乙武洋匡氏・山崎エマ氏らが登壇。中高生約3,000人の声から考える、これからの「学校づくり」
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近年「こども基本法」の施行や生徒指導提要の改訂など、子どもたちの権利を重視し「学校の作り手」として迎えようとする動きが広がりを見せています。カタリバでは2019年より、生徒主体で校則や対話の場を見直す「みんなのルールメイキング」事業を展開し、2026年3月時点で連携校は全国600校を超えました。
こうした背景を受け、こども家庭庁の設立および「こども基本法」施行から3年を迎えるのを前に、2026年3月21日に「スクールメイキングフォーラム2026」を開催。当日は中高生を対象とした「意見表明のニーズ」に関する実態調査の結果を公表しました。
本レポートでは、調査結果をもとに学校内外から教育に関わる大人たちが「これからの学校づくり」について交わした議論の様子をお伝えします。
約8割が「生徒の気持ちや思いを聞いてほしい」。意見表明のニーズが明らかに
今回のイベントで公表された実態調査は、学校における子どもの意見表明の機会の実態解明などを目的として、全国の中高生3,000人(有効回答数2,986人)を対象に2025年11月に実施。アドバイザーとして、筑波大学人間系助教の古田雄一氏に関わっていただきました。
調査では、83%の生徒が「学校の決まり事や方針は、生徒の気持ちや思いを十分に聞いたうえで決めてほしい」と回答。「クラスの決まり」「授業の進め方」「学校行事」「校則・ルール」など6項目を抽出した質問では、全項目で6~8割の生徒が「意見を伝えたい」と答えており、子どもたちの意見表明に対する高いニーズが明らかになりました。
また、意見表明しやすい条件として、「安心して話せる雰囲気・空間」(67.2%)が最も多く挙げられ、身近な友人や先生との信頼関係や関係性の中での安心感が、重要な基盤となっていることが分かりました。
第一部ではこのほか、学校で先進的な取り組みを進める中高生2人による事例紹介と、古田氏によるクロストークも行われました。2人は教員の後押しが取り組むきっかけだったとし、「安心感や任せてもらえている実感があったからできた」と話していました。第一部の詳細な内容は下記記事で報告しています。
▼【開催レポート】子どもたちは「学校の作り手」。声を反映していくための心理的安全性と大人の伴走とは?
https://rulemaking.jp/news/5115/
学校の意思決定に関わる経験が、「主権者」としての意識を育てていく
第二部では、調査結果や生徒の生の声を踏まえて、どうすれば子どもたちの意見を引き出せるのか、安心して話せる雰囲気や空間を生み出せるのかなどの点について、教育に関わる大人たちで深堀りしました。
まず登壇したのは、ダイバーシティや子どもの権利について発信を続け、教員としての経験を持つ作家の乙武洋匡氏、日本の小学校現場に焦点を当てた映画『小学校―それは小さな社会』などで知られるドキュメンタリー監督の山崎エマ氏。それぞれが学校の「外側」の立場から、現在の日本の教育への思いを語りました。
乙武氏は、自身の教員経験を踏まえ、日本の学校では「教員が意思決定し、生徒はそれに従う」という構造が残っているように感じていると言います。その上で「子どもたちが学校内での意思決定に関わり、学校づくりの担い手となる動きは、民主主義社会の中での主権者としての意識を高めていくことにつながるのではないか」と話しました。
山崎氏は、中学・高校を過ごしたインターナショナルスクールや海外での生活経験から「日本の若者は、自分の力で何かを変えられると思っている人が少ないように感じる」とし、10代で自分たちの環境を自ら動かす経験を育むことの重要性について語りました。
「学校運営には金銭面などの制約はもちろんありますが、限られた資源の中で、工夫できることは何なのかを考える。子どもも大人も、自分たちの不満だけをぶつけたり沈黙したりするのではなく、さまざまな視点からみんなで解決策を模索していく力が身につけば、日本の教育はとても良いものとなると思います」(山崎氏)
日本の学校教育や若者の現在地について、意見を交わす乙武氏(左)と山崎氏
170人中、10人が「つらい」―アンケートで見えた生徒の声が教員たちの視点を変えた
第二部後半では、乙武氏、山崎氏に加えて、子どもたちとの対話に基づいて決まりごとの見直しなどを行った2人の教員(泉大津市立小津中学校校長の高橋敏也氏、加賀市立片山津中学校教諭の水口桂太氏)を迎え、具体的な実践例を交えながら議論しました。
水口氏は、伝統的に行われてきた体育祭のリレーで「走る距離を自分で選べる」ルールを導入した事例と、その過程で起こった自身の視点の変化について話しました。
