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参加校が18校に拡大!「教員不足」や「生徒数の減少」に悩む “小規模校” 同士のつながりが未来をつくる

vol.301Report

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category #活動レポート

writer 笹原 風花

2022年度より高校で「総合的な探究の時間」が必修となり、教育現場では試行錯誤が続いています。なかでも生徒の数も教員の数も少ない小規模校(※1)では、生徒同士の学び合いや伴走する人材の不足が課題となっています。

この状況を受け、カタリバでは2020年度に「学校横断型探究プロジェクト」を始動。小規模校の生徒同士がオンラインでつながりながら、それぞれの探究を深めていく場づくりに挑戦してきました。当初は3校からスタートした本プロジェクトですが、4年目を迎える2023年度には18校にまで参加校が増えています。

今回は、学校横断探究プロジェクトを担当するカタリバ・起塚拓志と、今年度から同プロジェクトに参加している島根県立浜田商業高校の石川隼人先生、埼玉県立越生高校の堀江寛将先生にインタビュー。プロジェクトを通して小規模校の生徒たちがどのようにかかわり合っているのか、参加することでどのような変化があったのかご紹介します。

【脚注】
※1 小規模校 
1学年3学級以下の学校のこと。令和2年度は全国683校の公立高校(学校基本調査より)が該当。

小規模校ならではの課題。
学校の中だけでは多様性や広がりに欠け、探究を深めることに限界がある

学校横断探究プロジェクトが立ち上がった経緯について、担当の起塚はこのように語ります。

起塚:「学習指導要領の改訂に先駆けて探究学習に取り組んでいたいくつかの小規模校から、学校の中だけで探究を深めることに限界があるという声が以前から届いていました。生徒や教員の人数が少ないと、どうしても多様性や広がりに欠けてしまいます。生徒にとっては、同級生との学び合いが起こりづらい、受けられる支援の幅が狭くなりがちという課題が。伴走者である教員にとっては、外部との連携の機会をつくりにくい、探究学習の支援についての知見不足に陥りやすいといった課題がありました」

そこで、共通点のあるテーマについて他校の生徒と意見を交わし合ったり、多様な見方・考え方から気づきを得たりする場を設けられないかと考え立ち上げたのが、小規模校同士がオンラインでつながり学び合う「学校横断探究プロジェクト」。初年度の2020年度は、熊本県立小国高校、山形県立小国高校、岩手県立大槌高校の3校で実験的にスタートし、9月にオンライン交流会、12月に探究の発表会を行いました。

起塚:「立ち上げ当初は、オンライン接続の環境・機器の整備について課題がありました。今でこそ校内Wi-Fiや一人一台端末が浸透してきましたが、2020年当時は多くの学校で未整備の状況。参加校にポケットWi-Fiを送って対処するなど、苦労しました。また、実際につながってみるまでは生徒も先生も心理的な不安が大きく、そのフォローも課題でした」

プロジェクトの内容は、1年目は生徒同士の交流だけでしたが「他校の生徒ともう少し話をしてみたい」という生徒の声や、「他の学校の取り組みについて知りたい」という先生の声に応えて、2年目以降は放課後の時間を使ったプログラムや、先生同士の学び合いの場づくりにも取り組むようになったとのこと。

学校横断型探究プロジェクト2023年度の参加校一覧

起塚:「参加校は順調に増え、今年度(2023年度)は18校が参加しています。普通科の高校だけでなく、これまでには特別支援学校、商業高校、通信制高校なども参加していて、参加する生徒や教員にも多様性や専門性の広がりが生まれています」

年4回の合同授業+αのプログラムで、
生徒間、教員間の交流が生まれる

現在、生徒向けのプログラムは教育課程内の「合同授業プログラム」と、教育課程外の「放課後プログラム」の2つ。合同授業プログラムは年4回行い、第1回はアイスブレイクを目的にした生徒交流会、第2回はゲストを呼んでの講演会、第3回は探究のテーマ別の交流会、第4回は振り返り会を実施しています。

2023年度の学校横断型探究プロジェクト年間スケジュール

起塚:「第1回の生徒交流会では、生徒が自分の地域や学校、自分自身について紹介し合うことで相手への関心度を高めるとともに、お互いを身近に感じることを意図しています。夏休み明けには各校から生徒の探究テーマが挙がってくるので、こちらでそれを集約し、関心事やテーマに関係性がある生徒同士をグルーピングして、第3回のテーマ別の交流会につなげます。今後は参加校の先生にも生徒の探究テーマ一覧を共有して、より活発な学校間・生徒間交流ができるように設計する予定です。

一方、放課後プログラムは自由参加型のもので、先輩の話を聞く会や探究の相談会など、テーマを設定して実施しています。なかには自分で交流会を企画し、似たテーマの生徒を募集したり、自分の探究に対するフィードバックを求めたりする生徒も出てきています。

また、教員向けのプログラムとして、勉強会を年に3回ほど実施。例えば2022年度は、探究活動の支援に関する合同研修やカリキュラム共有勉強会などを開催しました。毎回多くの先生が参加してくださり、オンラインオフ会も盛り上がります。他校の情報を求めるだけでなく、『自分の学校の探究カリキュラムを見てもらい、意見がほしい』という声も多く、先生同士の横のつながりのニーズの高さを実感しています。今年度は、できれば対面研修の機会も設ける予定です」

一歩踏み出したことで、「やればできる」を実感。
学校間のつながりが、気づきや出会いのチャンスに!

