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「大人に言われたくない言葉」から、大人も子どもも豊かに生きるヒントを探る。日本テレビアナウンサー・鈴江奈々×カタリバ・立野夏樹

vol.298Report

date

category #活動レポート

writer 田中 嘉人

日本テレビの開局70周年企画として実施されたキャンペーン報道『こどもday』。プロジェクトメンバーの日本テレビアナウンサー・鈴江奈々さんがメンバーの一員として実施したのが、子どもの本音を世の中に伝えていく報道企画です。

カタリバは “子どもの本音を届ける” という部分を中心にコラボレーション。鈴江さんをはじめとする日本テレビのプロジェクトメンバーと、「カタリバオンライン for Teens」(※1)のメンバーとのセッションやインタビュー取材などを経て、2023年5月2日の『news every.』(日本テレビ)内で報道企画「大人に言われたくない言葉」が放送されました。

▼実際に放送された動画はこちら
https://youtu.be/60P_j–eBiE

今回は鈴江さんと、「カタリバオンライン for Teens」を代表してディレクターの立野夏樹がプロジェクトを振り返ります。なぜ日本テレビはカタリバに声をかけたのか、そしてプロジェクトを経て、カタリバに参加する高校生、そして日本テレビにどのような変化があったのでしょうか。

鈴江さんら日本テレビのメンバーとカタリバの高校生たちが駆け抜けた日々を記録します。

(注釈)
※1 「カタリバオンライン for Teens」
全国の高校生の「想い・チャレンジ」を応援するオンラインプラットフォーム。学校・地域を超えて、新たな一歩を踏み出したい高校生が全国各地から集まり学んでいる。

鈴江 奈々(すずえ なな)/ 日本テレビアナウンサー
2003年日本テレビ入社。主に「NEWS ZERO」「真相報道バンキシャ!」など主に報道番組を約16年担当。現在担当する「news every.」の番組コンセプトは「ミンナが、生きやすく」。中でも「こどもたちが、生きやすく」をテーマに、積極的に取材し、放送とデジタルで発信。

立野 夏樹(たちの なつき)/「カタリバオンライン for Teens」ディレクター
上智大学外国語学部卒業。カルピス株式会社にて法人営業・タイ現地法人での事業企画を経験した後、株式会社セルムで大手企業向け人材開発・組織開発に従事。その後、HR-TechスタートアップKAKEAIにて事業開発に携わる。21年12月にカタリバ参画。「全国の高校生の意欲と創造性の連鎖を生み出す」「教育と社会・企業を繋ぎ、共に学び合う場を創造する」をコンセプトにしたサービス開発を行う。

次の世代に恥ずかしくない社会を渡したい

──まず今回の企画の経緯から教えてください。

鈴江さん:きっかけは、日本テレビ開局70周年企画の募集で、今回のプロジェクトリーダーである右松健太が「子どもたちに光を当てるようなキャンペーン報道をやりたい」という企画書を提出したことです。

これまでは報道局なら報道に関する企画を提案し、部署ごとに制作していたのですが、今回は縦割りではなく部署横断という、局にとっては初めての試みでした。

ちょうど私は育児休暇から復帰したタイミングでプロジェクトが動き始めることを知り、右松、そして子ども問題や厚生労働関係の専門記者として長年働いていた庭野めぐみと共に、メンバーとしてジョインすることになりました。

──プロジェクトはどのくらいの規模だったのでしょうか。

鈴江さん:全体で14名が企画メンバーに手をあげ、そこからどんどん輪が広がっていきました。なかにはグループ会社の日本テレビ音楽株式会社でプロデューサーとして活躍しているメンバーもいて、彼の力でキャンペーンソングであるwacciさんの『ジグソーパズル』という曲が生まれました。

曲の歌い出しにある「1億2000万ピースのこのジグソーパズルは 君がいて初めて完成するのさ」という歌詞に私たちの想いが凝縮されているといっても過言ではなく、「子どもだけではなく大人も参加し、みんなで社会をつくっていくという動きが文化になるまで育てていきたい」という気持ちで始動しました。

──今回、鈴江さんご自身が出産・育児を経験していることがチャレンジの後押しになっているのでしょうか。

鈴江さん:そうですね。もともとアナウンサーとしてSDGsの目標達成の難しさや、災害報道を取り上げるなかで、生活環境が厳しくなってきていることは肌で感じていたのですが、子どもが生まれたことで社会問題に対する痛みの感じ方が深くなったような気がします。

また、友人たちとの子育てトークのなかでも不登校に悩んでいる方がいるなど、子どもたちが生きにくくなっていることへの疑問は感じやすくなっていて。「子どもたちのために何かしたい」「次の世代に恥ずかしくない社会を渡したい」という気持ちは強くなっているように思います。

