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KATARIBA マガジン

25年先の高齢化社会を迎えている雲南市で、地元高校生が始めた出雲神楽活性化プロジェクト

vol.205Report

date

category #活動レポート

writer 編集部

日本の25年先の高齢化社会を迎えていると言われる島根県雲南市。課題先進地とも言われている雲南市は、子ども・若者・大人が連携してまちづくりを行う持続可能な課題“解決”先進地を目指し、人材の育成に力を入れています。

カタリバは2015年4月より「子どもチャレンジ」施策の推進をサポートするため、雲南市で活動を開始。高校や行政と連携しながら、「総合的な探究の時間」におけるカリキュラム作成や授業実施を行い、教育魅力化の取り組みを進めています。また、高校生自身が取り組みたいプロジェクト(マイプロジェクト)を見つけ、地域の中で活動していく過程を、雲南市教育委員会とともにサポートしています。

2015年に雲南市に移住して若者の人材育成に関わってきたカタリバ職員・鈴木隆太と、伝統芸能である出雲神楽の後継者不足に課題意識を持ち、高校3年間でマイプロジェクトを進めてきた小田瑞貴さんにインタビューしました。2人の話から、日本中の地方が抱える課題へのヒントを紐解いていきたいと思います。

急激な人口減少が起こっている
雲南市で始まった、
2つの地域魅力化プロジェクト

ーー雲南市では町の未来を担っていく「人づくり」に力を入れていると聞きました。雲南市の抱える課題や状況を教えてください。

鈴木:雲南市は、2004年に6つの町村が合併してできた市です。日本中の多くの自治体が抱えている課題ですが、雲南市では急激な人口減少が起こっています。現在の人口は約36,000人ですが、毎年約500人ずつ人が減っている。そのような状況下では、これまで税収を担保しながら行なってきたまちづくりが立ち行かなくなってしまいます。

人口が減っていっても、豊かな暮らしはどう実現できるのか。それに真正面から取り組み、幸福度が日本一の町を目指しているのが雲南市です。

まちづくり戦略の一丁目一番地に「人づくり」を掲げ、子どもは18歳まで、若者は大学生から30代前半まで、大人はそれ以降の年代の方々を対象に、各世代の人材育成に注力しています。

ーーカタリバが雲南市で行っている活動はどのようなものですか。

鈴木:「この町を担っていく人をどう育んでいけるか」に課題意識を持ちながら、現在は主に二つのことに取り組んでいます。一つ目は、市内の高等学校での「総合的な探究の時間」におけるカリキュラム作成や授業実施を通して、雲南市の教育を魅力化していく活動です。

二つ目は、雲南市が行う「雲南スペシャルチャレンジ制度」を活用した社会教育プログラムを提供し、高校生のPBL(プロジェクトベースドラーニング)をサポートする活動です。「雲南スペシャルチャレンジ制度」とは、雲南市を舞台にチャレンジしようとする人に、ふるさと納税を通して集まった資金を助成し、応援する雲南市独自の取り組みです。

現在カタリバは、雲南市教育委員会とともに「スペシャルチャレンジJr.プログラム」という形で社会教育プログラムを運営し、瑞貴のように思いを持っている高校生が、町の担い手として自分なりの関わり方を見つけていく過程に関わっています。

僕たちは日々、行政・学校・地域・生徒と様々な立場の方々と関わっています。雲南市が直面している課題は、誰かひとりの頑張りだけで解決できるようなものではありません。

それぞれが繋がり合いながら同じ未来を目指していけるように、僕たちは各ステークホルダーにどう関わっていってもらえるといいか考えながら仕事をしています。さまざまな立場の人たちがいるなかで、僕たちはそこに横串を通すような役割ですね。

「好きな神楽がなくなるのは
嫌だ」出雲神楽を活性化する
ために立ち上がった1人の高校生

ーー カタリバと、瑞貴さんとの出会いはどんな形だったのですか。

鈴木:「スペシャルチャレンジJr.プログラム」では、対面によるイベントとPCを活用したオンラインサポートによって、地方だからこそできる学びと、地方でも繋がれる最先端の学びを掛け合わせた、リアルとオンラインのハイブリッド型プログラムを提供しています。そこで僕らも高校生と関わり、町の中でプロジェクトを実践していけるようにサポートしています。

