とつながって話を聞くことって、保護者さんたちにとってあるようで意外とない経験だと思うんです。でもこういう機会をたくさん作れれば、雲南市に住む保護者さんたちの価値観に変化を起こしていけるんじゃないかと思っているんです」

石飛:「私自身、雲南市で3人の子育てをして、特に第一子の進学のときすごく戸惑ったことがあって。雲南市の子どもたちのほとんどが市内に3校しかない公立高校から進学先を選びます。でも、その選択肢から一体何を基準に選べばいいんだろう。志望校どこですか?なぜそこを選んだのですか?って聞かれても、学校の情報も大してないし、選びようがないんですよね。

でも本当は、探せれば隠岐島前高校とかN高とか通信制の高校とか選択肢はたくさんあるんです。今の保護者さんたちは、狭い選択肢の中で、本当に苦労していて。いい高校なのに偏見があったり。学校行っていなかったというだけでも大変なのに、そのなくてよい偏見や周りの目に縛られている。全日制の学校に行くのが『普通』という価値観を変えられたらいいなと思います」

学校に行かない選択をしている子どもをもつ保護者が外とつながることで、価値観が変わっていくための新しい風を送り込みたい、と石飛は目標を語る。

現状は、オンライン保護者会の参加希望はまだ多いとは言えない。ICT機器を利用することや画面に顔が映ることなどへの抵抗を持つ保護者は一定数いる。「まずは小規模なオンライン懇親会やオンラインお茶会などから緩和していけたら」と石飛は言う。実際、5月の保護者会でタブレットをつかってみたのは、保護者のオンラインへの抵抗を緩和させるいい機会になるのではという期待もあった。

今後、おんせんキャンパスの保護者会は、希望によりオンラインとオフラインのそれぞれのよさを活かしながら使い分けていく。そこには、今までは参加することが難しかった保護者と関われる可能性と、新たな価値観を生み出せる可能性が隠れているからだ。

コロナ禍により社会のオンライン化は加速した。オンラインとオフラインの両輪を回しながら、地方、過疎、不登校など地域や社会が抱える課題に新たな風を送り込んでいくことができるか。おんせんキャンパスの挑戦はこれからも続く。

Writer

長濱 彩 編集担当

1988年生まれ。神奈川県横浜市出身。横浜国立大学卒業後、JICA青年海外協力隊でベナン共和国に赴任。理数科教師として2年間活動。帰国後、2014年4月カタリバに就職。岩手県大槌町のコラボ・スクールで数学を担当。小学部、適応指導教室の立ち上げにも携わる。第一子出産を機に島根県雲南市のおんせんキャンパスへ異動。不登校支援を行う。第二子出産と夫の転職を機に、沖縄県那覇市へ移住。2019年5月~復職し、在宅でカタリバmagazineの編集を行う。

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