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KATARIBA マガジン

不登校等対応教室に、子どもたちが集まるようになった理由とは。現職教員が支援の軌跡を語る

vol.308Report

date

category #活動レポート

writer 北森 悦

文部科学省が2023年10月に公表した調査結果によると(※)、日本の小中学校における不登校の児童生徒をふくむ「長期欠席者」の数が、過去最多である約 46 万人(460,648 人、うち不登校児童生徒は約29万9千人)に上ることが明らかになりました。

カタリバには、「room-K」や「おんせんキャンパス」、「アダチベース」など不登校支援に取り組む現場がいくつかあります。そのうちの1つ、カタリバが運営するオンライン不登校支援プログラム「room-K」では、先生方と接する中で、「生徒が不登校になったときの対応策を知りたい」「教職課程で不登校について研修を受ける機会がなかった」という声を聞くことがありました。

そこで今回は、room-Kのプログラム作成にも携わっていただいている梅川尚彦(うめかわ・なおひこ)先生にインタビュー。梅川先生は、ICT教育推進指定校の担当教員であり、2022年度には不登校担当をしていた方でもあります。「学級担任時にも多くの不登校児童に関わってきた」という梅川先生に、不登校支援で取り組んだことや苦労したこと、得た気づきについて聞きました。

文部科学省「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

梅川 尚彦(うめかわ なおひこ)/大阪府公立小学校教員
大阪府公立小学校の教員。1人1台端末を活用した授業や支援、家庭学習などの実践事例を、学校の先生方と協働で創出し、大阪府下の公立小中学校に発信している。また、2022年4月〜2023年3月まで、大阪の公立小学校にて不登校等対応教室を担当。room-Kでは、国語と社会のワークショップの監修+オケイコプラグラムの講座設計を行っている。

不登校の子どもにも、その親にも、
まずは “人として元気になってもらいたい”

不登校担当時代についてお話する梅川先生

──2022年度に、不登校担当をされていたそうですね。最初はどのようなことから始めたのですか?

前任者が不登校等支援教室のベースを作ってくれて引き継ぎました。しかし新学期初日、その教室に登校した子どもはゼロ。誰もいない教室を見て「この教室を子どもでいっぱいにしよう」と思いました。

最初は引き継ぎリストを見ながら、一人ひとりに電話をしたり、校門まで来た子に声をかけたりして、信頼関係を築くことから始めました。あとは保護者との顔合わせも同時に進めましたね。

不登校と一括りに言っても、一人ひとりの状況はまったく異なります。不登校が長期化している子や、登校したり・できなかったりする子、行きしぶりながらも自分の学級の教室へなんとか入っている子など様々。

それぞれの状況は違えど、共通して目指していたのは「まず人として元気になってもらいたい」ということでした。

──それはどういうことですか?

実は、不登校担当になる前から、学級担任をしていたときに、担任する学級に不登校の子どもがいることが多かったんです。担任した不登校の子どもたちは学校に行けないことで傷つき、自分を責めているように感じました。また保護者も、「子どもが不登校になったのは自分のせいではないか」「育て方に問題があったのではないか」と負い目や孤独、不安を感じている様子で、親子共々、自信を失っているようでした。

そのため、登校を促すことよりも、まず人として傷ついている部分を少しでも回復してもらいたい。元気になってもらいたいと思っていたのです。

例えば電話や家庭訪問で子どもと話すときには、学校に来ることや勉強の話ではなく、まず「ご飯食べられているか」「よく寝られているか」「外出はできているか」といった日常生活の話をしていました。また保護者とお話しするときには、孤独感や不安に寄り添うことを意識していました。

保護者の孤独感や不安を少しでも和らげて、自信を取り戻してもらう。その過程で話しやすい関係性を築き、保護者と今後の対応の方向性を合わせていくことを大切にしていました。そのことが結果的にいい影響をもたらすと、考えていました。

──どういうことでしょうか?

