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学校に行けない子が急増する中、島根県で「不登校の子どもが集う “学校外の居場所づくり” 」に取り組んだ7年間の軌跡

vol.266Report

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category #活動レポート

writer 編集部

文部科学省が公表した「問題行動・不登校調査」で、全国の小中学校で2021年度に学校を30日以上欠席した不登校の児童生徒は前年度から4万8,813人(24.9%)増の24万4,940人となり、過去最多を記録しました。

そのような状況下、島根県雲南市で廃校になった小学校の校舎を活用し、カタリバが委託を受け運営している教育支援センター「おんせんキャンパス」では、2015年6月の設立以来、学校での生活に不安や戸惑いを抱えていたり、学校へ通うことに困難さをもっていたりする子どもたちやそのご家族をサポートしています。

今回は、おんせんキャンパス設立から現在を知る島根県雲南市教育委員会・白石 睦さま(以下、白石さん)、福島 勇樹さま(以下、福島さん)、カタリバ職員・池田 隆史(以下、池田)へインタビュー。行政とNPOが協働して教育支援センターを立ち上げるまでの経緯や、運営にあたって試行錯誤したこと、コロナ禍以降の不登校支援などについて、それぞれの立場からのお話を聞きました。

福島勇樹(ふくしまゆうき)/島根県雲南市教育委員会
2003年に掛合町役場に入庁。2004年の6町村合併により雲南市役所職員となる。その後、内閣府への出向などを経て、2015年より教育委員会に配属。おんせんキャンパスの運営や高校の魅力化、日本一チャレンジに優しいまちの実現に向けた官民連携プロジェクトに携わる。
白石 睦(しらいし むつみ)/島根県雲南市教育委員会
1960年生まれ。小中学校の教諭、管理職(校長)として学校教育に38年間携わる。退職後、令和2年より県教委派遣指導主事として雲南市へ。生徒指導担当(3年目)として不登校やいじめ問題を担当。「日本で一番不登校にきめ細やかに取り組む雲南市」を目指して、施策の充実、学校や家庭への指導や支援に取り組む。座右の銘は「正しいと思ったことを 一生懸命に取り組む!」
池田隆史(いけだ たかふみ)/NPOカタリバ職員
大学卒業後、新潟県中学校教諭として勤務。学級担任業務や新潟市内フリースクールのボランティアスタッフなどで不登校の子どもたちの支援を行ってきた。学校外から教育に関わり、より良い教育機会を子どもたちに届けたいと考えカタリバへ転職。被災地の放課後学校「コラボ・スクール」にて教務業務を担当し、平成27年4月に雲南市へ移り、教育委員会と協働して雲南市教育支援センター「おんせんキャンパス」の運営に携わる。

「子どものために」を念頭に。
行政に横串を通した取り組みとは

左から福島さん、白石さん、池田

──まず、教育支援センターを行政とNPOで立ち上げることになった経緯についてお聞かせください。 

白石さん:行政だけでは実現が難しいことも、教育に専門性をもつ意志ある団体と協働すればできるのではないかという想いから、長年子どもたちとのナナメの関係(※1)を大切に10代の居場所支援を行っていたカタリバさんへ「雲南市教育支援センターおんせんキャンパス」の立ち上げ・運営をお願いしました。

学校へ通うことに困難を抱えている子どもの自宅へ訪問する「アウトリーチ」や、スタッフを学校へ派遣する「ユースワーカー派遣」などは、カタリバさんがつくり出した事業です。

このように今までにはない方法を取り入れて、子どもたちそれぞれの状況に応じたきめ細やかな支援をすることは、カタリバさんと連携なくして実現はできなかったと感じています。

※1 ナナメの関係
先生や親(タテ)、同級生(ヨコ)とは異なる、少し先を行く年上の先輩(ナナメ)と本音で対話すること

「おんせんキャンパス」のはじまりについて語る白石さん

──おんせんキャンパスを開設してから、運営は上手くいきましたか?

福島さん:教育支援センターはもともと市内の中心部寄りにあったのですが、おんせんキャンパスとして自然豊かな山間地に移転するということで通うことが困難になるのではないかという意見もありました。

池田:保護者の仕事の関係で送迎は難しいという声もありましたが、教育委員会のみなさんが市民バスの担当部局へ働きかけてくださったおかげで、おんせんキャンパスの目の前に新しい市営バスの停留所ができたんです。

──既存の市営バスの路線を変えるとなると、大きな自治体では他部署との調整が難しそうですが、雲南市は非常に柔軟に対応されている印象を受けました。

福島さん:もちろん、すべてが実現するということではありませんが、「子どものために」という想いがしっかりと伝われば、その想いは誰もが共感していることでもあるので、前向きに検討が進むというのが実感です。

心のシャッターを下ろした子どもにも学習の機会を

左から白石さん、池田

──おんせんキャンパスを利用しているみなさんは、どういうきっかけで教育支援センターの存在や取り組みを知るのでしょうか?

