CLOSE

認定NPO法人カタリバ (認定特定非営利活動法人カタリバ)

〒166-0003 東京都杉並区高円寺南3-66-3
高円寺コモンズ2F

お問い合わせ

※「KATARIBA」は 認定NPO法人カタリバの登録商標です(登録5293617)

Copyright © KATARIBA All Rights Reserved.

KATARIBA マガジン

<イベントレポート>校則を変える。同じ志を持つ全国の生徒がオンラインで意見交換「カタリバ校則見直しプロジェクト・2021夏」

vol.206Report

date

category #活動レポート

writer 編集部

2019年から始まった、生徒主体で校則やルールを見直す「ルールメイカー育成プロジェクト」。2021年7月11日(日)、2020年度に先行して取り組んだ3校、2021年度から取り組みをはじめた10校の全13校の生徒・教員、そして有識者を集めたオンラインシンポジウム「カタリバ校則見直しプロジェクト・2021夏」が開催されました。

生徒たちによるプロジェクト発表のほか、熊本大学教育学部 准教授/哲学者・教育学者の苫野 一徳さん、名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授の内田 良さん、安田女子中学高等学校・副校長の安田 馨さんらによるトークセッションも。今後の校則の見直しについて、熱い思いを話し合ったイベントの様子をご紹介します。

生徒主体で校則やルールを見直す
「ルールメイカー育成プロジェクト」とは?

カタリバが2019年から取り組んでいる「ルールメイカー育成プロジェクト」は、学校の校則・ルールの対話的な見直しを通じて、生徒自身が主体的に関われる学校をつくっていく取り組みです。

2021年6月には文部科学省から全国の教育委員会へ、社会常識や時代に合わせて積極的に校則を見直すよう「校則の見直し等に関する取組事例について(※)」が発出されており、時代に合わせた校則の見直しは、全国へと広がっています。

イベントの冒頭では、経済産業省の浅野 大介さんより「ルールメイカー育成プロジェクト」の説明と生徒たちへのメッセージを頂きました。

「こういう話は、皆さんが社会で生きていく上で、そしてどんな場所で働いていく上でも、ものすごく大事な“基本のキ”。一生使える力です。面白い事例、面白いチャレンジを今年も作って、さらに来年以降はもっと日本中に広めたいと思っています。一つ一つのアクションを記録に残しながら、ぜひ共有していってください」(浅野さん)

※「校則の見直し等に関する取組事例について」
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/4475/00019460/01_monka_tuuti_03_176.pdf

オンラインでも繋がれる!学校間の相乗効果も生まれた
第一部「実践校によるプロジェクト発表」

第一部では、2021年度実証事業校、先進事業校あわせて全国より13校が参加してプロジェクト発表を行いました。校則の厳しい伝統校や中学校など、校内の体制や見直したい校則も学校により様々です。

発表後のディスカッションでは、生徒からは次のような声が寄せられました。

「今までは学校の中でしか話し合いをしてこなくて、他の学校はどうなのだろう?と思っていました。でも、今回2つの学校のお話を聞いて、課題や超えないといけないものは結構一緒なんだなと。支えになったし、みんなで頑張ろうと思いました」(大阪夕陽丘学園高等学校)

「今まで、ほかのみんなからしたらルールを変えること自体どう感じているのだろう?と考えたり、このルールを変えなくても良かったとか言われたら怖いな、と思っていました。でも、他の学校の皆さんも同じように取り組んでいることを知り、もっと頑張ろう、この交流の場も活用しようと思いました。これからもいろんなことを聞かせていただいて、自分たちの活動に取り入れていきたいです」(大垣市立東中学校)

今日お話を聞いて大事と思ったのは、少人数の意見を捨てないということ。多様性を意識して『この世の中にいろんな人がいるんだよ』と知っていくことが、とても大事だと改めて痛感しました」(ドルトン東京学園)

また、熊本大学教育学部 准教授の苫野 一徳さんは今回の発表を受け、「ネットの中で繋がれるれるようになったことは、本当にすごいことだと思う」と話します。

「ネットの中で遠い学校とも繋がり合って相乗効果が得られると言うことが、昔はあまり考えられませんでした。お互いのことを知ることで、グッドスパイラルが作用し、早く進化していきそうだと感じました」(苫野さん)

工学院大学 准教授の安部芳絵さんからは「失敗してもいいので、もっと型破りにやってもいいのでは」と提案も。浅野さんも、熱くその意見に同意します。

「これまで積み上げてきた歴史があったり、関わっている人たちも多いので丁寧に進めていこうという感情と、つまらないからぶち壊そう、僕が歴史を作るんだという感情。みんなの心の中にそれら2つが両立すると、うまくいくのではないかと思いました」(浅野さん)

“他校の活動を知ることで固定概念が取り払われる”
第二部「有識者によるトークセッション」

■2020年度実証事業校、安田女子中学高等学校での取り組み

第2部の最初に、「ルールメイカー育成プロジェクト」をはじめて2年目となる安田女子中学高等学校での取り組みについて、安田女子中学高等学校・副校長の安田 馨さんから説明がありました。