学級担任をしていたとき、保護者と「学校に無理に行かせなくてもいいけど、登校できるようになったらいいよね」という方向性を共有し、そのような会話を重ねていると、様子を見ていた子が徐々に登校できるようになったことがあったのです。

子どもは、保護者と教員がうまくいっているかどうかを敏感に感じ取ります。日々忙しい中で保護者と話を重ねることは大変だとは思いますが、保護者と教員が対話を重ね、一緒に何とかしようと話している姿を子どもに見せることは、必ずいい影響として伝播するはずだと考えています。

──子どもにも保護者にも「人として元気になってもらう」。そして保護者と方向性を合わせることを重視されてきたのですね。その他に取り組まれたことはありますか?

不登校等対応教室の環境面でいうと、子どもたちに合わせて机の配置を変え、学校らしさを出さないよう意識しました。窓の外を眺められるほうがいい子には、机を窓の外に向けて配置し、他人の視線が気になる子にはついたてを置いたり、人と話しながら活動したい子にはグループ型の座席にしたりしました。

雰囲気の面では、安心感を与えられるように意識しました。「学校に来たら勉強しよう」ではなく、まずは雑談をする。雑談だけして帰る子も大勢いました。ときには、その子が好きな動画を一緒に見たことも。子どもの興味関心に合わせたのが良かったのか、徐々に不登校等対応教室に子どもが集まるようになりました。

不登校担当になり、葛藤し続けた1年間

授業を行う梅川先生

──学校としては、不登校の子に対する梅川先生の取り組みをどう受け止めていましたか?

しっかりと理解してくださっていました。「自分が担任している子が不登校等対応教室に登校したら、ぜひ会いに来てください」と担任の先生方に呼びかけていたら、何人も来てくださいました。担任の先生が様子を見に来てくれることは、子どもや保護者の心の支えになっていたと思います。

──不登校担当として当時、困ったことや悩んだことはありますか?

1年間、この方向性でいいのだろうかと葛藤し続けました。先ほどお話したように、子どもと雑談しかしない日もあって「本当にこのままでいいのだろうか」「自分が甘やかしているから学習できないのではないだろうか」と、常に葛藤していましたよ。

方針を変えたほうがいいのではないかと思い、「ずっと好きなことだけするところではないんだ」「朝はちゃんと起きなければいけないんだ」と説教したこともありました。でも、厳しく伝えたり説教したりしたことは、決していい影響を及ぼしませんでした。

──1年間、不登校担当を務めた結果、不登校支援への取り組み方やご自身の気持ちに変化はありましたか?

不登校対応には経験やノウハウがあるので、成果が出ると思っていました。ですが、自分の中での方針が揺らいだり、葛藤を重ねたりすることで、子どもたちにとって居心地のよい場にならなかった時期もあったかと思います。不登校支援には個人の人間性や教員としての力量がより大きく影響することを実感しました。

不登校の子どもたちと向き合う上で
大切にしている三つの原則

──今、不登校の子どもを担当している教員へのアドバイスやメッセージはありますか?

冒頭にお話したように、保護者と方向性を一致させられると、対応するうえでの心理的な負担が軽減されると思います。もちろん、それまでは保護者も教員もしんどいと思いますが、同じ方向を向けるようになると、ある程度連絡の時間が固定されたり頻度が減ったりして、自然と時間的な負担も減ってくるのではないでしょうか。

またアドバイスというわけではありませんが、私は不登校の子どもたちと向き合うときに、「期待しない・約束しない・でも諦めない」を自分なりの不登校三原則としていて、これを保護者と話す場合もあります。

10年以上前、学級担任で不登校の子がクラスにいたとき、毎朝7時半にその子の自宅まで行き、インターホンを押して出てくるのを待っていました。当時は、これを毎日続けていると「これだけ家庭訪問しているんだから、いつか学校に来るに決まっている」と自分の中で勝手に期待を膨らませている時期がありました。しかし毎日家庭訪問しても学校に子どもは来てくれなかったのですね。

「あ、これでは、続かない。何のために家庭訪問をしているのだろう」と考え出して、それからは家庭訪問はするけれど、「期待しないでおこう」「出てきてくれたらラッキー」ぐらいの気持ちでいました。すると、ときどき登校してくれたり、登校できなくても自分とだけは会話をしてくれたりするようになったのを覚えています。

この体験以来、過剰な期待を不登校の子ども・保護者にすることはプレッシャーを与えることにつながること、そしてそもそも不登校の子どもたちにとって登校がゴールでもないというように、自分の考え方が変化してきました。積極的な意味での「期待しない」と考えてもらえればと思います。

