CLOSE

認定NPO法人カタリバ (認定特定非営利活動法人カタリバ)

〒166-0003 東京都杉並区高円寺南3-66-3
高円寺コモンズ2F

お問い合わせ

※「KATARIBA」は 認定NPO法人カタリバの登録商標です(登録5293617)

Copyright © KATARIBA All Rights Reserved.

KATARIBA マガジン

校則見直しに取り組む全国13校が集結。生徒・教員が1年間の成果や学びを発表した「ルールメイキングフォーラム2021」

vol.245Report

date

category #活動レポート

writer 編集部

カタリバは、2019年から経済産業省「未来の教室」の実証事業として生徒主体の校則見直す「みんなのルールメイキングプロジェクト」に取り組んでいます。このプロジェクトでは、既存の校則やルールに対して、生徒たち自身が主体となり、周囲と対話をしながら納得解をつくるプロセスに重きを置き、その過程で生徒たちに課題発見・合意形成・意思決定をする力が育まれていくことを目指しています。

2021年度は全国の11校、2自治体と新たに連携し、各校でのプロジェクトをサポートしてきました。

去る2月23日(水祝)、2021年度校則見直しに取り組んだ先生・生徒のリアルな声、実践からみえた学びを届けるオンラインイベント「ルールメイキングフォーラム2021」を開催。

今回のイベントでは、実証校の生徒・教員のほか、経済産業省の浅野大介さん、みんなのルールメイキング サポーターとして参加して頂いている若新雄純さん、神野元基さん、平野聡一郎さん、瀬戸昌宣さん、そしてワークショップデザイナーの古瀬正也さん、弁護士の根本藍さん、カタリバ代表理事の今村久美が登壇者として参加。校則の見直しに取り組んだ生徒・教員たちの1年間のストーリーを発表しました。

3年目にして「ルールメイキング元年」。
実践報告からの気づき

イベントは、カタリバ代表理事の今村の挨拶からスタートしました。

「今年はルールメイキング3年目ですが、実は今年がほぼ『ルールメイキング元年』と言っても過言ではないんじゃないでしょうか。日本全体のルールのあり方について、みんなでどうすればいいのか考えるヒントがたくさん溢れた1年間だったと感じています。今日はうまくいったこと、うまくいってないことも含めて、みんなで学び合っていく場にしていきたいです」(今村)

続いて行われたのが、実践報告とそれを踏まえてのトークセッション。7つ分科会に分かれ、各々発表が行われました。実証校の1つ、泉大津市立小津中学校の発表を受けて、進行役の若新さんが注目したキーワードのひとつが「風紀」でした。

泉大津市立小津中学校の生徒による発表

「校則を見直したことで、場合によっては風紀が乱れるのではないかという意見が出る。では、風紀って何だと思いますか?」(若新さん)

泉大津市立小津中学校の生徒たちは、この難しい問いに迷いながらも「足並みとか秩序」「誰も嫌な思いをせず、みんなが仲良く生活できるような環境を作ることではないか」と回答。これに対して若新さんも、生徒たちが悩むのは当然で「自分も多くの大人もパッと答えられないものだ」と話します。

「多くの人が『風紀』という実は正体のよくわからないものを『守るべきだ』と思って議論しがちだが、今までの校則を変えないことが果たして『風紀』を守れるかどうかもわかりません」(若新さん)

浅野さんからは、風紀というと竹刀を持って立っている先生を想像してしまうと言うエピソードを交えつつ、「これまでの固定観念に縛られてしまっているからこそ、もう風紀という言葉も捨ててもいいのかも」との提案も。

若新さんも「浅野さんの言うように、ある言葉にずっと縛られる必要があるのかという観点は大切」と受け止めつつ、「ルールを作り替えていく中で言葉を置き換えていくことも大切かも知れない。『風紀』もたとえば『誰もが嫌な思いをしないいい環境をつくる』などに言い換えた方がみんなが共通のイメージを持ちやすいのではないだろうか」というコメントをしました。

また、小津中学校の発表の中には、校則の見直しにおいて、「『原則』という言葉を使って、生徒一人一人で考える余白を作った」という報告もありました。浅野さんはその着眼点に対して「そこに気づいたのはすごい」と話します。そのうえでこんな課題の提起も。

「『原則』や『例外』といった言葉は、実は人を縛ってしまう言葉だと思うんです。日本の社会では『原則これ、どうしてもという人はこれでもいいよ』と言った瞬間に、全員を原則に合わせようとしてしまう。だから『原則』『例外』という区分を作ると、みんな原則に寄ってしまう可能性も大きいんですよね。だからこそ『原則』という言葉を使うことが危なくないかどうか、一度しっかり考えてみるといいと思います」(浅野さん)

「浅野さんが踏み込んだ発言をしたように、日本は『原則』を守ろうとする傾向の強い社会。『例外』を認め自由に守っていくためには、そのプロセスから学ぶことが必要だし、大人になっていく過程ですごく大切なテーマなんだろうなと思いました」(若新さん)

