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白井智子氏×今村久美 対談企画 「子どもたちの不登校という社会課題にどう向き合っていくべきか?」

vol.194Report

date

category #活動レポート

writer 編集部

不登校の子どもの数は年々増加しており、令和元年には不登校の小学生・中学生が18万人と過去最多となりました。

カタリバでは、学校に通うことに困難を抱えている子どもたちに、安心できる居場所と様々な学びの機会を届け、自信と将来の希望につなげたいという想いから、2015年6月より、島根県雲南市の教育支援センターである「おんせんキャンパス」で、不登校支援に取り組んでいます。「おんせんキャンパス」は、国内でも新しい公設民営型の施設です。

拡大していくこの課題に、私たちはどう向き合っていけばよいのでしょう?

進学やクラス替えなど、環境の変化から間もない5月は、1年の中でも不登校が増えやすい時期とも言われていますが、そんな5月の初旬、フリースクールの立ち上げや法整備など、様々な立場から不登校支援に携わってこられた白井智子さんと、カタリバ代表の今村久美の対談が行われました。不登校の子どもたちを取り巻く環境の「今」を見つめるとともに、今後わたしたちは不登校という社会課題にどう向き合っていくべきか、当事者ならではの視点で、ざっくばらんに語っていただきました。本レポートではその様子をお伝えします。

白井智子 氏/NPO法人新公益連盟代表理事
東京大学法学部卒。大学卒業後、松下政経塾に入塾し、国内外の教育現場を調査。1999年に沖縄のフリースクールの立ち上げに参加し、校長をつとめる。その後、大阪に移住し、大阪府池田市と不登校の子どものための日本初の公設民営フリースクール「スマイルファクトリー」を設立する。東日本大震災後、福島県南相馬市で「みなみそうまラーニングセンター」「はらまちにこにこ保育園」等を設立。2020年2月から約100団体ほどの社会的企業やNPO団体等が加盟する新公益連盟の代表理事に就任。ハタチ基金代表理事。Next Commons Lab Sustainable Innovation Lab共同代表。一般社団法人PFI開発支援機構理事。内閣府休眠預金等活用審議会専門委員。文部科学省フリースクール等検討会議委員。
 

今村久美/NPOカタリバ代表理事
慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供、2020年には、経済的事情を抱える家庭にPCとWi-Fiを無償貸与し学習支援を行う「キッカケプログラム」を開始するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。慶應義塾大学総合政策学部特別非常勤教授。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員。教育再生実行会議初等中等教育ワーキング・グループ有識者。

どの状況にある子どもたちも、
自分に必要な学びが得られるように

今村:白井さんと出会ったのは、カタリバを立ち上げた2001年でした。当時は創業したばかりだったので、いろんなNPOが入る集合オフィスの、他の団体が借りている部屋で作業していて。そこで見かけた新聞に、沖縄にすごいフリースクールがあると書いてあり、その校長が白井さんでした。そこでお名前をお見かけしたのが最初です。

白井:もともとは政策をつくる側になりたいと思って入った松下政経塾が、とにかく現場に入り込むことが大事という現地現場主義の指導方針で、国内外で100校以上の学校を回りました。

当時は、政策が子どもたちのもとに届くまでに、すごく時間がかかる時代だったんです。それに、「不登校の子どもたちはいない」ということになっていた時代でもありました。政策を変えたとしても、いま目の前で、青い顔をして「学校に行きたくない」と言っている子どもたちを救えないのは自明だったんです。

それで、政策をつくる前に現場をつくりたいと思うようになりました。そのとき、沖縄で学校をつくろうとしていると聞いて沖縄に向かい、1999年にフリースクールを開校したという流れがあります。

今村:もともとカタリバは「不登校」のような、特定の領域の子どもたちを対象にした事業を行う団体ではありませんでした。学校現場に出向いてキャリア学習プログラムを提供していくところから始まった団体だったので。

でも私は、特定の領域の子どもたちへのアプローチと、すべての子どもたちへのアプローチは地続きだと感じていて。それで、不登校などの境遇にある子どもたちへの支援も行うようになりました。