──「約束しない」や「諦めない」についても教えてください。

「約束しない」は、また別の子ども・保護者との出会いによって教えられました。教室には入れないけれど、学校行事には来れそうという子どもがいます。だから「来週の遠足は一緒に行こうね」と約束し、保護者と一緒に段取りを進めたことがありました。

ただ、周到に準備を進めても子どもが学校行事に参加できないことも多々あり、当時の自分はその度に保護者と一緒になって落ち込んでいました。でも、一番落ち込んでいるのは子ども自身であることにも気づけました。それ以来、「○○しようね」と約束はなるべくしないようにしましたし、約束をしたとしてもそれを守らせたり、守られるものだと思わなくなったりしました。「遠足は来られなかったけど、次はまた別の方法を考えよう」と考えられるようになり、私も保護者も、そして何より対応する子どもも心が軽くなったのでは?と思います。

積極的な意味で期待や約束はしないけど、子どもが登校するために、登校できなくても人として幸せになってもらうために、絶対に「諦めない」で、その子どもに合う方法を探したいと考えて対応していました。

このような意味で、自分なりの「不登校三原則」ができてきて、自分を楽にするお守りのような言葉でもあり、保護者にも心が軽くなる言葉としてお伝えしていました。

子どもによって合う手段やツールは様々。
不登校の子どもと向き合う先生方が、負担感なく安心できるように

──今後、不登校支援で取り組みたいことはありますか?

私はオンラインによる不登校支援や、デジタルツールの活用に大きな可能性を感じています。2020年、学校が一斉休校になり、初めてZoomを見たときに、感動を覚えました。

Zoomの画面を見た瞬間、「これを使えば学校や自宅から不登校の子どもに授業ができる」「家庭訪問をしなくても不登校の子どもや保護者と話ができる」と思ったんです。教室にいなくても、不登校の子どもたちとつながりをもてる。子どもたちに熱量や心の温もりを伝えられると直感しました。

オンラインの不登校支援や、デジタルツールを活用した学習支援において、これからも学校やroom-Kでの取り組みの中で実践を通して、子どもたちのためになるものを生み出していけたらと思います。

──オンラインによる不登校支援や、デジタルツールを活用した学習支援に可能性を感じられているのですね。

ただ、オンライン支援やデジタルツールの活用だけが有効だとは思っていません。チャットツールやオンライン配信が合う子もいるだろうし、安心できる居場所があって対面で話したり学んだりするのが良い子もいるだろうし、画面オフで話したり電話で話したりする方が安心する子もいるだろうと思います。

オンラインと対面、子どもによって合う・合わないがあると思いますし、オンラインの中でも合うツールと合わないツールがあると思うので、どの手段やツールが子どもに「ハマるの」か、見極めることを大切にしていきたいですね。

あとは、「room-K」が活用しているメタバース空間も、不登校支援において非常に有効だと感じています。家と学校の間の1つのクッションのような存在になっていると思いますし、子どもによってはクッション以上の存在・居場所になっています。「room-K」の中だけでなく、学校側でもメタバース空間を取り入れ、より多様な登校の選択肢がある、そんな未来が来れば良いですよね。

「room-K」が活用しているメタバース空間

オンラインによる不登校支援や、デジタルツールによる学習支援を導入することは、短期的には負担が生じるかもしれません。ですが、一部の自治体がしているように、オンライン不登校支援が進み、その使い方を工夫することで、不登校の子どもたちにとって大いに役立つはず。

また、担任する児童が不登校になったときに、その子ども自身が元気に幸せに生きるためにどうするのがbetterなのか……。多くの先生方にとって負担感が少なく、安心して子どもたちと向き合える手段やノウハウを蓄積して、発信していけたらと考えています。

 

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Writer

北森 悦 ライター

2015年からインタビューライターとしての活動を始め、これまでに500名以上のインタビュー記事に携わってきた。現在はライターチームを束ね、Webメディアのインタビュー記事や、企業・団体のテキストコンテンツ制作など、聴くこと・書くことを軸に幅広く活動している。カタリバ内では、カタリバマガジンのインタビュー記事を担当。

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