瑞貴と出会ったのは、2015年頃、まだ瑞貴が中学生のとき。カタリバは雲南市で活動を開始したばかりで、まずは学校以外の時間で月に一度、中学生や高校生を対象にワークショップを行ってみることからカタリバの活動が始まりました。そのワークショップに瑞貴のお姉さんの千尋が参加してくれていて、当時中学生だった瑞貴も一緒に来てくれていたんですよね。

2017年度から、雲南市教育委員会とカタリバと高校が一緒になって作成した「総合的な探究の時間」のカリキュラムが高校で実施されることになったのですが、瑞貴が高校に入学したのがちょうどそのときでした。瑞貴は高校3年間を通して、出雲神楽の後継者不足という課題をテーマに、自分自身ができることを模索していきました。

学校内の授業だけではなく、休日や放課後に行われる社会教育プログラムにもほとんど毎月瑞貴は参加していました。うまくいかないことも含めて相談してくれて、地域の中で実際にどうプロジェクトを進めていくかを一緒に試行錯誤しながら考えて動いていきました。

ーー瑞貴さんが、地域の伝統芸能である出雲神楽をテーマにしたきっかけを教えてください。

小田:神楽をテーマに選んだのは、このプロジェクトを通して「地域を元気にしたい」「神楽を活性化したい」という思いがあったからです。

子どもの頃、神楽を見たとき「神楽ってすごく面白い」と感じました。その気持ちはずっと変わらずにあるのですが、雲南市で生まれ育つ中で、地元の神楽団体の方々が「自分たちの世代で神楽は終わりだ」と話している様子を見て。

そのとき、「好きな神楽がなくなるのは嫌だ。出雲神楽を残していきたい」と感じました。自分が積極的に活動することで、少しでも神楽を活性化させることができればと思い、出雲神楽をテーマに活動を始めることを決めました。

「自分たちの世代で神楽は
終わりだ」と言っていた
神楽団体の人たちにも変化が

ーー子どもの頃から好きだった出雲神楽を活性化させたいという思いが、プロジェクトの背景にあったのですね。具体的に瑞貴さんがプロジェクトの中で取り組まれたことについて教えてください。

小田:プロジェクトを始める前は、どうやって神楽を広げていったら良いのか全くわからなくて。神楽を舞うこと自体の経験もなかったんです。「そもそも自分に神楽が舞えるのか」という気持ちもありました。

そんな中で、高校1年生のときに探究学習の中で出会った地域の方々が、雲南市の取り組みなどを紹介してくださり、活動を広げていくことができました。

例えば、雲南市文化協会の方々や仲間たちと、就学前の子どもたちに神楽を上演したり、子どもたちが実際に神楽の道具に触れることのできる体験プログラムを企画したりしました。

「初めて神楽の道具に触った」など、子どもたちが感じたことを伝えてくれて、とても嬉しかったです。自分が子どもの頃にはできなかった経験を子どもたちに提供できたことに大きな喜びを感じました。

また、神話のデジタル紙芝居を使って活動されている方と保育所に出向き、子どもたちに神楽の話を教えながら、そのシーンを演じたこともあります。

さらに、岡山県の備中神楽さんとコラボ共演も実施しました。出雲神楽チームは高校生や大学生で若手チームをつくって参加し、忘れられない日になりました。また、高校の文化祭でも神楽を上演してきました。

ーー様々な立場の方々と関わり、プロジェクトを進めてこられたのですね。印象に残っていることはありますか。

小田:一番印象的だったのが、地元の神楽団体の方々の様子がどんどん変わっていったことです。活動前は、「自分たちの世代で神楽は終わりだ」などと神楽を継承していくことに悲観的な声が聞かれていましたが、活動を進める中で、神楽団体の方々の熱が再び灯ったことを肌で感じることができたことが印象的でしたね。ぼく自身もみなさんから愛のあるお叱りを受けたり、「もっと頑張ろう」という声をかけてもらったりしました。

後継者育成という人材面だけでは
なく、経済面の活性化も目指す

ーー瑞貴さんは2年連続で、カタリバが主催する全国高校生の探究活動発表の祭典「全国高校生マイプロジェクトアワード」の全国サミットに出場されました。ご自身のプロジェクトを発信する中で感じたことはありますか。