広島県にある私立の学校・安田女子中学高等学校は、大正4年設立と歴史ある学校です。長い伝統があるゆえに規律を重んじる校風が強く、生徒たちからの提案で、既存のルールを変えたり無くしたりする議論をすること自体が難しいと思われていました。しかし、生徒や保護者へのアンケートやインタビューを行い、「スマートフォンの持参」「放課後の寄り道」「保護者の同伴なしにカラオケやゲームセンターなどへ行くこと」について、21年4月から新しい校則を施行しています。

この取り組みの中で特に難しかった点について、安田さんは「少数意見」をあげています。

「スマホを持ち込むことに賛成という生徒もいれば、反対という生徒もいます。いろんな意見がある中で、どこに落とし込むかということが一番難しかったです」(安田さん)

校則を変えることについて、安田さんが一番不安だった点は「保護者の反応」だったそうです。しかし、改訂後に保護者へアンケートを取ったところ、およそ95%が肯定的に捉えていることがわかりました。

「変えてみて、どういう問題が生じたか。その問題について、また話し合う……というプロセスを続けていくことに対して、価値を感じました」(安田さん)

■生徒同士のコミュニケーションが生む“固定観念の破壊”

これまで増え続けてきた校則を手放し、見直すということは、過去を振り返っても行われてこなかった動きです。文部科学省ICT活用教育アドバイザーなどを勤める平井 聡一郎さん(株式会社情報通信総合研究所 特別研究員)は、教員、生徒、保護者……多くの関係者が関わる本プロジェクトの中で、「生徒同士のコミュニケーション」に注目しました。

平井さんが過去に実施した事例では、他校の生徒同士で交流した際、「文化祭は、学校によって全然違う」ことに気づいたそうです。そのことが、固定観念にとらわれてきた行事を変えることへと繋がりました。

「同じように、スマホひとつとっても学校によって考え方が異なります。校則という視点に立って見ることで、今までの考えを壊すことに繋がると感じました。生徒同士の情報交換ができたら、とてもいいなと思います」(平井さん)

しかし、現在プロジェクトの為に用意したSlack上では、異なる学校間での教員同士の情報交換は行われていますが、生徒同士のコミュニケーションを取ることはできていません。情報セキュリティとしても安全な環境で、生徒同士がそれぞれの校則や活動を知ることができる場が必要では、との声も上がりました。

■「長時間労働にならないための工夫や制度が必要」伴走する教員側の課題

また、日本大学 教授の末冨 芳さんは、生徒たちのプレゼンを聞きながら、学校マネジメントを専門としている観点から「教員の役割」に着目しました。「先生方が引いたところで見守ったり、地ならししていたのを感じた」と話します。

それを受け、安田さんからは、教員間で「ルールメイキングに取り組んでいこう」という機運が発生したきっかけとして、カタリバが行った教員全員でのワークショップの存在が大きかったと振り返ります。

「学校の中の人から『何かやりましょう』といっても反応しづらいのですが、今回は学校外の人が引っ張ってくれたことで、先生同士の本音を言い合うことができました」(安田さん)

名古屋大学大学院 准教授の内田 良さんは「教育は制度設計ですので、まずは先生がどう作るかによってガラリと変わる」と、教員の存在の重要性を指摘します。

「生徒によるルールメイクがステップ1~5ぐらいまであるとしたら、先生によるステップ0が必要です。この部分を言語化することでステップ1以降がグッと進みやすくなると思います」(内田さん)

一方で、長時間労働にならないための工夫や制度的な営みなど、まだまだ議論するべきポイントも多くあるという新たな議題も提案されていました。

■プロジェクトに意見する「有識者」ではなく、共に参加する「サポーター」に

そして「有識者」という呼び方について、苫野さんから「サポーター」といった呼び方がいいのではという提案も。

「偉そうな存在じゃなくて、今ここで新しく起こっていること、初めて経験することもたくさんあります。ぜひ学習者として参加していきたいです」との言葉に、有識者として参加していた皆さんも同意。今後、有識者の皆さんは「サポーター」という呼び名で参加していくこととなりました。

ルールメイキングプロジェクト参画の新たな枠組み、
「アソシエイト校」の募集もスタート

「ルールメイカー育成プロジェクト」において、カタリバが直接支援する「実証事業校」については今年度募集は終了しています。しかし、自走型の新たな枠組みとして「アソシエイト校」をイベント終了直後から募集を開始しました。

「アソシエイト校」は、ルールメイキングに取り組みたい・既に取り組んでいる学校で、カタリバが間接的な実践導入サポートをする学校を指します。参加校はルールメイキング教材・研修の提供、教員や生徒交流イベントなどの導入サポートを受けることができます。

イベント終了後には、アソシエイト校に関心のある教育関係者向けの説明会もあわせて行われました。

詳しくはこちらのnoteでもご紹介しています。ぜひご覧下さい。
https://note.com/rulemaking/n/n9917967caa12

ルールメイカー育成プロジェクトでは引き続き、校則・ルールの対話的な見直しを通じて、みんなが主体的に関われる学校をつくっていく取り組みを進めていきます。

TEXT:ミノシマ タカコ


 

「ルールメイカー育成プロジェクト」の最新情報はこちら

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

このライターが書いた記事をもっと読む