「私の当たり前も変えてくれた」
実証校生徒による学びの共有

各校からの実践報告ののちに、プロジェクトに参加した学校から代表生徒3名と教員2名による個人発表が行われました。

代表生徒の一人として発表した新渡戸文化高校の中枝さんは、「生徒会長としてこのプロジェクトを引っ張る側として、ひとりで何もかも進めようとして躓いた経験から、周りに協力を求めたり、『今向かっている方向から、目指している状態からずれていないか』と振り返ったりすることの大切さを学んだ」と報告。そして、ルールメイキングの活動は「自分の中の当たり前を変えてくれるものだとも感じた」と、自分自身の変化を語りました。

新渡戸文化高校の中枝さんによる発表より

この発表を受けて若新さんは「中枝さんの報告は、自分自身も変化していくことが大切だと学んだという話だったと思うが、これはとても大切な気づきだと感じた。ルールを作る側と与えられる側という溝をつくってはいけない。ルールを担っていく側が柔軟であるということは大切ですよね」と話します。

それに対して弁護士の根本さんも「中枝さんの発表にあったように、『現状を疑う』ということはルールを見直す側として、とても大切な姿勢」とコメント。「法律も絶対のものと捉えがちだが、社会の変化によって変わっていくものであり、昨年だけでも64本の法律が改正されている。今あるものを絶対視しない、変えられるんだと思うことはとても重要だと思います」と話していました。

■教職員の発表では「対話」と「変える意識」がキーワードに

生徒の発表に続いて、実証校教員による学びの発表も。

栃木県立足利清風高校の小滝先生は、「教員対生徒という構図を超えて、異なる意見にも耳を傾け合うための『対話の土壌づくり』が大切である」ということが自分自身にとっての大きな学びであったと語ります。

栃木県立足利清風高校の小滝先生による発表

「対話の土壌をどうつくっていくか」という小滝先生の話について、若新さんも「このルールメイキングに関わってる全ての人にとってものすごく大事な切り口」であるとうなずいたうえで、「反対意見が出てきた時にどう向き合うか」ということは、ルールメイキングに関わる中高生に一番期待することである」と話します。

「僕は討論番組に出ることもあるのですが、反対意見とうまく付き合える大人はほとんどいません。反対意見に対して、安易に同意するわけでもなく、喧嘩するわけでもなく、どうすれば自分と違う意見と向き合いながら、深めていけるかということが、対話やルールメイキングの大事なポイントになっていると思っています。」(若新さん)

この話を聞いていた古瀬さんは、意見をぶつけ合うときの構え方も大切だと話します。

「喧嘩越しで来られると、『傷つけられるのでは?』と引いてしまったり、そもそも言わなかったりということが起きてしまいます。小滝先生の発表では、先生自身が『本音を吐露する』ということを行ったと言う報告がありました。意見をいきなり投げつけるのではなく、自分の気持ちをその場に置いてみるという行為。そういった形で、大人が本音を吐き出すことで、周りにいる生徒たちも心を開いていくことができたのではないかなと思います」(古瀬さん)

「分かり合えない」という前提から
コミュニケーションを始めることも大切

「対話」というキーワードが着目されるなか、サポーターの瀬戸さんからはこんな捉え方の提案も。

「『対話』という言葉がでてきましたが、本当に必要なのは、『分かり合えないことから始める』という姿勢なのではないかと思うんです。相手の欲求を聞いていると、イラッとすること、それは受け入れられないと感じることがありますよね。でもそれは、相手と自分の双方が受け入れられるルールを作っていく上でとても大切な感覚です。

『対話』に目的が置かれてしまうと、『あなたと相互理解したい』という意識に陥りがち。でも、本当の意味で理解し合えなくてもお互いをよく観察(≡インタビュー)して、『この人が満たしたい欲求はこれなんだ。じゃあ自分の欲求と両方が満たされるルールをつくってみよう』と考えていければ、ルールを作り直していくことができるのではないでしょうか」(瀬戸さん)

また、議論において「勝ち負け」や「正しさ」が意識されがちな点について、生態学者・昆虫学者という自身のバックグラウンドとも絡めつつ、こう語ります。

「Aという虫もBという虫も仲良くなんかしてなくて、『己の欲求を100%表現して生きていたら、多様性ができていた』というのが自然の原理。人間も、一人ずつ違う存在であることを表明して、ともにありづづける(=共存)ことをゴールにおけば、勝ち負けではなく、違う考え方の人がいることを楽しむこともできるのではないでしょうか」(瀬戸さん)

 

本フォーラムは2時間という長時間でしたが、どのコーナーも時間が足りないほど。誰もが話したりないという空気の中、実証校の生徒・教員の1年間の報告をもとに、ゲストたちと議論を深める場となりました。

「みんなのルールメイキングプロジェクト」では、対話的な校則見直しに取り組もうとする全国の学校とともに来年度以降も活動を続けていきます。校則見直しに取り組もうとする全国の中学校・高校からのパートナー募集も引き続き行っていますので、関心をお持ちの先生方・生徒の方はぜひこちらより詳細をご確認ください。

プロジェクトでは引き続き、校則・ルールの対話的な見直しを通じて、みんなが主体的に関われる学校をつくっていく取り組みを進めていきます。

ーTEXT:ミノシマ タカコ

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

このライターが書いた記事をもっと読む