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保護者にも地域にも「ナナメの関係」が連鎖する。 子どもたちの一歩を応援する「おんせんキャンパス」の不登校支援

vol.081Report

date

category #活動レポート

writer 船本 彰子

行政との協働、学校との連携。
子どもの一歩を包括的に支援するカタリバの不登校支援

「9月1日問題」という言葉をご存知だろうか。新学期を恐れた子どもたちが、自ら命を絶つ事象を指す。内閣府の調査によると、18歳以下が命を絶つのは、夏休み明け「9月1日」あたりが一番多く、そう呼ばれるようになった。長期休暇が終わり、友人関係などの問題と再び直面しなくてはならないことで、思い詰めてしまうのか。自ら命を絶つまでいかなくても、夏休み明けを境に不登校傾向になる10代も少なくない。

不登校は、いまや社会問題だ。2018年に文部科学省が発表した「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると、小・中学校の不登校児童生徒数は14万4,031人で過去最多。さらに、不登校予備軍数はその2倍以上と言われている。「本当は行きたくないが出席はする」「登校しても教室には入れない」というような子どもたちを含めた支援を考える必要性もうかがえる。

カタリバは2015年から、不登校支援事業に取り組んできている。今回は島根県雲南市の活動拠点「おんせんキャンパス」の不登校支援の様子を紹介したい。

「『不登校』というのは、学校や家庭で苦しんでいる子のあくまでも結果の状態。ひとりひとりが問題を抱え苦しんだ結果、学校での欠席数が多くなる。最初から『不登校の子』というのはいないんです」

と語るのは、カタリバが島根県雲南市と連携し運営する教育支援センター「おんせんキャンパス」の拠点責任者、池田隆史。池田は、2015年の立ち上がりから今まで、この拠点で不登校支援に携わっている。

島根県雲南市教育支援センター「おんせんキャンパス」拠点責任者 池田隆史 新潟県出身。数学の教員として12年間新潟市内で勤務後、2014年NPOカタリバに転職。岩手県大槌町のコラボ・スクールで1年間勤務し、困りごとを抱える子どもたちを救いたいという想いから、おんせんキャンパスの立ち上げに手を挙げ、雲南市に移住。拠点責任者として指揮をとる傍ら、アダチベース(カタリバが足立区から委託され運営している拠点)の不登校支援にも携わり、これまでの知見やノウハウを活かしている。

雲南市は、全国の中山間地域のご多分にもれず、少子高齢化問題に直面してきた。そこで、10、20年後に地域をリードしていく人材を子ども達から育てることを目指し、2011年から、「カタリ場プログラム」を委託実施。プログラム実施を通して信頼関係を築いたカタリバに、2015年からは不登校支援事業と社会教育事業を委託することとなった。

その活動拠点として設立されたのが、このおんせんキャンパスだ。カタリバは事業内容を考える時、その地元の自治体や教育委員会などの機関との、「協働」「連携」の姿勢を大切にしている。今回の事業でも、雲南市が求めていることとカタリバがやりたいことを一緒に考え、計画し、実行してきた。

雲南市の小学校は14校、中学は7校。その児童・生徒数合計3,000人の中で、「欠席数が多い」不登校状態にある子どもたちがおんせんキャンパスの支援対象だ。初年度は28人だった支援児童生徒の数は毎年増えていき、昨年度は46人となった。

今年おんせんキャンパスは5年目を迎え、不登校の児童生徒を抱えるのべ約150家庭と関わってきた。そのうち、約7割の家庭の子どもたちは、何らかの形で「再登校」できるに至り、おんせんキャンパスと接点をもった約9割の子どもたちの状態が改善した。池田によるとおんせんキャンパスは、学校復帰を軸に子どもの支援を行っているものの、たとえ学校に毎日行かなくても、それぞれの子どものペースで「一歩踏み出したい」という気持ちを応援し、認めているという。

学校や行政との協働によるおんせんキャンパスの強みは、子どもたちに直接かかわる先生との情報交換のチャンスが多いこと。家の外へ出ることが難しい子どもの家庭に学校の先生と一緒に訪問し支援に繋げることや、学校に支援スタッフとして入り、現場の先生から様々な相談を受けることもある。

池田は不登校支援では、「とにかく先生と仲良くなることが大事」と強調する。学校や行政との密な連携関係を持っていることこそが、子どもたちへのアクティブでリアルタイムな対応を可能にしている所以だろう。単なる施設として「受け身」の姿勢で不登校の児童生徒を受け容れているわけではなく、家庭や学校へのアウトリーチに力を入れているのがおんせんキャンパスだ。

「不登校を生まない学校づくり」をテーマにおんせんキャンパスでワークショップを開催。市内全小中学校の不登校担当の先生方と行政職員、おんせんキャンパススタッフが参加。