白井:私も地続きだと感じています。それに、こぼれ落ちてきた子どもたちにアプローチするだけでは、間に合わないフェーズに来ている感覚があるんですよね。不登校になっている子どもたちが全国に20万人近くもいるので。

不登校の子どもたちに光を当てた、集中的なアプローチが必要な時代もあったけれど、今は不登校とそうではない子の垣根があいまいになっています。地続きという考えのもと、不登校のような特定の領域の子どもたちにも、公教育の場で学ぶ多くの子どもたちにも、両方に対してアプローチを行っていくことが必要だと思っています。これからの時代は、「どんな環境にある子どもたちも、自分に必要な学びの機会が得られる」ということがテーマだと思います。

すべての子どもたちへ教育の機会をつくっていくために、
教育機会確保法が成立

今村:沖縄のフリースクール立ち上げのあと、大阪でフリースクールを設立されましたね。公設民営型は日本初で、画期的なものだったと思います。

白井:大阪府の池田市長と出会ったことがきっかけとなり、2003年に池田市で公設民営型のフリースクール「スマイルファクトリー」を始めました。昨年度までは校長として、子どもたちと関わってきました。

今村:行政が設置する教育支援センター以外で、法的に不登校の子どもたちを出席扱いにしたのは全国的に珍しかったのではないですか。

白井:そうだと思います。それに、池田市に住んでいる子どもたちは無料で「スマイルファクトリー」に通うことができます。家庭の経済状況などにかかわらず、とにかく来たいと思った子どもたちが通える場所にしたかったんです。あとは、不登校の子どもたちにとって、「教育機会確保法」ができたことが転機になったと感じています。

今村:教育機会確保法は2017年にできた法律ですよね。それまでは、子どもたちが学校に行くべきという前提があり、いま学校に通えていない子どもたちも学校に戻り登校するべきだという考えがありました。

でも、教育機会確保法はそのように考えるのではなく、不登校になっている子どもたちが別の場所で学んでいる実態の方に寄り添うことを基軸とした法律です。白井さんはこの法律の制定に関わられたのですよね。

白井:そうです。

今村:無意識に植え付けられていた「学校に行かなくてはならない」という呪縛。この呪縛から子どもたちを解放して、子どもたちに教育の機会をつくっていこうとしているのが教育機会確保法なのだと思います。

学校に行かなくてはいけない義務ではなく、
子どもたちは教育を受ける権利を持っている

白井:この呪縛が生まれてしまったのは、世の中が就学義務を勘違いしてしまったからだと思うんですよね。つまり、「子どもたちは学校に行く“義務”がある」という思い違いです。

今村:就学義務は憲法26条に定められています。どこがポイントなのでしょうか。

白井:「権利」と「義務」が勘違いされてしまったんです。

今村:「教育を受けさせる機会を子どもに与える」という義務を親が負っているのであって、子どもが学校に行かなくてはならない義務があるわけではない。子どもは権利を持っているということですよね。子どもの権利の話と、親が負っている義務の話は別だと。

白井:そうです。教育機会確保法が学校現場に浸透し切っていない現実はありますが、これがスタンダードになったことの意味はすごく大きかったと思っています。

今村:子どもは義務ではなく学ぶ権利を持っていることを明らかにしたところが、この法律の重要な役割だったということですよね。

白井:それまでは学校に行くのが当たり前という考えがありました。学校に行けなくなった原因や、その子にとってどのような教育が適切かという議論よりも先に、「学校に行くべきだ」という話になってしまう。当事者である子どももその保護者も、本来悩まなくて良いはずのことを考えなければならない状況になってしまっていたと思います。

でも、教育機会確保法がその呪縛を解放しました。教育の法律で初めて、学校を休むことが必要な子どもたちがいると示したんです。

今村:フリースクールが居場所だと、公の立場として認めたということですよね。

白井:この法律ができたことで、子どもたちが学校に行けないことがダメなのではなく、国がいろんな子どもたちに対して、適切な教育を供給できていないと認めたところも大きかったです。

自分にあった場所を国が整備しきれていないだけで、学校に行けないことは子どもたちのせいではない。そのことをはっきりさせたことで、子どもたちが解放されたと感じました。