──なぜ今回カタリバに声をかけたのでしょうか。

鈴江さん:もともとカタリバには東日本大震災のときに取材し、子どもたちに伴走するさまざまな取り組みを実施していることは知っていました。

特に今回興味深かったのは、子どもたちが自ら校則づくりをする「ルールメイキング」の取り組みです。私たちは子どもたちに「自分たちも社会をつくる主役なんだ」ということを伝えることが重要だと考えていたので、改めて取材をお願いして。

番組には子どもたちにも参加してもらいたい気持ちがあったので、打ち合わせを重ねるなかで「子どもたちとの接点が多いカタリバと手を組むことで、より意義のある企画ができるのではないか」という話になりました。そこで全国各地からたくさんの高校生が集まり、学びを深めている「カタリバオンライン for Teens」と取り組みをご一緒することになりました。

立野:「カタリバオンラインforTeens」には全国870校の高校から1800名ほどの高校生が参加していて*、普段は高校生同士での学び合いがメインなのですが、次のステップとして「企業のみなさんと一緒に学び合っていくような場をつくりたい」と考えていたところでした。そんなタイミングでお声がけいただいたので、「まずはやってみよう」というところから取り組みがスタートしました。
*2023年7月末時点

──日本テレビのような知名度、発信力のある企業が子どもの社会問題に目を向けていることついてはどのように感じましたか。

立野:教育と社会の垣根が少しずつ溶けている、教育と社会がつながろうとしている感覚はありますね。CSR・CSV・SDGsという言葉が出てきてから久しいですが、企業としての社会課題に対する取り組みへの意識や、特に若手層を中心に社会課題への関心など含め、ビジネスセクターとソーシャルセクターの関係性も少しずつ変わってきているようにも感じます。

また「社会という大きな器で子どもたちを育んでいこう」ということだけではなく、ビジネスに若者・子どもの視点が求められるようになってきているというか。企業や社会人の抱える課題と若者・子どもの悩みは共通する部分も多いですし、子どもたちは大人にはない視点をもっているので、「お互い学び合えるんじゃないか」「若者の知恵をもっとビジネスに活かしていこう」みたいな動きも出てきている気がします。

子どもたちの発信を、大人にとっての学びに

──いかにして今回の報道企画「大人に言われたくない言葉」が生まれたのでしょうか。

鈴江さん:まず、「カタリバオンライン for Teens」の高校生たちと一緒にアンケート調査を実施するところから検討しました。

身近なところで疑問に思うこと、「生きにくい」と感じていることを調査しようとしたところ、社内で「アンケートの設問も大人の“コレを聞いたらいいんじゃないか”という視点だけで考えるのは違うよね」という議論が生まれて。「カタリバオンライン for Teens」のプログラムに参加した高校生たちと一緒にアンケート項目をつくるところから始めました。

「カタリバオンライン for Teens」のプログラムに参加する日テレメンバーと高校生の様子

「大人に言われたくない言葉」という切り口に決めたのは、私や庭野が子どもに対してついイラッとして口にしてしまっている言葉や、発した後に罪悪感が残る言葉があり、同時に悩んだ経験があったことがきっかけです。

取材を通じて臨床心理士の村中直人さんから教えてもらったのが、「大人が強く怒ると、その瞬間子どもは恐怖心を覚え、状況から逃れたいから一旦は言うことを聞く。しかし、それ自体に学びの効果はなく、また同じことを繰り返す」ということ。

私自身にも非常に学びがあったので、調査結果に村中さんのお話を加えて伝えたらより多くの人に関心をもってもらえると感じ、テーマに設定しました。私たちも、単に子どもたちの本音を調査して「これが子どもたちの意見です」と発信するだけではなく、大人にとっても学びのある調査にしたかったので。

──「news every.」の放送を見て、特に印象的だったのが調査の中で「大人に言われたくない言葉」だけではなく「大人に言われて嬉しい言葉」もレポートされていた点です。

鈴江さん:「大人に言われたくない言葉」というテーマをカタリバの高校生たちに共有したら、「大人が子どもたちにとって悪い存在だと決めつけているように感じるから、逆に『言われたら嬉しい言葉』も質問したらいいんじゃないか?」という意見も出て……「確かに!」と質問に加えました。

立野:今回の企画で大事なのは、「共に創る」ということだったと思っています。やろうと思えば日本テレビさんでインタビューからアウトプットまでできたにも関わらず、高校生たちの視点やアイデアを取り入れながら創っていった。

だからこそ、「言われて嬉しい言葉」も質問項目に加わり、インタビュー含めて主体的に行動できた。今回、日本テレビの取材クルーのみなさんと原宿での街頭インタビューにも参加させていただき、大人と子ども両者の視点が混ざり合うことでお互いに学びのあるプロセスになったと感じます。