子どものネットワークを「ゼロ」にしない。
地域で子どもを支え続ける支援体制づくり

おんせんキャンパスならではの運営面の特徴は、地域人材活用や地域団体との連携だ。

「私たちの不登校支援は、単に『学校に戻ればいい』ではありません。長期的欠席のストレスは、学習の遅れのみならず、対人恐怖症や適応障害などの二次的な問題を引き起こしている可能性もあります。そんな問題を抱えた子どもたちへの支援は1、2年で終わってはいけない。関わった子どもたちが大人になるまで継続的に関われる施設を作りたいというのが当初からの目標でした」

と池田は言う。彼は、そんな継続的な関わりを実現するには、地元で永続的に生活するスタッフを中心に施設運営していくことが大切だと感じ、地元出身者や定住者の積極的な採用に努めている。そのねらいは、もし子どもたちが来所しなくなり、おんせんキャンパスとの接点を失ったとしても、一度つながった「地元で生き続ける人々との関わり」を絶やさないようにすることだという。また、将来的にカタリバが事業を離れることがあったとしても、蓄積したノウハウやネットワークを「ゼロ」にしない、地元出身のスタッフだけでも運営ができる、持続可能な体制作りを踏まえてとのこと。

「昨年度からは、地元の教育、福祉関係者とのつながりをできるだけ多く作っていくことも目標にしています。今年度は、雲南市の社会福祉・児童福祉団体と一緒にイベントや研修会の実施を計画中。不登校の子どもたちやその家族が、雲南市にネットワークを作り、地元に頼れるコミュニティを知ることをサポートしたいと思っています」

地元出身のスタッフが子どもたち・保護者に伴走する

そんな運営体制からも垣間見られるが、おんせんキャンパスの活動の根底にあるのは、カタリバならではの「ナナメの関係」づくりだ。

不登校児童生徒は人間関係に行き詰まり、自信を喪失していることが多い。けれどもおんせんキャンパスでは、自分を認めてもらえる場や機会は、学校や同年代の友達間だけにあるのではなく地域の中にもある、ということを実感できる機会を設けている。地域には「子どもたちを支えたい」という気持ちがあることを知ってもらいたい、色々な関係を作ってもらいたいという思いから、地元での様々な職業・ボランティア体験や、地域の人とつながりを作る活動を行う。

例えば高齢者買い物支援ボランティア活動を実施したところ、話し好きが高じ友達から疎まれて不登校になった中学生が、「高齢者となら無理なく話ができる、自分でも人の役に立てる」ということに気づき、自信を取り戻すことに一役買ったそうだ。

子どもたちが地域に出て、地元の方と触れ合う体験活動を年間を通して計画・実施

苦しいのは自分たちだけではない。
保護者も救う「ナナメの関係」

そんなカタリバが大切にしてきた「ナナメの関係」づくりは、子どもたちだけでなく、保護者支援にもなると池田は言う。

「不登校問題は、子どもだけにアタックしても解決されません。子どもたちを取り巻く環境や家族から調整していかないと意味がない。不登校の子どもを持つ親御さんも、自信を失い、不安や悩みが尽きない。保護者が、ちょっとした相談ができる人を地元に増やし、決して孤立させてはいけないと考えています」

おんせんキャンパスでは月1回保護者会を開き、日々の苦労や子どもたちの様子を語ってもらっている。お互い支え合うことができるネットワークができることは、不登校生徒の保護者たちの励みとなっており、こんな声が上がっている。

「苦しいのはうちだけだと思っていました。不登校のつらさは、なかなか他人に話せない。同じ経験をした人とのつながりができて安心しました」

「すでに学校に復帰したお子さんが元気になっていく過程を経験した方のお話しを聞いて、希望が持てました。うちの子も、ずっと今のままじゃないんだと、勇気がわきました」

「父親として、何をしたら子どもや家族のためになるかわからず孤独感もありましたが、『おやじの会』に参加して他のお父さんとのつながりが生まれました」

保護者会をきっかけに保護者同士のネットワークが拡がる

また、地元出身スタッフが多いおんせんキャンパスは、結婚や転勤による移住で、地縁のない保護者たちを助けて孤立を防いでいる。

スタッフには、地元での子育て経験者や現役ママもいるので、慣れない場所の生活面で困っている保護者の生活の相談に乗る機会も多い。「おんせんキャンパスサポーター」というライングループを設けて、保護者の困りごとに対して支え合う仕組みづくりも開始した。

おんせんキャンパスは、単なる不登校児童生徒のみを支援する場所にあらず。子どもたちや保護者を中心に、地域において様々な人間関係を生み出していくハブのような役割と言えよう。

池田の抱負は、「今関わっている子どもたちや保護者だけでなく、地域全体の子育てに役立つ存在になっていきたい」ということ。持続的支援を踏まえた体制作り、地域に溶け込む「ナナメの関係」づくりをベースに、5年目を迎えた不登校支援事業を、カタリバは今後も進めていく。

Writer

船本 彰子 広報・ファンドレイジング部

東京都出身。2006年よりフリーランスでライター・翻訳業。人物インタビューや企業マーケティング・コピーライティング、音楽・映画関連の翻訳業務に携わる。現在、カタリバ発行のメルマガや各種コンテンツライティングを担当。

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