小田:島根県内だけではなく、全国の方々に出雲神楽を知ってもらいたいという想いがありました。全国サミットで仲良くなった全国各地の友だちが「出雲神楽の写真見せて」「学校の授業でこんな神様について習ったことがあるよ」などと声をかけてくれて。発表の場以外でも出雲神楽に触れてもらえたことが嬉しかったです。

ーープロジェクトを振り返って、難しかった点や自分自身の変化を感じる部分はありましたか。

小田:「昔から伝えられてきた出雲神楽の型をそのまま継承しなくてはならない」という使命感と、「神楽を活性化させるために新しい神楽を打ち出したい」というところにジレンマを感じました。これまで神楽を継承されてきたベテランの方々の想いを引継ぎ、型を変えずに出雲神楽を打ち出していくことは難しかったです。

でも、最初はどのように神楽を広めていけばいいか想像もできませんでしたが、活動を進める中で「これからもっと出雲神楽を広げていけるのではないか」と自信がつきました。

ーー現在は高校時代のプロジェクトがきっかけとなって、大学の地域マネジメント学部で学ばれていると聞きました。将来はどんなことをやってみたいと考えていますか?

小田:神楽を後継者育成などといった人材面だけではなく、経済面でも活性化させるため、将来は神楽のグッズなどを扱うブランド会社を設立したいです。現在大学では、経営や商業について学んでいます。神楽について直接研究しているわけではありませんが、今後神楽を広げていくための方法をつかんでいきたいです。

また、神楽には、僕の地元の出雲神楽だけでなく、様々な流派があります。それらの神楽とともに出雲神楽を活性化させていきたいという思いがあります。出雲大社のある島根県では10月を神無月ではなく「神在月」と呼んでいます。そこからヒントを得て、全国の神楽団体を島根に集め、フェスのようなイベントを開催してみたいです。また、海外の方にも関心を持ってもらえるよう英語神楽にも挑戦中で、脚本づくりから取り組んでいます。

高校生のアクションで、
大人が本気になり
「日本一幸福度が高い町」に
つながる

ーープロジェクト前から瑞貴さんを知っている隆太さんは、瑞貴さんの活動をどのように見守っていましたか。

鈴木:瑞貴が活動することで、人を想う瑞貴の優しさにいろんな人が惹きつけられ、元気づけられる人がどんどん増えていきました。瑞貴のようなロールモデルが、雲南市でもっと生まれていってほしいです。地域の方々に応援されながら、高校生がアクションを起こしてく。そんな営みをどんどん増やしていくべきだと思っています。

ーー瑞貴さんのように高校生が地域でアクションを起こしていくことには、どのようなインパクトがあるのでしょうか。

鈴木:例え小さなアクションであっても、高校生がアクションをすることで、地域は本当に変わっていきます。“社会は小さな一歩から着実に変わっていく”ということを雲南での7年間の仕事で学ばせてもらっています。高校生の行動で、大人が本気になり、「何か手伝うよ」という声や循環が生まれていく。本気の大人の支援と、本気の高校生のアクションが循環することによって、最終的に日本一幸福度が高い町の実現へつながっていくのではないかと考えています。

地域の中でのアクションを通して、大人は高校生が関わってくれていることに「ありがとう」という気持ちになりますし、高校生も「誰かの役に立てた」と感じることができます。地域が活性化するだけではなく、高校生自身の自信や自己有用感、自己効力感が育まれるような機会が町中にあったらいいなと思っています。

そんな大人と高校生の思いやりが連鎖していく流れを、学校内外の教育環境の中でつくっていきたいです。これはカタリバだけでなく、雲南市や、雲南市で働く先生方の想いでもあります。これからも活動を続ける中で、カタリバがそんな教育環境をつくっていく一助となれたら嬉しいです。

持続可能な、
課題“解決”先進地を目指して

人材育成の観点から「高齢化」の課題に取り組む、島根県雲南市。雲南市が直面する課題は、日本中の地域が抱える課題でもあります。

自分の中から湧き出た思いをきっかけに、高校生がアクションを起こし、地域住民を巻き込みながら、地域課題解決の担い手となっていく。全国の高校生が地域の課題解決に向けてアクションを起こしていくことは、日本の未来を大きく変えていくはずです。

課題先進地であることを逆手に取り、持続可能な課題“解決”先進地を目指す。

今後もカタリバは行政や高校と連携しながら、雲南市で教育魅力化や高校生のチャレンジのサポートに取り組んでいきます。

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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