「自分が体育祭の担当だったので、最初は行事を進めることばかり考えていて、正直、ルールを見直すことに対してあまりピンと来ていませんでした。ただオンラインアンケートを実施してみると、170人の中で10人ほど、リレーがつらいと感じているという意見がありました。それを受けて生徒会執行部や体育委員の生徒たちと新しいルールを考えて実施したら、不登校ぎみだった子も『これなら参加できるかも』と言ってくれて」。
対話を通じてみんなが納得できるルールを導き出すというプロセスは、学校の他の行事場面にも波及。文化祭では、人前で歌うことやステージに上がることが難しい生徒の声から、スライドづくりや楽器演奏など多様な形で参加できるルールに変更したといいます。
「生徒の声を実際に聞いて、やはり参加しづらい生徒にも目を向けた実現の仕方こそが、本来のあり方なんじゃないかなと思い始めたんです。自分も他の先生方も『考えなくちゃいけない』という意識が生まれました。社会を良く変えていくための一つの手段として、”ルールを作る”ということがあるんだと、私自身も改めて気づかせてもらったように思います」(水口氏)
乙武氏は、アンケートで生徒たちの声を可視化したプロセスについて、「人と異なる意見を持っているときに、それを率直に言える子も、言えない子もいる。さまざまな性格の生徒がいる中で、アンケートという形で困りごとややりたいことについて聞くのは、なかなか自分から発信できない子の声を聞くにあたってはすごく良い手段だと感じた」と言います。
また山崎氏は、「ルール」という言葉のイメージの変化について語りました。「ルールという言葉はまだまだ、『みんなに同じことを課す(縛る)』というイメージが強いです。ただ、今回の実践例を聞くと、対話的なルールメイキングを行うことで、関わり方の選択肢が増えていくことにつながるんだなという印象を持ちました」。
意見表明をしやすい学校の「土台」をどうつくる?
トークセッションの進行役を務めていたカタリバスタッフは、ルールメイキング事業で関わる教員の方々から「やってみたいけど話し合う時間が取れない」「万が一トラブルが起こったときはどうしたらよいか」といった声が届くことに触れ、登壇者の高橋氏に管理職としてのスタンスを聞きました。
高橋氏は「トラブルが起こっても、学校で起こった99%は校長が責任を取るから大丈夫と伝えています。まず先生方に安心感を持ってもらうことが大切」とした上で、「業務のスリム化」について絶えず考え続けていると言います。
「教員はこれをやらなくちゃいけない、教員はこれをやるべきだ、という既成概念を取り払って、ゼロベースで本当に必要なことを考えるという視点が大切だと思っています。無駄をどんどん省いて余白を作って、先生も子どもと一緒に考えたり遊んだり、新しいことを生み出す時間にしてもらう」(高橋氏)
また、会場からは「熱意を持った担当教員や校長が異動となった時はどう継続していくのか?」というプロジェクトの持続性に関する質問が。これに対して高橋氏は、生徒たちが自ら作成した学校の最上位指針「学校のコンパス」が作られた背景を紹介しました(「学校のコンパス」については第一部(開催レポート)で生徒代表が詳しく説明)。
「中心になっている先生や、校長先生が転勤でいなくなってしまったらプロジェクトは終わってしまうのか…という不安をよく耳にします。小津中学校もそのことについてみんなで考えて、今の良い状態を文化とか仕組みとして作り上げることはできないかという話になったんです。そこでできたのが『学校のコンパス』。最上位指針であるコンパスを毎年子どもの手で見直していくサイクルが回れば、校長や担当者がいなくてもずっと回っていくだろうと。これが今の答えです」(高橋氏)
この点に関して水口氏も、継続的に対話の仕組みをつくっていく仕掛けのひとつとして、「意見箱」を設置していることを紹介。意見箱に届いた声を起点に、登校カバンの自由化、球技大会のルールなど、今もさまざまな対話が生まれ続けているそうです。
子どもと共に楽しみながら進める学校づくりに、必要な支援とは
校則見直しの支援から始まったルールメイキング事業。活動を続けてきた中で、校則の見直しだけに留まらず、対話や意思決定のプロセスを学校の様々なシーンに応用できることがわかってきました。
本イベントの冒頭で公表された調査では、意見表明をしやすい環境をつくるには、生徒たちが安心して話せる雰囲気や空間が重要な基盤となることが示されました。それを実現するには、生徒たちだけでなく、教員をはじめとした大人たちのサポートも大切です。
「自分の力で社会は変えられる」と子どもたちが自信を持って卒業していける学校を、大人も楽しみながら共に作っていくためには、どんなサポートが求められているのか――。カタリバはこれからも、変革に挑戦する学校や自治体の方々と一緒に、よりよい社会をつくっていくための教育について考え、取り組みを続けていきます。
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