島根県雲南市だけで、
カタリバの不登校支援を終わらせたくない

今村:カタリバでは2015年6月より島根県雲南市の教育支援センターである「おんせんキャンパス」で不登校支援に取り組んでおり、国内でも新しい公設民営型の施設を運営しています。雲南市は島根県の中でも、不登校の子どもたちの数が多く、年間約100人の子どもたちが学校に行きづらい状況にあります。

今日この場に、おんせんキャンパスの事業責任者の池田がオンライン参加しています。池田さん、少し取り組みを説明してもらますか?

池田:ありがとうございます。簡単に説明しますね。

雲南市で行っている活動は主に4つあります。一つ目は、おんせんキャンパス事業です。おんせんキャンパスという教育支援センターの施設で、子どもたちの受け入れを行っています。学習支援や、地域環境を活かした体験活動、オンライン学習などに取り組んでいます。

二つ目は、アウトリーチ事業です。自宅や学校に訪問し、学校に来れていなかったり別室登校をしていたりする子どもたちへの支援を実施しています。

三つ目は、家族サポート事業です。保護者の方やご家族が安心して話ができる場や子育てを考える機会を提供しています。保護者会を毎月開催したり、地域の社会福祉協議会の方やお医者さんなどに来ていただいて、保護者向けの講演会やワークショップを行っています。

四つ目は、ユースサポート事業です。中学校卒業後、高校を中退したり通信制高校に通っていたりする子どもたちの居場所をつくり、学習支援などを行っています。

今村:説明ありがとうございます。2015年からおんせんキャンパスでの活動をしていますが、「雲南市にいる不登校の子どもたちは良かった」ということで、不登校支援を終わらせたくないと思っています。

どんな地方で生まれた子どもたちも学校に行けなくなったときに、学びを選べるように。それだけではなく、経済的な事情に関係なく、すべての子どもたちが学ぶ環境を選べるようにしていきたいです。

公の立場からすべての子どもたちに、
教育の機会をどう保障していくか

白井:あらゆる子どもたちに対して、必要な教育を提供する義務が国にはあります。これからの時代を生き抜いていくために必要な教育を、国が公の立場として提供できていないという課題が、不登校の子どもたちを取り巻く状況につながっていると思います。

今村:公教育以外の学びの場として、有料のフリースクールやオルタナティブスクールには大きな意義があります。ただ、そこでは入学にあたって子どもをセレクションしているのも事実です。希望者が多い中、キャパシティの関係で、そうせざるを得ない状況もあります。

同じ不登校の子どもを受け入れる場であっても、すべての子どもを断らず受け入れている場と、セレクションによって成り立っている場は、抱える課題も全く違うと思います。後者が選択肢の1つとして増えていくことはいいことですが、前者の場も求められています。

ご家庭により経済的な事情も異なりますが、行ける場所を見つけられなかった子どもたちは、学校に戻るという選択肢しかない。またフリースクールに通っていても、その子どもは学校では不登校扱いになります。教育支援センター在籍というように籍を移すことができたら良いのではないかと思っています。

白井:同感です。

今村:私たちも教育支援センターであるおんせんキャンパスでの取り組みを通して見えてきたことを活かして、今後どういうことができるかを考えています。不登校の子どもたちが適切な学びにつながれていないケースがたくさんある状況を変えていくために、全国の教育支援センターをサポートする「オンラインフリースクール」のサービスを検討しているところです。

有料のフリースクールやオルタナティブスクールも増えてきていますが、カタリバとしては、お金の払える人の解決策ではなく、どうすれば公助を強化していけるかという立場で考えていきたいと思っています。すべての子どもたちが学ぶ環境を選べるように、活動を続けていきたいと思います。

今日は白井さんの体験が聞けてよかったです。ぜひ白井さんにも力になっていただけるとありがたいです。

白井:もちろん喜んで。今村さんがぶつかっている課題感は、私もぶつかってきたものです。オンラインの活用にも関心があります。すべての子どもたちを支えられるよう、頑張っていきたいですね。

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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