池田:保護者や子どもたちは、学校の先生からの紹介でおんせんキャンパスを知るケースが一番多いようです。また、事業内容やキャンパスの様子を知ってもらえるよう、教職員のみなさんへの説明会を定期的に行ったり、雲南市から毎月発行される「市報うんなん」にお知らせを掲載して保護者向けの講座を開いたりしています。

開設当初は「この場所をもっと早く知りたかった」という声も多かったですが、現在は先生方のご協力もあり、かなり周知されてきたように思います。 

白石さん:私自身、長く学校現場で仕事をしてきた中で、学校になじめず、心のシャッターを下ろしてしまっている状態の子どもたちとたくさん出会いました。学校が苦手でも、他に通える居場所があれば……という想いは当時からありましたので、学校の先生方とも連携が取れているのは大きいですね。

不登校の子どもにも学習の機会を保障し、社会性を身につける場所が必要です。年齢に応じた体験ができ、社会性が向上するような場と機会を作れれば、学習面で多少遅れを取ったとしてもゆくゆくは自分でリカバリーできる。子どもたちにとって、おんせんキャンパスがそういった場所になればと願っています。

行政・学校・NPO
それぞれの立場から相手を理解し対話を続ける

左から福島さん、白石さん

──NPOが参入するということに対して学校現場や地域からはどのような反応がありましたか。たとえば、子どものことを任せられるかという不安感や、業務上の負担が増えるという懸念はありませんでしたか?

福島さん:私は他部署でも官民連携によるプロジェクトに携わる機会があったので違和感はなかったのですが、学校の先生方は普段、保護者や子どもたちと向き合うことがほとんどなので様々な想いがあったかと思います。もちろん、教育委員会内でもいろんな意見がありました。

ただ、池田さんをはじめカタリバスタッフには、おんせんキャンパスが立地する温泉地区内にお住まいの方、もともと雲南市出身で市内在住の方もいて、地域に暮らすみなさんが汗をかいて子どもたちのために挑戦する姿というのは、NPOが参入するうえで大きな安心感や信頼につながったと思います。

白石さん:学校の先生は新しい事業が始まると業務量が増え、関係各所との調整も必要になるので大変です。だからこそ、最初のうちは大きな不安はあったはず。

また、雲南市に限らず、学校現場では学校のことは学校の中で解決しようという意識が少なからずあるかもしれません。しかし、それだけでは解決しない案件も増えているため、学校がNPOをはじめ民間や地域と一緒になって取り組みを進めようという機運が高まったのはとても良かったです。

池田:おんせんキャンパスの立ち上げにあたって、学校の先生との意見交換会を行った際に記憶に残っているのは、「おんせんキャンパスに行ったら、子どもたちはもう学校に戻ってこないのでは?」という質問です。

学校よりもフリースクールの方が良いのではないか、というような二項対立になることを心配する気持ちも理解できます。そのため、官民協働という形をとるうえで、学校や行政が管轄する場所と、民間が運営する場所に優劣をつけるのではなく、子どもにとってベストの選択肢を組み合わせるのが良いのではないかと考えています。

福島さん:やはり、異なる組織が共に事業を進めていくには相手の組織文化・風土を理解し、共感できるゴールを描きつつ対話を続けるということが一番大事なことですね。

相手を理解し対話することの大切さについてお話する福島さん

──子どもたちの個人情報など、学校と情報共有するうえで気をつけたことはありますか?

白石さん:教育支援センターという枠組みの中で、守秘義務についてきちんと守ることを徹底しています。その中で必要な情報を随時交換しながらお互いの信頼関係が徐々にできてきて、学校とのパイプが強くなっていった実感があります。

池田:担任の先生や保護者の方には、おんせんキャンパスでの子どもたちの様子を定期的に報告しています。その際、「トラブルがありました」などマイナス面での報告ではなく、「少しずつでも学習が進んだ」「今日はこんなことを頑張った」など、先生や保護者が子どもとコミュニケーションをとるきっかけになるような報告ができるように心がけています。

メディアでもよく報道されているように、先生はみなさん非常に多忙です。担任の先生に負担をかけ過ぎないような配慮は必ず必要で、スタッフ間でも研修を重ねてきましたが、それでも反省点はあります。

子どもたちの様子について、当初は毎日報告していたのですが、あまりに頻繁だと先生の業務やペースを中断させてしまうこともあるんですよね。白石さんにもアドバイスをいただき、一週間分をまとめて送るなどコミュニケーション方法を適宜変えています。

今後の不登校支援に向けて
今私たちにできること

──おんせんキャンパス開設後、コロナ禍などを経て変化したことや今後の課題はありますか?

白石さん:雲南市に限ったことではなく、不登校の数は右肩上がりで増えています。学校に行くという前提は崩れないとしても、コロナ以降は特に多様な学びの方法が求められるようになったように感じます。

池田:特にオンライン活用のハードルは学校現場でも一気に下がりましたよね。子どもにとって学びの選択肢を増やすチャンスになれば良いなと思っています。

また、課題として明確になったのは学校外の居場所の重要性です。やはり家庭の中でしんどい思いをしている子どももいますし、登校や学習の前段階でケアが必要であるケースはコロナを通して特に浮き彫りになってきました。すべての子どもたちに学びの機会を届けるためにはどうすればいいかということをいつも念頭に考えています。

福島さん:もちろん、子ども一人ひとりにとって、コロナによる影響は計り知れないものがあると思います。学校教育は対面授業がベースにあるとしても、オンラインが年齢を問わず日常に浸透しつつある中で、今まではサポートにつなげることができなかった子どもにも学びや経験の機会を提供したい。そういう意味で、コロナ禍による環境変化をプラスにとらえたほうがいい部分も大いにあると思っています。

左から福島さん、白石さん、池田

「何よりも子どものために」という共通の願いがあるからこそ実現できたおんせんキャンパス。行政とNPOがそれぞれの立場で地域に根差した活動をすることで、利用者の信頼感が増していったという背景がありました。官民連携だからこそできるおんせんキャンパスの挑戦は、これからも続いていきます。

 

-文:高田翔子

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編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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