今年度の学校横断型探究プロジェクトは、6月よりスタート。すでに生徒交流会や、放課後プログラムを実施済みです。今年度から新しく参加した島根県立浜田商業高校の石川先生と、埼玉県立越生高校の堀江先生へ、参加の理由について聞きました。

浜田商業高校の石川先生

石川先生:「本校では、2年生の『観光ビジネス』の授業の一環で合同授業に参加しています。2年生のうちに初対面の人たちと交流したり、交流を通して視野を広げたりする経験を積んでほしいと考え、参加を決めました。

6月の合同授業前は、『自分は司会なんてできない』『知らない人と話すのは嫌だ』など、ネガティブな反応をしている生徒が多かったのですが、実際にやってみると『すごく楽しかった』という生徒がほとんど。なかには、話をした他校の生徒と個別に連絡先を交換したいと申し出てきた生徒もいて、まずはやってみること、一歩踏み出してみることの大切さを改めて実感しました。また、私自身も他校の生徒の意欲的な姿に刺激を受け、『うちも負けていられないな。もっとこういう経験をさせたいな』と、前向きに考えるきっかけになりました」

堀江先生:「他校の多様な生徒とふれあうことで、生徒の見方や考え方を広げたい。学校の中だけでは学べないことを学んでほしい。そして、 “井の中の蛙” 状態から脱却してほしい。そんな思いから、参加を決めました。

『引っ込み思案で自分の主張ができない』『自分をさらけ出すことに抵抗があり、マスクを外したがらない』という生徒の姿を見てきたので、6月の合同授業プログラムで積極的に他校の生徒と関わろうとする生徒の姿を見て、正直、驚きました。やれば意外とできるじゃないかと感じたのは本人たちも同じだったようで、『やるまでは不安だったけど、やってみたら楽しかった』『またやってみたい』という声が多数派でした。生徒にとって大きな成功体験になったと感じます」

6月の合同授業プログラムに参加し、手ごたえを感じている2校の先生。一方で、探究活動に関してはこのような課題を抱えているとのことです。

石川先生:「お互いをよく知るメンバー間だと、発表に対して肯定的な意見は多く出るのですが、『こうしたらもっと良くなるのではないか』という意見や指摘は出にくいんですよね。いいところを評価することも大事ですが、そんな視点もあったのかという気づきを得る機会があるといいなと感じています。学ぶ環境も学んでいることも違う他校の生徒からの率直な意見は、生徒にとって刺激になるのではないかと期待しています」

越生高校の堀江先生

堀江先生:「興味・関心のあるテーマを見つけられても、それを “問い” につなげるのが難しい生徒が多く、いかに伴走するかが課題です。生徒には、実際に見たり聞いたりして行動することが大事だと伝えていますが、一歩を踏み出せない子も少なくありません。教員も同じで、仕事に追われて新しいことに踏み出すのが難しい現実があります。今回、教員同士の交流の場に参加したことで、悩みを共有したり、新しい見方・考え方に出会ったりして、私自身にとっても良い機会になりました」

学校横断型探究プロジェクトに参加することによって、それぞれの学校で抱えている課題を少しでも解決できるのではないか。2人の先生方からは、そんな期待を感じ取れました。最後に起塚は、プロジェクトの今後についてこのように語ります。

起塚:「『5年後に参加校100校実現』が目下の目標です。私自身このプロジェクトに携わり、それぞれの学校が磨いた魅力は、横でつないでこそさらに価値が広がっていくと思うことがあって。自分たちでは魅力だと思ってなかったことも、他の学校からしたら学びに変えられる部分があると思うんです。

それは別に特別なことをしなくても、つながり合える機会だけがあればお互いに気づき合える。そういった機会をこれからも作り続け、小規模校のネットワークをどんどん大きくしていきたいと思っています。

学校横断型探究プロジェクトに参加する生徒の様子

取材の最後に、越生高校の堀江先生から同じ小規模校の先生に向けて、こんなメッセージをいただきました。「生徒も教員も、一歩踏み出してみないと新しい世界が見えてこない。最初は大丈夫だろうかと不安があると思うけれど、それ以上に得られるものがあるので、まずはチャレンジしてみてほしい」。一歩踏み出した先には、心強い仲間がたくさんいます。小規模校のみなさん、学校横断探究プロジェクトへの参画、お待ちしています!


 

学校横断型探究プロジェクトは、2024年度から参加する高校を募集しているので、本連携にご関心のある教育関係者の方は、以下のフォームよりご登録いただければ本プロジェクトに関する情報をメールにて配信します

<配信内容>
・学校横断型探究プロジェクト 参加説明会のお知らせ
・公開イベントおよび体験プログラムのお知らせ
・2024年度参加校での合同授業実施のお知らせ(事前申込による見学が可能です)

 

本取り組みにご興味がある方は、
以下参加申し込みフォームよりお問い合わせください。

参加申し込みフォーム

Writer

笹原 風花 ライター・編集者

ライター・編集者。奈良県出身、東京在住。第2の故郷はオランダ・ライデン。高校生向けの大学受験情報誌の編集部に4年間勤めたのち、制作会社勤務を経て2014年に独立。取材・執筆分野は教育や学びを中心に多岐にわたり、企業の社内報や広告制作などにも携わる。

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