言われたくない言葉があるのは「親と子ども」に限らない

──実際にやってみてどうでしたか。

鈴江さん:まず、街頭インタビューを一緒にやってよかったのは、同世代の高校生がインタビュアーだからこそ、子どもの本音に近いことを引き出してくれたように思います。「そうだよね〜」と共感しながらのインタビューは私たちにはできませんからね。

また、親世代にもインタビューしたことで、大人の気持ちを知る体験にもなったようで「自分は『早く勉強しなさい』と言われるのが嫌だったけど、自分のことを想って言ってくれた言葉だったんだと気づきました」と取材後に教えてくれて。

大人と子どもの対話が相互理解につながることを私自身も学ぶことができました。

──鈴江さんの親としての感想も教えてください。

鈴江さん:取材しながら、日常を振り返っては反省していました。言われたくない言葉の第1位の「こんなこともできないの?」に近い言葉を口にしていて……。

もちろん私としては「成長してほしい」という親心が根底にはあるんですが、過度に期待していたり、親自身の焦りをぶつけたりしていたのかもしれません。

──立野さんはいかがでしたか。

立野:少し違う視点だと、番組のなかで「これって子どもと親の関係に限った話ではないですよね」というコメントが出ていたことが印象的でした。

たとえば「こんなこともできないの?」は直接的ではないにせよ、上司と部下の関係性のなかでも暗に伝わっていることも多いと思いますし、チームや組織の中で恐れや不安を生み出す要素にもなっているのかもしれません。会社のコミュニティに限らず、大人になってからもふとした言葉をきっかけに関係性が毀損されて、豊かに生きられなくなることは少なくありませんからね。

鈴江さん:「親と子ども」「先生と生徒」という縦の関係ではなく、フラットな横の関係で対話することの重要性を感じますよね。

職場でもちょっとした声かけひとつで気持ちよく過ごせるようになるし、逆に些細なことがストレスになりかねないことを学べたことが、私自身も大きな収穫でした。

自分たちの行動で“何か”が変わる

──子どもたちにはどのような変化がありましたか。

立野:子どもたちには放送後に振り返りも兼ねたセッションにも参加してもらったのですが、「親や大人の立場だったらどうですか?」という投げかけをしたところ、普段自分たちが見ている世界だけではないところに眼差しが向いたように感じました。

やりたいことや自分たちの意見だけを発信するのではなく、相手の思考を想像しようとしたり、対立や矛盾に意図的に向き合ってみたり……そのあたりは大きな変化だったと感じます。

鈴江さん:今回の問いにも通じますが、「親がそういう発言をしてしまうのは、親自身も不安を抱えているのかもしれない」と、社会的な背景や課題まで掘り下げてくれた子もいて。意見を発信したり自分が育っている環境を俯瞰したりすることがきっかけになったのかもしれません。

──子どもたちが成長した要因は何だったと思いますか?

立野:2つあります。1つは、子どもたちが社会に参画する体験ができたこと。番組づくりというプロセスに関わることで、自分たちがやったことが社会と接続していく様子を体感できた。彼らにとってもポジティブな経験だったように思います。

2つ目は、振り返りのセッションで鈴江さんや庭野さんが話していた「聞いて終わりにしたくない」という言葉です。鈴江さんや庭野さんが取り組みを通じて何を感じたのかを伝えてくれたこと、高校生の声に耳を傾けながら対話をしてくれたことで安心感も得られましたし、「自分たちの行動で“何か”が変わる」という経験をしたわけですから。「だったらもっと頑張ってみよう」という気持ちが芽生えたことが大きかったように感じます。

──日本テレビ局内で影響はありましたか。

鈴江さん:全社的に「良い取り組みになってよかった」という反応でした。なかなか視聴率には結びつきにくいテーマではあるのですが、好意的に受け止めてもらえたことで「この芽を育てていきたい」という仲間も増えました。

やはりカタリバと共同調査できたことは大きかったと思います。私たちだけではきっとやり切れなかった。私たちの想いに共感してくれるメンバーたちが2024年以降も集まって続けてもらえたら嬉しいですね。

──カタリバとしての今後の展望についても聞かせてください。

立野:ありがたいことに日本テレビとの取り組みを皮切りに、すでに複数企業とのコラボレーションが動き始めています。

今回鈴江さんにはアナウンサーとして培ってきたインタビューのハウツーなどを高校生たちに教えていただきましたが、逆に子どもたちから学べることもたくさんあったと思います。

お互いの強みを掛け合わせてお互い知らないことを知っていくようなプロセスに価値を感じていただける企業とはどんどんコラボレーションしていきたい。大人と子どものそれぞれが持っている視点や経験を活かすことで「共に学ぶ」だけでなく、「共に創る」という工程も大事にしていきたいですね。


 

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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